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視力検査〈その2〉
 しょぼくれる僕。カルナさんがため息をつきながら、黙って僕に目を向ける。やっぱり話さないといけませんか? 僕が気まずそうにしていると、カルナさんが心配そうに口を開いた。

「無理して話せとは言えないが、話してくれるとこちらの気も楽になる。大体、前にお前が言っていた話……神でも人でもないという。あの話もよくわからない。患者の情報がわからないと、医者にも手の出しようがないんだ。ただの役立たずになってしまう」
「どうせ治せるものではありませんよ。ウェテオさんでも無理なのです。神様の長でさえも手に負えない話を、一体誰が手助けしてくれると言うのですか?」
「トップが全てを牛耳っているわけではない。下の者のほうが案外に物知りだということもある。それに、話を聞くことくらいはできるだろ? まぁ、お前に話す気があればの話だが……」

 どうしようかな? 話してみようか、止めておこうか。だけど、このまま黙っていたら、余計に辛くなりそうだ。

 未来さんに相談したら、何て言うだろう? 話してみなよ。そう言ってくれる気がする。まぁ、隠したところで仕方のないことだし……。カルナさんはいい人だから、話してみようかな。不意に気持ちが切り替わり、話をしたい衝動に駆られる。口を開いてみる。今なら話せそうだ。

 カルナさんの様子を窺いながら、自分に起きた過去の話を暴露してみる。といっても、全てじゃない。『橋』の話とか、あまり大っぴらにしないほうがいい話は黙っている。異世界の話もしない。そうなると、少し誤解が生まれるかもしれないけれど、それは仕方のない話だ。僕が話した内容は以下の通り。

 ある日、不思議な女の子が現れて、僕に強大な力を与える。その力は以前にも話した通り、時間を操る力だ。狭間の移動能力は黙っておいた。あれはややこしすぎる。それに異世界の存在を推測されるのも嫌だ。そして、力の強さに負けて、大切な友達を殺しかけ。力を制御するために、ウェテオさんの所に居ついた。今の所嘘はない。

 その話を聞いて、カルナさんが目を丸くしている。それは驚きな話だろう。まるでファンタジーだ。ふざけるなと言われたって不思議じゃない。神様すらも信じがたい現実の中心に僕は位置している。カルナさんが僕に言う。

「それは本当か?」
「実は夢でしたって落ちを期待しているのですが……」
「…………」

 黙り込むカルナさん。僕がカルナさんの胸ポケットを指差す。

「ボールペンを貸して下さい」
「何をするんだ?」

 眉をしかめながら、カルナさんがボールペンを貸してくれる。どうせ次の展開は決まっているのだ。聞かれる前に行動してやれ。待っているのはじれったい。ボールペンを放り投げ、能力を使って停止させる。

 ボールペンもカルナさんも停止する中、ボールペンの時間を少し戻してみる。逆回転しながら、僕の手に戻るボールペン。言葉のないカルナさん。そろそろ疲れたので帰っていいですか? 聞いても駄目だと言われるのだろうな。

 カルナさんが夢でも見ているかのように、茫然と語りだす。

「時間の神は存在しない事で有名だが……。まさか、お前がな……。これを学会で発表してみろ。天地が引っくり返るぞ」
「その後、僕は実験台ですか? 嫌ですよ。そんなことになるのは」
「まぁ、そうだな……。逃げ出せやしないだろう。隔離された空間で常に見張られた生活を送ることになると想定される。これは黙っておいた方がいいな」

 真顔で話すカルナさん。やっぱりそうなるのか。そんなどこかの皇室みたいな生活は嫌だな……。一般人の僕には耐えられない。次に、カルナさんが僕の左目を指差す。

「それで、そっちは何が起きた? この話と関連しているのか?」
「いえ、こっちは別話です。え~っと……」

 これを話したら、カルナさんに怒られると思う。いや、怒られるだろう。あ~、怖い。嫌だな……。どうにか誤魔化したいけれど。ここまで来ちゃったら、嘘が思い付かない。ん~、やっぱり正直に言ってみるか。

「あの……個人的に強力な神札が必要になりまして……。それで、どうにも供物が必要でして、いくら考えても適切な物が見当たらなくて……。最終的にこれしかないなということになり……使っちゃいました」
「使っちゃいましたじゃないだろ!? そういうことをしたら、私でもどうにもならないぞ! 神札なんて破れたらおしまいだ。そんなことに自分の身体を売り飛ばすな! お前は元人間だろ? 親の気持ちも考えろ!」

 グダグダグダグダ……何か言ってるなぁ~。聞く耳持たず。受け流し大作戦だ。カルナさんの声に合わせて、とりあえず頷いてみる。すると、頭を叩かれた。カルナさんの怒鳴り声。

「人の話はちゃんと聞け! 適当に頷いて流せると思うな!」
「はい……すみませんでした」
「本当に……」

 不機嫌なカルナさんは怖い。僕が小さくなっていると、ポンッと頭を叩かれる。怯える僕にカルナさんが言う。

「一人で突っ走るな。何かあったら、誰でもいい。相談しろ。相談相手がいないのなら、私が聞いてやる」
「カルナさんは優しいですね。皆は冷たいのに、どうしてそんなに優しいのですか?」

 首を傾げる僕に向かって、カルナさんが口を開く。

「医者だからな」

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