掃除
部屋に到着。買った本を手に取り、読み始めるシナとライさん。僕は後にしよう。ベッドの上に横たわり、枕を抱きしめる。最近ではシナと一緒に寝ているためか、何かを抱きしめていないと妙に落ち着かない。枕を抱きしめたまま、目を瞑る。
今日出会った人達が大体の主流かと思う。ここの生活で特に目立っている人達だ。まぁ、僕も含まれるけど……。後はジジイくらいだな。あんなものは紹介しなくても大丈夫だ。一目見てわかる。
他にも色々と変わった人はいるけれど、大抵の人は僕に近づこうとしない。というか、僕を嫌煙する。話しかけてはこないくせに。遠くから僕を見て、クスクスと笑うのだ。それを見ていると、気分が悪くなる。
それなら、一層の事、ラレスさんみたいに大嫌いとハッキリ言ってくれた方がいいか? 暴力は反対だけど、遠くから汚物を見るような目は止めてほしい。
女の子の苛めは精神面に響く。今の僕はなるべく精神を安定させておかないと、ストレスがピークに達したら覚醒してしまうのに……。覚醒したら最後、この城は崩壊するぞ。言ったって信じてくれないだろう。僕が耐えるしかない。
こういう生活をしていると、人間だった頃がどれほど幸せだったのかよくわかる。普通に学生生活を送り、普通に家族と話をしていた。そんな平凡な毎日……。今では、手に入らない夢のような生活。
あぁ、会いたいなぁ。と心底から思う。今、あの人は何をしているのだろう? 僕が居なくなって、どう思っているのだろう? ずっと会っていないし、手紙も一度きりだ。一度でいいから会いたいけれど、こんな僕が会ったところで……。
うつらうつらしていたら、荒く扉を叩く音。誰だろう? ぼんやりしながら、立ち上がる。部屋の前に行って、扉を開ける。目の前にはラレスさん……。
「あんたジジイの側近よね?」
「え? えぇ、まぁ……」
「食堂の隣の倉庫、掃除しておいて」
それだけ言って、ラレスさんが立ち去る。僕に拒否権はない。目をこすって、ライさんに向く。
「少し出かけてきますので、お二人は部屋で待っていてください。夕食までには帰ってきます」
「ご主人。掃除でしたら、吾輩も手伝いまするぞ。何なりとお申し付けを」
「いえ、大丈夫です。ライさんはシナの面倒を見ていてください。すぐに終わらせてきますので」
そう言って、部屋を出る。部屋の鍵は閉めずに、倉庫へと足を向ける。
倉庫に到着、中に入る。埃っぽい空気。電気を付けると、薄らとぼやけるような光が部屋の中に広がる。ごちゃごちゃしているな。辺り構わずダンボール箱が積み上げられている。何をどう整理したらよいのか。人の物なのでよくわからない。
とりあえず、必要そうな物とそうでない物にわけよう。ダンボール箱の中を確かめ、使えそうな物以外を狭間に飛ばしていく。ゴミ捨て場に捨てに行くなんて面倒くさい。
せっかく能力があるのだから活用しよう。今日は調子がいいので、目は壊れないだろう。今のところは大丈夫だ。
僕がどんどんゴミを狭間に飛ばしていたら、不意に声が聞こえてくる。
「ちょっと、ハルトン。狭間はゴミ箱じゃないよ」
目を向けると、そこには黒コートの人物。未来さん……僕の師匠だ。あらら、見つかっちゃったか。僕が未来さんに言う。
「でも、未来さんもこの間、生ゴミを狭間に飛ばしていましたよね?」
「だって、ゴミ捨て場に持って行くの面倒くさいじゃん。特に生ゴミとか触るの嫌だし」
「ですよね。気持ちがよくわかります」
「だよね~」
そう言って、近くのダンボールを開ける未来さん。この人の能力も僕とほとんど同様のものらしい。今の所、違いがわからない。時間を操り、狭間を移動できる。まぁ、未来さんの場合はバグじゃない。正式な世界の枠組みに含まれている。
この人は他にも色々と得意な事が多い。動植物や子どもと仲良く、誘導する事が得意だ。又、奇妙な薬を作るのが趣味で。クールになったり、女の子になったり、コロコロと態度が入れ換わり。戦闘も得意。万能という文字を形にしたらこんな感じだろうか。
しかも、大手会社の社長をしているらしい。その割には常に金欠だけど……。さて、そろそろ未来さんの特技の一つ、読心術が発動するだろう。未来さんが僕に言う。
「逆読心術じゃない! 先読みしないでよ!」
「そろそろかと思いまして。いつものパターンなら、このタイミングです」
「ジャスト……本当、嫌な弟子だなぁ~」
そう言いながら、ダンボールからガラクタを出す未来さん。手伝ってくれるのかな? 未来さんに問いかける。
「手伝ってくれるのですか?」
「どうせ暇だし~」
「へ~、未来さんが……。何をたくらんでいるのですか?」
「ちょっと失礼だよ。せっかく援護しに来たのに。あんまり言うと帰っちゃうよ」
未来さんが膨れながら、ダンボールの中身を消していく。そんな未来さんを見ていたら、何だか楽しくなってきた。この人は周りの空気を和やかにしてくれる。ブルーだった僕の気持ちも落ち着いて、未来さんと駄弁りながら、掃除を続ける。
そしたら、突然に扉が開いた。扉の向こうには、ラレスさん……。気持ち悪い物でも見るように、僕に目を向ける。
「何を一人で喋ってるの? あんた、大丈夫?」
隣を向くと、未来さんがいない。狭間に移動したらしい。多分、狭間から僕達の様子を窺っている。僕がラレスさんに言う。
「大丈夫ですよ。ところで、どうしたのですか?」
「サボってないか見に来ただけよ。それにしても、一人で喋るなんて気持ち悪いから、止めてよね」
扉が閉まる。しばしの沈黙。ラレスさんが立ち去ったことを知り、未来さんが現れる。
「可愛げないね~」
「でしょ?」
「もう、こうなったら、覚醒して大暴れしてやれば? 数人くらい殺したら、皆も大人しくなるよ」
未来さんが僕に向く。それを聞いて、呆れる僕。未来さんに向いて言う。
「シナみたいなことを言いますね……」
「別にありだと思うけど。だって、向こうが悪いんだから」
「それをしたら、後の生活に響くのですよ。皆を敵に回してまで、幸せになろうとも思いません。まぁ、敵に回した時点で幸せにはなれないと思いますが……」
「それなら、こっちに来る? 暴走しない限り、安全だよ」
未来さんが真顔で言う。そう、確かに向こうに行ったら、安心だし安全だし幸せだろうな。でも、もしも僕が覚醒したら、止められる人がいない。この手が未来さん達に何をするか……。考えただけで恐ろしい。
しばらく考えた後に、首を振る。それを見て、未来さんがため息だ。
「まぁ、ハルトンらしいね。無理はしないでよ。俺の所はいつでもどこでもがモットーだから。辛くなったら、遊びに来て。梅茶を用意して待ってるよ」
「ありがとうございます」
何だかんだ言いながら心配してくれる未来さん。嬉しくて涙が溢れそうだ。僕が幸せに浸っていたら、未来さんがどこを見ることもなく話し出す。
「どうだ、ニート!? 俺だって、弟子思いなんだからな! この間の言葉を訂正しろー!」
……もしかして、ニートさんに何か言われて来ただけで。別に僕の心配をしているわけじゃないのかな? 深いことは考えない。考えたら、悲しくなってくるから。ギャーギャー喚く未来さんを落ち着かせ、掃除の続きを開始する。
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