視力検査〈カルナ編〉
例の資料に目を向ける。神光祭での出来事……。まさか、あいつが関与していたとは。死神賢者で有名な劣等生シバルの虹色バリアー通過の件。あの事件の印象が強すぎて、表ざたにはならなかったが。祭りの際に、時間を操る能力を持ったものが出現したと、噂はされていた。
シバルを探そうと躍起になる組合に対し、軍事関係者は時間の能力者を探している。軍事利用及び研究のためだろう。あの力が裏で注目を受ける理由には色々あるが……。その中で一番に期待されているのが『大樹様』という者との関係だ。
世界を超えた枠組みに首を突っ込もうとする神共。世界の外側を知り、何を仕出かそうとしているのか。まぁ、私には関係ないが……。
「関係ないことないでしょ? 君だって神様なんだから」
振り返る先には、黒コートの男。瞬時に神力で拳銃を作り、そいつに向ける。どこから入って来たのか? この私ですら、全く気配を感じなかった。黒コートが感心したように口を開く。
「うわぁ~、凄いね。神力でそんなに複雑な物を作るなんて。流石、元魔撃隊のリーダー」
「私の事を知っているのか?」
「あまり詳しいことは知らないよ。ちょっと記憶を触って来ただけだから」
「お前は何者だ?」
「そんな物を向けられていたら、答える気にもならないよ。まぁ、撃ったところで俺には当たらないけど」
相手に殺気がないことを悟り、拳銃を下ろす。だが、消しはしない。手に持ったままだ。それを見て、黒コートが答える。
「えらく慎重だね。俺ってそんなに怪しい人物?」
「私の了承を得ずに、部屋に入る奴を信用できると思うか?」
「うん、無理。まぁ、でも、何て言うか。その……ぎこちない空気って苦手なんだよね」
奇妙な奴だ。部屋の中を見まわしながら、能天気そうに振る舞う。私に背を向け、薬品の入った棚を眺める。そのまま話しだす。
「へ~、色々あるね。流石、神様の診療所。何でも揃っているじゃない」
「何が目的だ?」
「何がってこともないけど。まぁ、しいて言うなら、君にお願いに来たって感じかな?」
「初めて会った者の願い事など聞けると思うのか?」
「え? 聞いてくれないの? けちん坊だなぁ~」
黒コートが不満そうな顔で振り返る。私を見ながら、話しだす。
「それより、そろそろ銃を仕舞ってよ。そういうの嫌だし」
「お前が何者かわからない以上、これは必要だ」
「君の推論は? 俺は何に見える?」
「人間ではない。人間はここには来られないからな。神にしては不気味だ。魔界の者か?」
「へ~、そうなるのか。成る程ね」
頷きながら、一人で納得する黒コート。この態度を見る限り、魔界の者でもないらしい。不意に黒コートが答える。
「俺は未来。ハルトの師匠だよ」
「ハルトの……? あいつの師匠だとは、どういうことだ? あいつは奇妙な力に取り憑かれたのだろ? 師匠など居るとは思えないが……」
「師匠っていうか、先駆けした運命共同体みたいな感じかな。ほら、俺の左目みてみなよ。赤いでしょ? 右は青だけど……。ハルトと一緒。俺も半分くらい取り憑かれてるの」
確かに赤いが……。それだけで信用できるものではない。私の様子を見て、黒コートが言う。
「じゃあ、その銃で俺を撃ってみなよ。そうすると、よくわかるから」
「…………」
銃を黒コートに向ける。すぐに撃ち放つ。銃弾が黒コートの前で停止する。直後、消失した。何が起きたのか? 黒コートが驚き顔で口を開く。
「本当に撃つなんて。冗談が通じない人だね」
「今のは何だ?」
「停止した理由はわかるでしょ? ハルトと同じような能力だから。消えたのは、そうだね……。俺がここに現れたのと同じ現象。狭間に飛ばしたんだよ。まぁ、この事については、ハルトは話してないけどね。俺もこれ以上は説明しないよ」
確かに、ハルトと同じような力だ。銃弾が消えたことは置いておいても、止まったことは認める。ハルトがボールペンを止めた時のように、時間が停止した。こんなことが出来る神は存在しない。本当にハルトの師匠なのだろう。
持っていても仕方がない事を知り、拳銃を取り消す。無駄に神力を消費する必要もないだろう。警戒を怠らずに、黒コートに問う。
「それで、ハルトの師匠が私に何の用だ?」
「それがさぁ~、聞いてよ~」
子どものように話しだす黒コート。続けて、用事を語りだす。
「俺とハルトの力は同じ基盤上に成り立っているんだけど。ハルトの方が根源に近いんだよね。だからね、その……この力に影響を食らいやすいっていうか。記憶が入り混じっちゃうっていうか……」
「何が言いたい?」
「まぁ、一言で言えば、暴走しちゃうわけ。俺はそんなことにはならないけど」
「確か……ハルトも同じような事を言っていたな。意識が遠のき、気が付けば、友を殺しかけていたと」
ハルトの言葉を思い出す。その暴走を止めるために、ここへ来た事。力そのものを取り除くことは不可能であるということ。黒コートが頷き、口を開く。
「そうそう」
「それで? 私に頼み事とは何だ?」
「ハルトのストレスが堪らないように、適度に相談に乗ってあげてほしいの。後、様子を見ていて、危険を感じたら。クソ爺……ウェテオとかいうのに伝えてあげて。俺もなるべくは注意しているけれど。時間がね……こっちに来るときに、どうしてもロスが出ちゃうんだ。そのロスがまた一定されていなくてさぁ~。一時間や二時間なら問題ないんだけど、一か月近くまで飛ぶ時があるから。一人じゃどうしようもなくて、クソ爺はほとんど役に立たないしね」
「どうして私なんだ? 他にも人は居るだろ?」
「しっかりしてそうだから。それと、信用が出来るから。それくらいかな?」
黒コートが腕を組み考える。それを見て、私が言う。
「その自信はどこから出てくるんだ?」
「俺の勘?」
「そんな適当でいいのか? 私は元魔撃隊のリーダーだぞ。軍事とも係わって来た。裏切る可能性もある。そんな者を信用するのか?」
私の話を聞き、黒コートが肩をすくめる。
「そんなことを言い出したら、誰も信用できないし。まぁ、理由はもう一つあるね。それは君がどうしてここにいるのか。その辺りを考えてくれたら、必然的に答えは出てくるよ」
「……お前はどこまで知っている?」
「罪滅ぼしをしたいのなら、丁度いい機会じゃない。その方が例の子も喜ぶよ」
「…………」
黙る私に向いて、黒コートが手を振る。
「じゃあね、また機会があれば」
そして、消えた。今見た光景は、何だったのか? まるで現状理解に困るが、とにかく異質な者と出会った。私が見たものは神の常識を覆すような出来事だ。まさか、魔撃隊を止めてからこのような出来事に出くわすとは……。
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