受け継がれる精神Ⅶ
「回収した時、既にライアスさんは亡くなっていました」
「……あの傷なら、そうだろうね」
喪に服しているかのような、辛気臭い顔をしながらも、カイトの言葉には強い意思が籠っていた。
「やるべき事は、分かりましたか?」
「遅すぎたけどね、でも……俺はようやく気付けたんだと思う」
手に握った狂魂槌を眺めながら、カイトは語り始める。
「結局俺は、逃げようとしていただけなんだよ。守りきれなかった、救えなかった多くの人。ブラストさんの託してくれた希望。それらから目を背けようとしていた」
カイトは言い、シアンに目を向けた。「死んだ方が楽なんていうのは、当たり前だったんだ」
「やっと気付いてくれたのですね」
「それを意図してあんな事をやらせていたの?」
笑顔のまま頷き、シアンはそれまで厳しくしていた声色を変える。
「ニオさんにも、ライアスさんにも頼みました。このままカイトがいなくなれば、この戦争に勝てないと思いましたので」
「はは、シアンらしいね」
「――それと、わたしもカイトが心配だったので」
顔を赤らめたシアンは背を向け、小さな声で呟いた。
「シアン、優しいよね」
「そうでもないですよ。ただ自分勝手なだけです」
「それは俺も同じだよ」
「えっ」
「俺、気付かされたんだよ。戦争を止めるだなんて言ってたけど、実際は大切な人達を守りたい、ただそれだけを願っていたんだって」
「大切な人……ですか」
「うん。ニオやシアン、水の国で出会った皆を守りたいんだ。だから、人を助ける為だったら、命令を破るかもしれないね」
命令違反をする、などと言われたにもかかわらず、シアンは満面の笑みを浮かべて笑った。
「それでいいのですよ。やっぱり、カイトさんはそうやって周囲に気兼ねなく、真っ直ぐな正義を掲げている時のほうが格好いいですよ」
シアンが抱いていた不満とは、詰まる所ここに掛かっている。
ただ強いだけの戦力ならば代替が利くが、強い上に特殊な精神性を持っているからこそ、シアンは見捨てようとはしなかった。
「……魔物の気配を感じます。カイトは防御の為に出てください」
「おう、任せておいてよ!」
悩みを断ち切ったカイトは健やかな顔で親指を立てると、そのまま走り去っていった。
「ライアスさん、ありがとうございます」
誰もいない一室で、シアンはそう呟いた。