第7話 反董卓連合・破章
総大将・袁紹を筆頭に泗水関に駒を進めた連合軍。
編成についての簡易表は以下の通りである。
総大将 袁紹
前軍 劉備軍
中軍 袁紹軍
左翼 馬超軍
右翼 公孫賛軍
後軍 袁術軍
遊撃 曹操軍・孫策隊
攻撃力のある孫策らは別動隊扱いとなっている。
泗水関の守将は華雄・張遼。
朱里曰く華雄は自分の武に絶対的な自信を抱いているため、挑発してつり出す予定らしい。 華雄相手なら必ず成功すると。
出来れば桃香たちに戦って貰いたいが、俺たちには俺たちの役割がある。
結果を祈るしかないか。
「伝令! 前曲の部隊が敵軍との交戦圏内に入りました!」
開戦間近だな。
無論ここからも関は見える。
相手が打って出て来たらいよいよ左右騎馬軍の出番だ。
「て、敵将軍が関から出てきました!」
「……ホントだ」
噂通り猪なんだなぁ、華雄。
ん……華雄と対峙するのは愛紗か。
ともに歴史に名を残す―――残念ながら序盤で華雄は消えるが―――武将の対決である。愛紗の実力は知っているけど、どんな闘いになるか見物だな。
ふむ……一見すると愛紗が押し込まれているようだが……?
お。押し返し始めた。
「ふぅ……雑魚の相手に手加減するのも骨が折れるな」
あからさまな挑発。しかし相手は乗ってきた。
「キサマ……! 我が大斧の錆にしてくれるわっ!」
他愛もない……いとも簡単に挑発に乗るとは。だが裏を返せばそれだけ自らの武に自信があるということ。
実際、手加減というのはあくまで口上のもの。相手が冷静ならば良い勝負となっただろう。だが、それでも私は勝つ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ふっ、怒りで曇った太刀筋など容易く読める―――はぁぁぁぁっ!」
渾身の一撃。
決着は、一瞬。崩れ落ちる華雄の身体がそこにはあった。
「命までは取らないが……敵将華雄、劉備が一の家臣、関雲長が捕らえたり!」
さて、あとは……任せましたよ。
「よし今だ、突撃ッ!」
白蓮の号令とともに幽州軍が突撃を開始する。
特に白蓮を先頭に先陣を切って走る白馬義従は壮観で、かつ美しい。
と、同時に馬超軍も動き出す。
「うわ……」
猛将・華雄の部隊をやすやすと蹴散らしていく。
流石西涼騎馬隊、白馬義従に勝るとも劣らない破壊力である。
「我らも遅れをとるなッ!」
「「「おぉぉぉぉ!!」」」
将を失った部隊などものの数で無く、泗水関攻略戦は早々に幕を下ろしたのだった。
泗水関を占領した連合軍は、虎牢関での戦いに向けて英気を養っていた。
その中で幽州軍はと言うと。
「ふん、さっさと殺すがいい」
ここで無様に命乞いをするような人だったら見捨てていただろう。
「殺す気はないよ、華雄さん」
彼女を縛る縄を外す。
「キサマらの武では徒手空拳の私ですら抑えられんぞ?」
あらら。やっぱり腕の立つ武人には力量差が手にとるようにわかるのか。
「自らの武に自信を持つ貴女だ、生かされて捕らえられて放されて……おめおめと逃げ帰るようなことはしないだろ?」
「……ふんっ」
「で、だ。縄を解いたのは対等に話をしたかったから」
「私の主は董卓さまのみだ。キサマらに降る気は毛頭無いぞ」
だろうなぁ。そんな人間なら捕らえさせず処分は愛紗に任せていただろう。
「うん、構わないよ。だけど1つ良いかな? 貴女の主人である董卓は、民のために何をしたいか言ってなかったかな」
「なにが言いたい?」
これほどの忠誠を見せる相手が、噂に聞くようなことをやるとは思えない。
出世を妬んだ袁紹の仕業か、宦官ども―――十常侍が実権を掌握しているのはこの世界も変わらないらしい―――に罪を着せられたか、或いは両方か。
「董卓が、洛陽で暴虐の限りを尽くしていると聞くけど?」
「あれは周囲のやつらがッ!!」
やっぱりか……。
「なら洛陽に入ったら董卓の保護が最優先だ。桃香たちと……馬超たちにも伝えよう。いいよね? 白蓮」
「ああ、勿論だ」
「なっ……ど、どういうことだ?」
困惑するのも無理はない。捕縛されて縄を外されて、話をしていたら急に董卓の話になると。
「董卓が噂に聞くような人かどうか確かめたかったんだ。でも、そうじゃないとわかった。それなら助けたいと思ったんだ」
「……それならば賈駆も助けてやってくれ。董卓さまといつも一緒にいるからすぐわかるだろう。他の奴らはれっきとした武人だ、自力で逃げられるだろう」
「良いよ。伝えておく」
あ、そうだ。
「華雄さん、あなたはこれからどうするんだ?」
「どうする、とはなんだ。捕えられた私に選択肢などないだろう」
「気を悪くしたら申し訳ないけど正直言って董卓に勝ち目はないから、華雄さんも戻れる場所がなくなると思う。そのなかで華雄さんも旧董卓軍の将として逃げなければならないね」
「我が陣営には呂布と張遼がいる。そうやすやすとは負けんぞ」
「援軍を望めない限り無理だよ。それで華雄さん、あなたの力は惜しい」
「先程降伏の意思はないと表明したはずだが?」
「うん、わかってる。だからこそ華雄さんにお願いがあるんだ―――」
華雄との対話を終えた俺は、桃香たちの天幕に向かっていた。
「や」
「これは一刀様。わざわざすみません」
「いやいや。愛紗、華雄の件は本当にありがとね。ところで桃香はいるかな?」
「はい、お連れ致しましょう」
愛紗に先導されて天幕の中へ。桃香は……のほほんとしてる。あ、いつもか。
「あ、一刀さん! ……今何か失礼なことを考えなかった?」
「そんなことないと思うよ」
女性の勘って怖い。
「なんか怪しいけど……まぁいっか。とりあえずいろいろご支援ありがとうございました♪ 資金は出来たんだけど……平原の城がちょっと酷くて改修に使っちゃったんだ。あはは……」
渡した塩や味噌を売ればかなりの金額になったと思うんだけど、平原の城はどれだけ酷かったんだろう。
「本当は少し余ったんだけど……街や村の人の生活が目も当てられなくて」
……ま、桃香たちらしいか。
「愛紗に華雄を捕らえてきて貰ったんだ、お釣をあげてもいいくらい。ということで……ふっふっふ、桃香たちをもうちょっとだけ支援してあげよう!」
「えっ、い、いいの?」
「もちろん」
「やったー!」
歓喜の声とともに抱きついてくる桃香の身体は、うん、柔らかい……
「おほんっ」
おわっ、愛紗がいたのを忘れてた。
「あ、あはは~……愛紗ちゃん、顔が怖いよ?」
「そのようなことなどありませんっ!」
「いやいや愛紗、眉間にシワが寄ってるってば。美人が台無しだよ?」
「び、美人などとそのような……」
愛紗や凪のように武人として美に気を遣わなかったために自らを過小評価するもは非常にもったいない。非常に。
「本人が思ってなくとも周りが思ってるんだよ」
「いや、その……いえ、ありがとうございます」
うんうん、わかってもらえて何よりです。
「そういえば桃香、星は?」
「星ちゃんなら鈴々ちゃんと手合わせしてるよ? 鈴々ちゃんも星ちゃんも出番が無くて持て余してるみたい」
「ん、わかった。適当に戻ってくるよう言っておいてくれる?」
「うん、了解しました!」
「じゃ、これで失礼するよ……っと、忘れてた」
桃香に近づき耳打ちする。
「洛陽に入ったら董卓と賈駆の保護を最優先でお願い」
桃香が満面の笑みになったところを見て、愛紗も気づいたようだ。
「やはり、ですか?」
「そうみたい。じゃ、そういうことでまたね」
次の相手は張遼と呂布。
しかしあの虎牢関に神速と一騎当千を迎えるか。厳しい戦いになりそうだ。