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夏の終わりの静かな風
作:海田 陽介



友人との再会 1


 その日の夜は久しぶりに地元の友達と会う約束があった。

 その友達とは高校を卒業して以来すっかり連絡が途絶えてしまっていたのだけれど、つい最近になって再び彼と連絡を取り合うようになったのだ。ミクシーという、インターネットを利用としたコミュティサイトを通じて、彼が僕にメールをくれたのが切っ掛けだった。

 彼の名前は大久保彰典という。

 彼は高校の頃、僕なんかよりもずっと勉強のできる優秀な人間だった。彼は高校を卒業すると、福岡にある、国立の、かなり難易度の高い大学に進学した。

 だから、当然彼は今頃エリートになっているのだろうと僕は思い込んでいた。

 ところが、彼とのメールのやりとりをしていくうちにわかったことは、彼が僕と同じでフリーターをしているということだった。彼がフリーターをしているということを知った僕はすごく意外に思って、そのことを尋ねてみたのだけれど、彼がメールで説明してくれたところによると、彼は大学の就職活動の時期に、いわゆるひきこもりのような状態になってしまったらしかった。

 僕たちが就職活動をした時期は、まだまだ日本全体が不景気で、なかなか思うように就職先が決まらない時代だった。

 当然彼もその厳しい時代の洗礼を受けることになった。三十社以上の会社の採用試験を受けて、ひとつも内定をもらうことができなかった。それまで勉強関係で苦労らしい苦労をしたことのなかった彼にとって、それはたぶんはかなり屈辱的なことだったんじゃないかと思う。

 おまけに、彼には両親の期待もあった。彼のお兄さんは彼以上に勉強もスポーツもできるひとで、大阪に本社のある大手の企業でバリバリ働いていた。

 だから、両親は当然のように、次男である彼にも、それと同等か、あるいはそれ以上の結果を彼に求めた。

 でも、彼はなかなかその期待に応えることができなかった。

 三十社以上の会社に落とされてからも彼は諦めずに就職活動を続けたけれど、なかなか事体は好転しなかった。

 そのうちに彼はどんどん自分に自信がもてなくなっていった。自分という人間は社会から必要とされていないんじゃなかいと思うようになっていった。

 暗い心はさらに暗い思いを呼び込み、ついに五十社目の採用試験に落ちたところで、彼は何もかもが嫌になってしまった。就職活動することも止め、必要のない限り、彼はほとんど住んでいたアパートから外にでなくなった。

 ときおり両親から就職活動の進捗に関して電話がかかってきたけれど、そんな電話がかかってくるたびに、彼は激しく両親のことをののしった。自分がこんなふうになってしまったのはお前たちのせいだ、と、彼は罵倒した。そんな言葉を口にしたのは彼としても初めてのことだった。

 父親も母親も自分のことなんて愛していないのだという深い猜疑心が、そのときの彼の心のなかには広がっていた。

 必要な試験だけは受けてどうにか大学だけは卒業したけれど、彼は大学を卒業してからの日々をずっとアパートに引きこもって過ごした。

 誰とも会わなかったし、誰とも話さなかった。両親が電話をかけてきても、全部無視した。両親が生活費を振り込んでくれていたので、飢え死する心配はなかった。

 そのようにして半年あまりの歳月が流れた。

 やがて心配になった両親が彼を宮崎まで連れ戻しにきた。彼は抵抗したけれど、父親に半ば強引に説得され、宮崎の実家に帰った。実家に帰ってからもしばらくの間、彼の引きこもりの生活は続いた。

 でも、長い時間を両親と過ごすことで、次第に硬直していた彼の心もゆっくりともとに戻っていった。まず、両親が彼に謝罪の言葉を述べたことが大きかった。

 自分たちはこれまでお前に過度な期待を持ちすぎた、これからはお前の好きなように生きればいいと父親はいった。生活のことは面倒をみてやるし、無理に就職しなくてもいいとまで父親は言ってくれた。

 その言葉のおかげで、彼はだいぶ気持ちが楽になった。もちろん、完全に回復したというわけではなかったけれど、それでも以前よりはだいぶマシになったのは確かだった。かつてのように思いつめて死にたい等とは思わなくなった。

 中学時代や、高校時代の友達と再び連絡を取り合うようになり、遊びにいったりするようになったのも、彼の心を早く回復させるのに手伝った。

 そのようにして、彼はまた次第に少しずつ外の世界にでていけるようになった。半年程前からは家の近くのコンビニでアルバイトもはじめ、そのアルバイトをする傍ら、税理士になるための勉強もはじめていると彼はメールのなかで語っていた。

 僕は彼とメールのやりとりをしていくなかで、僕の知らないところで、彼がそんなにも暗く、辛い時期を過ごしていたことに、まず驚ろかされた。彼は高校の頃どちらかというと明るくて、冗談なんかもたくさん言ったりする方だったからだ。

 その頃彼を思うと、彼がひきこりなってしまうとはとても思えなかった。そしてそんな明るかった彼が、ひきこもりになってしまうより他なかった程の厳しい現実を、僕は考えた。生きるということは、僕が考えているよりもずっと難しく、ときに試練に満ちているようだった。












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