第4話 キズナツナイデ
曹操に仕えんと陳留を目指していた稟と風。陳留まであと少しというところで風は一刀に興味がわく。
幽州へと向かう一行、桃香・愛紗・鈴々と出会い、旅をともにすることに。
その旅路の途中で桃香は諸葛亮:朱里を軍師として迎え入れる。が、もう1人の少女、鳳統:雛里は一刀に興味があるという。
風は『らいばる』心を燃やし、一刀の回りの女性環境は変化を見せるのだった――――――
「はぁ……」
思わず溜め息が出るのは仕方がないだろう。
今、一刀のおかげでうちの収入源は確保され、かつてない程国庫は潤っている。
最初は塩の密売を行っていた。
それに一刀が『味噌』とやらを作ったために、今はそちらの製造にも力をいれている。買うのは富裕層であり、そのため金額を上乗せしているのだが……それでも連日売り切れの大人気。
直接塩を販売しているわけでもないため、これなら専売権をくぐり抜けられるのだ。
いや、本題はそれでは無くて。
善政は名声を高める。もともと『天の御遣い』として有名だった一刀がさらに有名になるわけである。一刀が、だ。大事なことだから2回言った。
そう、『天の御遣い』がいずれ国を奪ってしまうかもしれない……そんなこと考えているやつらはどうでもいい。見知らぬ地で民のために尽力するあいつに例え太守の座を奪われようとも本望だ。それになにより私は一刀を信じているからな。
問題は、だ。一刀の名声が高まる。有能な人物が『一刀』を訪ねてくるっていうことだっっ!
先日旧友である桃香が部下を連れてやってきたのだが……
2人も軍師志望。聞けば一刀に魅せられて尋ねたのだという。
うちには軍師という軍師はいなかったから、喜ばしいことだ。
それに私から見ても2人とも可愛らしい。星然り凪・真桜・沙和然りで、国譲も一刀のことを気に入っているみたいだ。
なんか今胸のあたりにチクッとした痛みが走ったと思ったが……うん、気のせいだろう。
「大丈夫ですか、太守さま」
「ん、ああ……気にするな、国譲」
はぁ……
今日は政務が早く終わり、視察がてら散歩でもしようかと考えていた矢先だった。
「白蓮、政務終わった?」
「あ、ああ……どうした? 何かあったのか」
「いや、暇ならデートしない?」
「でぇと? 言葉の響きは覚えてるんだが……ええと確か、合い挽き? 何を挽くんだ?」
「白蓮それ字が違う……人目を忍ぶ訳じゃ無いけど2人で街に出掛けようって話だよ」
「ああ逢い引き……って逢い引き!?」
「うん。で、どうするの?」
「ええと……あの、いや、そのだな」
「だめ?」
「っ! そんなこと無いぞ!」
声が大きくなってしまった。知らず知らずのうちに興奮してしまっていたらしい。
「それなら良かった。一刻後にここでいいかな」
<みっしょん・その1>
~買い物編~
どうも、みんなのあいどる風ちゃんですー。
今日はお兄さんが白蓮さんとでぇとをするそうなので、細かい仕事をしている最中の田豫さんに経過と結果を報告するために監視……もとい見守っています。
はてさて、お兄さんの女の子に対する扱い方はどれ程のものなのでしょうか?
期待させて貰いましょう。
おっと……動き出しました。
2人で街へ向かいます。護衛の兵隊さんたちはいません。
いざとなったらこっそり護衛しているせ……華蝶仮面さんが助けてくれるので安心ですよー?
「それで一刀、何処か行く当てがあるのか?」
「うーん、行くなら映画とか遊園地とかなんだろうけど……あ、ならウィンドウショッピングにしようか」
「言ってることがわからん」
「あ、ごめんごめん。主に店を冷やかしたり、買い物したりってことだよ」
「天の言葉は難しいな……」
「慣れると楽なんだけどね。お、小物屋……ちょっと入ってみるか」
これでは中の様子がわかりませんから、風も変装―――華蝶仮面なんばー2―――をしてお店に入ります。
「うお……やっぱり沢山種類があるなあ」
せっかくですから風も物色しておきましょうか。
「あ、これ可愛いな……」
白蓮さんがねっくれすを見つめています。
地味過ぎず、華美過ぎず。しかし素朴な味わいのある……そんな印象を受けます。白蓮さんらしいとだけ言っておきましょう。
あ、お姉さんこれとこれ……とそれ。あれも下さい。
代金はお兄さん―――『天の御遣い』のツケでお願いします。
ふふふ、お兄さんが視察という名の散歩に行く度についていく風は、既に代金をお兄さんにツケてもらうことができるくらい顔が広いのですよー?
あ、2人とも何も買わずに出てきました。
風も慌てて後を追います―――っと思ったらお兄さんだけ戻って来ましたが……はて?
先ほど白蓮さんが見てたねっくれすを持って……ああ、そういうことですか。お兄さんもなかなかやりますねー。
欲しいと思っていたぷれぜんとを貰って喜ばない女性はいないのです。しかもそれが意中の男性からなら尚更のこと。
ただ、白蓮さんはお兄さんへの好意を自覚していなさそうな気がしますが……
それは本人の問題ですし、らいばるをわざわざ増やすほど風は優しくないのですー。
それはさておき、お兄さんを追いかけます。
「女性といったらやっぱり……服だろ服。うんうん」
次は服屋さんに向かうようですが……
「メイド服、バニースーツ、スク水にセーラー服! うん……うん」
お兄さんがいつになく積極的なのが謎なのですよー……?
「バニー……は星だな。凪は犬耳、いや耳だけじゃなく尻尾も付けるか。沙和は……ボンテージ姿で調練させてみようか。真桜は水着みたいな服装だから新調してあげようか。ビキニかな? 国譲さんのエプロン姿とか見てみたいなぁ。かなり似合いそうだ……あ、ならメイド服でも? ナース服でもよさそうだ。国譲さんの似合う服の範囲は広いなぁ。問題は風と雛里のどちらにスク水を、どちらに幼稚園児服+ランドセルを着せるか、だ。異論は断じて認めん。白蓮は……うーん、セーラー?」
「おっ、おい一刀……?」
「あー妄想が止まらん! よし、早く行くぞ白蓮!!」
「え? ちょっ、まっ……うわあああ!?」
白蓮さんが為す術も無く引き摺られていきます。
「―――おっちゃん……オレがこれから提示するもの……作れるか? 金に糸目はつけない。これなんだけど」
「うん? こっ……これはっ!」
「出来るかな」
「出来ますとも! いやむしろやらせてくだせぇ! それに代金もいりやせんぜ! この絵のおかげで創作意欲が湧いてきやしたっ」
「そうか……任せたぞ、おっちゃん」
「ええ、勿論!」
ガシッ、と堅い握手を交わした後、抱き合って互いの肩を叩き合う2人。……雛里ちゃんと孔明ちゃんが喜びそうな構図ですねー。
話も纏まり、お兄さんは白蓮さんのもとへ。
「一刀、これなんかどうかな」
「おお! 何を着ても着こなせるなぁ白蓮は」
「それは私が普通だという……」
「違う違う! 普通に……じゃ無くてちゃんと似合ってる、ってこと。ってか逆にどんな服でも似合うって凄いよね」
「……それもそうだな」
着ている服から受ける印象というものがありますが、白蓮さんの場合はより強くその印象を引き立てると言いますか服に着られてると言いますか……
いえあまり触れないでおきましょう。
さて服も買い終え、次は昼食のようです。
<みっしょん・その2>
~食事編~
気付けばもう既に昼食時。道理でお腹も空くはずです。
……風は別に飴だけで生きている訳ではありませんよー?
「富裕層がお金を使えば巡りが良くなるってね」
おおっ、高級料理店ですねー。
「か、一刀、私でもこんな店入ったこと無いぞ」
「大丈夫大丈夫、ここの店主と知り合いだし、個室を予約してあるよ。さ、行こう。こんにちはー」
「あら……御遣いさま。こちらへどうぞ」
こちらの店主は飴作りにも携わっていて、風はお得意様なのです。
この店はお兄さんから大量に味噌を仕入れて新しい料理を続々と開発しているため、お兄さんとはお知り合いなのだそうですよー?
お兄さんもここの店主さんには味噌を安く売っているそうです。
戻ってきた店主さんに風のことを話します。
「お2人のご様子……ですか。わかりました」
さて、風もこの時間を利用して星ちゃんと食事して来ましょう。
ふむふむ……つまり2人はイチャイチャしていたと。
「端的に言えば、ですけどね」
ありがとうございました。
……今後お兄さんへの対応を改める必要がありそうですねー。
食事の後は散歩のようですが……城から出るのですか。お兄さんは星ちゃんに気付いていたようです。
星ちゃんはいろんな意味で目立ちますから、しょうがないのでしょう。
「では星ちゃん、行きましょうか」
「風、何か失礼なことを考えていなかったか?」
「いえいえ、星ちゃんは華蝶仮面だなーと思いまして」
正直言って変、という意味ですが。
「む、当たり前だろう。風にもようやく華蝶仮面の良さが伝わったようだな」
褒め言葉ととられたようですねー。そういうことにしておきましょう。
城を出て向かったのは、河原。森に囲まれ、ひんやりと澄んだ空気が心地良い。
「こんなキレイな場所があったんだな……」
「街の人に教えてもらってね」
「民の声、か」
城に、政務室に籠ってるだけではわからないことは沢山ある。
「……なぁ白蓮」
「ん? なんだ?」
「オレは白蓮が好きだよ」
そうか。
「……ってええええええ!?」
「白蓮は俺のことどう思ってる?」
「えっ? ……わっ、私は」
―――どうなんだ。一刀は鍛練も頑張ってるし文字を学んで政務を頑張ってくれてるし……いや違う、そんかことを聞いているんじゃない!!
一刀は優しくて格好良くて……鍛練の理由が守られるだけじゃ無くて守りたいからだと星から聞いた時はどこか嬉しかった自分がいた。
そして一刀を慕う女が増えて……ああ、なんだ。あの時感じた痛みは気のせいなんかじゃなかったんだ。
「うん……わ、私も一刀のことが……すすすすっ、好きだっ」
一刀は白蓮が何か悩んでいることを田豫から聞いていた。ボーっとしてたり、落ち込んだり。
―――ボーっとしてる時に考えていたのだろうけど、それが口に出ていたようでそれを国譲さんから告げられた時恥ずかしかった。でも、嬉しかった。
人手が足りないながらもひとえに民のためを想って政務に励む姿は尊敬した。
白馬を華麗に操り陣頭で指揮をする姿は美しかった。
そしてなにより、普段見せてくれる笑顔に惹かれたんだと思う。
「ありがとう。嬉しいよ」
「一刀……んっ!? んん…………ふあっ」
「良かったですな、白蓮殿」
「うん……へっ?」
現れたのは星と風。彼女たちは一部始終をしっかりと目に焼き付けていたようだった。
「せ、星! それに風も!? 一刀ぉ……って驚いてない」
「いやぁ……はは。ごめん、知ってた」
「えっ」
城にいたはずの星がメンマを見定めているのに気付いていた。
―――護衛の兵士をつけてないのだから、星がついているんだろう。
そう検討をつけ、城を出ることに決めたのだった。
「まぁまぁ、白蓮殿も女だということですな。で、主。好きなのは白蓮殿だけなのですかな?」
「はは、星も風も……みんな好きだよ」
「……ま、良いさ。自分の気持ちに気付けたんだから」
「おおっ、白蓮さんが大人の女になってしまったのですよー」
「ははは。それじゃ白蓮、星と風と一緒に戻ろうか」
「風はお先に失礼するのですよー」
「では某は凪たちにこのことを話してきましょうか」
そう言い、一刀と白蓮を残して去る2人。
「一刀……」
「これからも皆で頑張っていこう。な?」
「……そうだな!」
2人は笑顔で城に戻るのだった。
城内。
風は田豫の私室にいた。
「そうですか。……わかりました」
「……国譲さんも女の顔になりましたねー。ふふっ、風も負けてられないのですよ?」
一刀の知らないところで、彼を慕う女性たちによるアプローチが始まろうとしていた―――