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第三話 おてんば姫様☆
「なるほど兄が4人に次男の嫁と、あとは父か」
 
 ルリは帰りの馬車の中でテルルの家族構成をアーサーから聞いていた。キャロルは色々なことがありすぎたせいで疲れたのか死んだように眠っていた。

「にしても、兄の名前がアン、ドゥ、トロワ、カトルとは。何て覚えやすい」
「そうなんですか?」

 こっちとあっちの世界では言葉が違う。響き的にはフランス語に似ていなくもない。ただしルリの時代はもはやフランス語などは少数の人間しか話せない。月連合の公用語が一般的だからだ。ただしルリは特殊な訓練を受けているのでかなりの数の言葉が話せた。
 ルリがこの国の言葉がしゃべれるのは元々はテルルの体だからだ。記憶がなくとも体に染みついたものは消えない、といったところだろうか。
 
 馬車は何もない草原を走っていた。馬車や人のために整備された道はあったがそれ以外は何もない。アーサーいわく、もうイネスの外れらしい。イネス国は広いので何もない草原も広く長く続いていた。グーテンベルクは隣の国でしかも小さいのでイネスを出たらすぐに城に着く。

「それにしても、姫の供が小僧一人とメイド一人とはずいぶん物騒ではないか?」

 まあ今の姫なら一人でも余裕だろうが。
 ルリの言葉にアーサーはムっとした。自分があまり役に立たないと言われたも同然だからだ。

「これでも俺は剣の腕ではグーテンベルクでも一、二を争う腕なんですよ。……それと小僧はやめてください……」
 
 嘘ではない。まあそもそも騎士がそんなにいないということも関係しているが。

「ほう、それは是非一度手合わせをしたいものだな」

 ルリの目が急に輝きだした。天使の瞳というより、もはや猛禽類の目だ。

「冗談じゃない! ルリ殿、その体は姫様のものだということを忘れないでくださいよ!!」

 ケガをしたらどうするんだ、という意味でアーサーはそう言った。

「そうか! まずはこの体を鍛えねばならんな!」

 期待はずれの回答。

(どうしようこの人言葉が通じてないのか……まずい……このままじゃ姫がマッチョに……)

 本気で不安になってきた。いったいこの人はどんな女性だったんだろう?ま、まさかゴリラのような……。いやでも婚約者がいたらしいしそこまでひどくはないだろう。あ、でも姫みたいに政略結婚の可能性も……。っていうかこの人いくつなんだろう……。大佐っていってたしすっごい歳とか!? 高齢結婚? まさか再婚? てか本当に女性なのか?
 名前で判断したけどなんか言葉づかいも男っぽいし……。

 当然ルリは女性だし歳だってまだ25歳だ。だがアーサーにはわかるわけがない。

 アーサーはおそるおそる聞いてみた。

「あのっ、まさかルリ殿っておっさんですか!!」

 ミスチョイス。あせって思ったままを言葉にしてしまった。

「……一応生物学上は女だ。歳は数えで26になる」

 アーサーは再び蹴られた足をさすったりながら「すみません」と涙目であやまった。
 その時だった馬車が急に止まった。

「どうしたんだろう?」
 
 アーサーが窓から顔を出すとそこには何十人もの男たちが馬車を囲んでいた。

(盗賊か!)

 緊張が走った。アーサーは腰の剣に手をやると慎重に馬車から降りた。

「姫はここでじっとしていてください。キャロル! 姫を頼みましたよ!」

 馬車が止まった衝撃で目を覚ましたキャロルはまだ少しぼんやりとしていたが、緊急事態に気付いたのかルリの傍によると険しい目つきになった。

(多いな、一人でやれるか)

 アーサーは剣を抜いた。男たちはほとんどが短剣や、斧などの武器を持っていた。

「なあに、命まではとらねえよ。馬車と荷物置いてとっとと失せな!」

 お決まりのセリフである。アーサーは男たちを睨みつけると剣を握る手に力を込めた。

「断る。俺が相手をしてやる! どっからでもかかってこい!」

 その時馬車の中から悲鳴があがった。キャロルの声だ。

「きゃああああ!」
「しまった!」

 反対側の扉から男たちが入り込んだらしい。アーサーはすぐにそっちへ向かおうとしたが前にいた男たちが短剣片手に向かってきた。

「行かせねえよっ」

 とっさにそれをかわすと男の腹に剣で一撃。男はそのまま倒れこんだ。続いて襲いかかってきた男たちを一人二人となぎ払っていった。それを見た他の男たちは思わずひるんだ。

「なさけねえなぁ、それでも黒い風盗賊団の人間か?」

 現れたのは熊のような大男だった。男は大きな斧を持っていた。おそらくこいつが首領なのだろう。
 それならこいつを倒せば片がつく。
 アーサーはそう思い大男に飛びかかった。

「たああああっ!!!」

 アーサーの剣は大男の斧の取っ手の部分で止められてしまった。

「ほうっなかなかやるじゃねえか」

 大男はアーサーの剣を押し返した。

(何て力だ。あまりにも差がありすぎる)

 いつもなら落ち着いて相手の隙ができるのを待つことも出来るが、今は姫が危ない。アーサーはひどく焦っていた。
 その時再び悲鳴がした。

「きゃあああっ姫様ぁ……」

 キャロルの声だ。どうやら気を失ったらしい。アーサーは血の気が引いた。

「姫っっ!!」

 後ろを振り向くと馬車の影から血まみれのルリが出てきた。顔には血が飛び散り、淡い水色のドレスも血に染まり紫色をしていた。

「姫っ! お怪我を!?」

 アーサーは気が動転した。しかしルリはけろりとしていた。

「大丈夫。殺してはいないから」

 さらり。よくよく見ると手には賊から奪ったのであろう、血のついた短剣が握られていた。

「ちょっと足を動けなくしただけ。力がないから素手では五、六人しかいけなくてな」

 素手で五、六人を「しか」といってのけるところがルリの恐ろしいところである。首領らしい大男は茫然としていた。この小さな華奢な少女が、あっちにいた男十数人をすべて?

 するとルリは大男に近づいて行った。

「おまえ、名はなんという」

 ルリは人を十数人半殺しにしてきた実績を引っ提げて男を睨みつけた。大男は完全に戦意を喪失したのか、ルリの威圧感に押されたのか正直に名前を言った。

「黒い風盗賊団首領、ジークだ」
「ジークか。私の名はル……じゃなかったテルル・グーテンベルクと言う。私の配下になるか、いまここで目をつぶされるか選べ」

(目!?足じゃなくて目!?)
 アーサーは悪魔を見た。いや悪魔なんてかわいいもんじゃない。魔神だ、あれは大魔神だ。

「早く選べ。私の気は空気中のチリより短いぞ」
(チリって……ほとんどないじゃないか)

 アーサーは体の力が抜けてきた。どっちが護衛かわかったもんじゃない。
 ジークは顔をしかめて一瞬考えたが、ルリが睨みつけた次の瞬間、ほぼ条件反射で膝をついて斧を置いた。

「どうぞ配下になさってください」

 ジークに続けと言わんばかりに他の男たちも膝をついて頭を下げた。

「ふむ、結構」

 ルリは満足そうに腕を組んでこの光景を見渡した。

「アーサー、後ろの奴らの手当てを頼む」

 まるで自分がやったことなんて微塵も感じさせないくらいさらりとアーサーに手当てを頼んだ。
 アーサーはやっと自分の名前を呼んでもらえたことにも気付かないで頭を抱えていた。

(そのうち国土拡大するとか言って、騎士団を率いてあっちこっちの国を攻めはじめたらどうしよう)

 
 ともあれ、ここに姫直属の部隊が誕生した。
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