第七話 忘れ物にご注意
「お邪魔するよ~」
カトルは加治屋の扉を開いた。そこにはいかつい顔をした「いかにも職人」といった感じの初老の男性が座っていた。
「ああ、カトル様、いらっしゃいませ。本日はどんな御用向きで?」
男性は立ちあがった。
「いや、新しい剣を鍛えてもらおうと思ってね。今日は妹も一緒なんだ」
カトルがそう言うと、ルリがひょこっと顔を出した。
「初お目にかかる。テルル・グーテンベルクという」
きりっと自己紹介。さすが大佐。
「ええ、ええ、存じておりますよ。さすが可憐だと名高いだけありますね、とてもかわいらしい。私はロイドと申します」
男は慣れない笑顔をつくった。少し不気味な顔つきである。
「でしょう、自慢の妹でね、最近少したくましいけど」
最後の一言はよけいである。アーサーはハラハラしながら二人の後に続いて、加治屋へ入った。
「おや、アーサーも一緒でしたか」
「ご無沙汰してます」
アーサーも自分自身の剣を鍛えてもらったり、城の使いでよくこの加治屋を訪れているのだ。
「それで、本日はどのような剣をご所望で?」
「うーん、そうだなあ。多少重くてもいいから、前のより頑丈なものがいいかな」
カトルとロイドが新しい剣について話している間、ルリとアーサーは店の中を見ていた。
「ほぅ、立派なものばかりだな。見ろ、この細工、ちょっとやそっとの腕では出来ないぞ」
姫に誉められてロイドは得意気な顔をして言った。
「姫様にそう言ってもらえるとは、鍛冶屋冥利に尽きます。今度是非姫様の為にも護身用の短剣でも作らせてください」
「本当か!? できるなら短剣ではなく本格的なものを一振りたのみたいのだが」
目を輝かせてルリは言った。アーサーはやっぱり、と思った。
「姫様が? よろしいですが、いったい何にお使いに?」
ロイドは虚を突かれたように驚きながら言った。
「そうですよ! そんなものがなくとも、私がいるんですから心配なさらないで下さい!」
アーサー必死の抵抗。そんなもの持たせてはいけない! 大魔神にこれ以上武器を持たせては!!
ちなみに一つ目の武器は白くてか細い手足である。あれだけでも威力大!! なのだ、不安になるのは仕方ない。
「いや、これからは女も戦う時代だ。しかも私は一国の王女。国民を守る義務がある! それに、弱きものを守るは力あるものの使命!つまりは私の使命なのだ!」
熱弁。おーっと感心しながら、思わずカトルとロイドは拍手した。
「今のお話、感動いたしました! 是非是非、剣を作らせてください!」
是非がひとつ増えた。もうだめだとアーサーは観念した。
そういえば、俺が盗賊団の手当てをしているときも、他のやつらに同じような話をしていたな。あの時の歓声はすごかった。全部は聞き取れなかったけど、いったいどんな話をしたのか……。
「では、姫にはもう私は必要ありませんね……」
アーサーは少しすねて言ってみた。
「そうだな。それで剣のことだが……」
ルリはあっさりとアーサーの発言を流して、ロイドと話し込み始めた。
「どんまい☆アーサー」
この状況が楽しくて楽しくてたまらない、と言った感じでカトルがフォロー(追い打ち)をした。
アーサーはうなだれた。そして呪文のように、「あれはテルル様じゃないんだから」と何度も心の中で繰り返した。
結局、ルリとロイドの剣談議は盛り上がり、すっかり昼になっていた。
「テルル、そろそろ昼食の時間だし城に戻ろうか」
さっきまで二人の様子を微笑ましく見ていたカトルが口を開いた。
「もう戻るのか? 帰りは町を見ていきたいのだが…」
あきらかに不満そうである。
「うーん、でも今日の夕方には父様もお帰りになるし、城下見学はまたの機会にねっ」
「父上か……」
ルリはなんだか複雑そうな顔をした。
「どうかした?」
それに気付いたカトルはルリの顔を心配そうに覗き込んだ。
「いや、なんでもない……」
ルリは歯切れの悪い返事をした。そして誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。
「そうか、テルルには本物の父があるのか……」
せつなく、今にも消え入りそうな悲しい声だった。
「じゃあ、頼むね」
カトルはロイドの方を向いて軽く別れのあいさつをした。
「カトル様の剣も、姫様の剣も出来上がりしだいお城の方へ献上致しますよ」
ロイドは上機嫌だった。よっぽどルリと意気投合したらしい。
ルリは鍛冶屋から立ち去るまえにぐるっと辺りを見回した。そしてそこで、ここには不似合いなものを見つけた。
「これは……」
ルリが見ているものに気が付きロイドは、微妙な顔をして説明した。
「変な設計図でしょう?うちの息子が書いたものでね。息子は他国に留学してそういったものの研究をしているんですよ」
あとも継がずにまったく、とロイドはため息をついた。
「ああ、何かの文献で似たものを見たことがあるな、たしか機械じかけで動く乗り物だっけ?」
そう、その設計図は確かに、ルリが小さい頃に3D子供百科辞典で見た機関車そのものだった。
ルリがこの設計図の作者に会うのはもう少し先のことになる。
「じゃあ失礼するよ」
「また来させてもらうぞ」
また是非遊びに来てください。とロイドは外まで出て頭を下げた。
そして部屋に戻りはっとした。
「あ!大変だよテルル、アーサー置いてきちゃったみたい」
カトルはわざとらしく驚いて見せた。絶対確信犯だ。
「アーサーも、もう子供じゃないんだから一人で帰って来れるだろう」
そういう問題ではない。カトルは吹き出しそうなのを我慢しながらにこにこしていた。
そして鍛冶屋では、アーサーがうなだれたまま、心の中で呪文を繰り返し続けていた。
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