ドッジボール大会〈ユムア編〉
シナちゃんがハルトさんにキスをして、大人になって……。試合後に、またキスをして……。その上、ハルトさんに守ってもらえるなんて。まるでお姫様みたい。
シナちゃんばかりズルイな……。キスだって、魔力移動だとは分かっていても。やっぱりズルイ。羨ましい……。私がやるせない気分で試合を眺めていたら、ハルトさんがこちらに歩いてきた。あれ? どうしたのかな? ハルトさんが私に言う。
「お隣に座ってもいいですか?」
「え? うん……。でも、試合は?」
「あぁ、リタイヤしました。シナが非常に強いので……。そこに僕が加わると、相手のチームに勝ち目がなくなってしまいますから。せっかくのゲームですし、皆が楽しめるものにしないと。もったいないですからね」
笑顔で語るハルトさん。私の隣に座り込む。もぞもぞする私に、ハルトさんが問いかけてくる。
「そういえば、ライさんはどこへ行ったのでしょう? ユムアさんはご存知ですか?」
「えっと……試合の途中でね。未来さんに呼ばれて飛んで行ったよ。その後、どこかに行っちゃった……」
「そうですか……」
首を傾げるハルトさん。思い当たることがないみたい。すぐに考えることを止めて、他の話に切り替えてくる。
「ユムアさんはどうですか? 試合観戦を楽しんでいますか?」
「うん。皆が頑張る姿を見るのは楽しいよ」
「そうですか。それは良かったです……」
「ハルトさんはどう?」
「はい。充分に楽しみました。次は観戦を楽しもうと思っているのですが……」
そこで言葉を止めるハルトさん。私が首を傾げて、質問する。
「何か問題があるの?」
「いえ……今、非常に眠くて。観戦中に眠ってしまいそうで……」
「疲れたのね。お疲れ様……」
「寝ちゃったら悪いですよね。その時はシナに謝らないと……」
そう言って、ハルトさんが前を向く。目の前ではバランスのとれたいい試合。少し黙って、試合を観戦する。
しばらく経って、試合が終盤に差し掛かる。シナちゃんのチームが少しピンチ。残りはシナちゃんとラレスさんだけ。後の皆は外野行き。相手の内野は四人。頑張れば、逆転できるかも……。
ハルトさんは参加しないのかな? 質問をしようと思った直後、私の肩に何かが触れる。横を向くと、ハルトさんの頭。ハルトさん……居眠りしながら、私の方に倒れてきている。どうしよう? 私が戸惑っていたら、ハルトさんの頭が私の膝上に落ちる。まったく起きる気配のないハルトさん。何だか恥ずかしい私。
何も言えずにうろたえていたら。ハルトさんが横になりながら、姿勢を整える。落ち着く形が決まったのか、そのままスヤスヤと眠りだす。起こすに起こせなくなっちゃった。気持ちよさそうに眠るハルトさんを見ていると、声なんて掛けられない。
試合を忘れて、ハルトさんを眺める私。近いなぁ……。もしも、私達以外に誰もいなかったら。キスとかしても、許されるのかな? そんなことを考えながら、ハルトさんの頭に触れる。髪を触って、頭を撫でて。ちょっとドキドキ、デート気分。
私が勝手な妄想をしながら楽しんでいると、いつの間にかゲームが終了していた。ギリギリの差で、相手チームの勝ち。シナちゃんのチームが負けちゃった……。もしかして、途中でハルトさんを起こした方が良かったのかな? 今更になって、慌てふためく。
試合を終えたシナちゃんとラレスさんがこちらへ来る。シナちゃんは泣き顔で、ラレスさんは怒り顔。どんどんこちらに近づいてくる。逃げ出したいけど、ハルトさんが私の膝を枕にしているから逃げ出せない。
私達の前に来て、ラレスさんが怖い声を出す。
「ハルト~!」
だけど、ハルトさんは起きそうにない。寝息を立てながら、眠っている。次にシナちゃんがハルトさんの耳元で騒ぎ出す。
「ハルト! 負けたのじゃ~! ハルトがいなくなったから、負けたのじゃ~!」
シナちゃんがハルトさんの肩を揺する。それでも、ハルトさん……起きようとしない。本当に熟睡しているみたい。全然、起きないハルトさん。そして、二人が諦める。ラレスさんがため息をつきながら、未来さんの方を見る。
「あ~あ、やっと黒コートの呪縛から、逃れられそうだったのに……。ハルトのせいで負けちゃったじゃない。面白くないわ~」
「本当に面白うない。大体、わらわとツンツンでは相性が悪すぎるのじゃ。ツンツンの代わりにハルトが入っていたら、勝てていたのにな」
「誰がツンツンよ!? このキス魔!」
「誰がキス魔じゃ!?」
「あんたよ、あんた」
「むぅ~……」
膨れるシナちゃん、ラレスさんに反逆する。
「ふんっ。キス魔でよいわ。わらわとハルトはラブラブじゃからのう~。彼氏のいないおぬしが哀れで仕方ないぞ。ツンツンは漫画の住人とでも暮すのじゃな」
「何よ、このクソガキ!」
「ほら、もっとツンツンするがよい。おぬしはツンツンだけが取り柄じゃからのう」
「あんた、そんな事を言ってるけど。実の所、ハルトに好かれてないんじゃないの? あんたが一方的に押し掛けているだけで、ハルトの方ではそんなつもりないのかもよ。恋人っていうか、兄妹だと思われてるんじゃない? できの悪い妹ね」
「ツンツンのくせに魔王であるわらわを侮辱するのか!?」
二人の喧嘩が始まった……。ハルトさん、起きないと……。起きないと大変なことに……。
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