第6話 反董卓連合・序章・続
檄文に応じ、反董卓連合への参加を決めた幽州軍。
彼らは洛陽近くの合流地点へ出立するのだが……?
俺たちが合流地点に着いた時、連合軍の主要人物による軍議が行われていた。
袁紹、袁術、孫策、曹操、馬騰の名代として馬超。
いずれも後世に名を残した英雄ばかりである……のだが。やっぱりみんな女の子だった。
俺としてはむさい男どもに囲まれているよりよっぽど良いから大歓迎です。
「天の御遣いというわりに随分と貧相な顔ですのね」
うぐっ、天の御遣いと顔は関係ないだろう。
みな『天の御遣い』に興味津々といった様子で、天幕に入り名乗ってからと言うもの常に視線を浴びているという状況である。
それはともかく……総大将が決まっていないのは何故だろう。別に俺たちを待っていたわけでもあるまいに。
(白蓮、なんであんなあからさまにアピ……自己主張してる袁紹を誰も総大将に推薦しないんだ?)
(推薦には責任がつきまとうからな。もし、もしの話だぞ? 推薦した総大将が使えなかったら責任が問われるだろ)
つまり正直袁紹は使えない、と。期待出来ないと言った方が正しいか。
(それに……)
(ん?)
まだ何かあるのだろうか。
(……あいつを推薦するのってなんか腹が立つと思わないか?)
(ああ……)
納得してしまった。
確かに高飛車お嬢様系金髪縦ロールを推薦するためだけに自らの精神力を費やす必要なんて無いな。
現に曹操はさっきからずっと腕を組んで不機嫌そうな表情をしているし。
袁術はどう見ても子供でしかも寝てるし。
馬超と孫策はこっちばかり見てるし。
(さっさと終わらせたいんだけどなぁ)
(……悪いな一刀)
「すみません、遅れちゃいましたっ」
「平原から来ました劉玄徳です」
「おっ。遅かったな、玄徳」
「あ、パイパイちゃん♪ それに御遣い様も!」
「白蓮だっ! それに人前では白珪だろう」
いつになったら白蓮と呼んでもらえるんだろう。
きっとそう思ってるな。
初めて桃香に会った時もこんな掛け合いをしていたことが思い出される。
白蓮の同学の友人、劉備を始めとする面々が幽州を訪れていた。
「桃香、よく来たな!」
「パイパイちゃん久しぶり♪」
「白・蓮だっ!」
「あはは、ごめんごめん。ところでお願いがあってきたの。私たちを雇って貰えないかな?」
んー……雇う、か。
「話は聞いている。簡単に言えばお金が無いんだろ? こう言っちゃなんだけど装備もかなりボロいし正直ひどいな……一刀、いいよな?」
やっぱり白蓮って善人だなぁ……俺としては関羽・張飛が戦力に加わるのだから構わない。
と言うか俺に商人を求めてどうする太守。白蓮が決めることだろうに。。
まぁうちは天下統一なんて野心は無い。民が平和に暮らせればいいと思っている。
基本は専守防衛。幽州の秩序を乱すやつらにはそれ相応の対応をするまでだ。
今後自立するのだろうが、白蓮との関係、そして俺たちと彼女らの理想を鑑みるに、恐らくお互い乱世で生き残っても戦うことはないだろう。
むしろ幽州からでは遠隔地になってしまう地域―――蜀との交易はかなり魅力的だし、より多くの民を助けられる。
なら出立する際にはいろいろ支援してあげようかな。
史実通りに蜀を建国できれば―――だけど。
うーん。我ながら優しすぎる。劉備から発せられる雰囲気がそうさせるのだろうか。
「白蓮ちゃん……えっと、その人は?」
「ああ、こいつは北郷一刀。内政から軍事まで幅広く私を助けてくれる『天の御遣い』だ」
そんなに照れくさそうに言われるとこっちも恥ずかしくなってくるよ。
「へぇー、この人が御遣いさま……」
「白蓮殿、良人であるということはお伝えしないのですかな」
「りりりりりっ、り、良人!? そ、そんな間柄じゃっ」
「おや? 某はただ単に『賢いお方』という意味で言ったのですが……。ああ劉備殿、某は趙子龍と申す者。以後お見知りおきを」
「……えーと、とりあえず後ろの方々を教えてもらえますか」
ニヤニヤ人の悪い笑みを浮かべた星の言葉が終わるとともにすかさず話題を変える。美少女に囲まれる状況は嬉しいけど、じろじろ見られるのは落ち着かない。
「あっ、はい。向かって左から関羽、張飛、諸葛亮です。諸葛亮の隣にいるのは鳳統ちゃんと程呈ちゃんで、彼女らはみつか……幽州で仕えたいらしいですよっ!」
関羽は美髯公ではなく女性だから艶やかな黒髪なのか。さながら美髪公と言ったところ。
張飛は蛇矛がすごく目立つから、それでわかった。
関羽は良いとして……張飛・諸葛亮・鳳統・程呈(190センチオーバーの大男のはずがどうしてこうなった)はどう見ても幼女です、本当にありがとうございました。
しかし鳳統と程呈がわざわざ幽州まで。有名になったもんだなあ。
「程仲徳と申しますー。風と呼んでください」
「鳳士元です。雛里と呼んでくだしゃいっ」
なんて感じに。
あの後、愛紗と星が仕合いしたり俺が武を鍛えて貰ったりしたのだが……うん、俺が一方的にあしらわれるだけなので割愛。
彼女らはしばらく幽州に滞在し、残存した賊の討伐などを手伝ってもらった。
共に過ごす中で内政面では今まで俺が行った政策が評価されたのだろうか、桃香・愛紗・鈴々・朱里に真名を預けてもらえた。
そして黄巾賊討伐戦での活躍が評価され、桃香たちは渡した物資とともに平原へ去っていった。
ちなみに白蓮は鎮東将軍の地位と“正式な”幽州太守としての地位を貰っている。
今まではあくまで前任者の代わり。あまりにも中央からの干渉が無さすぎて、さらに治安が酷すぎて耐えられなくて、そのまま太守として居座っていたらしい。
よくある話だ。
あと、どうでも良いけど白蓮に近しい侠客筆頭は簡雍さんだそう。白蓮と桃香の話に出てきたのを聞いた。
しかし簡雍といえば初期からずっと劉備に従っていたはずなのだが。
朱里や雛里―――諸葛亮や鳳統―――と会う時期も場所もおかしいし……けどこんな疑問も今さらか。
何はともあれ。
「久しぶり、桃香。それより御遣いさまはやめてって言っただろ?」
「なら一刀さん? あはは、なんか新婚さんみたい……」
いやいや桃香さん頬を赤く染めないでください。可愛い。
「ちょっとあなたたち私を差し置いて何をごちゃごちゃと話してますの!?」
「あ~総大将は袁紹で良いんじゃない? 推薦します」
「そこまで言われれば仕方ありませんわね! この私が総大将になって差し上げますわ♪ おーほっほっほ!!」
やりたかったくせに。
総大将が決まったのを期に、
「決まったようだから先に失礼するわ。行くわよ春蘭、秋蘭」「「はっ」」
曹操が、
「めーりーん、私たちも戻ろっか」「……そうだな」「じゃねっ、天の御遣いさん♪」
孫策が、
「あたしたちも帰るぞ」「あーんお姉さま、蒲英公疲れて歩けなーい♪」「嘘言うなっ!」
馬超が、
「うにゅう……七乃ぉ、終わったのかえ?」「終わりましたよ、お嬢様♪」「ならこんなところに用は無いのじゃ。さっさと帰って蜂蜜水を飲むのじゃー!」「はーい♪」
袁術が、続々と去っていく。残ったのはうちと桃香たちのみ。
「俺たちも戻ろうか」
「……うん」
苦笑いする桃香も連合内の関係になんとなく気付いたようだった。
自陣に戻り桃香たちと談笑してから少し経ち、曹操が訪ねてきた。
「邪魔するわ」
「はいはーい……って曹操さん? あの……うちの大将は劉備のところに行っていていないんですけど……」
「構わないわよ。むしろ好都合。私が用があるのは貴方だから。それとさっきは助かったわ……」
げんなりとした表情の曹操さん。
さっき……ああ総大将のくだりかな。って俺に用とは何でまた?
「わからないって顔してるわね……貴方、自分がどれだけ幽州に貢献してるかわかってるの?」
「いえ……」
「稀代の軍師が私から貴方に鞍替えするくらいよ」
風か雛里だけど……朱里と雛里には来る途中で会ったって言ってたし、風とは陳留近くで会ったって言ってたし。
なら風か。でも……
「うーん?」
実感ないなあ。
「それに貴方の打ち出した政策が尽く功を奏して幽州の治安や農商業は急激に成長したそうじゃない。それに貴方の本は読ませて貰ったわ。続きを楽しみにしてるわね」
それについては国譲さんに言ってください、なんて言えるはずもない。
「とりあえず単刀直入に言うわ。貴方、うちに来なさい」
「………………………は?」
「貴方は争いを好まない割に現実主義者らしいじゃない。それならば私の覇道にその力を貸しなさい」
なんという上から目線。しかし似合っている。
「……お断りします」
「それは何故?」
「幽州は居心地が良いです。それに大事な人たちを見捨てては行けませんから」
「その大事な人たちを守るために他の民はどうなってもいいと?」
「まさか。困っている人々がいれば駆けつけますし、劉備たちも頑張ってくれています。それに……他の場所も孫策さんや曹操さんが善政を敷けば問題ないでしょう?」
「何故袁紹でなく私たちを、袁術ではなく部下の孫策を挙げたのかしら?」
「人の使い方、地の利、時の見定め。これ以上言う必要もないでしょう。袁術さんは……虎の子を飼いならせるはずもない」
「……ふぅん。それを聞いてますます貴方が欲しくなったわ……ま、今日はこれで失礼するわね。ただし、私は欲しいと思ったものは全て手にいれる。それを覚えておきなさい」
そう言い残して身を翻す。
「……これは独り言ですが、黄巾賊やら何やらも含め、幽州の地を徒に乱すものにはそれ相応の代償を払って頂くことにしているんですよ」
「……ふふっ」
心底面白い、といった表情で笑ってから彼女は去っていった。
「……ふぅ~」
やっぱり英雄は纏っている雰囲気が違うなぁ……
白蓮にもそれくらいのオーラを発せられるようになって貰わないと。