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平安貴族と、オレ
作:正記貞信



其の三


本日快晴。風無し、お金無し、湿度有り。
まもなく正午。
日差しは、時間と共に強くなる。

「いつものことだが…暑い。」
団扇変わりに、プリントの束で扇ぐ。
「地球温暖化、てやつかい?まったく。昔は過ごしやすかっただろうな。」
半袖のシャツに、汗が滲む。
研究室で夜を明し、牛丼屋で、遅い朝食を採ってきた所だ。

戻ってすぐに、窓を全開にする。
開け放った窓からは、風の代りに、セミの声が聞こえる。

「先生は当然のように、言うけど、俺には京の配置とか、わかんねーっての。」

レポートについて質問にいった時、さも「常識」といった顔で、京における貴族の邸宅の配置について、あれこれ言われた。
残念ながら俺には、さっぱりわからないため、自分で調べるしかない。


本棚の中段にある、大判の事典を引っ張りだし、目的のものをさがす。本棚は背が高いから、よく使うものは、中段に置いてある。
「平安京の図は、どれだったかな、と」ふんふんと、他のページに見とれつつ、暫くして、見つけた。

図は折り畳み式になっていて、広げてみる。

「字がちいせーよ」
老眼のように、思わず図を目から遠ざけとしまう。

細かな字で、一条とか二条とか、色々ある。

京の図では、よく言われる通り、碁盤の目のように道が整備されている。
よくもまあ、こんだけのものを造ったもんだ。

「摂関家の家はどこだっけ、か。…おお、あったあった。」

ごちゃついた文字の中から、その旨を記したものを見つけた。

地図を見て右側、左京には、道長・頼通等で摂関家の邸宅がある。
他にも、有力貴族の邸宅が並ぶ。

「こりゃすごい。さしずめ、永田町みたいなものか?詳しいことはよく知らんがね。」

―「ながたちょう」というものが、どういう所かわかりませんので、なんとも言えませんが…京の中心区画ですよ。御幸の際にも、この辺りの道を、よく通りますし―

「ふーん。」
この「声」にも、いい加減、慣れて来る。

いつか読んだ、貴族の日記やその他の記録を思い出す。
そこには、確かに「彼」に言われた通り、『二条を通った』という記述があった気がする。「お前、結構詳しいのな。」
素直に感心する俺。

―そうでしょう、そうでしょう。なんてったって私は…そりゃ、そんなに偉くはありませんでしたけど…―
明らかに、誇らしげな、嬉しそうな声で、
「彼」は続ける。


それから暫く、「彼」の話を聞いて、また、レポートに取組む。
なんて、真面目な大学生なんだろうと、少しだけ、偉ぶってみる。


少し、風が出てきた。これなら涼しく、快適に勉強できそうだ。
「んんっ」
大きく伸びをして、机に向う。
快調、快調。


―なんですか!私の話、殆ど聞流していたくせに!―
上機嫌だった「彼」は、不機嫌になっていた。












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