第17話:エスアリアの魔法講座その1
「ではカナリア、まず始めに質問ですが魔法使いにとって絶対に必要不可欠な才能とは何か判りますか?」
「えっ…えっとそれは…魔力のコントロールですか?」
少し自信無さげな答え。
その答えも確かに間違っては居ない。
幾千、幾万とも在ると言える数多の魔法体系。
それらの根本は魔力と分類される力の行使であり、操る事なのだから。
しかし今この問いに対して言えば…
「いいえ、ソレは正解とは言えません。確かにソレも必須に近い技能ですが絶対と言う訳ではありません」
そう、魔力操作を必要としないモノも在る以上正解とはいえなくなる。
まぁもっともソレは魔法と言って良いのか議論が分かれそうな例外的なモノだがな。
「正解は魔力を引き出す才能。魔力の無い者には魔法も魔法具も使えませんからね」
「えっ…でもそんな事…」
「そうですね、魔力とはその大きさに違いがあっても誰もが持つもの。そう言いたいのでしょう?ですがソレは正しい認識ではありません。現に『魔力無し』と言う言葉もありますしね」
「『魔力無し』…ですか?」
どうやらカナリアには初めて聞く言葉らしい。
まぁそれも当然か。
なにせ事例が少ない上に興味を持つ者は更に少ない。
魔法を特別視する者たちの中にある種の侮称として使っている者がいるくらい。
まぁエスアリアにとっては単なる知識の一角程度でそれ以上でもそれ以下でも無いであろうが。
「ええ魔力を全く発現出来ぬ者を総じてそう呼んでいるのです。ところでカナリアは魔力とは一体何なのか調べた事はありますか?」
「えっとその…すみません」
再度の問いかけに俯き気味のカナリア。
内心は期待に応えられていないのかとか、無知を責められているとか、そんな感じかもしれない。
「いえ、良いのですよそう気にせずとも。教える機会もありませんでしたし普通では気にする者も少ない項目でしょうですからね。まぁいつか機会があれば調べてみては? なかなかに奥深く面白い世界ですか
ら」
そんなカナリアの様子に気にする必要は無いとエスアリア。
傍目に凄く微笑ましく映る親子な風景。
ただ傍目から見ているからこそなんとなく判るが…
伝わってないぞとエスアリアにはちょっと言いたいかな。
(…まぁフォローは後でも良いか)
エスアリアの眼差しに全く気づく事無く落ち込みっ放しのカナリアの様子に、それでも話の腰を今あえてココで折る必要も無いだろうと静観を決め込む。
とは言ってもその空気もそう長くは続かなかったが…
「今日の所はジルコニアの…『魔力無し』についてですね。では始めに魔力とは一体何なのか、どこから生まれ出る力なのかになりますが…その答えは魂からとなります…」
エスアリアの語り調が説明…否、むしろ講義と称すべきか。
そんな感じの独特の硬さを感じさせるようになる。
「…………」
そんな空気をカナリアもまた感じ取ったのか、どことなく沈んだ感じのうつ向き気味だった顔を上げ、真っ直ぐな眼差しにての聞く態度へとその身と心を入れ替えさせていた。
「魔力とは何なのか? その根本的な答えを表すとするなら生命力…魂そのものの持つ力と言う答えが最も正解に近いでしょう。それゆえに生在る全ての者は魔力をその身に宿しておるとされ、例外的存在として
生なき生物であるアンデッドが居るくらいでしょうか」
「アンデットも生物…なのですか?」
エスアリアの語りに違和感でも感じたのか、カナリアは微妙な表情にて語られた言葉をそのまま口でなぞるように呟いてみている。
「まぁなんだ、生物と生命はこの際でははっきりと別物となるんだ。生物とは確固たる意思を持ち己が考えの元行動を起せるものの事を言うんだ。まぁアンデッドの中でも極一部のそれこそ最高位に位置するよ
うな高位存在がそこに含まれる程度だけどな」
「えぇその通りですジルコニア。そして生命とは魂を宿した命を持つものの総称となります。魂か命のどちらかを亡くし、結果どちらかのみで現世へと干渉し続ける存在がアンデッドと呼ばれるゆえにこちらに
は該当しません」
そう俺の説明をエスアリアが引き継いで最後まで語りきるが、はたしてカナリアに理解できたか。
この議題に関しては今もまだ異を唱えている学者も多く居るほどには確固とした理論でもないのだ。
「とは言え、今はまだそれほど深く考える必要もないでしょう。そういう考えがあるとだけを覚えておくだけで今は十分でしょう」
「まぁそうだな。それで話を戻すが魔力が生命力である以上生きている以上その力を持っていない者などは居ない、例外無くな。それこそ『魔力無し』とか関係なくな」
「えっでも…あれ?」
俺の言葉にカナリアが首を傾げる。
言い回しに引っかかりを感じと言う風に。
「そうだ、それだと確かに『魔力無し』と言うのはおかしい、魔力は確かに持っているのだからな」
そしてその感じたであろう引っ掛かりを正確に言葉として表してやる。
「だから『魔力無し』と言うのは正確な表現ではない。魔力を確かに持っていて、実際それも証明されている。正しく言い表すなら彼らは『魔力を引き出せない者』と表すべきだろうな」
「ええ、そしてその原因の一つが今のジルコニアの症状でもあるのです」
肯定と共に続けられたエスアリアの言葉に外れかけた視線が再びこちらの元に戻ってくる。
目に見えるほどの驚きを見せながら。
「まぁそう驚く事もないだろう。俺がソウだってのは最初から言ってた事なんだしよ」
そんなカナリアの反応に苦笑交じりの笑みで応えてやる。
「魔力、生命力を魂から引き出す為にはその器たる命から汲み出さねばならないんだがな、それぞれが持つ属性が違っている場合それが上手くいかない事があるんだ」
「命と魂の属性…ですか?」
続ける説明に困惑の表情。
少し話しを急ぎ過ぎたか?
「ええそうです…とは言いましても、そう滅多にある事ではないのですけどね。本来であれば魂の受け皿として命と言う器が作られ、それに合わせる様にして肉体もまた適応していくと言う感じで、自然と属性
は統一されるものなのですから。ですから普通なら分けて考えたりはしないものなのです。それはそれで当たり前の筈の事なのですからね」
付け加えられるエスアリアの言葉を聴いて、さらにカナリアの困惑は深まっていくか。
まぁ当然と言えば当然だろうな。
ココまでの説明、『魔力無し』を完全否定するような話だ。
「まっなんにしたって例外は存在すると言うことだな」
「普通はそれぞれの属性など意識しないものですからね。それを考え、考査しようとするのは生命の根底を探ろうとする一部の錬金術師ぐらいのものでしょうし」
「まぁそうだなー。あっそれで今回の俺の場合は後天的な例の一つだな。まぁこんな事が可能だったなんて思いつきもしなかったことだが」
そう、あまりに突拍子もない体験をしているのは今の自分は。
本来の形でない肉体と命に魂を入れられた現状。
しかも対極と言って良いほどに属性のかけ離れいてるであろうソコにだ。
無茶苦茶にも程がある。
こんな状態で属性がそろうはずなどあり得ない。
実際欠片も魔力を汲み取れはしなかったわけだし。
「ジルちゃん…どうなっちゃったんですか?」
「ちょっとした事故みたいなもんだ。まっ死に掛けたところを救われた結果としては安いところじゃねぇか」
心配そうに見つめてくるカナリアにそう笑って見せてやる。
詳しいことは教える訳にはいかないだろうが、心配ない程度には軽く流せて見せてやる必要はあるだろう。
魔法使いを志す者からしてみれば魔力を失うと言う事情はずいぶんと重い枷に感じられるであろうだから。
だから笑って見せてやる必要がある。
たいした事じゃない。
気にする必要もない。
と、そんな風に。
「まっ知識だけなら無駄にあるからな、実技は無理でも十分カナリアの先生にはなってやれるさ」
「…ハイよろしくおねがいします。ジルちゃん先生」
そんな俺の気持ちを感じ取ってくれたのか、カナリアもまた少しふざけた感じでの答えを返してくれた。
そんな風に気づいてくれられる子だ。
まだある若干のシコリも共にすごしている内すぐに解けるだろう。
まぁ向かい合えてはいるんだ。
へたに急ぐ必要なんてない。
のんびりゆっくり、歩み寄るのはこれからでも十分。
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