高木は重い気持ちで、聞き込みに回っていた。
最近、窃盗事件が多く、人手不足の二課にキッドの予告が入った。
そこで、高木が二課の手伝いに刈り出される事になった。
一時的な事だと、目暮警部は、高木に伝えた。
しかし、由美の情報では、
そのまま二課に異動になる可能性大ということだった。
どこの課に行こうと、
都民の安全のために全力を尽くして仕事をする気持ちに揺るぎは無い。
しかし、佐藤刑事と離れてしまうのは辛かった。
人通りの無い路地裏で
高木はため息をついた。
「そこな若者、悩んでおるな。それも恋の悩みじゃ」
あたりに誰もいないと思っていた高木は驚いてあたりを見回した。
小さな机の上に水晶玉を載せた占い師が、
壁を背にして座っている。
”いつの間に?いや、居たのに気が付かなかっただけなのか?”
占い師は黒い衣装で、全身を覆っていた。
フードの中の顔は見えない。
高飛車な声は若かった。
しかし、全身から、奇妙な威圧感を漂わせている。
「こちらに参るが良い。特別に私が占って進ぜよう」
高木は、その雰囲気に飲まれ、思わず水晶玉の前に座ってしまった。
「想い人と、共に居たい、と思っているね?」
高木は、顔に血が上るのを感じた。
「どんなことをしても、いっしょになりたいかい?」
高木は一瞬考えた。
「法律に触れない、いえ、人の道に外れないのなら」
ふと、占い師の威圧感が消えた。
小さな声で笑っている。
ひとしきり笑った後で、占い師は言った。
「そなた、怪盗キッドを追っておるな」
「なぜそれを!」
「私はすべてを見通すことができる。
さあ、キッドの働きを妨げることのできる『御札』をそなたに進ぜよう。
今宵の会議にて、これをキッドの狙う『カシミールの星』
の展示ケースに貼ることを主張するのだ。
これさえ貼れば、キッドは、絶対、宝玉に手は出せん」
高木は『御札』を見つめた。
「これを、ですか・・・」
「そうじゃ、さすれば、そなたは、想い人の元へ、戻れよう。
キッドの盗みを妨げる方策を主張する事は、
別に、人の道に、外れてはおるまい?」
信じ難くもあったが、自分の悩みから、
今夜の会議の事まで、この占い師は言い当てた。
別に、この『御札』を貼って、誰かに害があるとは思えない。
”それに、また、1課に、佐藤さんの所に戻れるのなら!”
高木は占い師から『御札』を受け取った。
高木が去ったあと、占い師は、フードをはらりと頭から落した。
「やれやれ、この格好は暑いわ」
水晶玉から声がした。
「お嬢はん、今時珍しい、無垢な魂の持ち主でしたなあ」
「ルシファー様に差し上げれば、さぞお喜びだったでしょうけどね。
まったく、何事にも、代えがたい想い人を手に入れるためでも、
『人の道を外さなければ』だなんて。
ほんと、不器用。
付け入って、魂を奪うどころか、応援したくなっちゃうわ。
まあ、彼が、『御札』を貼れなくても、
貼れって言い張りさえすれば、
想い人の元へ戻れるようになっているから、大丈夫ね」
紅子は声を殺して笑った。
水晶玉から再び声がした。
「しっかし、あの『御札』を貼れって
公衆の面前で、主張できますかいねえ〜」
「彼なら、きっとできるわ」
言い切った紅子は、顔を赤めて付け加えた。
「でも、あの『御札』を貼れって、
みんなの前で主張するのは、確かに、かなり恥ずかしいわね」
退庁時間を過ぎていたが、目暮は千葉から報告を受けていた。
そこへ中森が血相を変えて飛んできた。
目暮の机の上に、ある物体を叩きつける。
よく見かけるものだったが、
この場に出てくるには、あまりに意外な物だったので、
目暮は思わず、質問した。
「何だね、これは?」
中森は、怒りのあまり、声がすぐ出せない様子だった。
2.3度口をむなしく動かしてやっと、叫んだ。
「キッドよけの『御札』だよ!」
絶句した、目暮、千葉を前にして、中森はまくし立てた。
「お前んとこから、来た若造が、そう言って、
これを『カシミールの星』の陳列ケースに貼れって、
会議の時、言い張ったんだよ!!
確かになあ、今は猫の手も借りたいぐらい忙しいが、
足手まといはいらん!
この『御札』を熨斗にして、
お前んとこに、あのバカを返すぞ!!」
中森は、足音高く出て行った。
千葉が、笑いをこらえながら言った。
「まったく、高木のやつ、
よっぽど、ここに戻りたかったんですね」
目暮はため息をついた。
「追い出されようと、画策するんなら、
もっとうまくやればいい物を」
そう言いながら、その目は温かく笑っていた。
「しかし、何でこんな物をキッドよけの『御札』などと言ったのかねえ?」
「さあ、きっと、思いっきりバカに見せたかったんでしょうね。
ところで、警部、この『御札』自分がもらっていいですか?」
「かまわんが、大丈夫かね?」
千葉は『御札』を摘み上げ匂いを嗅いだ。
「うん、変な、匂いもしてませんし、
美味しそうじゃないですか、この『アジの開き』」
と、言うわけで、高木は、再び一課で仕事に励む事になった。
キッドよけの『御札』は千葉の舌を喜ばせた後、その胃袋に収まった。
そして、中森警部はいつものようにキッドに出し抜かれたのであった。
(おしまい)
|