昏睡状態〈ユムア編〉
ハルトさんがフィンちゃんのお母さんという人に連れていかれて、皆が暗い顔をする。シナちゃんは泣き続けて、ライさんは不安げに辺りをうろついている。私はシナちゃんを抱きしめながら、ハルトさんの安全を願う事しかできない。
ハルトさんの彼女……大杉さんという人も落ち着かないみたい。ハルトさんが見つかるまでは、帰らないと言って。シバルさんが困り果てている。最後はシバルさんが諦めて、未来さんに相談を持ち出す。
その結果、今日だけは大杉さんと……他の人達もここで泊まり込むことになって。シバルさんだけが帰る事になった。シバルさんは明日に仕事があるから、どうしても一度は家に帰らないといけないらしい。
皆で色々と相談して、それでもハルトさんを探す宛てがなくて。明日、もう一度話し合いをすることで相談会は終わりになる。
その後、私はハルトさんの部屋に行って、シナちゃんやライさんを元気づけている……つもりだけど。あまり効果はなさそう。だって、私も不安でたまらないから。
今はこの部屋に私達だけ……。エアちゃんは、話の途中で寝込んでしまったハルさんを抱えながら自室に戻った。そんなエアちゃんの後ろ姿を見ていたら、何だかハルさんのお姉さんみたいで。ちょっと可笑しかった。
ハルトさんのお友達には別室を用意して、そちらで泊まってもらうことに。未来さんはニートさんともう一人美人な女性……名前は知らない人と一緒に、自室に戻って行った。この後もお喋りを続けるのかな?
それにしても、ウェテオさんはどこに行ったの? いつも……肝心な時にいない……気がする。私が呆けていたら、不意にライさんが話しかけてくる。
「そういえば、ご主人をさらった女はどのような容貌かご存じでありまするか?」
「えっと……かなり冷血で残酷だっていうのは聞いたけど……」
「流石にその情報だけではわかりませぬな」
「他には……研究者みたいな人で、フィンちゃんの名付け親らしいけど」
「それは存じているのですが……」
ライさんが悩み出す。一人で悩みながら、口を開く。
「軍事関係の者で、研究者で、あのちびっ子の名付け親で、冷血で残酷な女……でありますか。うむ……数人程、心覚えがありますが。果たして、誰であろうか?」
「きっと上から三番目よ」
あれ? 私じゃないよ。シナちゃんでもなくて……。ライさんの隣に見た事のない女性。何だか……当たり前のように話に加わっている。もちろん、ライさんが仰天して、その人に向き直る。
「誰であるか!? って、アルファ殿!?」
「あら、白いマシュマロさん。私の事を知っているの? それはきっと運命ね。食べてあげるわ、今すぐに」
不思議な女性が口を開けて、ライさんにかぶりつく。騒ぎ回るライさん。発狂しながら、口を開く。
「吾輩は食料ではありませぬ! 姿形は違えども、いつもお会いしていたではありませぬか! 思い出して下され!」
「その口の聞き方は見覚えがあるわ……。私の知人に一人、顔が三つあるグレイトなキメラ。あの人……背後を取ろうとしたらいつも気づくのよ。何故かしら?」
「背後で唾を啜りながら、怖い息を立てていたら。誰でも振り向きまする。大体、アルファ殿は暴食にも程がありますぞ。何でも見た物を食べる癖は止めて下され。皆に迷惑です」
「あら、そっちにも美味しそうなピンクがいるわね。とてもフワフワしてそう……」
アルファさんと呼ばれる方がシナちゃんに目を向ける。それを見て、怖がるシナちゃん。私にしがみ付きながら、警戒の声を上げる。
「何じゃ、おぬしは!? わらわを食べようなど、百年早いわ! おぬしになど、食われはせんぞ!」
シナちゃんがそう言った後、私に目を向け口を開く。
「行くのじゃ! ユムア! あやつを倒すのじゃ!」
「え……そ、そんな事できないよ」
「ハルトなら助けてくれるのじゃ! わらわを助けてくれるのじゃ!」
「そんなこと言われても……」
うろたえる私の前に、ライさんがやってくる。アルファさんに向いて、口を開く。
「それよりも、どうしてアルファ殿がこのような所に? 何か事件ですかな?」
「そうなの……。魔法所の給料の安さに嫌気がさして、食事を奢ってもらうためにオーナーの元へと現れたら。ここへ辿り着いたのよ」
「オーナー? まさかアルファ殿も召喚獣のバイトを掛け持ちしていたのですかな?」
「そうよ……だって、魔法所は貧乏だから」
「いえ、決してそういうわけではありませぬが……。アルファ殿はただの食べ過ぎかと。どうせ給料を全て食べ物に費やしているのでは? アルファ殿の胃袋は宇宙でありますか?」
「子ネズミのように小さいわ」
「…………」
ライさんが首を傾げて、納得いかなさそうな顔をする。その後、アルファさんに向いて問いかける。
「ご主人はどなたでありますか?」
「黒くて甘そうな逃げ足の早いオーナーよ」
「抽象的でありまするな」
「まぁ、それはともかく。何かゴタゴタかしら?」
「そうでありまする! アルファ殿に伺いたいことがあるのですが……」
「何かしら? 食事がでるのなら、教えてあげるわ」
アルファさんが言って、ライさんが話し出す。ハルトさんを連れ去った女の人の話。アルファさんが話を聞き終え、思いついたように口を開く。
「そういえば、一つ心当たりがあるわ。軍事魔力研究所の研究員が一人、行方をくらましてしまったのよ。危険な実験物を持ち出したという話らしいけど。現在、調査中よ」
「行方をくらました調査員は誰でありますかな?」
「ルイン・アフェリーよ」
「ルイン・アフェリー……でありますか。エリート研究員ですな。しかし、あの者はセノ・ルネインの研究からは外されたのでは?」
「あら、よく知っているわね。無茶な実験が相次いで、セノ・ルネインが瀕死状態になり。このままでは危険だということで、かなり前に別の研究担当に移されたはずよ」
「確か……あの者が第一人者でありましたな」
「セノ・ルネインの能力を抽出した話ね」
二人で話を進めるライさんとアルファさん。何だか難しそうな話。私が二人の話を耳にしていたら、扉が開く。扉の向こう側に立つのは未来さん。
「皆、大丈夫? 落ち込み過ぎは良くな……」
「あら、オーナー。お久しぶりね」
未来さんがアルファさんを見て硬直する。三秒間停止した後、ダッシュで廊下を掛けていく。すぐに追いかけるのはアルファさん。もの凄いスピードで去って行った。二人を見送りながら、ライさんが言う。
「アルファ殿のご主人は未来殿でありましたか……。ある意味、お似合いの二人ですな」
「おぬしの主人はわらわじゃぞ。それなのに、おぬしは使い物にならんのう~」
「そなたは黙っておれ! 大体、そなたは勉強もしてないのに、出しゃばりすぎである! そなたのような未熟な者が召喚術を使うのは間違っておるのだぞ!」
「飛行物体こそ、召喚獣にふさわしくないのじゃ!」
二人が喧嘩を始めて、言い争う。暗い雰囲気は飛んだけど、これはこれで問題だよね。二人を止めようとする私。だけど、あまり効果はなくて。却って二人が興奮する。大声で口喧嘩をする二人を見ながら思う事、ところでアルファさんって誰なの?
「人間止めま」が面白ければ、投票お願いします。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。