第二話 王子は宙を舞う
「いったいどうしたんだ?」
アーサーは前のめりのままかすれた声で言った。
「アーサーこそどうしましたの?」
キャロルはアーサーのおかしな格好を見て不思議そうにした。
「いや……足つったみたいで」
姫に蹴られたなんて言える訳がなく適当にうそをついた。痛みも少しひいてきたのでゆっくりと立ち上がるとキャロルの方を向いた。
「それで? 何が大変だって?」
「そっそうでしたわ! 王子が、ギル王子がこちらにおいでになると!」
「ギル王子が!?」
アーサーは驚いた。王子とは今日の夜に行われる舞踏会で顔を会わす予定だったからだ。
「王子? 何だ、私の兄弟か何かか?」
「姫様? 何をおっしゃっていますの?!」
まだ事情を飲み込めていないキャロルは今にも倒れそうな青い顔をした。それを見たアーサーはすかさずフォローをした。
「姫様はやはり頭の打ち所が悪かったせいか記憶を失っているみたいなんだよ」
キャロルは「そんな」といってまだ青い顔をしていたが、姫に心配させてはいけないと気丈にふるまった。
「姫様、ここは姫様のお国ではなく、イネス王国という産業大国ですの。姫様の国はグーテンベルクといって小国ですが緑豊かな素敵な国ですのよ」
『とても』という単語を強調してキャロルは話し続けた。
「今回この国の舞踏会に招かれまして…。でも到着した矢先に姫様は…」
そこまで言うとキャロルは「私がついていながら」と涙ぐみ始めていた。そんなキャロルに代わってアーサーが説明を続けた。
「ギル・ウォーリア・イネス様はイネス国第二王子で、一応姫様の婚約者です」
その事実が明らかに不満だと言う顔をしていた。その時、再びドアが勢い良く開いた。
「ご機嫌いかがかな? テルル王女」
従者を二人引き連れて一人の少年が部屋に入ってきた。赤みがかったプラチナブロンドで瞳は澄んだ空色だった。見たところアーサーと同じくらいの年頃だった。
「テルル王女、本日はわざわざ遠くからお越しいただきありがとうございました」
言葉は丁寧だがなんだかわざとらしい言い方だ。
「これはこれはギル王子部屋までお越しくださるなんて思いもしませんでした」
アーサーの言い方は「お呼びじゃねえんだよ」といった雰囲気が漂っていた。
「ええ、ちょっと言いたい事があったんでね」
コホンとわざとらしい咳払いをしてギル王子はルリの方を見ながら言った。
「俺はね、お前みたいなウジウジしている奴が大嫌いでね。見た目はまあかわいいけど、それだけって感じだし。さっさとグーテンベルクに帰りな」
笑顔でさらり。その場に居た誰もが固まった。
ただ一人を除いて。
「ペラペラ良くしゃべるな。三つ編み小僧が」
ルリドス再び。その場に居た誰もが固まった。
今回は一人も除かず。
確かにギルはゆったりとした腰まである三つ編みだが、この国ではそう珍しくない。
それを三つ編み小僧…。
「ほう、小僧とはいい度胸じゃねえか」
すっかり化けの皮がはがれた感じだ。ギル王子は美形で愛想が良く、「笑顔が素敵!」と国内外問わず女性から大人気の王子である。
(やっぱり噂は当てにならないな。ろくな奴じゃない)
アーサーはギル王子を睨みつけた。姫に何かしようものなら容赦しないといった形相である。
「結構きつい事言うんだな。それとも精一杯の強がりか?」
不敵な笑みを浮かべてギル王子はルリの髪に手を伸ばした。
その瞬間ギル王子は宙を舞った。
(王子が宙に舞うのなんてはじめて見たな)
アーサーはぼうっとその様子を見ていた。まるでスローモーションのようにギル王子はゆっくりと床に落ちていった。
突然の事だったので受身がうまくとれず、おもいきり床にたたき付けられてしまった。
「いってえ……一体何が……」
座り込んだまま上を見上げるとそこには人を百人くらい殺してきたような顔をしたルリが立っていた。そう、ギル王子を投げた張本人である。
「断りもなく私に触れようとするとは。バカめ」
その声で全員が、はっと我に返った。
「王子っ大丈夫ですか!?」
「無礼者っっ王子に何をする!!」
従者二人はギル王子に駆け寄るとルリに食ってかかった。しかしルリはまったく動じずにこう返した。
「ふんっこの程度かわせぬようでは戦場で生き残れんぞ」
一体どこの戦場だ。とアーサーは思ったが言わないで置いた。それにギル王子が投げ飛ばされてとてもスッとしたのだ。しかしキャロルは今にも倒れそうなので代わりに王子たちにあやまった。
「申し訳ありません。姫様は今朝こちらに着いた際、倒れられて頭を強く打ち付けて少々人格が変わってしまわれまして……」
これが少々なら人類みな多重人格者だらうが。それは言わないでおいた。
「ふざけるなっ! 国王陛下にこのこと報告させていただく!!」
従者は声を荒げた。しかしルリはしれっとしている。そして人を二百人くらい殺してきた後のようにニヤリと笑ってから口を開いた。
「別に構わないが。そんななさけないことを報告できるのならな」
確かに王子は王族として武術は一通り修めているし、背格好もしっかりしている。一方姫はほっそりとしたいかにも温室育ちといった容貌だ。そんな姫に投げ飛ばされたなんていい恥である。
「うっ……」
従者はそう言われると思わずひるんだ。
ルリはまだ呆然としている王子を再び見下ろした。
「帰れと言ったな。だったら丁度いい、帰らせてもらうぞ」
ルリはさっときびすをかえすと「行くぞ」とアーサーとキャロルに声をかけてその場を去った。
ギル王子はその後ろ姿をぼうっと見つめていた。
ここに一つの恋が芽生えたことはまだ誰も気付いていなかった。
よろしかったらポチっと!どうぞ!拍手用イラストはテルル、ルリ、ギルの三種類です→

参加中です!よろしかったらお願いします!
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。