第5話 反董卓連合・序章
白蓮との仲を深めた一刀。
水面下では女の争いが勃発しているが一刀は気付かない。
しかしそんな日々も長くは続かないのであった……
主だった将が集まり、軍議が行われていた。
「……やっと重い腰を上げたか」
そう呟いてしまった俺を誰が責めようか。
「対応が遅すぎますな」
星がそう言うのも無理は無い。
中央、つまり漢王朝からの指令。それは、各地に蔓延る黄巾賊を討伐せよ―――というものだった。
「名を上げる絶好の機会か」
「戦いでは無く一刀みたいに善政で名を上げるような世ならいいのに……」
「せやけど大将、仕方ないやろ」
凪・沙和は、星の副官という扱いになるため出席していない。
真桜は攻城兵器その他技術などの成果を報告するため出席している。
「ああ……今私たちがやれることを精一杯やろう」
――――――なんて話をしていたのは数ヶ月前。
俺が騎乗の練習をした際なにかが足りないと気づき、鐙が開発されることになった。まだ試作段階ではあるが、完成したあかつきにはそれを量産すれば乗馬に心得の無いものでも飛躍的に乗馬技術が向上するだろう。
鐙はまだ秘密兵器ということで通常通りの白馬義従で出陣。
野戦ではうちの軍の機動力・破壊力に賊如きが敵うはずもなく、粉砕。
攻城戦で曹操軍に手柄を取られたとは言え、間違いなく誇るべき戦果を上げた。
張三姉妹は曹操軍が討ち取ったと聞いている……けど、俺はあまり信じてはいない。この時代は情報力がものをいう時代であり、実際にこの目で確かめない限りはあらゆる情報を疑ってかかることにしている。
子飼いの密偵によれば張三姉妹は元々ただの旅芸人だったらしく、いわゆるファンの肥大化に乗じて乱を画策した者たちが今回の戦の首謀者というわけだ。
しかし余計な加入があったとはいえ数万の人々を集めた力―――歌唱力は凄まじい。
兵集めにはうってつけだろう。娯楽も少ない時代、兵士たちの癒しともなるのではないだろうか。それに黄巾党に参加せずとも張三姉妹を好きだった者たちもいるだろうから、余計な反感を買いたくないはずだ。
時代の流れからすると次の大きな戦は反董卓連合による虎牢関の戦い。これから恐らく檄文によって反董卓連合軍が形成されるはず。
経済力・軍事力・求心力が高まった今必要なのは、情報収集力。
白蓮の知り合いの侠客ネットワークを当てにする訳にもいかない。
ゆえに今は優秀な諜報部隊の育成が急務である。
「ふぅ……」
……目が疲れたしちょっと休憩するか。
「冷たいけど気持ちいいな」
気分転換に水浴び。出来れば風呂に入りたいところだけど、そんな贅沢は言っていられない。
と、そこへ。
「御遣い様、太守様がお呼びでございます」
「んー、急ぎですか?」
「はい、出来る限り早急にとのことでした」
「……了解しました」
おちおち水浴びすらしていられないとは。
浴槽から上がり、身体を軽く拭く。
早く白蓮のところに向かわないと。
「水浴びもいいけど風呂にゆっくり浸かって、風呂上がりの牛乳でもあればもっといいんだけどなぁ」
「牛乳、ですか」
「うん、牛乳………………は? って国譲さんなぜここに!? そしてじっと見ないでください!」
「いえ、私が伝えに来ましたので。それに殿方の身体とはこうなっているのですね」
……確かに中からは声を判別しづらいからそれはいいとして。じっと見られるのは恥ずかしい。そして国譲さんが少し頬を染めていることに気づき、無表情だけど感情はしっかりあるんだなと、改めて確認した。
「太守様や子龍様には既にお見せになっていらっしゃるのでよろしいのではないかと思いまして」
「ぶっ……」
あれか。「昨晩はお楽しみでしたね」ということですか。わかります。
「……っとこんな話してる場合じゃなかった!」
すぐさま服を着て白蓮のもとへ。
「反董卓連合?」
「そうだ。董卓が洛陽を牛耳り、好き勝手やっているらしい」
「それで袁紹からの手紙、と……」
うーん。
「きな臭いなぁ」
「そうか?」
「ああ。暴虐を尽くし民を徒[いたずら]に苦しめていると書いてはあるが……そんな情報は一切入ってきていないぞ?」
自分より董卓が取り立てられたことへの羨望、いや嫉妬か。あの袁紹である。ありえなくもない。
それを伝えると白蓮は、
「あいつとは一応幼馴染みたいなもんなんだけどな………………心当たりが有りすぎて怖い」
白蓮の表情がすごくいたたまれない。
「ま、利用させてもらおうよ。諸侯も名を上げる絶好の機会だから参加するはず。董卓側に勝ち目はほぼ無いだろ。だから連合側で戦功を上げて、もし洛陽が何も無ければ保護か逃がすか。そんな感じかな」
「それだと虎牢関を先頭で破らなければいけませんねー」
「虎牢関……あー、いやな予感が」
「あわ……董卓軍に所属する武将たちならば、絶対に抜かれてはいけない難攻不落絶対無敵七転八起虎牢関には恐らく呂布を。泗水関には華雄に加え、その抑えとして張遼が配置されると思いましゅっ。あぅ」
なんか怖い四字熟語がいっぱい並んでるよ……。
彼女ら―――またもや女性―――の情報は既に伝わっている。
一騎当千の呂布、知勇兼備の将・張遼、猪武者の華雄。
1人だけ四字熟語じゃないのは気のせいだろう。きっと。
「正直、星ですら呂布の相手になるかどうか……」
「む、主。それは聞き捨てなりませんな」
「そこらへんは戦場で自分の目で確認してほしい。……上に立つものとしてだけじゃなく、俺個人としても星を失いたくないんだ。わかってくれ」
「……むぅ」
そのまま軍議はお開きとなり。時が流れ、公孫の旗を持つ軍勢は洛陽に向け出立した。