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七夕祭り〈エア編〉
 よし、なかなかまとまってきたぞ。今日は調子がいいみたいだ。頭が冴えている。ふと気が付くと、時計が六時を指している。ハラヘッタ……。不意に感じるのは空腹。

 食べなくても死にはしないが、腹が減るという感覚はある。ある程度の空腹を超えると、自動的に神力防御システムが働いて空腹すらもなくなるけれど。頭を使う作業をしていると、どうしてもそこまでの我慢が出来ない。

 今日はここまでにしよう。途中のレポートを裏向けて、立ち上がる。あいつが奮発してくれたから、夕食はご馳走にありつけそうだ。準備を済ませて、部屋から出る。

 何だか足取りが軽いな。イライラしていないのは久しぶりだ。研究の調子がいいことと、思わぬ大金の収入で、気分が晴れているからだろう。

 食堂に向かいながらも、途中で足を止める。そういえば、ユムア達はどうなったのか? まぁ、あれだけ人数がいたのだから、もう出来上がっている頃だと思うが……。とりあえず、様子を見に行くか。ついでに自分の願い事も書いておこう。

 目的地を中庭に変更する。今日の夕食は何にしようか? 色々と考えながら、足を進める。



 中庭に到着。目に留まるのは二本の大きな笹だ。近づいて見てみる。普通の七夕飾りではない不思議な飾り付け。意外にセンスがあるじゃないか。僕はこういうの嫌いじゃない。常識を裏切るような発想は知力の発展に繋がるのだ。特にこのサンタクロースとか、行事の内容すらも無視している辺りが面白い。

 僕が笹を眺めていたら、笹の前を三人の女が通過する。聞こえてくる、その会話。

「ねぇ、笹だよ。願い事書いておく?」
「嫌だし。だって、この笹……例の二人が作ったんだよ。私、さっき見かけたもん」
「え~、気持ちわる~。呪われてるんじゃないの? この笹」

 バカな女共が騒いでいる。くだらない考え方だ。嫌でも会話が耳に入る。

「それにしても、あの爺は何を考えてるんだろうね? こんなところに男を連れてくるなんて」
「マジウザだよね。でも、私はあっちの根暗の方が嫌かな。あの子見てるとイライラするし」
「わかるわかる。何だか不幸オーラを飛ばしてくるよね~。本当、死んじゃえばいいのに」

 お前らこそ死んでしまえ。せっかくの清々しい気分が台無しだ。言葉を慎まない女共の会話は途切れることを知らない。

「あ~あ、早く出て行かないかな。あの二人」
「根暗の方は無理じゃん。ずっと居すわってるし。男の方はいけるんじゃないの? 前にも追い出したよね。爺の側近」
「前は女だったよね。今回は男だけど。もしかして、あの爺さんそういう趣味に走り出したのかな?」
「何? 二人はそういう仲なの?」
「きも~い」

 あいつに興味はないが、こいつらは腹が立つな。止まらない悪態が僕の気分を落ち込ませる。

「そういえば知ってる? あの根暗の噂」
「何? あいつ、何か悪いことでもしたの?」
「え? 知らないの? 有名だよ。実はね……」

 頭が痛くなりそうだ。ユムアは人づきあいが悪いためか、こういった奴らに嫌われている場合が多い。僕は長い付き合いだから、ユムアの事は相当に理解しているつもりだ。あいつは、人づきあいは苦手だが、悪い奴じゃない。

 何も知らないバカ共がユムアの生活にヒビを入れる。こんな光景を見ていたら、ぶち切れそうになる。振りかえって、殴り飛ばしてやりたいが……。ここでの乱闘は控えた方がいい。冷静に判断してしまう僕の脳。ラレスのように、バカ丸出しで行動できたら、却って楽かもしれない。

 ユムアの悪口を言いながら、バカ共が立ち去った。今の出来事は忘れよう。首を振って、記憶を取り除く。

 笹の隣にある台に目を向ける。短冊とペンが置いてある。それと、自由に願い事を書いてくださいというメモ。ペンを手に取り、願い事を書く。願い事は既に決まっている。毎年ながら、何も考えなくて済むのは助かる。

 願い事を書きながら思うこと。このボールペン、かなり書きやすいな。安物じゃなさそうだ。自分のボールペンを取り出す。二つを見比べて、考える。入れ替えるのはいけないことか? 使いやすいボールペン……凄く欲しい。

 いや、学者の僕がこんなくだらない犯罪に手を伸ばすなんて馬鹿げている。ボールペンの誘惑に耐えながら、願い事を笹に飾る。よし、これでいいだろう。

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