第1章 生命の資格
魔法使いのための小学校。『CPS』と『ACE』はそこで出会っていた。彼女らは友達だった。
第1章 生命の資格
学校で、2番目だった。
『CPS』という子とは、別に友達というわけではなく、向こうがどのように感じているのかなんてのも、分からなかったが。こう思う。
たぶん向こうは、私のことを気にしてなんかもいない、と。
「……しっとー」
と、テスト返却の際『ACE』は毎度毎度嫉妬してしまっていた。
そう、それは決勝戦で負けて、銀メダルであるような嫉妬感であった。
と、『ACE』は考えていた。
「べつにだからどうしろってもんでもないけどー……」
小学生の嫉妬である。
そして別に『どうこう』できるわけではない。所詮JSだ。そして『ACE』にはそれをしないだけの分別があった。
というよりそんなに親しいというわけでもなかった。
廊下にある掲示板。そこには今回のテストの結果が貼り出されていた。上位者の名前。そしてその総得点。その紙をじーっと、見つめているのが『ACE』である。
「べつに、2番目でもいいんですけどねー……」
と、呟きながら自分の教室へと戻る。ぴかぴかに磨かれた床、真っ白な壁。やけに衛生的な学校だ。小学生をこんな無菌室みたいなところで育ててどうしようというのか。さらにテストの点数を廊下に掲示してどうしようというのか。
別にこの無菌室で一番になって、そして首席で卒業――なんてそんな事を目論んでいるわけではない。どうにか公務員になって、普通に普通に普通に暮らしていければそれでいいんだ。波乱万丈お断り! 平穏無事に暮らしてやる!
……無菌室なんて実験動物の気分にさせられる。その優劣をつけるとは――そうか。この学校はある種の『ふるい』! 『戦う部隊』へと私たちを誘う『ふるい』なのだ! 成績うんたら位以下は無理矢理徴兵されて、そして『魔法行』のための……
……『CPS』の教室に行ってみよう。
『ACE』が妄想を中断して『CPS』の教室に行ったのは、本当にただの偶然であり気まぐれである。しいて言えば嫉妬感が彼女を突き動かしたとも言える。もしくは憧れか。
ちょーっと会ってみたいかも! そんな軽いノリだ。
「えーっと……『CPS』、ちゃん。だよね?」
「……ほぇ?」
ほぇ、とは。
なかなか天然な子だな、と『ACE』は『CPS』の第一印象をそう見た。
「……どしたの? えっと……」
「2組の『ACE』。いやいや、テストの結果1位だったでしょ? どんな人かなーって思って。別に他意はないよ?」
「1位……? 鯛?」
魚じゃない。
本当に天然なんだな……と思った。マンガやらアニメやらで『天然キャラ』なんてのを見聞きしたりすることはあったが、実際に現実で見るとは、当時の『ACE』は思ってもみなかった。
「そうそう。いやーすごいね『CPS』ちゃん。ほかをぶっちぎって、ダントツの1位だったじゃん!」
ほか、には『ACE』も含まれるのだが、別に彼女はイヤミとしてそれを言ったわけではない。『ACE』と数十点差。1位と2位の間は、なかなかに大きかった。
「え? そうだったの? 私、1位!? え、ほんとに!? やったぁ!」
おおっと、ただの天然だと思っていたが、思ったよりも喜びようが激しい。感情豊かなのだな。とても楽しげな人だなぁ。
「ええっ!? 知らなかったの!?」
「えっと……私、そーゆうのあんまり気にしないから……というか、授業ちゃんと聞いているなら100点くらい取れるでしょ?」
1位であることを知らなかった上に、100点なんて簡単だという、余裕の発言である。
……余裕過ぎて逆にむかつく。
というより小学生で頭がいい奴はたいていそうである。いわゆる天才なのだろうか。特に何もしていなくても、テストで100点以外はありえないととぼけた顔をする者だ。ちなみに本人には基本的に悪気はないのである。
その言葉に少しだけ絶句する『ACE』。
「……つまり、そんなには勉強してないってこと?」
「うん。家ではマンガ読んでるから」
「へぇー。塾に行って必死こいて成績上げようとしている人もいるのに、学年1位は言うこと違うね。何のマンガ?」
「えーっとね。火の鳥。手塚治虫の」
「えー……あれ、グロくない?」
「えー? そうかな? 魔法的で結構面白いと思うけどな。生命の神秘、っていうか……」
「輪廻転生……ううう。う、うっく、うう……」
「ど、どうしたの『ACE』ちゃん! 急に泣いたりなんかして……」
ぽろぽろと涙を流す『ACE』。
「だって、死んじゃったら、何も考えられなくなって、ミジンコとか、よくわかんない虫とかになっちゃうじゃん……うあああああ、うああああ……」
……みっともなく泣いてしまったのは、本当に計算違いというか、その場の流れというか。単純な『ACE』の感情である。
泣いている『ACE』の肩をぽんぽん、とたたく『CPS』
「大丈夫だよ。ミジンコでも、へんな虫でも、楽しいと思うよ! 誰でも死んじゃうかもしれないけど、死んだ後でも楽しめれば、それでいいんだよ!」
『CPS』も、涙ぐみながらそう言った。
……彼女らはとても、泣き虫だった。感情豊かで、マンガの内容を思い出すだけで情緒不安定に陥りやすく、すぐに涙を零してしまう。そんな彼女らが親友になるのには、少しの時間もかからなかった。出会って数秒でこれである。彼女たちはときにトラブルを起こし、そしてライバルになった。テストの結果を競うようになって、そして魔法に関して、ほぼ同等のレベルにまで成長した。
しかしまったく、小学生を超えることはしなかった。危険な魔法は使わなかったし、それを使おうなどという、いわゆる悪巧みなんてものはまったくしなかった。
基本的に、純粋だったのだ。二人とも。
……少なくとも、この時点では。
この世界では。
第1章・終
第2章へ続く