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七夕祭り〈エア編2〉
 七月七日

 朝方の三時三十分。静まりかえった建物の中を一人で歩く。本を片手に向かう先は、中庭だ。中庭に辿り着き、目的地へと向かう。屋台の用意がちらほらと見える。明日の準備だろう。

 奥へと歩き、焦げた地面がなくなっている事に気づく。清掃の神が掃除したのだな。深く驚くこともなく目的の物を探す。道の端にゴミのように捨てられているのは笹の残骸だ。よし、物はあるな。

 笹の残骸を広々とした道の真ん中に置き、本を開く。外灯があるため、文字が見えないことはない。これで準備は整った。

 今から僕がすることは、未だかつて神すらも手の届かなかった時間のコントロール。神力ではなく魔力を使用して、笹の時間を戻すつもりだ。未知なる力への興味。これが成功したなら、僕は立派な学者として認めてもらえる。それに、きっと……。

 これで笹の時間が戻ったなら、ユムアだって喜ぶだろう。せっかくあいつが頑張って作ったものだ。僕だって願い事を書いたのだから、あながち他人事でもない。それに、ユムアを虐げる奴らだって、気味悪がってユムアに悪戯をしなくなる。

 僕の考えが正しければ、これで上手くいくはずなんだ。右手に本を、左手を笹に向けて。呪文を唱え始める。まずは魔法陣を作製し、それから魔力を加えていく。神力を使用する場合は魔法陣などいらないが、魔力を使用する場合には必要だ。

 魔力使用の場合、簡単な物なら魔法陣を必要としない場合もあるが。高度な物になると基準が必要になるため、魔法陣を作った方が成功しやすい。前代未聞の時間魔術などはもってのほかだ。

 呪文を唱えていると、魔法陣が輝き出す。よし、調子がいいぞ。ミスをしないように、注意しながら本に目を向ける。最後の言葉を発して、成功したと確信する。だが……。

 奇妙な事に気が付く。変だ……止まらない。魔力が魔法陣に奪われ続ける。どういうことだ? 不意に身体の力が抜ける。マズイ! 解除魔術を速読する。駄目だ、それでも止まらない。何度も解除魔術を唱えるけれど、一向に停止する気配がない。

 地面に座り込みながら、蒼白する僕。解除魔術が効かない魔術なんてありえない……。魔法陣の光が時間経過と共に、黒く濃い色に変化する。魔力が多すぎて、濃度が濃くなっている。

 駄目だ……このままじゃ、死んでしまう。口が動かなくなってきて、地面に横たわる。目の前では光り続ける魔法陣。こういう時はどうすればいい? まさか、こんな展開になるなんて予想だにしていなかった。僕の頭に走るのは、空白の思想……。

 不意に奇怪な声が聞こえてくる。魔法陣の中から、手を伸ばしもがくかのような不気味な鳴き声……。何が起きている? 直後、恐ろしい程の悪寒を感じる。心の中に過る恐怖。

 パニックになるな。自分に言い聞かせるけれど、一欠けの効果もない。極度な不安が渦を巻いて僕に襲いかかる。魔力の過剰消費により、神力まで低下する。魔力が尽きたら最後、神力がゼロになる。そうなったら、僕は屍だ。

 マズイことはわかっているけれど、手も足も出ない。指先一つ動かせない状態で、逃げ出せるとは思えない。意識が遠のきそうになる中、誰かが僕の前に現れる。ぼんやりと揺らぐ風景……。あれは誰だ……?



 意識がたびたび遮断される。断片的な意識の回復。身体が動かない上に視界がぼやけている。魔力を消費しすぎたみたいだ。神力もかなり低下している。時間で考えるなら、後三十分というところか……。そして、聞こえてくるのは誰かの会話。

「魔力……激し……。この子……死ん……」
「どう……いい……」
「……を入れ……」
「……どう……ので……」
「神力……。……は相手……。……切れ……はない……。……覚え……シバ……」
「……他に……」
「見殺……」

 身体が寒い。まるで真冬のような寒さだ。ついに体温を維持できなくなったか。駄目だな、情けない。まさか、知恵の神である僕が、こんな失敗をしでかしてしまうなんて……。

 目を瞑る。寒い、怖い、寒い、怖い。身体の中に駆け巡る冷たい孤独。死ぬってこういうことなのか……。暗闇で一人ぼっちにされた気分。誰もいない暗い世界。少しでも光を見かけたなら、何が何でもしがみ付くだろう。

 誰かに会いたいな……。僕の友達なら誰でもいい。僕の手を持って、大丈夫だよと言ってほしい。抱きしめて、怖くないよと言ってほしい。死に際まで、僕は本当に欲が深い……。

 意識が消えそうになる中、僕の唇に何かが触れる。何だろう? 何かわからないけれど、暗闇にロウソクを置かれた気分。不意に心が安らぐ。奇妙な安心感。これなら死ぬのも怖くないな……。

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