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 俺がエルシュタット三世を殴り飛ばしたことで、悪霊の王である残りの三人は大きく動揺していた。

 そして、エリザベスは声を震わせながら喚きだす。


「あ、ああああ、貴方! 貴方に慈悲はないの!?」

「そ、そうです! 陛下が、まだ口上の途中だったというのに!」

「非常識め! それでも人間か!?」


 人間だよ! 一応な!

 そんでもって敵に非常識呼ばわりされるとは思わなかったわ。


「んなこと言われても……そっちは俺たちを倒そうとしてくるわけでしょ? なら、結局戦うわけだし……」

「そうだとしても、様式美と言うものがあるでしょう!? これだから平民は――――」


 俺はまだ言葉を続けようとしているエリザベスを無視し、隣のピエールを殴り飛ばした。

 案の定、ピエールは一瞬で消滅する。


「へ?」

「あと二人か……」

「あ、ヤベェ。コイツ、ヤバいヤツだ……!」


 俺を見て、怖がる敵の勇者。そう怖がらなくてもいいのに。


「あり得ない……あり得ないわ……! せっかく悪霊の王が復活して、その上この世界にゼアノスたちが自我を持ってくれたことで私たちも悪霊の王の中で意識を持つ事が出来たというのに……! ゼアノスたちがいなかったら、あのまま悪霊の王という一個体のまま終わってたかもしれない中、こうして復活できたのにこの展開はあんまりじゃない!?」

「説明ありがとうございます」


 なんか詳しい説明してくれたから何となくエリザベス達がこの場にいる背景が分かってきた。

 つまり、エリザベスたちの意識や人格が蘇ったのはゼアノスたちが現れたからで、もし俺だけが冥界にやって来て、ゼアノスたちがいなければ、ただの悪霊の王と戦うことになっていたのだろう。悪霊の王の復活自体に俺の存在は関係ないっぽいし。運がいいのやら悪いのやら……いや、父さんたちに会えたからよかったんだろう。死んだのはアレだけど。

 俺たちがそんなやり取りをしていると、父さんたちと、ナチュリアーナさんが会話をしていた。


「ナチュリアーナさん。よく分からない四人組が出てきたと思ったら、気付けば二人になっているのだが……」

「私も戦闘のことはさっぱりなので、何が起こっているのか説明するのはちょっと……」

「え? 誠一、今戦ってるの?」

「暴力はいかんぞ、暴力は」

「いえ、そういう軽い状況じゃないんですが……あの……説明が難しいですねぇ……」


 ナチュリアーナさんは困ったように笑っている。

 父さん、暴力がダメとか言ってられる状況じゃないんですよ! ホント物騒だなぁ!

 父さんたちの会話を聞いていると、今まで呆然としていたゼアノスたちが正気に返った。


「……予想以上にぶっ飛んだ展開過ぎて呆然としたが、よくよく考えれば、エリザベスも陛下も、私たちの因縁と言ってもいい相手だ」

「……残念ながら、あの王様とピエールは速攻で倒されちゃったけどな」

「なら、残る相手は僕とゼアノスがした方がいいんじゃないかい? その方が、スッキリするだろうし」

「そうだな……誠一殿。この二人は我々に任せてもらえないだろうか?」

「え? 別にいいけど……大丈夫なの? ゼアノスたちって生前みたいに完全な状態じゃないんでしょ?」

「ああ。だが……これは私たちの問題だからな」


 そういうゼアノスたちの目を見て、これは俺がどれだけ言っても無駄だと思った。

 素直に俺は引き下がり、代わりにゼアノスたちが前に出ると、エリザベス達の様子が変わった。


「お? 何だ、クソ魔族が俺様の相手をするのか? 舐めてくれるじゃねぇか」

「へぇ。ゼアノス、貴方が相手をしてくれるのね? いいわ、私の恨み、全部ぶつけてあげる……!」


 急に強気になったなぁ。

 思わずそんな感想を抱いていると、ゼアノスたちはどこか同情するようにエリザベス達を見つめていた。


「エリザベス……すまない。私が不甲斐なかったばかりに……」

「……君も、時代の被害者だったのかもしれないね」


 それぞれが語り掛けると、エリザベス達は顔を真っ赤にする。


「何よ何よ! 私をそんな目で見ないで! 全部、貴方が悪いのよ!」

「ああ、ああ、ああ! 胸くそ悪ぃなぁ!? 魔族の分際でこの俺様に同情か!? ふざけるんじゃねぇ!」


 エリザベス達は、黒色のエネルギーの塊のようなものを周囲に展開すると、いっせいにゼアノスたちに射出した。撃ち出されたのは、おそらく負のエネルギーそのものだろう。

 ということは、ゼアノスたちがアレに触れればとんでもないことになるのだが……。


「せめてもの償いだ。痛みなく、安らかに眠れ」

「僕は【魔王】で、君は【勇者】だ。――――もし違う立場で出会っていたら、何か変わっていたのかな?」


 ゼアノスは俺の持つ【憎悪溢れる細剣ブラック】と似た物を抜き放ち、一瞬にしてエリザベスに近づくと、そのまま心臓を的確に貫いた。

 ルシウスさんは、周囲に漆黒の槍を何十本と展開し、勇者の黒色のエネルギーにぶつけて撃ち落とすと、そのまま勇者の胴体を貫いた。


「そ、そんな……」

「う、そだろ……」


 あまりにも呆気ない終わり。

 ゼアノスたちもこの終わり方に少し目を見開く。

 ゼアノスが剣を抜き、ルシウスさんが魔法を消すと、その瞬間、二人は光の粒子となって消えていった。


「……」

「なんていうか……呆気なかったねぇ……」


 ルシウスさんが、どこか虚しさを感じさせる声音でそう呟く。


「……我々も、誠一殿の近くにいたことで、知らず知らずのうちに『生命力』が強化されていたのだろうな。結果的にエリザベスを苦しめることなく、送ってやることができた。誠一殿、感謝する」

「ゼアノス様……」


 ゼアノスは、俺に礼を言った。

 俺はすぐにゼアノスに頭を上げるように言おうとしたときだった。


『まだだ……まだ我は負けてはおらんぞ!』


 さっきまでエリザベス達がいた場所に、漆黒の禍々しい煙のようなものが集まっていった。

 そして、赤い瞳をギラつかせながら、徐々に体を形成していく。


『我は悪霊の王! たかが人間如きに、この我を滅ぼすことなど――――』

「せっかくの雰囲気が台無しだろうがっ!」


 せっかくゼアノスたちが因縁の相手を倒し、感傷に浸っているところを、いきなり復活とか言い始めた悪霊の王が邪魔したのだ。

 だから、俺はすぐさまご退場願うため、顔面に拳を叩き込んだ。

 すると、キレイサッパリ、塵一つ残さず、悪霊の王は一瞬にして存在を消し飛ばされた。


「出てくるならもうちょっと後にしろよな! さ、ゼアノス。安心して感傷に浸ってくれ!」

「無理があるだろう」


 ですよね! 知ってた。

 なんとも締まりのない終わり方となってしまったが、こうして悪霊の王はあっさりと倒す事が出来てしまったのだ。


『レベルがお上がりになりました』


 ついでにレベルアップもしました。アッサリ終わったのにね!

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