第17話 北方動乱 戦の行方
※全話、再度の加筆修正を行っています。ストーリーが大幅に変わっている部分もありますので、よろしければ第1話より読んでいただけるとありがたいです。
ついに曹操は幽州へと兵を進める。
事前調査では戦力は五分、指揮系統が乱れればたちまちどちらかが優位に立つ。
しかしその一方で躍動する影が……?
開戦から2時間、戦況としては僅かに押されている……というところだろうか。
「ふぅ……」
いつまでも気を張っていてはいざというときに対処できない、今だけは少しくらい気を抜いてもいいだろう。
突如、くいくい……と袖口を引っ張られる。
「あれ? 雛里?」
どうしてこんなところに。戦線がそれほど近くないとはいえ戦場だ、万が一ということもある。
「護衛くらいつけた方がいいよ」
「ご主人様の傍にいたかったんです」
なんとまぁ男冥利に尽きるというか。
冗談はさておき、劉蜀・孫呉との関係が良好なためこの戦は事実上の決戦ということ。
「あわ……」
右手で雛里の頭を撫でてやると彼女は恥ずかしげに俯くが、その視線は前に向けたままだった。
「この戦いで……曹操の“覇道”を上回る俺たちの意思を見せつけて勝つことができれば、きっと平和はやってくる」
「……はい」
「雛里。これまでも、そしてこれからも……俺に力を貸してくれ」
「……はいっ!」
一進一退の攻防を支える武将たちは、星対夏候惇、紫苑対夏侯淵、そして張遼に対するは白蓮――――――ではなく、凪、沙和に加え蒲公英。
馬超ならまだしもさすがに蒲公英一人に張遼は荷が重い。蒲公英が率いる騎兵のスピード、沙和が率いる歩兵の統率、統率にもバランスのとれた凪、そして凪個人の武。張遼を相手取るには3人が必要だと判断した結果である。
もし紫苑と蒲公英が加入していなければ三羽烏を夏侯淵に当て、白蓮が張遼と戦うことになっていただろう。
こういう時こそ、自分の無力さに腹が立つ。
剣道をやっていたくらいでは、今まで何度も視線を潜り抜け、死を味わい、死を味あわせてきた武将たちには到底敵わない。
だからこそこれまで学んできたことを余すことなく発揮し、最小限の被害で最大限の損害を与える。
それを出来るよう頭をフルに使って行く必要がある。
「この戦況をどうにか打開する策は……!」
「……今はまだ、耐えるしかありません。相手の疲弊を待って――――――」
『伝令ッ! 鳳統将軍、どこにおられますか!』
「俺と一緒にここにいる! どうした?」
「はっ! ただいま入った情報によりますと……」
……ついに動いたか……ッ!
「公孫範様、公孫越様ともに善戦をしておられますがなにぶん敵の数が多く……」
2人が抑えられている間に他の将兵が先へ進んだか……。
「国境付近の邑の被害状況はどうなっていますか」
「は。私が伝令として戦線を発った際には僅かながらも被害が報告されていました。ですから今となると……」
「……ご主人様」
「ああ。伝令さん、先に白珪と仲徳には伝えたよね?」
「はっ!」
「よし……お疲れ様。ゆっくり休んでてくれ。行くぞ、雛里」
「ひゃっ……」
雛里の小柄な体を抱え、ダッシュする。2人はすでに検討を始めているはずだ。
「白蓮、風!」
「……一刀か」
急ぎ玉座の前到着すると2人は真剣に卓上の地図とにらめっこをしていた。
「どう……なっているんだ?」
「報告通りさ。今は風と援軍を検討中だ」
ただでさえ戦線の維持はギリギリ、ここで誰かしら将が抜ければたちまち押し込まれてしまう。
「な、なら俺が―――」
「だめだ」
俺が行く、という言葉は言い切る前に両断された。
「援軍には騎兵の統率、かつ武術に長けた将がどうしても必要になる。その点風、雛里では不可だ」
さらに、と白蓮は言を続ける。
「蒲公英や星と一刀が交代することも許可できない。すまない一刀、お前は――――」
聞きたくない。けれど受け止めなければならない真実。
「―――武、統率その両方において実力不足だ。足手まといになる可能性だってあるんだよ」
黄巾賊との戦いは連携すらろくにとれていない寄せ集めの雑軍を。
反董卓連合では周囲の護衛を受け攻城の任務を。
袁紹との戦いでは単騎朧の救出に臨むも、重傷を負って行方知れずとなった。
「ぅ……く」
気づきたくなかった。気づいていないふりをした。
勝利した戦は彼我の戦力差が大きかったか、あるいはいつも必ず隣にいる誰かの力に支えられて戦っていた。
やはり俺は――――――無力、だった。
悔しさに滲み出た雫が頬を伝って流れ落ちてゆく。
止めようと思っても、なんど拭ってもとどまることはない。
「……落ちつけ、一刀。手がないわけじゃない」
「そ、れは……?」
「雛里、お前も心して聞け。これから全軍に通達を行う。内容は―――」
◇
「はっはっはぁ! 圧倒的ではないか、わが軍は!」
「大量ですぜ、旦那ぁ!」
烏丸の軍勢は一丸となって邑に侵略し、気のすむまで―――奪い尽くすまで略奪を続ける。
年寄りや子供は殺し、男は奴隷にして死ぬまで働かせ続けられ、女は犯されたあと殺される。
中には生き延びる女もいるがそれは烏桓の者に見初められてしまった者たちであり、故郷へと帰ることなく烏丸で妻となって生きていく。
「おっ。おい女だ、こんなところに隠れていやがった!」
「ひぃっ……! い、命だけは……!」
「あぁん? それはお前の働き次第だ……なぁ?」
にやり、と男は下卑た笑みを浮かべる。
「あ、あ、あ……」
震える女の衣服に手をかけ、男が乱暴に衣服をはぎ取る―――
「……あ?」
―――それは、叶わなかった。
「この下郎が……! 貴様らの悪行、見逃すわけにはいかん!」
何をされたかわからないまま、男はその生涯を終えた。
「聞けぃ、皆の者よ! 私が来たからには貴様らのような下衆どもを生かしておけん!」
一閃。
彼女の立った一振りで数人、いや数十人が命を落としていく。
「お、おいあれ、まさか……!」
烏丸とはいえ豪傑として知られている、その彼女の名。
「夏候元譲、参るッッッ!」
◇
「さて……ご要望通り春蘭と秋蘭、霞を――――――ああ、いえ。夏候惇、夏侯淵、張遼の3名を派遣したわ。それに趙雲、黄忠、馬岱がいるならばこれ以上被害を受けることはないでしょう」
「……ありがとうございます」
「別にいいわ。私だってこの漢の地をあのような下衆どもに踏み荒らされたくないの」
幽州城、玉座の間。
一刀、白蓮、雛里、風。
4名は曹操とその親衛隊をはじめとする兵士に包囲されていた。
いや、包囲というのは正確ではないだろう。正確には、“監視”されていた。
「ふふ……貴方が稟の言っていた程呈ね。そして水鏡塾出身で鳳雛と名高い鳳統。少ない人手でもすべての事柄をこなしていたその内政手腕は評価に値する、公孫賛。そして……」
彼女の双眸は、一刀の瞳を見続ける。
「幽州に安寧と肥沃さをもたらした知識。さらには孫策、劉備といった有力諸侯とのつながりを持つほどの人脈。“天の御遣い”、北郷一刀」
このような形になってしまったのは残念だけど、と彼女は言う。
「今から貴方たちは私のモノよ。いいわね?」
4人は、抗うことなく首を縦に振った。
お久しぶりです。
難産ながら、そして僅かながら終わりへの道筋が見えてきました。
やはり小説というものはノープロットでやるものじゃないですね……せめて着地点くらいは考えねば。
これからも間隔をあけての投稿となりそうです。
楽しみにお待ちいただいている方々には申し訳ありません。
自分で納得のいくエンドを迎えられるよう、じっくり考えていきたいと思います。