第一話 最強王女誕生
「つまりあなたは月というところに住んでいて、そこの軍隊の大佐だったと?」
混乱しているのか、疑っているのか自分自身でもよくわかっていないような顔をしながらアーサーは確認をした。
「信じられませんわ、中身が別人だなんて」
「でも事実だ。私はルリ・セレネ・エラトステネス、それ以下でもそれ以上でもない!」
ピシャリとルリは言い放った。
「やはり医者に一度見てもらった方がよろしいのでは?」
「とりあえず、一度本国に戻ってからではないと」
アーサーは興奮するキャロルをなだめた。
「そうだ! キャロル、何か食べ物を持ってきてくれないか? 姫様も朝から何も食べてないし、もうお昼だ。お腹も減ってきたでしょう?」
ルリは確かにお腹が減ったなと思い首を縦に振った。
「でも……」
渋るキャロルを「さあさあ」と扉に向かわせ部屋から出した。ルリは座っていたベッドから立ち上がるとアーサーの前に立った。ルリ(というかテルル)は小さいのでアーサーを見上げる形になってしまった。しかしかわいらしい上目づかいではない。
(に……睨まれている)
アーサーは少し怯んだが、すぐに立て直してルリのことをじっと見つめた。
「見下ろすな、小僧」
かわいらしい声なのにドスがきいていた。かわいらしい顔なのにありえない威圧感だった。
(こ……小僧)
実際ルリは25歳なので16歳のアーサーに小僧と言うのはおかしくはないのだが、見た目は可憐な14歳。奇妙な光景である。
「し……失礼しました」
とんでもない威圧感におされアーサーはひざを床についてルリに視線を合わせた。
(確かに何かおかしい)
アーサーはルリを見ながら考えこんだ。テルル姫といったら少し(実際はかなり)気が弱く、おとなしい。いっつも伏し目がちでけっしてこのように人を睨み付けることなどしない方なのだ。雰囲気だって穏やかなほのぼの感に包まれている。
まるでそう! 「野に咲くはかなき一輪の花」それなのに今の姫はまるで「戦火の中けして倒れる事のない巨木」のようではないか。
いったいあの可憐な姫様はどこへ……。
「そう! そうですよ! あなたが別人というなら姫様はどこへ?」
「知らん。でももしかしたら……」
「もしかしたら?」
「私、つまりルリ・セレネ・エラトスエネスの中かもしれん」
(そうか、中身が入れ替わっている可能性があるのか!)
アーサーは焦ってルリに聞いた。
「ではルリ殿の本体はどこに? 月とはどこの国ですか?」
「この世界に月と言うものはないのか?」
ルリは窓を開けて空を見上げた。明るいので太陽のようなものはあるのだろう。地球は見えないし、人工的なドームにも囲まれていないので月でも火星でもないことは確かだ。地球は…降りた事がないから分からないがやはりなんとなく違う気がする。未開の惑星?いや、宇宙技術の最先端をいく月連合軍が見逃すわけがない。とすると…。
「異世界か……」
「異世界?」
「つまり、まったく異なった時間が流れる異なった空間のことだ」
ルリはため息をついた。まさか現実主義の現代科学の申し子である私がこんな話をすることになるとは。
「姫は大丈夫なんでしょうか。あの方はまだ幼いし、か弱い方なのに大佐になっているなんて……」
「まだ入れ替わったと決め付けるのは早いが……というか信じるのか? 私が別人だと」
いつのまに、といったようにルリはひざをついたままのアーサーをまじまじと見つめた。
「信じますよ。いくら記憶喪失でも姫はそんな風にすごめません」
キッパリ。
(それに…私は姫の外見だけを見てきたわけじゃ……)
「好きなのか?」
「えっ!」
中身はルリでも声も見た目もテルルだ。そんな彼女にいきなり核心をつかれてアーサーはあたふたした。
「な……何を」
「いや、主人思いの従者だと思ってな。そんな風に本気で心配して」
なんだそっちの好きか、とアーサーは胸をなでおろした。
「まあ入れ替わっていてもしばらくは平気だろう。明日からしばらく休みの予定だったからな」
「休み?」
「そうだ。新婚旅行で地球に行く予定だったのだ」
「はぁ……って新婚!?」
「今日は結婚式だったんだ」
「結婚!?」
ルリは窓の外に視線をやって空を見つめた。
(そんな大事な時に……つらいだろうな)
アーサーは大変なのは姫だけではないことにやっと気がついた。
「せっかく地球に行けるとこだったのに」
(そっち!?)
やっぱり大変なのは姫だけなのかもしれない。アーサーはしみじみと思った。
「まあ、だから当分は平気だろうよ」
「いや、でも結婚って……その、あの、」
「なんだ?」
「だってその、えっと」
アーサーは困惑した、夫婦になるということは当然発生する事態が様々ある。
「はっきりいえ」
再びドスのきいた声に騎士団一つ滅ぼせそうな威圧感。
「しょ……初夜とか」
アーサーは耳まで真っ赤にして口を開いた。まさか中身が違うといっても姫様の前でこんな単語を言う日が来るなんて……。
そんなアーサーにはおかまいなしにルリは答え始めた。
「大丈夫だろう。中身が別人なんだあいつはストーカーもどきの変態だが分別は(多分)わきまえている」
いくつか気になる単語があったがアーサーは、とりあえず大丈夫なことがわかってホッとした。そうとわかれば。
「ルリ殿、お願いがあります」
「なんだ?」
「とりあえず入れ替わりの原因が分かるまでは姫のふりをしてもらえませんか?」
「無理だ」
即答。確かに百八十度違う人間性だ。無理といえば無理だろう。
「じゃあ記憶喪失ってことにしてください。それならいいでしょう?」
「まあ確かに、それくらいならできん事もないな」
(まあ記憶喪失も結構無理があるけど)
別人だと公言するよりはマシだろう。
「とにかく、姫は記憶喪失でしかも人格が少しおかしくなっているということで!」
「おい、今さらりとおかしいって言わなかったか」
そう言われ睨まれ、足を蹴られた。足は細いのに蹴り方がいいのかごんっと鈍い音がした。しかもかなり痛い。元々ひざはついていたが痛みでさらに前のめった。
その時、扉が勢い良く開いた。そこには息を切らしたキャロルが立っていた。
「た……っ大変ですっっ!!」
キャロルの声が部屋に響き渡った。
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