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代打の金田君
作者:でんでろ3
 ついにチャンスが巡ってきた。以前から目をかけてくれていた編集者の磯崎から電話がかかってきたのだ。
「どうも穴が開きそうなんだ。官能小説なんだが書けるかな」
「書けます。書けます。もう大得意です」
金田は電話を握りしめて、何度も首を大きく縦に振った。

 編集部なんて汚いものと相場は決まっているが、磯崎の机は特に汚い。そのくせパソコンの壁紙は妻と愛娘の写真だったりする。そんな暇があったら少しは片付けろよ、と思いはするが言わない金田であった。

 磯崎の隣のデスクの男は出ていたので、そこに金田が座ることになった。

「じゃあ、見せてもらおうか」
「はいっ」
金田は、いそいそと原稿用紙を磯崎に渡した。



『快感が圭子の躰を駆け巡る。脊髄を、大脳を、間脳を、刺激する。』



「ひょっとして、これは……?」
「はいっ、間脳小説です」

磯崎は人差し指で、ひょいひょいと金田を呼び寄せた。金田が頭を差し出すと原稿用紙で叩かれた。

「これだけじゃないよな。他にもあるんだろ」
「はいっ、これは軽いつかみでして……」
「つかみは要らないんだよ!」

 金田は次の原稿用紙を取り出した。
「これは、昼下がりに若妻と義父が……」
「説明はいい。読ませてもらおう」



『源之助は、そのみずみずしい柔肌をまさぐった。
 「ああっ、お義父さん。そこは違うわ」
 「おおっ、こりゃ、いかんのう」』



金田は黙って頭を差し出した。磯崎は一発ゲンコツを喰らわせた。

「ダジャレは要らないんだ」
「分かってますって、濡れ場でしょ」



『少年は、その熟れた肉体にサンオイルを塗り延ばしていった。そして、艶やかな胸の谷間へと手を進める。
 「ここに塗ってもいいの?」
 「塗れば」』



磯崎は金田の髪の毛を、むんずと掴むと、頭突きを喰らわせた。

「分かってますって、セックスでしょ」
金田はカバンに手を入れた。
「念のために言っておくが、サックスとか、シックスとか、ソックスとかいうのは、出さないよな」
金田の動きがピタリと止まった。
「は……ははは……。僕がそんなの出すわけないじゃないですか」
ひきつった笑いを浮かべて、金田は手を止めた。そして、のろのろと別の原稿を取り出した。
「これは、少年がゴールデンウィークに出かけた別荘地で、年上の人妻に手ほどきを受けるという話です」



『ひとみは、けだるそうに尋ねた。
 「ねぇ、今日が何の日か知ってる?」
 「はぁ、端午の節句っす」』



磯崎は机の引き出しからライターとヘアスプレーを取り出し、ライターに火をつけるとヘアスプレーを金田に向けて噴射した。火炎が金田を襲い、髪の毛と眉毛がアフロになった。

「これで全部か?」
「セックスシーンじゃないんですけど、カナダから日本にやって来た少女が、観衆の前で恥辱にまみれるという話があります」
「あるんじゃねぇか。見せてみろ」



『何百人という男女の視線が容赦なくサラを襲った。足が震え、立っているのがやっとだった。やがてイントロが流れ、サラは歌いだした。
 「カーン」
 「ノウ!」
 「いやー、残念でしたね。鐘1つでした」』



「のど自慢大会だったという落ちなんですが……」
「官能小説うんぬん以前に、オチを説明するようになったら終わりだ」
磯崎は、もはや体罰する気力を失っていた。

「あとは、もう、獣姦ものしかないんですが……」
「もう、こうなったら、何でも読んでやろうじゃないの」



『何か月も男だけの集団の中に隔離されるのだ。彼らは、様々なものを持ち込んだ。中でも鳥が良いという話だ。
 「それはサブの鶏で、こいつはヤスのチャボで、こっちがカンの鵜だ」』



磯崎は、しばらく震えていたが、突如、暴れだした。
「バカヤロー! てめぇ! 俺はベトナム帰りの石油王だーっ!」
訳の分からないことを叫びながら磯崎は暴れまわった。編集部は壊滅状態となって……、

    ……原稿を完納できませんでしたとさ。

                            (おしまい)
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