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卵料理と伝達手段の確立と軍用犬

 さて電気がないこの時代遠方への情報手段はかなり限られます。


 基本は文を人に運ばせるということになるわけでそのための伝令兵の訓練を考えているわけですが、それだけでは伝達速度などに問題が出てきます。


 そのために古代から色々な情報の伝達手段が考えられてきたのです。


『巴よ、妾は卵料理を強く所望するぞ』


 そんな事を考えていたら白狐の姿を取った貴狐天皇が館の鬼門の方角に立てた社の方からてくてく歩いてきて私にそう告げました。


『あ、はい、少々お待ちください』


「どうせ鶏を絞めて食べるなら、義仲様や義経一行も呼びましょうかね」


 私は下人に馳走を振る舞うので義仲様と義経一行に私の屋敷まで来てほしい旨を伝えるように向かわせました。


 そして、私は鶏小屋から卵と卵を産まなくなったメスを一羽出してまず、鶏を木の枝に逆さ吊りにします。


 鶏の頭に血を上らせ、おとなしくなったところで、鶏の羽を後ろで羽交い締めにし目隠しをして、首に包丁を当てて、頸動脈ごと首を切り落とします。


 鳥はしばらく暴れますが血が抜けると動かなくなりました。


 鳥の血抜きが完了したら毛をむしり、抜ききれなかった小さな産毛は火で炙ってその火であぶり、あとはヘチマで表面をこすってきれいに洗います。


 この状態であれば鶏の丸焼きにできますが、今回は鶏肉はメインではないのでさらにバラします。


 まずはモモ肉から取り出すために、体とももの間の皮の部分に切込みを入れ、関節部分が見えるぐらいまで足を開いて行きます。


 そうすると皮も自然に裂けて行きますね。


 腰骨から肉を削ぎ取るように包丁を尻から入れて、内臓まで達しない程度で関節部分まで包丁が行ったら、包丁で関節を切りとります。


 後は左手を腰の骨に当て、足を持って、頭の方向に引張ればもも肉がとれます


 次は手羽です、羽を持ち、軽く羽を動かし、動く部分と動かない部分の間の部分の二つの山の間に包丁を入れて肩の関節を外します。


 左手の親指を三本の骨が結合している部分に当てて尻の方向へ手羽をひっぱれば胸肉と共に綺麗に剥がれます。取った後は、手羽先と手羽元と胸肉を切り分けます。


 更にササミを取り出し、肩甲骨を包丁で体から剥がして、首を抑えてひっぱるとあばらが剥がれて内臓が出てきます。


 肝臓をめくると緑色の胆嚢がありますが鯉のときと同じように破ると臭くて周りの肉が食べられないので周りの肉とともに大きめに余裕を取って切り取り捨てます。


 肺と心臓と肝臓を取り水につけて血抜きをします。


 卵巣の卵のつながりを取り出し、腸を傷つけないように取り出します。


 最後に砂肝を出して終わりです。


 小腸は中身を取れば食べられますが手間が大変なので肥料に加えます。


 そして、トサカと足と骨は大きな鍋に入れて野菜を加えて鶏ガラの野菜スープにします。


 肉をと内臓を適当な大きさに切りよく洗って、塩水につけおきます。


 もも肉の一部を一口大に切り、醤とみりんと水にガラスープを加えて煮立たせ、一口大に切った鶏肉を加えて火が通ったら溶き卵を加えて更に煮れば完成。


 これをまずは貴狐天皇のもとへもってゆきます。


「お待たせしました、鶏肉の卵とじでございます」


『うむ、まったぞでは。

 頂くとするかの』


 貴狐天皇がガツガツと皿にもった鶏肉の卵とじ要するに親子丼の具の部分を平らげてゆきます。


『うむ、なかなか美味じゃな』


「気に入って頂けたようでなによりです」


 あんまりうグルメになられても困りますけどね。


 残りは串に刺して焼き鳥にしましょう


 首肉せせり、ささみ、胸肉、もも肉、手羽先、手羽元などの肉。


 肝臓レバー砂肝スナギモ心臓ハツ腎臓セギモ脾臓メギモ、卵巣と卵管タマヒモ腹膜ハラミ気管サエズリなどの内蔵、胸軟骨、膝軟骨、ぼんじりなどの軟骨、鶏皮、

 もも肉や胸肉とねぎを交互に挟んだネギマなどを作ります。


 それに塩を振ってだいたい出来上がったところで義仲様や義経一行が屋敷にやってまいりました。


「よお、巴。

 今日は何を食わせてくれるんだ?」


「はい鶏の串焼きと、鳥骨の溶き卵と野菜の汁でございます」


「なるほど、なかなかいい匂いだな」


 野菜スープに溶き卵を加えると、匂いが沸き立ち庭に漂います。


「はい、もう少々お待ちください」


 私は簡易なかまどを庭に作りそれに二本の鉄棒を渡して、焼き鳥串をその上に並べてゆきます。


「あとは各自で適当に焼き上げて食べてください」


 焼き鳥バーベキューと言う感じで、集まった各自が串を適当に回しては口に運びます。


 鶏肉を焼くとぱちぱちと炭にきどき脂が滴り落ち、じゅうっと音がして灰が舞い上がり香ばしい甘い香りが漂いました。


 私はポンジリの串を一本取ってそれを口にします。


 ぼんじりは鶏の部位の中でも最も脂がのっていて、ジューシーでとろけるような口当たりです。


 ぎゅっと噛むと肉汁が口の中に溢れ、しっかりと噛み応えがあるけど決して硬いわけではないのです。


 脂が口の中にじゅわっと迸り、ぼんじりの中の油壺の軟骨の歯ごたえと、こんがり焼けたまわりの皮が更に食欲を高めます。


「ん、これはうまいぞ」


 手羽先を骨ごとバリバリ食べながら義仲様が言いました。


「ええ、新鮮でくさみもなくまこと美味ですね」


 ささみを食べながら義経が言葉を続けます。


「どうせなら丸焼きでくいたかったな」


「うむ、それもうまそうであるな」


 鶏ももの串を食べながら伊勢三郎と弁慶がそんなことをしゃべっていました。


 蒲田兄弟たちも口々に美味しいと言いながら食べています。


『むぐぐ、誠にうまそうじゃな、妾にもそれを食わせよ』


 その様子を見て貴狐天皇がまたやってきました、今は姿を消した状態の女性の姿なのか周りには見えていないようです。


 私は串を片付けるふりをしてで皆から離れた場所へいきます。


「いやいや、何もない場所で串から肉が消えていったらまずいですから」


『ならば姿を見せればよいのじゃな?』


「いやいや、貴狐天皇だとバレてはまずいですよ」


『注文の多いやつじゃな、全く、ならばこれでどうじゃ』


 貴狐天皇が腕の数を減らして普通の女性の姿を取りました……ですが、髪の毛は白髪で狐の耳がちょこんと出ています。


「耳と尻尾が出ていますよ、玉藻前か葛の葉狐ですか、貴女は」


『うむ、どちらも妾じゃよ』


 そう言えばそうでした。


「とりあえず、耳と尻尾を隠して下さい」


『やれ、わかったわい』


 まあ、白髪くらいならなんとかごまかせるでしょうか。


「うむ、では、早速食わせてもらうとするぞ」


 ひょこひょこケモミミが出たり隠れたりしながら焼き鳥のところへたたっと貴狐天皇が走っていきました。


 私がその様子をハラハラしながら見ていたところで義仲様が貴狐天皇を見て問いただしたのです。


「ん?巴の新しい下女か?」


『何を言っておる、妾は貴狐天皇である』


 私は天を仰ぎました、自分から言っちゃいましたよこの神様。


「貴狐天皇?」


 わたしは間に割り込むように走っていって慌てて言いました。


「あああ、義仲様この方は私に力を貸してくださる神仏でございます。

 何卒無礼が無いようにしてくださいませ」


『うむ、わかったか』


 なんで貴女はそんなに偉そうなのですか……


「あ、ああ、とりあえずこれ食うか?」


 あっけにとられたようにそういって義仲様が差し出したのはハツでした。


「うむ、捧げ物が心臓であるというのはよくわかっておるな」


 いえ、たぶんただの偶然でしょう。


「うむ、誠に美味じゃ」


 串焼きを頬張ってもぐもぐしてホクホク笑顔の貴狐天皇が恐ろしいカーリー女神の眷属というのを理解できる人間は少なそうですね。


 気を取り直して私はそこへ椀に盛ったガラスープの野菜と溶き卵を皆に配り、麦飯と酒ももってこさせます。


 炙ったレバーは酒のツマミに最高です。


 皆満足そうに食べてくれました。


「ふうーくったくった、いつも有難うな、巴」


「はい、義仲様に喜んでいただければ私にとってもこの上ない幸福でございます」


『うむ、苦しゅうないそ、これからも妾のために励むが良い』


「はい、なるたけ頑張るように致します」


 なんだかどっと疲れました。


 ・・・


 さて、気を取り直し私は侍女の小百合へと相談をしたしました。


「小百合、遠く離れた場所へ何かを伝えたいときはどうするのがいいと思いますか?」


 小百合は少し考えたあと


「遠目で見てわかるというものでございますとまずは旗でございましょうか」


「なるほど、たしかに旗は遠目で敵味方がわかるように色を分けたりしますね」


 この時代では赤旗が伊勢平氏、白が坂東武者なのは広く知られていますね。


 また、大陸でも色や文字で敵味方がわかるようにしているはずですし、後の日本でも家紋をいれてわかりやすくしていますね。


「あとは太鼓や法螺貝などの音でしょうか」


「それもよく使われますね」


 ちなみに火事が起こったときなどは鐘を鳴らして知らせるようにしていますよ。


「私が思いつくのはこのくらいですが巴様には他にも案があるのですか」


「ええ、まずは動物に文をもたせ運ばせるというものですね」


「動物ですか?」


「ええ、鳩や犬など人間に慣れ調教すれば指示に従って行動できる動物を使います。

 もちろん欠点もありますけどね」


 大きな音に怯えてしまうとか、伝書鳩は基本的にはどこかに戻らせることしかできないとか。


 そこへ人の姿を取った貴狐天皇がやってきて口を挟んできました。


『ふむ、獣を扱うのであらば妾も手伝ってやらぬことはないぞ』


「それは助かりますが……報酬の方はいかようなものを望まれますので?」


『うむ、朝のような肉と卵の別の料理を妾に捧げよ』


 やはり、食べ物ですか……


「わかりました、今しばらく時間を下さいませ」


『うむ、出来上がったらいつでも呼ぶが良いぞ』


 まあ、これで伝令犬や伝令狐は揃えられるでしょう。


 伝書鳩は自分たちで育てないとだめでしょうけど。


「後は狼煙(のろし)天灯(てんとう)ですね」


 狼煙はその名の通り、藁と杉の生葉に乾燥した狼の糞を重ねて燃やして煙をあげて情報を伝達するもの。


 天灯はスカイランタンとかチャイニーズランタンと呼ばれる天灯は主に竹で編んだかごに紙を貼り、底部におもりをを付け、中間に油を浸した紙を固定し、その紙に染み込んだ油を燃焼させることにより、紙袋内の空気を加熱して空を飛ばす、紙製熱気球ですね。


 狼煙は昼、天灯は夜に用いますが荒天時には使えません。


「それも大陸の技術でございますか」


「ええ、大陸で発明された技術ですね」


「あとは早馬の維持のために駅を設けましょう。

 馬借にも使えますし」


 問題は維持費がかかるということではありますが。


 その他には遠見筒と手旗信号や鏡を組み合わせて細かい情報のやり取りを行うことも出来ますね。


 さて犬という家畜はとても賢く忠誠心の高い動物で軍事的にも色々な用途で用いることが出来ます。


 伝令犬は首の通信筒に連絡文書を収め、伝令を請け負います。


 特に信濃のような険しい山岳地帯などの伝令には犬は人馬よりもはるかに早く行動できます。


 姿勢が低いために戦場でも目標になり難くまた速度も早い、悪天候で道路が不良なとき、暗闇の夜間などでも用いることが出来る優れた伝令手段です。


 警護・哨戒犬は見張りの歩哨とともに敵の襲撃の際に吠えて緊急事態を知らせたり、従軍時に待ち伏せしている敵を発見させたりします。特に起伏が激しい地形錯綜の哨戒には犬の鋭い嗅覚が役に立ちます。


 探知・追跡・捜索犬は夜間や地形が入りくんで人による捜索が難しい場所などでの、負傷者、落伍者、遭難者、敗残兵等の捜索に抜群の能力を発揮します。


 これは単に人間ばかりではなく、その鋭い本能を利用して隠匿物資、埋没物件、罠などをさぐりあてることにも利用できるのです。


 薬師犬は薬師兵と1セットになり、戦場に放置されたままになっている負傷兵を探し出し時としてそれを引きずってくることもできる。


 この時は背中に薬草や晒をつめた背嚢を背負い戦場をかけめぐるのです。


 戦闘犬は文字通り、敵を見つけ次第噛みついて重傷を負わせることに特化した犬です。


 このように犬は性質や体格に合わせて様々な任務をこなすことが出来るのです。


 犬の訓練は、まず人と犬との信頼関係の構築から始めます。


 犬は自分よりも立場の強いものと認識したものには服従しますが、自分より立場の弱いものには服従しません、そのあたりは貴狐天皇に補助してもらいましょう。


 まずそこから人間や任務位に対しての服従、規律、節制の性格を固定させ順次の各種訓練に移ってていきます。


 具体的には脚側行進ならんであるけ脚側停座ならんですわれ据座おすわりおよび招呼こい伏臥ふせ匍匐ほふく持来とってこい捜索さがしてこい前進まえにでろ休止やすめ咆哮ほえろ監視かんししろ襲撃おそえ拒食くうな、高跳び(とべ)、堀の飛越とびこせです。


 以上のことが出来るようになったら、実戦に出せるように鉄砲音にならす銃声訓練や白刃、爆音にならす訓練を行ないます。


 ・・・

 というわけでまず貴狐天皇には鳥のひき肉と山芋を加えたオムレツを作りました。


 早速差し出すと美味しそうにガツガツとたべています。


『うむ、お主は面白いおなごよのう。

 まあ、良いわ、約束通り獣のしつけを儂もてつだってやるぞ』


「は、有難うございます」


 ・・・


「というわけで今日は歩兵隊と伝令兵隊、薬師兵隊で山犬等をとらえに行きますよ」


「はあ、山犬ですか?」


「はい、犬は色々約に立ちますので」


 私たちは天神兵を率いて山に入ります。


 姿を消した貴狐天皇が山中に呼びかけます。


『山の獣たちよ、妾の声が聞こえるか、聞こえるのななら姿を表し臣従せよ』


 山の中に響き渡る声が聞こえているのは私だけのようです。


 やがて、ワラワラと獣が集まってきたようです。


 狐や山犬、狼などが姿を現すと頭をたれて臣従の構えを取っているようです。


『うむ、よくぞ来たな、この女は妾の眷属と心得よ。

 今後この女に従い働きを治めよ』


 貴狐天皇の言葉に従い私に山犬や狐が頭を下げました。


「有難うございます、では参りましょう、皆さん」


 狐や犬と兵を率いて私は天神へと戻りました。


 道中で獣と相性の良さそうなものを選別します。


 選別したものと獣を引き合わせて私はそのものたちに告げました。


「では皆さん、その獣たちは本日よりあなた方の相棒となるものです。

 共に行動しうまく褒めることにより信頼関係を構築して下さい。

 勿論犬や狐の舎は別に作りますので、騎兵が馬を世話するようにきちんと世話をして下さい」


「分かりました、巴様」


 動物との信頼関係を構築するのにも時間がかかりますが、まだ間に合うでしょう。

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