2-84 仲間
―1―
結局、俺は何も出来なかった。空回りしてるだけだ。毎回、毎回、強くなろうと思ったのに、結局誰かに助けられて……情けない限りだ。
「ラン殿、ファー様とは会話出来ましたかな」
地下から上がってきたお爺ちゃん猫がこちらに話しかけてくる。何も聞けなかったし、酷いことしか言えなかった。俺自身の身勝手さを思い出して……最低の気分になる。
『聞いてもよいだろうか?』
俺は何が起こったかを聞かなければならない。
「ふむ」
お爺ちゃん猫が自分のひげをいじっている。
「とりあえず里の者は無事ですな」
そっかー。いや、ホント、それは良かった。
「ファー様やラン殿が私たちの逃げる時間を稼いでくださったのでの」
少しでも俺が役に立っていたのなら、嬉しいんだけどな。
『その後、何があったのだろうか? あの魔族は、レッドカノンはどうなったのだろうか?』
お爺ちゃん猫が首を振る。
「私どもが戻ってきた時には倒れたラン殿とファー様が居るだけでして」
そうか……。俺たちは見逃されたのかな。
「ラン殿」
ミカンさんも上がってきたようだ。
「すまぬ。私は何も出来なかった。今回も! 何も出来なかったっ!」
ミカンさんは下を向き、手を強く強く握りしめている。悔しいだろうな。だって8年前の事件もあの女魔族がやったんだろう。ミカンさんの仇じゃん。
『この里を襲ったのは、火のレッドカノンと名乗る女魔族だ。8年前の事件もその女魔族が原因だろう』
魔族か……。
―2―
せっかく8年の歳月を費やして発展させた里が、一瞬で……。悔しいだろうな。
「ふぉふぉふぉ。里はまた発展させれば良いのです。8年で出来たのです。次はもっと早く出来ますぞ」
でもッ! 今度は守護星獣も居ないんだぜ。
「次は、ファー様が居なくても、頼らなくてもすむ里にのう」
お爺ちゃん猫は片眼を開け笑っている。強いな。……そうだよ、俺も、もっと、もっと強くなって、どんな危機的状況でも乗り越えないと。
俺はずっと握りしめていた中程から折れている風槍レッドアイを見る。そうだよな。って、これ直るのかな……いや『治る』かな。とりあえずはホワイトさんのトコに行こうか。
さあ、どうしようかな。と、とりあえず渡された卵をしまっておかないとな。ショルダーバッグの中に入れて置くか。
「ラン殿、あなたはあなたの旅を続けなされ。この里は私たちが復興させますでな。してミカンや」
「……」
ミカンさんは答えない。
「ミカンや、ミカンはミカンのやりたいようにしなさい」
お爺ちゃん猫の優しい言葉。
「私は、私はっ! 仇を討ちたい!」
ミカンさんが顔を上げる。そうだよな。俺もだよ。
「まずは力を付けなさい」
ミカンさんが頷く。というか俺もコクコクと頷いた。となると……やり残していた世界樹攻略だよなぁ。
ダンジョンで己を鍛える、うん、間違いない。
「ラン殿、ラン殿はこの後どうされるのだ?」
ミカンさんの言葉。俺は手に持っている折れた赤槍を見せる。
『まずはスイロウの里でこの槍を治そうかと。その後は世界樹だ』
ミカンさんは腕を組み、少し考え、
「私も一緒に行っては駄目だろうか?」
と言った。
へ? いや、まぁ、嬉しいけどさ。何で?
「一人よりも二人だと思ってだ。私は今まで独りで戦ってきた。しかし、それでは限界があると思うのだ。前衛の私に後衛のラン殿、バランスは悪くないと思うが」
しかしソロの限界値を確かめるってのも、ありっちゃぁ、ありなんだよなぁ。でも、せっかくの申し出だもんなぁ。
よし! 決めたッ!
『よろしく頼む』
俺の言葉にミカンさんが頷く。そして、ミカンさんが握手をしようと俺に手を伸ばす。俺も手を伸ばそうとして……長さが足りないッ! それに気付いたミカンさんがこちらに近づいて俺の手を握ってくれる。しぇいくはんど、しぇいくはんど。というか、肉球があるんだね。人の手に近いのに肉球ががが。……て、はぁ、格好つかないなぁ。
さて、どうしようか。このまま転移で戻るか、もう少しこの場に残るか。
ミカンさんにも準備が……って、この崩壊して何も無い里で何の準備が出来るんだって話しだしなぁ。
って、ミカンさんがこちらを見ている……照れるな。
「ラン殿、パーティ申請をお願いしたい」
あ、え、うん、はい、そうですよね。って、俺ってば、パーティ申請をしたことが無いぞ。どうやってやるんだ?
俺が困っているとミカンさんが教えてくれた。
パーティを組みたい相手に線を延ばすことをイメージするとパーティ申請が送れるそうな。慣れない内はステータスプレートを相手に向けて、その上に指を置き、相手側に滑らせるようにすると上手くいくとか。しかも、これ、最初に冒険者ギルドで教えて貰える方法だとか……俺、教えて貰ってないんですけど。というか、これ、俺、出来ないよね。
仕方ない。鑑定と同じように、ミカンさんから伸びている線を指定して、と。ここで調べると鑑定になっちゃうから、仲間って感じになるように……。お、何だか俺から線が延びてミカンさんの方へ。
【ミカンさんがパーティに加入しました】
よし、ちゃんとシステムメッセージが表示されたな。
それに伴い、ミカンさんからオーラのようなモノが立ち上がる。よし、上手く出来た。
さて、と。
『すぐに動くのか?』
「ああ、行こう」
ミカンさんが頷く。よし、じゃあ、転移するか。
『では、まずはスイロウの里へ』
俺がそう言った瞬間、これからどうなるのかを悟ったミカンさんが声を上げる。
「ちょ、ま」
――《転移》――
空高くへと舞い上がる。
「お」
ある程度まで上昇したところで一旦止まる。これ、空中で固定されているのか動こうとしても動けないよなぁ。
「た」
俺は視線をスイロウの里に向ける。
「す」
そのまま高速での落下が始まる。
「け」
最初の頃は着地に浮遊スキルを使っていたんだよなぁ。今は着地時に不思議フィールドに守られているのを知っているから使いはしないけどさ。
そしてスイロウの里近くに着地。着地というか着弾だな。
見るとミカンさんが大きく猫目を見開いたまま止まっていた。
「酷い! 心の準備くらいさせてください!」
あ、動き出した。……って、ごめんなさい。次からは気をつけよう。ちゃんと声をかけよう。
こんなことでパーティにヒビを入れるわけにはいかないからなッ!
4月25日追加
と、とりあえず渡された卵をしまっておかないとな。ショルダーバッグの中に入れて置くか。