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視力検査〈その1〉
 七月二日

 朝から眠い……。時計を見る。十一時……。あ、寝過した。まぁ、どうせ大した用事なんてないのだから、少しくらい寝坊しても問題ないだろう。僕が五度寝に入ろうとする中、扉を叩く音が聞こえてくる。

 起きるの嫌だな。布団を頭までかぶって、シナを抱きしめる。お休みなさい。すぐにライさんの大きな声が聞こえてくる。

「ご主人! 医者が来ておりますぞ! そろそろ起きて下され!」
「眠いです……後でお伺いするとお伝えください」

 僕の言葉を聞き、ライさんがため息をつきながら、扉の方まで飛んでいく。これで眠れると思っていたら、足音が……。ベッドの前までやってきて、停止する。あ、起こされるな。思った通り、すぐに布団を取り上げられる。そして、カルナさんの声だ。

「おい、ハルト。もう十一時だぞ。いつまで寝ている。さっさと起きろ」
「夜まで待って下さい……僕は夜行性なので」
「寒いぞ! 眠いぞ! 布団を返すのじゃ!」

 僕にしがみ付きながら喚くシナ。僕も同意見だ。七月なのに、妙に寒い。それもそのはず、冷房が半端なく効いている。室内の温度調整は難しい。もう少し温度を上げたらいいのかな? でも、今はとにかく眠りたい……。

 起きる気配がないからか、カルナさんに頭を叩かれる。流石に目覚める僕。上体を起こして、寝ぼけがちにカルナさんを見る。

「今日はどうされましたか? 何か用でしょうか?」
「お前の視力検査だ。まだ終わっていなかっただろ?」
「え~、もういいですよ。目は見えていますから、大丈夫です」
「大丈夫なものか。とにかく、すぐに用意して私の所に来い。私だって、今日は休みなのに、わざわざ出向いてやっているのだ。十五分以内に来なかったら、神力でマシンガンを作って、出向いてやるからな。覚悟しておけ」

 そういって、カルナさんが部屋から出ていく。どうしよう? カルナさんのマシンガンを食らってみるか? 数の多い物の時間をコントロールするのは難しいけれど、今の僕には可能な気がする。

 そんなことを考えながら、服を着替える。着替えたからには行ってみよう。ほとんど、流れに身を任せ、ノリで出動だ。未だに眠るシナの上に布団をかぶせて、ライさんに声を掛け、財布を持って部屋を飛び出す。後、五分。結構、時間がないことに気づく。



 診療所に到着。中に入る。人の姿はない。代わりに奥から声が聞こえてくる。

「こっちだ。今日は受け付けがないから、そのまま奥へ入ってくれ」

 言われた通り、奥まで行く。待っていたのはカルナさん。他には誰もいない。カルナさんが僕に言う。

「よし、じゃあ始めるぞ。説明はいらないな。これを持て。まずは右目からだ。左目を隠してくれ」
「はい……」

 うわぁ~、どうしよう? 右目は問題ないけれど、左目が……。困り果てながら、カルナさんの指す図の方向を答える。右目が終わり、カルナさんが口を開く。

「次は反対だ。右目を隠してくれ」

 言われた通り、右目を隠す。はい、全く見えません。さて、どうしようか? カルナさんの声が聞こえてくる。

「これは?」
「上!」

 自信を持って答えたら、案外に当たるかもしれない。確率論ではありえないけど、気持ちの問題だ。次にカルナさんの声。

「これは?」
「左? こっちですか?」

 適当に指をさす。しばしの沈黙。カルナさんが言う。

「そうか……。では、これはどうだ?」
「う~ん、下?」

 勘だ。見えないのだから、仕方ない。わからないと正直に答えるのもいいけれど。視力検査って、何だかわからなくても答えたくなるんだ。運がよければ当たるだろう。みたいな考え方。次はどの方向にしようかな? カルナさんの声がする。

「最後に、これはどうだ?」
「上です」

 またもや沈黙。カルナさんが深刻そうな声で言う。

「なぁ、ハルト」
「はい?」
「両目を使って見てみろ」

 カルナさんに言われて、右目を解放する。見えるのは腕組をして棒立ちするカルナさん。何だろう? カルナさんが教えてくれる。

「私が最後に示した図はこれだ」
「どれですか?」
「何も示していない」
「え……」

 言葉のない僕。カルナさんが続けて言う。

「その一つ前がこれだ。同じく何も示していない」
「…………」
「そして、それ以前も言わずともわかるだろう」
「あ~……」

 やられちゃった。まさか、そういう手でくるとは……。ちょっとズルイと思う。カルナさんが僕に向く。

「思った通りだ。やはりお前、左目が見えていないな。いつからだ? 以前はこんなことはなかっただろ?」
「カルナさんこそいつから気付いていたのですか?」
「私は医者の神様だぞ。患者が不審な動きをしていれば、すぐに気が付く」

 成る程、これは相当以前から気付いていたな。顔を逸らす僕に近づいてきて、カルナさんが僕の頭を掴む。無理やり自分の方に向けて、僕の左目を覗き込む。そのまま僕に尋問だ。

「何をしでかした? 普通に視力が落ちたわけではないな」
「そんなことまでわかるのですか?」
「ああ、お前の左目は奇妙な事になっている。エネルギーを感じないというか……まるで他の事に使用しているような。具体的な説明はできないがな。医者の経験による勘だ」

 凄いな……。まさに的中だ。僕は自分の左目を犠牲にして、強力な神札を作った過去がある。おかげで失明してしまったけれど、後悔はしていない。それにしても何て言い訳をしようか? 何を言っても、カルナさんは怒るだろうな。

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