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中庭
 ライさんを待っている間、少し暇なので中庭に出てみる。今日は風がなく日が出ていて気持ちがいい。僕達が歩いていると、花に水をやる女の子を見かける。

 彼女の名前はユムアさん。名前は本人から直接に聞いたわけではなく、別の人を通して知った。庭の神様で、早朝はいつも花に水やりをしている。凄く大人しくて、恥ずかしがり屋みたいだ。話しかけようとすると、すぐに逃げていく。

 ユムアさんがこちらに気づき、頭を下げる。僕も頭を下げる。こういう挨拶が出来るようになるまでに一カ月は掛っている。何て気の長い話だろう。これがゲームなら、とうに飽きているだろうに……。

 近くにあるベンチに座る。隣はシナだ。僕に向いて、バツが悪そうな顔をする。

「ハルト……さっきはすまんな。わらわのせいで叩かれてしまって……」
「別に構いませんよ。シナが無事だったのです。それでいいじゃありませんか」
「そうか。それなら今度から、あいつにあったら悪口を言ってやるぞ」
「それは止めて下さい」

 楽しそうなシナに、僕が言う。ラレスさんの顔を見る度に叩かれるなんて、そんなの嫌だ。案外にあの人の出現率は高い。嫌な人ほどよく出会うとは言ったものだな。

 それにしても、シナが僕の心配をしてくれるなんて。初めは鬱陶しい子どもだと思っていたけど、今では血のつながった兄貴よりも親身になれる。シナの頭を撫でてやると、嬉しそうに僕を見上げる。不意に真顔で僕に囁く。

「なぁ、ハルト。ハルトの力で、あの小うるさい神共を抹殺できないじゃろうか?」

 恐ろしいことを聞いてくるな。流石、魔界の魔王だ。僕も真面目に返答する。

「できますけど……してどうするのですか?」
「そのまま世界征服をすれば、楽しい生活に戻れると思うぞ」

 目を輝かせるシナ。確かに、それも一案だ。言うだけ言って、行動には移さない。世界を征服したところで、僕には統治する力がない。社会の治安が乱れ、反逆者が現れ、最後は勇者に殺されてしまう。

 魔王も案外に切ないな。自分の小さな幸せを目指して、それを掴めずに朽ち果てていく。勇者達とは違って、たった一人で立ち向かう魔王の姿は見ていられない程に痛々しい。理想を語るシナを抱きしめて、僕が言う。

「大丈夫です。もう少し頑張りましょう。しばらくすれば、辛いこともなくなりますよ」
「…………」

 黙るシナ。僕の服にしがみ付きながら、顔を埋める。色々と辛いのだろう。親が神様に殺されて、復讐のために魔物を召喚しようとして。その結果、失敗。こっちの世界に引きずり込まれる。魔界から道を開いて来たわけではないので、帰り道もわからずに、途方に暮れ。僕と一緒に暮らしていたら、最後は憎き神様の手に甘えることになるなんて。

 僕とはまた違った辛さがあるのだろうな。ぼんやりと考えていたらと、ライさんが帰ってくる。僕やシナと違って、この人は強い。シナの手により、召喚され。シナと喧嘩をして、姿を変えられ。魔力が落ちたにも係わらず。落ち込む素振りなど一つも見せない。見習わなくちゃいけないなと、感心する。

 ライさんがビニール袋を僕に手渡す。

「今日はサンドイッチにサラダですぞ。飲み物も買ってまいりました」
「ありがとうございます。これは美味しそうですね」
「わらわはタマゴサンドがよい。タマゴがいっぱい入っている奴をくれ」

 シナが袋の中を覗き込む。僕が中身を出して、シナに手渡す。自分の欲しい物だけを食べようとするシナに注意をしながら、野菜も食べさせる。
 ライさんはカツサンドを食べながら幸せそうだ。僕もサンドイッチに手を伸ばす。ミックスサンドを頬張りながら、和やかな気分になる。

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