変調〈その1〉
九月三十日
「シナ~」
「見つかりませんな。小童はどこへ行ったのか? まったくご主人の心配も考えずに……」
僕がシナの名を呼ぶ中、ライさんがため息をつく。本当に……どこに行ったのだろう? 先程までは、僕達の周りを走り回っていたのにな。突然に消えてしまった。この城は広いから、人を探すのは大変だ。迷子ってことはないと思うけど……。
廊下を歩きながら、シナの姿を探す。名前を呼び、人に尋ね。色々と探しまわるけど、一向に見つからない。う~ん、どうしよう? 未来さんにでも訪ねてみようか。と考えだした頃に、シナの姿を発見する。
廊下をちょこちょこと歩いている。僕達には気づいていないようだ。すぐに駆けより、シナに声を掛ける。
「シナ! 探しましたよ! 急にいなくなるから、心配したじゃないですか」
「…………」
うん? 何だか様子がおかしい。僕の言葉に返答せずに、手遊びしながらうつむいている。普段のシナなら、開き直るか。逆切れしそうなのに……。調子が悪いのかな? シナの額に手を当ててみる。別に平温だ。
シナの顔を覗き込むと、真っ赤になって固まっている。やっぱり変だ。カルナさんに相談した方が良いのだろうか? 本人に聞いてみる。
「シナ、大丈夫ですか? 何だか顔色がすぐれませんよ。カルナさんの所に行ってみますか?」
僕の言葉を聞いて、シナが大きく首を振る。本当に大丈夫かな? 心配げな僕の隣で、ライさんが口を開く。
「小童にしては珍しく大人しいですな。多少は反省しているようでありまする」
ちょっと嬉しそうなライさん。反省……。そうなのかな? シナには一番似合わない言葉だけど。僕の前には小さく縮こまるシナ。そんなシナの様子を眺めていると、何だか心配になる。
シナを発見して、いつも通りの日常だ。お昼に入り、三人で昼食の話をする。僕がシナに問いかける。
「シナはお昼に何を食べたいですか?」
「…………」
答えないシナ。俯き加減で停止中。やはり調子が悪いのだろうか? もしかして、魔力不足かな? 魔界では食べ物に多量の魔力が含まれるけれど。ここの食べ物にはそれほど魔力が含まれていないため、魔界の住人であるシナは魔力不足に陥ることがあるらしい。
以前にシナの体調不良をカルナさんに見てもらったら、そう教えてもらった。今回も前回と同じだろうか? その場合は魔力を補充したら、調子が戻るそうだけど……。
シナの前に座り様子を窺う。いつものような元気はなく、僕から目を逸らそうとするシナ。そんなシナの顔を手に取り、唇にキスをする。魔力補充開始。シナが大人の姿になり、補充完了。
顔を離して、シナを見ると。赤面しながら、動かない。もしかして、羞恥心を覚える年になったのかな? って、五百歳なのに今更か……。
う~ん、わからない。どうしたのだろう? 心配だから、直接に質問してみる。
「シナ。どうしたのですか? 先程から様子がおかしいですよ。魔力不足でもなさそうだし……。何か悩みがあるのなら、教えて下さい」
僕の言葉に、シナが首を振る。そのまま俯いて、黙り込む。不意にライさんがシナに言う。
「小童、ご主人が心配されているのだぞ。悩みがあるのなら、素直に話せばよかろう。ご主人に話しづらいことであるのなら、吾輩が代わりに聞いてやるが……」
ライさんがシナの前に降りて、説得する。ライさんもシナの事が心配らしい。いつも喧嘩ばかりしているけど、案外に仲の良い二人だ。ライさんが話をする中、シナは黙り続ける。話をしそうにないな……。僕がライさんに口を開く。
「ライさん。もういいですよ」
「ですが、ご主人!」
「シナ。話をしたくなったら、僕かライさんに言ってください。無理に話せとは言えませんから。調子が悪いのなら、教えて下さいよ。途中で倒れられたりしたら、こちらの心臓に悪いですし」
シナが小さく頷く。僕の言っていることを理解はしているようだ。僕達の心配もわかっているだろう。それでも話せない何かがある。それが何なのかはわからないけれど……。
シナにだって悩みの一つや二つはあるのだろうな。こんなに子どもだけど、女の子だし。僕に言えないことだってあるのだろう。無理やり尋問するのはあんまりだ。このまま話を続けるのも気まずいので、僕が二人に向いて言う。
「それでは、昼食を食べに行きましょうか」
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