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真・恋姫†無双-白龍翔天-  作者:
第一章
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第12話 オモイノキズナ

 袁紹軍を散々に打ち破り、勝利の余韻に浸っていた面々に届いた一報。

 それは将に限らず兵達をも震撼させた。

 早馬が着き、兵を送ろうとしていたところにさらに悲報が舞い込む。

 曰く、天将―――近頃はこう呼ばれる―――である一刀が乗っていた馬に満身

創痍の董白が乗り、戻ってきた。

 その後ろに一刀の姿は無く……

 身体が、揺れる。

 一定のリズムで腹を圧迫される感じがなんとも心地――――――悪い。


 「うぅっ……」

 「……気付いたか」


 目を開ければ視界は全て真っ暗。

 ……そっか。オレ……死んだのか。

 まだまだやりたいことはあったのになぁ。


 「何を言ってるか知らんが少し黙ってろ。舌を噛むぞ」


 ん?


 (うわっ!)


 突然全身に浮遊感。


 (うぶっ!?)


 と思ったら腹部に激しい衝撃が。

 再び一定のリズムでオレのお腹が圧迫され、……オエ。

 なんとしてでも吐くまいと悪戦苦闘していたところ、床に転がされる。


 「思春、首尾は? ……ってなによその大きな麻袋は」

 「それについてですが蓮華様、このようなものを拾いました」


 その会話とともに俺の視界が開けて……って袋詰めにされて担がれていたのか。


 「巷で“天の御遣い”と称される北郷です」

 「ほぅ、これが」


 見れば孫策さん、ではなく少し小柄なのでおそらく孫権さんか孫尚香さんだろ

うと思われる人が覗き込む―――


 ―――嘔吐感で極限まで蒼白になったオレの顔を。


 「ちょ、ちょっと思春? 彼、顔色が随分悪いわ……って今にも死にそうよ

アナタ穏やかな表情で目を閉じちゃダメっ! え、衛生兵―――!?」


 叫び声が、こだました。




 「うっ……ここは」


 記憶が……いやうん、覚えてる。

 とりあえず吐き気が酷くて倒れたんだっけ。体力が落ちていたのに加え、矢傷を負ったのが響いたか。

 ……ん? 包帯が巻いてある。甘寧さんがやってくれたのかな。

 お礼を言わなくちゃ。ってどこに行けばいいんだろう。

 勝手に動き回られては困るのかもしれないけど、まずは助けてもらったお礼を伝えないと。


 「あ、そこの人ちょっとすみません」


 廊下を歩いていた侍女さんに声をかけ行き方を聞く。最後まで連れて行ってくれるらしい。非常に助かります。


 「孫権様、客人がお見えになりました」


 あれ? 甘寧さんの所に連れて行ってもらえるように頼んだのに。そう考えていたことを見抜かれたのか、侍女さんが話しかけてくる。


 「甘寧様は孫権様の護衛も兼ねていますので、恐らく一緒にいらっしゃるかと。もしいらっしゃらなければ孫権様にお聞き下さい。孫権様がお呼びになればすぐにいらっしゃるでしょうから」


 忍者みたいだなぁ。

 そのまま去っていく侍女さん。えっと……


 「あのー、北郷ですが、入ってもいいですか?」

 「ん……ああ、かまわないぞ」


 中から声が返ってくる。許可を貰えたので、入る。


 「助けて頂いたお礼を甘寧さんに伝えたいのですが見当たらなくて……」

 「そういうことなら……興覇!」

 「はっ」


 天井からスッ、と孫権さんの隣に音もなく降り立つ甘寧さん。


 「あ、このたびはどうもありがとうございました。包帯まで巻いていただいて……」

 「それは包帯ではなく私の褌だ」

 「……えっ」

 「……キサマ今、何を考えた」

 「い、いえ、何も!」


 一瞬で首筋に曲刀を突きつけられたらこう、どもってしまうのはしょうがないだろう。


 「興覇」

 「はっ、申し訳ありません」


 ほっ……首筋から冷たい感触が無くなっていく。


 「と、とにかく。この命を救っていただいてありがとうございます。まだ死ぬわけにはいきませんから」

 「貴様を助けることは仲謀様を始め我々に利があると考えただけだ」

 「そうだな。北郷、貴方の噂はかねがね聞いている。仁君と言われる劉備に勝るとも劣らない人望と人柄の持ち主だとな」


 真面目な表情でそこまで言われると、すごくむず痒いというかいたたまれないというか。


 「我々は各地に同朋が散らばっているうえ、資金もない。それをどうやって解決しようか、せっかく貴方とこうやって対面できたのだ、天の知識を借りようかと思ってな」

 「命を救っていただいたことに比べれば軽いものですよ。ただ」


 いずれは幽州へ帰りたい。それを許してくれるだろうか。


 「ああ、わかっている。これを機に貴方を中心として幽州と友好な関係を結ぶことも考えている」

 「ありがとうございます」


 ここまで評価してもらえるとは。太守―――白蓮に野心がないことも評価されたのだろうか。

 ならば俺もその信頼に精一杯応えたい。

 袁術は連合の時には蜂蜜水蜂蜜水と連呼していたから蜂蜜が好きなのだろう。希少な蜂蜜を大量に生産して売りつければ……よし。


 「上手くいけば、一気に国庫が潤いますよ」




 荊州、袁術領内。主である袁術と張勲は玉座にいた。


 「美羽様、孫策さんが蜂蜜を持ってきたそうですよ」

 「なに、蜂蜜じゃと! そ、それで蜂蜜は何処にあるのじゃ!」

 「孫策さんが持ってきますから、もう少々お待ちください」 

「孫策め……妾を待たせるとは何事じゃ」


 大の蜂蜜好きの袁術。金に糸目は付けず、そのため張勲は金銭面のやり取りに若干苦労しているが、「愛する美羽様のためですからー♪」と言いながらこなしていた。


 「待たせたわね」

 「おお! 孫策、早く妾に蜂蜜をよこすのじゃ!」


 孫策から蜂蜜を詰めた壺を貰おうとしたが、ひょいっ、と上に掲げられてかわされる。


 「あげないわよ。売りに来たの。最近は兵糧もまともに買えないし、武器は折れるし防具は穴が開いているわ。ということでさすがに戦闘で支障が出ると思うからお金が欲しいのよねー。買ってくれるわよね? これだけの量があるけど」

 「こ、こんなに沢山蜂蜜があるのは初めてなのじゃ! 七乃! 孫策の言い値で全部買いじゃ!」

 「い、言い値で全部ですかー……孫策さん、値段はおいくらですか」


 これよ、と孫策は明細書のようなものを渡す。


 (……あれ、適正価格以下。安いですね。商売観が無いのでしょうか。ってそもそも立場は部下なんだから買わないで取り上げても……そこに気付かないお嬢様って相変わらずお馬鹿で素敵ですねぇ)


 まぁでも安いに越したことは無いです、と張勲はその場で全額を支払い、蜂蜜をすべて購入した。




 孫策は玉座を後にし、帰途についていた。


 (ふふ~ん♪ ちょ、ちょっとくらいならお酒に使ってもばれないわよね)


 辺りをきょろきょろと見渡しながら酒屋へ入っていく。店内には他に客が一人しかいなかった。


 「おじさん、これちょーだ―――」

「何をしているのかな、伯符」


 ギギギ、と硬直させた首を機械のように後ろへ回す。


 「な、なんで冥琳がここに!? いや、その、そう! お母様にお供えするための―――」

 「御託はいい。帰るぞ」

 「―――お酒ぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 店主は孫策の引き摺られる姿を見て涙したという。




 「はぁ……」


 あの後冥琳にたっぷりと正座で説教されて足がまだ痺れてるわ。

 でも、思春もあの北郷を拾ってくるなんてね。どうせならこっちにも持ってきてもらいたいけど……ま、そのうち会えるでしょ。


 張勲に売りつけたのは、蜂蜜“モドキ”。思春が言うにはあれは甜菜[てんさい]という大根みたいなものを煮詰めて作ったものらしい。

 北郷のいた国ではよく使われていたそうね。まさか大根みたいなものを煮詰めると蜂蜜っぽくなるなんてわからないわよねぇ。

 それに味見をさせてもらったけど蜂蜜とは大差ない味。とは言っても蜂蜜はほんの一掬いしか舐めたことないから甜菜と比べるのは微妙だけど……

 でも、大量生産できる野菜から出るアレを蜂蜜と同じ価格で売れたためすごく国庫が潤うんじゃないかしら。私のお小遣いも増やしてくれるといいなー。

 冥琳は予想外の収穫に笑顔を見せてくれたし、いけるんじゃないかしら。祭と二人で交渉してみよーっと♪

 北郷は蓮華のウケも悪くないみたいだし、このままあのコを孕ませてもらえば孫呉は安泰かしら……?

 幽州では種馬の異名を持っているらしいしね。

 連合の時に見たけど、優男だけど芯がしっかりしている感じだった。

 うーん、いざとなったら私が北郷の妻に……?

 それもありかもしれないわね。

 うんうん。祭も未だに「見合う男児がおらん」とか言って処女だし、冥琳も張り型とかじゃなくて生身の男を体験してみるのもいいんじゃないかしら……当然私も。

 とにかくまずは独立しないとなー。

 なんて言ったっけ……ああそうそう、公孫賛には後でお礼を言わなくちゃね♪




 時は遡り、一刀が行方不明になり、董白が帰還した後の幽州。


 「貴様は、私怨で和を乱して軍紀を破り、主を置いておめおめ帰ってきたと」


 これほど怒った星を見たことが無い。誰もがそう感じさせる表情。


 眼下には董白が跪き、頭を垂れていた。


 「……はい」

 「その返事、しかと受け取った。雛里、軍法に照らし合わせたら、どうなる」

 「……斬首、です」

 「決定権はあくまで主の主、白蓮殿だ。如何なさるか。軍法通りに斬るならば某が引導を渡してやるが」


 誰もが董白の斬首刑を確信していた。


 「落ち着け、星。お前が取り乱してどうする」

 「取り乱してなど!」

 「いいから下がれ。これは命令だ」

 「……御意」


 白蓮は董白の前に屈み、話しかける。


 「私怨、か。もとはと言えば反董卓連合も麗羽……袁紹の私怨だ。かといって軍法は絶対」


 だが、と白蓮は言葉を繋げる。


 「一刀が戻ってくるまで、処罰は保留だ」

 「……どう、して」

 「お前の落ち込みようを見ればな。すでにお前は罪を自覚してる。一刀がここ―――幽州に帰ってくる前に死ぬなんて……逃げることは許さない」


 処罰は一刀に一任する。一刀が帰るまでは謹慎していろ。


 そう言い残し白蓮は玉座を出ていく。

 すれ違いざま、星に呟く。


 (お前が一の将なんだろ。お前が一刀の生存を信じなくてどうする)


 「っ……!」


 ―――そう、ですな。某に今できることは主の生存を祈ること。そして、帰って来た時に変わらない某たちの、民たちの姿を見せること。


 一刀の帰還を信じ、将たちの絆は再び強く結び直される。

 白蓮も、上に立つ者としての自覚が出てきた。

 幽州は、全体としてさらにその姿を変えようとしていた。




 ちなみに、そのころの一刀はというと。


 「ふぇっくしゅ。ぐすっ、誰か噂でもしてるのかな?」


 そんなことを言いながら、晴耕雨読で甜菜、すなわち砂糖大根の栽培に精を出し。


 「甜菜は日本でもわりとメジャーなものだからな……幽州にいるときから研究しといてよかったよ。んー、今日もいい仕事したなぁ」


などと、畑仕事にくたびれた身体を伸ばしながら呑気にのたまっていたのだった。

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