タックンの不運は可哀そうと言うよりも、
むしろ見ていて笑いそうになります。
雪まつり〈柊編〉
大杉が俺にスプレーを噴射し、青木が部屋の隅へと逃げていく。自分の服を確認するが、シミもなければ匂いもしない。今のスプレーは何だったのか? よくわからないが、青木が逃げるという事は、青木の苦手な何かが含まれているのか?
未来が俺に声を掛ける。
「そのままハルトに近づいてみなよ。面白いよ」
「嫌がってるじゃないか。友達思いの俺にはそんなことなどできやしない」
「嫌がってる? どこが?」
ヘラヘラと笑う未来。不意に気配を感じて隣を見る。俺の隣には青木だ。うっとりとした顔で俺を見つめている。何? 何なの? ここから恋が始まるの? 冗談を言っていたら、恐ろしい事態に陥りそうだ。俺が青木に話しかける。
「おい、どうした? 目が虚ろだぞ」
「柊さん……」
俺の質問に答えることなく、青木が俺に抱きついてくる。ギャー! 冗談が本当になった! 俺が青木を遠ざけようとしながら、口を開く。
「おいおい、冗談きついぞ。何がどうしてどうなっているんだ?」
「はぁ……いい香り」
香り? もしや、さっきのスプレーか? 未来に目を向けると、やっとの事で説明してくれる。
「このスプレーは俺やハルトみたいな狭間住人専用の芳香剤だよ。ハルトは特に狭間に近いから、俺よりも影響を受けやすいの。猫にマタタビ、ハルトにスプレーだね」
成る程、青木はこの匂いに弱いのか。俺には無臭にしか感じないが……。納得していたら、急に春日井の声が聞こえてくる。
「タックン、こっち向いて」
「何だ?」
春日井に向いた直後、口の中に霧状の何かが入ってくる。何しやがる!? むせかえる俺を見ながら、春日井が話しだす。
「これで口の中もいい香りだぜ! よかったな、タックン」
「いいわけないだろ!? 大体、これは食えるのか? 後で体調不良になったら、お前のせいだぞ!」
「大丈夫だって。これは芳香剤だろ?」
いや、芳香剤は食えないだろ? 大体、お前は芳香剤を食った事があるのかよ? 俺がため息をつきながら、青木に目を向けたら。何か近いんですけど!? 青木の顔が俺の目の前。嫌な予感……。そう思った直後、案の定な出来事だ……。
青木が俺にキスをする。おぅわたー!? 頭の中が真っ白だ。もちろん、喜びで白くなったわけではなく。悲しみで白くなったわけである。男にキスされた!? 人生で一度でもあってはならない事だ。
俺のキス歴を話すなら、ファーストキスがウェスタで始まり。桜井とは数度……。と言っても、それほど数は多くない。チョコレートともキスした事はあるが、あれは数に含まれるのか? とにもかくにも、現在俺にキスをしているのは青木である。キス歴を話したところで、現状に変わりない。
俺が青木を遠ざけようとする中、爆笑の声が聞こえてくる。未来と大杉……尋常じゃない程に笑い転げている。っていうか、大杉……お前は青木の事が好きなんだろ!? 笑ってないで止めろよな!
それにしても、青木の力が強過ぎて俺から離す事ができない。その上、こいつのキスは恐ろしい。見た目は大人しそうな癖に、滅茶苦茶だ。前代未聞のキスをされて、本気で死にそうになる俺。誰か助けろよー!
俺が昇天する間近、スプレーの音が聞こえてきて。青木が俺から口を離す。そのまま振り返った先には、大杉の姿。大杉が青木に口を開く。
「青木君。柊君は駄目よ。桜井さんの物だから。ほら、こっちに来なさい。柊君の代わりに、私が構ってあげるわ」
ぼ~っとしながら、青木が俺から離れる。大杉に手を伸ばして、抱きしめる。やっと解放された。ブルーな気分になる俺に、未来が話しかけてくる。
「良かったね。ハルトが可愛い顔した男の子で。レンレンだったら、終わってたよ」
「終わってないぜ。むしろ、友情の始まりだよな?」
「友情崩壊の始まりだ」
バカな事を言う春日井に、返事をする。桜井を見ると苦笑している。俺的はかなりショックだったのだが、桜井的にはどうなのだろう? 心中で考えていたら、今度はちびっ子の一人が俺に飛びつく。誰だったか? 確か、フィンとか言っていたな。そいつが青木と同様に、夢心地な顔をしながら俺にキスをする。おいー!?
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