年末年始〈大杉編2〉
幸せそうに眠る彼の頭を撫でていたら、不意に彼の目が開く。ぼうっとしながら、私を見上げる彼。さぁ、どっち? 私が問いかけるまでもなく、彼がキョロキョロと辺りを見回し、口を開く。
「時空は……? 帰った……の?」
「そうよ。あなたを私に預けて帰っちゃったわ」
「…………」
不満そうな彼。ムッと膨れながら、黙り込む。だけど、それも少しの間だけ。すぐにうっとりした顔で、私にすり寄る。まだ匂いに負けてるみたい。幸せの吐息をついて、目を瞑る。
「ふぁ……」
「気持ちいい?」
「うん……」
「幸せ?」
「うん……」
「私の事……好き?」
「ううん、嫌い……」
ムカつく子どもね。もう一度、スプレーを振りかけたら、私の言いなりになるかしら? 考えるけど、行動に移さない……わけない。もちろん、行動してやるわ。スプレーを取り出して、彼に向ける。そのまま彼に質問。
「どう? スプレーを掛けてほしい?」
「それ……欲しい」
「これはあげられないわ。代わりにもう少し香りを楽しませてあげる」
彼と自分にスプレーを噴射。とりあえず、自分にも掛けておかないと。念には念よ。スプレーを掛け過ぎたからか、彼が可愛らしい声を出す。
「あ……はぁ~。ん……ん~」
本当に幸せそう。私にすり寄り、身体をくっつけてくる。何だか……猫が匂いをつけているみたい。だけど、文句は言わないわ。普段の彼ならこんなに懐いてくれないもの。べったりな彼も可愛いわね。
悦に浸る彼をギュッと抱きしめたら、彼が可愛く鳴いてくれる。そして、そのままキスをしたら、彼が首を傾げ出す。更に、次の段階へ移ろうとしたら、彼が叫び出した。
「やー! いや! あー! いやぁ―! うわーん!」
「大丈夫、痛くしないから」
「わーん! やー! 時空! 時空、助けて! 助けてー!」
必死な彼。香りを浴びて、力も出ない、魔力も使えない、狭間という所にも飛べない。逃げ場のない彼は泣きながら、可愛い顔で怯え出す。これ以上、手を出したなら……。いつもの彼に入れ替わるのよね。
それでもいいのだけど……できれば怖い方の彼を物にしたいわ。だって、いつもの彼はすぐに物にできるもの。次は怖い方の彼よ。だけど、これがなかなか難しくて……。何か良い手はないかしら? 更にスプレーを掛けてみるとか?
私が試行錯誤していたら、急に大きな音が鳴り響く。何かが爆発するような音。すぐに音の方へと目を向ける。大空にはきらめく花火。こんな時間に花火? 不思議がる私の耳に入るのは彼の声。
「あれ……何?」
「花火よ、花火」
「は……な……び?」
「そう。空に打ち上げて、眺めるの。凄く綺麗でしょ?」
「何で……? 意味は……?」
「楽しむための娯楽よ」
「へ~……」
話をしている内に花火が消えてしまう。彼は花火に釘付けみたい。あ~あ、残念ね。せっかく第二次彼強姦大作戦を実行しようと思ったのに。これじゃあ、実行は難しいわね。私にしがみ付きながら、彼が花火を眺め出す。パーンという花火の音と共に、広がる花びら。美しい光景に彼が声を出す。
「わ~……」
「花火を見るのは初めて?」
「あれは……お花? 空に……お花?」
「本物の花じゃないわよ。火薬を詰めて作っているみたいだけど……詳しい事は知らないわ」
「誰が……作ったの?」
「さぁ? 誰かしら?」
首を傾げながら、花火に目を向ける。綺麗に咲いて散っていく。本当に一瞬よね。花火って儚いわ……。
花火を見ていると、過去を思い出す。彼が妙な能力に取りつかれていなかった頃の話。一年と半年くらい前の事かしら? その頃の花火は今みたいな大それた物じゃなくて、個人用の小さな花火だったけれど。花火を手に持って、彼を追いかけていた記憶が薄らと残っている。
あの頃はあの頃で楽しかったな。恋なんてしていなくて、彼とも何もなくて。ただの友達として過ごしていた。呑気なものよ。友達の恋愛話を聞いて。私も彼氏欲しいわ、とか言いながら。でも、周りの男の子って駄目な子ばかりだから、で終わらせていた毎日。その駄目な子の一人に惚れちゃうんだから、人生ってわからないわね。
思い出に浸る私。ふと花火から目を落とすと、彼の姿がなくなっている。え!? どこに行ったのよ!? 見回すまでもなく、彼を発見。空を見上げながら、花火の方……言い換えると、噴水の方に向かって歩いている。
彼が見ているのは花火。噴水は目に入っていない。私が声をかけようと思った直後、彼が噴水前でけつまずく。そのまま……噴水にドボンッ! 頭から突っ込んでしまう。思わず、爆笑する私。バカな子を発見よ!
私が笑い転げていると、彼が噴水から顔を上げる。目を丸くしながら、震えだす。今の彼は魔力が使えないそうだから。要するに……極寒の中を人間が噴水に飛び込んだ。それに近い状況だと思う。結構、シャレにならないわね……。
噴水から出てくる彼。泣きそうな顔で震え続ける。そんな彼に近づいて、私が声を掛ける。
「部屋に入りましょ。早く着替えないと、風邪を引いちゃうわよ」
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