酔ってる暇ないラレスさん。
最近のあなたは忙しいですね。
試飲会〈ラレス編〉
あ~あ、楽しいパーティーが黒コートのせいで台無しよ。その上、恥さらしで最悪。公共の場であんな醜態をさらす破目になるなんて……。黒コートの奴……絶対に同じ目に遭わせてやるんだから!
不愉快な気分でハルトを引っ張って行く。ギャーギャー喚くハルトが鬱陶しい! 頭を叩いて静かにさせる。しばらく歩いて、黒コートの部屋の前に到着。盛大にノックする。だけど、黒コートは出てこない。ハルトが口を開く。
「未来さ~ん、お留守ですか~?」
「留守なら、返事なんてしないわよ」
「まぁ、そうですね……」
ハルトが気の抜けた返事をする。そのまま腕を組んで考える。ここであたしが黒コートの部屋の合鍵を出してもいいのだけれど、何か疑われそうだから止めておく。誤解されるのは嫌だし。特に黒コートと付き合っているなんて思われたら、発狂ものだわ。是が非でもそんな風には思われたくない。
あたしがハルトに問いかける。
「それで、どうするの?」
「そうですね……。では、ラレスさんは少し待っていてください」
ハルトが言った直後、姿を眩ます。突然に、その場から消えた。しばらく経過して、部屋の中から騒ぎ声が聞こえてくる。扉が勢いよく開かれる。大慌てのハルト……。ハルトが口早に言う。
「大変です! 未来さんが!」
ハルトに誘導されて、部屋に入る。手洗い所の前にて、黒コートを発見。壁にもたれたまま座っている。様子が変。冷や汗を掻いていて、目の焦点が定まっていない。その上、息が荒くて、震えている。自分の服を強く握り、苦しみに耐えているみたい。ハルトが黒コートに声を掛ける。
「未来さん、大丈夫ですか?」
首を横に振る黒コート。そりゃあ、大丈夫には見えないわね。ハルトが続けて、口を開く。
「カルナさんを呼んできましょうか?」
「カルナは駄目よ。今はグダグダになっているから。むしろ、カルナに医者をつけなきゃいけないかもね」
「え……じゃあ、カルナさん以外に医学に詳しい方は……」
「ムリムリ、皆飲んでいるもの。誰も使い物にならないわ」
「え~、そんなぁ……」
慌てふためくハルト。そわそわしながら、黒コートとあたしを交互に見る。そして、名案を思い付いたのか、あたしに向いて口を開く。
「わかりました。それでは、向こうから人を連れてきます。しばらくの間、未来さんをお願いしますね。どうしようもなくなったら、ジジイに報告して下さい。多分、役に立ちませんが。もしかしたら……ということもありますので」
「向こうって、どこに行くのよ? ジジイに話しに行く途中で黒コートが死んだら、あたしの責任になるの? そんなの嫌よ」
「残念ながら、僕は責任を背負えませんよ。何せ僕も死にますから。未来さんと僕は命が繋がっているのです。未来さんが死んだら僕もお仕舞いです。結構、笑えないジョークなので。これ以上はラレスさんの話を聞いていられません。無駄な時間を過ごすくらいなら、行動した方が早いでしょう。では、お願いしますね」
そう言って、ハルトが消える。え? 嘘? 本当に? 残ったのは、あたしと今にも死にそうな黒コート……。気まずいどころの話じゃない。こっちは混乱よ。どうすればいいの? 何をすればいいのかわからないのだから、行動にも移せない。考えた末に、黒コートに声を掛ける。
「ねぇ、大丈夫? 何か言いたい事があったら、今のうちに言って」
「お水……」
「水? 水が欲しいの?」
あたしが問いかけると、黒コートが頷く。その様子を目にして、ダッシュで水をくみに行く。コップに水を入れて、黒コートに手渡す。すると、黒コートがゆっくりとコップを手に取った。少しだけ水を口に含んで、コップをあたしに返す。続いて、口にする言葉……。
「寒い……」
「寒いのね?」
黒コートが数度頷く。ふと目に付くのは、返す予定だったコート。せっかくだから、黒コートに着せてやる。これでいつもの黒コートが完成ね。まぁ、いつもよりも断トツに大人しいけれど……。
不意に黒コートが立ち上がる。左目を押さえながら、ふらつく足取りでベッドへと向かう。すぐにあたしが駆けよって、フォロー。見ているだけで危なっかしいから、思わず援助してしまう。いくら嫌いな黒コートでも放ってはおけない。
ベッドに横たわる黒コート。なぜか左目が気になるみたい。目を押さえては、瞬きして。目の調子を確かめている。不意に黒コートが話しだす。
「君に……お願いだ」
「……何よ?」
「風邪で……持病の薬が……無効化されたから。左目に……かなり負担がきている。そろそろ……壊れるから。ハルトも……しばらく時間が掛りそうだし……。今から……高熱で半死するだろうから……。後……よろしく……な」
そう言って、眠りだした。ちょっと待ちなさいよ。高熱で半死って、誰が半死するのよ? そう思っていたら、黒コートが苦しみ出す。額に手を触れてみる。黒コートの額で、目玉焼きが焼けるわね。なんて言っていられないわ!
嘘!? あたし、病気の事なんてよくわからないわよ! こういう時って、どうすればいいの? とにかく、頭を冷やせばいいの? 水! 氷! タオル! 医者~! ドタバタと走り出すあたし。ハルトの奴、早く帰ってきなさいよ!
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