七夕祭り〈その2〉
僕とユムアさんとの間の距離……十メートル。心の距離じゃない、物理距離だ。ひたすらに僕の背後を歩くユムアさん……。とりあえず、中庭に向かっているのだけど。
折り紙とか短尺用の紙はシナとライさんに買いに行ってもらっている。僕が行った方がよかったかな。今更ながらに後悔だ。
中庭に到着。後ろを振り返る。ユムアさんが物陰に隠れる。何だか尾行されている気分……。どうしよう? 話しかけないといけないけれど、十メートルは遠くないか? とりあえず、話ができる距離まで近づいてみよう。
僕がユムアさんの方向に向いて、歩きだす。それに気づいて、ユムアさんが離れていく。僕が立ち止まると、ユムアさんも立ち止まる。この距離は縮まりそうにない。腕を組みながら考える僕。どうしよう? これは困ったな……。
僕達が静止していると、ユムアさんに誰かが近づく。エアさんだ。二人が何やら話をしている。すぐにエアさんがこちらへやってくる。
「おい、お前。ユムアが呼んでいるゾ」
「それが……近づこうとしたら、向こうから逃げて行くのですよ。どうすればいいと思いますか?」
「頭を使って、行き止まりにでも追い詰めるんダナ」
「そんな無茶な……。僕は天才じゃないのです。エアさんの知恵を貸して下さい。お願いします」
「…………」
駄目かな? こういう時って、大体は『忙しいから駄目だ』とか言われるのが落ちだけど……。特にこういった学者風の子は、そういう態度を取りそうだ。
僕が他の手を考えようとする中、エアさんがユムアさんに近づく。え? もしかして、助けてくれるのかな? 二人を眺めていたら、エアさんがユムアさんを僕の元へと引っ張って来た。思った以上に、やるじゃないかエアさん。エアさんの行動に感激だ。
エアさんが僕に指差し、発言する。
「ほら、ユムア。こいつは雑草ダゾ。お前の友達と同じ植物ダ。だから、怖くない。そう思えばいいからナ」
「ちょっと失礼ですよ。いくらなんでも、雑草はないでしょ?」
「お前は黙ってろ。ユムアは人見知りが激しいんダ。いつも植物とばかり話しているからナ。人と話すのが苦手なんダヨ。お前が植物だったら、ユムアだって話しやすいダロ?」
一理あるけど、納得できない。せめて雑草は止めてほしい。何だか悪者みたいじゃないか。雑草だって一生懸命生きているのはわかっているけど……。だけど、何だかなぁ……。僕が黙っていると、エアさんがユムアさんに話しかける。
「どうだ? 雑草に見えてきたカ?」
「…………」
おろおろとうろたえるユムアさん。仕方ない、僕がユムアさんに言う。
「僕はセイヨウタンポポです。外来種ですが、仲良くしてやってください」
「…………」
小さく頷くユムアさん。自分で言っておいてこんなことを言うのも変だけど、セイヨウタンポポって、何だか僕にお似合いだ。うん、凄くマッチしている気分。悪くないなと思いつつ、エアさんに礼を言う。
「エアさん、ありがとうございます。助かりました」
「手間賃はないのカ?」
成る程、それを狙っていたのか。流石、知恵の神様だ。ただでは働いてくれないらしい。僕が財布を取り出して、エアさんにお金を手渡す。お金を見て、エアさんが眉をしかめる。
「これは何ダ?」
「五千円ですけど……」
駄目か……。やっぱりこういう時は一万円を出さないといけないのか。僕が財布から一万円を取り出そうとしていたら、エアさんの言葉が聞こえてきた。
「一分千円か……。お前はなかなか気前がいいナ。これはいいバイトになった。また何かあれば言ってくれヨ」
エアさんが笑顔で去っていく。予想外だ……。いつも自室にこもりながら、研究をしていて。秀才オーラを放っているから、話しかけるようなことはなかったけど。話したら、案外に話せるじゃないか。
世の中の意外性に驚いていたら、シナとライさんが帰ってくる。さぁ、取りかかるか。ユムアさんに向くと、小さくなりながら、ひたすらに地面を見つめていた。
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