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スケート〈ラレス編〉
 誰よ? スケートしようなんて言い出したのは? しかも、あたしを無理やり引っ張って、ど真ん中で放置。立てないし、転ぶし、イライラする。スケートなんて初めてなんだから、こんな所に一人置き去りにするのは止めてほしいわ。

 もう一層の事、靴を抜いで、退場してやろうかしら? そう思っていたら、全ての元凶ミネルがやってきた。ニヤニヤしながら、あたしを見る。

「あれ? ラレス、まだ滑れないの?」
「初心者をこんな所で放置するなんて酷いわよ! 少しくらい手を貸しなさいよ!」
「え~、それじゃあ、面白くないじゃん。いつも調子乗りなラレスが困る姿を見ていたいし」
「何よ! せめて滑り方くらいは教えてくれたっていいじゃない!」
「お~。怖い、怖い。牙をむき出しにする相手に、援助なんてできないわ」

 そう言って、滑り去る。何て腹の立つ奴かしら。本当に、酷い友達ね。もうあんな奴には頼らないわ。

 とにかく、立つことが先決ね。滑るよりも以前に、立てなきゃ何もできないわ。地面に手をつけ、ゆっくりと立ち上がる。よし、そのまま一気に……。勢いをつけて、立ち上がる。立てた! と思った直後、身体の重心が後ろに傾く。

 あ、ヤバい……。一度、後ろに倒れかけたら、体勢を立て直すことなんて無理。重力に逆らえず、引っ張り込まれる。頭を打ちそう。思わず、目を瞑ってしまう。

 覚悟しながら、打撃を待っていたら。代わりに何かがあたしを支える。硬い氷じゃなくて、人みたいな……。ミネルが帰って来たのかと思い、喜びがちに後ろを振り向くと。よりによって、何でこいつ……。ハルト……そいつがあたしに言う。

「大丈夫ですか? それでなくとも、ラレスさんは頭が悪いのですから。打撃なんて加えたら、大変なことになりますよ」
「うるさいわね! 離しなさいよ!」

 ハルトを振り払うあたし。そのまま地面に転んでしまう。痛い……。イライラしながら、ハルトに目を向ける。遠くから、あたしの方を眺めている。これを見る限り、こいつも滑れるみたい。それを知って、余計に腹が立つ。

 何でハルトみたいな奴が滑れて、あたしにはできないのよ? わけわかんないわ。何とか立ち上がろうとする。そんなあたしにハルトが近づいてくる。

「僕が援助しましょうか?」
「誰があんたなんかに!」

 維持を張って、拒否してやる。こんな奴に教えてもらうくらいだったら、独りで練習したほうがマシよ。そう言ったものの、立ち上がろうとするとやっぱり転んでしまう。ため息をつくあたしの隣にハルトが座る。

「足が悪いです。立ち上がり方はこうですよ」

 あたしの目前で立ちあがってみせる。すんなりと立ち上がるハルトを見て、ちょっと気に入らない気分になる。だけど、まぁ……。立ち上がり方くらいはマネしてみよう。ハルトに言われるように立ちあがってみる。あ、立てる。しかも、倒れない。

 で、これからどうするわけ? 聞くまでもなく、ハルトが次の指導をしてくれる。それを見ながら、練習するあたし。見よう見まねだけど。独りでやっきになるよりは、よっぽど早い。ある程度、要領がわかってくる。

 あたしの様子を見ながら、ハルトが言う。

「へ~、思った以上に、物わかりがいいですね」
「うるさいわね。やり方さえわかれば、こんなの簡単よ」
「そうですか? ラレスさんの事だから、途中リタイヤするのかと思っていたのに……」
「何よ? あたしはそんなに出来ない奴に見えるわけ?」

 不快そうなあたしを見て、ハルトが小さく笑いだす。

「いいえ、むしろ運動神経は良さそうですね。ただ、バランス系の競技が苦手なら、僕の知り合いに似ているなと思い。と言っても、あくまで今のラレスさんですよ。いつものラレスさんは似ていません」
「何が言いたいの?」
「何でもありませんよ。ほら、そろそろ本格的に滑りましょう」

 そう言って、ハルトが私の手を取る。叫ぶあたしの様子を見ながら、楽しむハルト。手を引きながら、話をしているけど。必死なあたしは聞いちゃいられない。少しはこっちのことも考えなさいよ! 怒鳴り声の代わりに、叫び声が出てしまう。

 不意にハルトが手を離す。パニックになるあたしの視界から消え、どこかへ走り去ってしまう。ちょっと冗談は止めてよ! 思うけれども、何もできない。キャーキャー騒ぎながら、前進する。

 どんどん進んでいき、前に人の姿。転んでしまったのか、地面に座っている。避けないと! えっと、カーブよ。カーブ! 頭で理解していても、足が思うように動かない。間に合わない。やっぱり止まった方が良かったの!? 

 騒ぐあたしと、仰天する女の子。どこに行ったのよ、あいつは!? 本気でキレそうになっていたら、あたしの横からハルトが現れる。スーとあたしの前を滑り、あたしの手を取る。そのまま安全な方向に誘導してくれる。

 一段落してから、あたしがハルトに言う。

「あんた、急に消えないでよね!」
「すみません。どれくらい独りで走れるか、確認したかったので……」
「それなら、安全な所にしてよ! 危ないじゃない!」
「大丈夫ですよ。僕が付いていますから」

 楽しそうなハルトはバック走行。今のあたしにはマネできないわ。不満ながらも。これ以上、文句は言わない。文句を言ったら見捨てられそうだから。いくら立ち上がれて、前進できると言っても、本当に素人レベル。プロに見捨てられたら、そこでお仕舞いね。

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