起床
気が付くと、知らない屋敷の中にいた。ゲームとかでありそうな古びた屋敷だ。高価そうな骨董品が目につく。ここはどこだろう? 周りを見回す、誰もいない。僕はどうしてこんな所にいるのか。思い出せない。
広々としたホールを突き抜け、奥へと進む。とある部屋に入ってみる。中は閑散とした大広間。パーティーでもできそうな、そんな空間。椅子と机が並んでいる。他に大した物はない。人もいない。殺伐としている。
フッと声が聞こえてくる。賑やかなパーティー会場。辺りの風景が変わっている。楽しそうな人々、お喋りをしながら料理を食べる。知人はいない、知らない人達ばかりだ。それでも、笑顔でお喋りをする人達を見ていると、何だかこちらまで癒される。
目の前を女の子が通過する。あれ? あの子は確か……。後を追いかける。部屋から出ていく女の子、その後をつける僕。
部屋から出たと思ったら、奇妙な違和感。また同じパーティー会場だ。だけど、何だか嫌な空気。周りを見回す。途中で投げ出された料理が、辺りに散らばっている。争いが起きた後のようだ。人の気配はない。誰もいない。
不意に感じるのは、ただならぬ頭痛。頭を押さえようと思い、右手をあげて、途中で止まる。真っ赤な右手。背筋が凍りつく。左手を覗いてみる。こちらも赤い。赤い両手を前にして、立ち呆ける。
異臭を感じて、前を向く。目に映るのは、残酷なまでに虐殺された人々。パーティー会場が赤く染まる。高鳴る心臓。思い出せない。僕は何をしたのだろう? 刻々と過ぎる時間。そして、時計の音が聞こえてくる。
目が覚める。月明かりに照らされる部屋。天井を見上げながら、額を押さえる。嫌な夢だ。上体を起こして、胸を押さえる。冷や汗が止まらない。ふと両手に目を向けると、いつも通り。怖い夢から解放された。
横を向く。気持ちよさそうに眠る女の子。いつも通りだ。地面にはクッションに埋もれて眠るワイバーン。これもいつも通りだ。繰り返しの日常を確認して、安心する。
今は何時だろう? 時計を見る。三時……。少し風に当たりたい。ゆっくりと立ち上がり、皆を起こさないように部屋を出る。
広い廊下。ぼんやりしながら、足を進める。中庭にでも行ってみるか。六月だから、それほど寒くはないだろう。外の空気を吸って、気分を落ち着かせよう。
そう思いながら、歩いていると、目の前を子どもが通過する。誰だろう? 見たことない子だけど……。懐かしいような、怖いような。そんな気分で追いかける。見えるのは背中だけ。追いついたと思った直後に、前の子どもが曲がり角を曲がる。
追いかけているうちに気づくこと。それは追いかけるべきではないという事実。この子を追いかけ続けると、きっと後で良くないことが起きる。わかってはいるけど、やっぱり追いかける。
僕は何を知りたくて、何を知りたくないのだろう? 本当は、全てを知っていて、何も知りたくないのかもしれない……。
この先は行き止まり。これ以上は、逃げられない。子どもが角を曲がり、行き止まりへと向かう。僕も角を曲がり、行き止まりへと向かう。角を曲がって、子どもがいないことに気づく。どこに行ったのか? 考えなくてもわかる。行き止まりの壁に知らない扉だ。
冷気が漂う古びた扉。金切り声を上げながら、少しだけ開いている。手を伸ばす。止めておけ! と本能が叫ぶ。ここで手を伸ばしたら、取り返しのつかない所まで落ちていくぞ。そんな声が聞こえてくる。
それでも手を伸ばす僕。頭がぼやけていたからか、単なる興味本位か。なぜ手を伸ばしたのかわからない。軽く扉を押してしまう。
ザッと空気が入れ換わり、世界が暗闇に包まれていく。逃げるにも、既に逃げられない。暗闇に覆われてしまった目に映るのは、重く冷たく停止した時間。暗い、怖い、寂しい、助けて。そんな気持ちが身体の中を駆け巡り……。
「ご主人!」
ライさんの声で目が開く。二重トラップか。やってくれるな。本当に嫌な夢だ。上体を起こす。これは現実だな。妙な確信を持つ。
横を向くと白く小さなワイバーン、本名はライリティー……僕はライさんと呼んでいる。元はキメラだったのだけれど、いろいろとあって今はワイバーンになっている。僕を慕ってくれている優しい友達の一人だ。ライさんが僕に言う。
「ご主人、大丈夫ですかな? えらくうなされていましたぞ」
「大丈夫です。ちょっと嫌な夢を見てしまって……」
「ん~、もう朝か? わらわはまだ眠いのじゃ」
僕の隣で目をこするのは、幼い女の子。この子はシナ。長い名前だったけど、本名は忘れた。本人が言うには、魔界の魔王らしく。凄く強くて偉いそうだけど。僕にしてみれば、自分勝手な妹を見ているようだ。
気分が落ち着き、時計を見る。七時か。とりあえず、起きよう。立ち上がり、タンスに目を向ける。棚を開いて、眉をしかめる。ろくな服がない。どれを見てもコスプレだ。
ここに来てから、まともな服は捨てられた。今はコスプレ一色だ。この中から、一番まともそうな服を探し出さないと……。これが日課。本当に朝から気分が滅入る。
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