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ポジティブ・ミステリーズ〜俺とポスターと国語の法則〜
作:秋乃時雨


 「これ面白そうじゃん!応募しようよ?」
 愛くるしさ醸し出す少し大人びた中背の美少女、逆神優(ゆたか)が一枚のポスターを指差しながら言った。
 第一回・市内高校生創作コンテスト。
 高校生を対象とした短編小説、俳句、短歌、現代詩のコンクールだ、優はそれを玩具コーナーで自分の欲しい物を見つけた幼児のように輝く鋭い眼光で見ていた。
 「あのな・・・現国の成績二のお前がどうやって俳句だの短歌だの作くる気だ?」
 俺は呆れて言った。
 前回の現国のテスト、優は三十点ピッタリの赤点ギリギリライン、三十点配分の漢字以外全滅だった。それ故に俺には無謀としか思えなかった。
 「そんなの関係ないよ!それに僕が応募するのは現代詩だよ?」
 「だったら聞くが。お前、現代詩が何か説明できるか?」
 優は何も言えなくなった。やはりまた衝動で選んだなこいつ。
 「それでしたら短編小説の部に応募したらどうでしょうか、これなら優ちゃんでも作れると思います」
 松原敬(きょう)が俺の後ろからヒョコッと音を立て現れた。音は勝手な俺の勝手な妄想だが敬にはそれが似合う小柄で小動物みたいな容姿の美少女だ。
 「四百字詰め原稿用紙十枚か・・・確かに優でも作れそうだな」
 優は水を得た魚のよう明るくなり再び輝く鋭い眼光を向ける、今度はポスター相手ではなく俺に。
 俺にはわかった、敬は分かっていないが俺には分かる、次に優が言う言葉を。
 「決まり!皆で応募しよ。ジンジンはアクション、キョーは純愛、ぼくはミステリー!」
 「おい、勝手に決めるな!」
 「駄目だよ、拒否権ないからね」
 可愛くも意地悪な笑顔で俺を見る、小悪魔か貴様は!
そして急に腕を掴み強引に引っ張り歩き出す。
 「優!何処に行く気だ!?」
 「決まってるじゃん、文芸部に原稿用紙貰いに行くんだよ」
 俺は呆れた、完膚無きまでに呆れた。目眩までした。
 強引に引っ張る優を止めた、何で止めるかと非難の目線を向けるが俺は気にせず少々声を荒げて言った。
 「文芸部無いだろうがうちの高校には!」
 「だった作る!」


 六畳半の部屋には薄く黄色に変色した二枚の紙と歩くだけで足跡が残るほど積もった埃しかなかった、付け加えて明かりの付かない蛍光灯と古びたカーテン。
 机や椅子はない、跡形もなく教師達が撤去した旧体育教官室は殺風景、埃には椅子や机、棚やテレビといった家具の跡は残っていない。
 「ゴーストタウンの一角か此処は・・・・・・」
 汚れすぎ荒れすぎ。二、三年使ってないだけで、どうして何十年も使われてないゴーストタウンの比較的綺麗(それでも汚い)な場所と化しているのか。しかも汚れた二枚の内一枚は『喫煙OK』。健康法はどうした。
 「何か出そうで怖いです・・・・・・」
 隣にいた敬が俺の腕を掴みながら言った、優はその発言に同感らしくもう片方の腕を掴んでいる。何せこの二人は立ったまま気絶してしまうほどの怖がりだからだ。
 「物陰からゾンビが飛び出して来そうだよ(優)」
 「おい、物陰ないだろ(俺)」
 「地面の穴からゾンビが沸いて出そうです(敬)」
 「穴もないから!(俺)」
 「天井を打ち破ってゾンビが雨の様に」
 「窓を突き破ってゾンビが流れ込んできたり」
 「ここ最上階だし上コンクリ・・・ってそれ以前に何で全部ゾンビなんだよ!」
 「わぁー何だろこの紙?」
 「喫煙を勧めるポスターの様です」
 「喫煙は駄目だよ、体に悪いから」
 「喫煙は悪いことですよね仁君?」
 笑顔で話し掛けてくる二人に一言言いたい。
 俺の発言無視か!
 「ねーねー!何だろこの紙」
 優が指差している紙を見た俺は一瞬目眩がした、その紙には無数の漢字が書いているからだ。漢文か否、これは電波系が書いた大して意味のない漢字の座列だ。

 甘栗(あまぐり)日柿(ひがき)明石(あかし)人骨(じんこつ)吾妻(あずま)錦絵(にしきえ)伊藤(いとう)坦庵(たんあん)負幸物(おいさちのもの)赤間(あかま)神宮(じんぐう)青矢柄(あおやがら)←分かった人良い事あるよ?ヒントは歌!

 「電波だ!これを作った人絶対に電波だよ!」
 「最近噂になっている電波系という奴ですね!」
 嬉しそうに言う優、隣で何気にワクワクとかドキドキとかそう言った感情が篭った目で敬も見ている。
 “←分かった人良い事あるよ?”の“良い事あるよ?”に心を奪われている二人を置いて早々に部屋から大急ぎで逃げ出したくなったと言うより逃げ出している。
 「ぐはぁっ!?」
 当然の如く二人は俺の逃走を許す筈もなく、何時の間にか結んでおいたロープで俺の足を力一杯引き、俺はタイルの廊下に顔面からダイブした。
 「逃しませんよ、仁君」
 笑顔で俺を手繰り寄せる敬、この上なく恐ろしい。
 「ジンジンもぼくと一緒に謎を解くんだから、絶対に逃さないからね?」
 俺はそれ以前に二人に言いたいことがあった。
 保健室言っていい?
 今俺の鼻からはどす黒い血を流れている。


 さっきまで何もなかった文芸部部室に椅子と机が置かれている、保健室に行くついでに廃材置き場から盗んできた。
「漢字は二十六文字、平仮名に直すと四十七文字か・・・・・・」
 鼻にティッシュを詰めながら喋っている所為か微妙に鼻声になっている。そっきまで流れていたどす黒い鼻血は、今は完全に止まっている。
 「うぅ〜〜」
隣で優は唸っている、ピタクールを額に貼りながら。
知恵熱が出るほど現国が苦手な優にはさぞかし辛い作業だろう。
 「やっぱり漢字に意味があるんでしょうか?」
 敬はルイズリーフに書いた漢字と睨めっこしながら、時折閃いては並び替えたり、書き換えたりしている。
 「あぁーもぉー!分かんないよこんなの!」
 「優ちゃん落ち着いて!」
 しまいに優は癇癪まで起こし始め、敬はそれを止めようとして優を羽交い絞めにする。
 俺は溜息をつき一言。
 「そろそろ潮時か・・・・・・」
 「へ?」
 二人は気の抜けた声でこちらを見る。
 「ヒントを教えてやる、いろは歌だ」
 いろは歌というヒントに何か閃いた敬と。
 「いろは歌って何?」
 と俺の予想どうり、いろは歌を知らない優。
 「四十七字の仮名を全部使った七五調の手習い歌だ。聞いた事あるだろ?いろはにほへとちりぬるを、だ」
 分かったと言い、はしゃぎながら二人は協力してルイズリーフに答えを考えを書き始める。
 数分後、一番初めに書き終わったのは敬だった。
 「え〜とですね、まず全部平仮名に直していろは歌の並びに直して」
 「語尾の四文字が答えになるはず」

 あまぐりひがきあかしじん
 こつあずまにしきえおい
 さちのものいとうたんあん
 あかまじんぐうあおやがら 

 「好い線だが違う。四行読みじゃなく七行読みだ」
 「え?でも教科書だったら四行読みだよ」
 「そうですよ、七行読み何て聞いたことありません」
 「いろは歌は元々七行読みだ。あとから四行読みに変わったんだ、そっちの方が分かり易いからな」
 納得が行かない顔をする二人。仕方ない事だ、普通に生活していたら七行読みのいろは歌を目にすることも聞くこともない。
 
 あまぐりひがき
 あかしじんこつ
 あずまにしきえ
 いとうたんあん
 おいさちのもの
 あかまじんぐう
 あおやがら
 
 「喫煙の裏?(優)」
 「とすると、あれだな(俺)」
 「あれですね(敬)」
 『喫煙OK』と書かれたポスターを俺、優、敬は同時に振り向き見た、微妙に膨らんでいる。それと何故かセメントで貼り付けて絶対に剥がせない様になっている。
 「今思えば物凄く怪しいぞ(俺)」
 「ぼくもそう思う、何で気付かなかったんだろ?(優)」
 「灯台下暗し、というやつですね(敬)」
 取り合えず剥がす事にした。
 「カッターあるか?」
 「ぼく持ってるよ、ほら!」
 「わっ!馬鹿投げるな!」
 筆箱から出し投げて渡す優を叱りつつも、セメントで固定されていない部分を切り剥がし中身を確かめる。
 出て来たのは日記帳だった、酷く痛んでいる。
 「山本弥(やまもとわたる)、誰だ?」
 「それより中身見ようよ!」
 一ページ目を開いて見てみた。
 
 三月十四日 今日も奴らに虐められた、もっと僕に金と権力さえあれば、奴らを徹底的に拷問してやれるのに。
 
 三月十五日 苦心の思い出でありとあらゆる呪術の良い所だけを使った最凶の藁人形が出来た、五寸首にも、金槌にも色々と呪術を取り入れてみた。
 今晩試してみよう。

 三月十六日 奴らの一人が足に大怪我をした。実験成功だ、今度は誰を呪ってやろうか、奴らの髪も写真も所持品も全て手元にある、さあ、誰にしようか。
 
三月十七日 一度に二人呪ってみた、見事に呪いは成功した、奴らは怯えているだが足りないもっともっと苦しめ怯えろ!発狂するまで俺は続けてやる!

 三月十八日 呪いを止める事にした、好きな人が出来たからだ。
 一応両思いで今度デートに行く。
 だから呪いを止める、けど僕の様に苦しんでいる人のために最凶の藁人形の作り方をここに残しておく事にした。五寸釘はノートの一番後ろ貼ってある。
 注意書き・五寸釘だけでも強力な呪いが出来るから注意、効果は即効性がある為気をつけてね。

 「これが呪いの五寸釘・・・・・・」
 手に持った途端、急に悪寒を感じ肩が重くなった。
 やばい、これ本物だ!
 「ちょっとだけ試してみよ!」
 俺の手から五寸釘を奪い取った優、手から五寸釘が無くなった途端、さっきまで感じていた悪寒やらが消えた。
 それより試すって何に?
敬はどこからか地球儀を持って来て、机の上に置い
た、優は大きく振り被ってダーツを投げる様に五寸釘を投げた。
 全身に再び悪寒を感じた、五寸釘の効力が本物なら刺さり所で大惨事になる。俺は飛んだ、五寸釘めがけて。
 しかし五寸釘は見事に地球儀に刺さった。
 「何処だ!何処に刺さったんだ!」
 「やったー!太平洋のど真ん中命中!」
 優と敬は喜んでいる、俺はふ〜と胸を撫で下ろす。
 太平洋なら大丈夫だろう、どうせ呪いなんて大雨と津波とか来るくらいだろうし。
 『緊急速報です!太平洋に巨大な隕石が衝突した為大津波が発生しました。校内に残っている生徒は至急高台に非難してください!』
 


 
 














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