5ヶ月後
「グルオオンッ!」
「くっ!」
俺こと柊誠一は、最初に出会って襲いかかってきたあの狼――――アクロウルフレベル311と戦っていた。
「ガオオオッ!」
「ぶへっ!」
……訂正。一方的にやられてます。
「グオオオオオオッ!」
「ちょっ!タンマ!ちょっと待とうぜ!?」
俺を前足で薙ぎ払った後、アクロウルフはそのまま追撃してくる。
「チッ!『刹那』!」
俺はスキル『刹那』を発動させると、そのままアクロウルフの認識できない速度で追撃をかわした。
「『斬脚』!」
かわすだけにとどめず、俺はそのままスキル『斬脚』を発動させる。
ズシャアアアッ!
「キャウンッ!」
俺の放った斬撃がアクロウルフの皮膚を切り裂く。
元々俺はこのアクロウルフに用がある訳では無いので、最大限に手加減して『斬脚』を放った。なので、切り裂けたのは皮膚だけで、肉までは切り裂けていない。この攻撃で怯んでくれれば、その隙に俺は全力で逃げる!
「もう嫌っ!何で『ヒートロック』を採取しに来ただけでこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ!」
「グルルルルル……ガウガアアアッ!」
「もうこっち来んなあああああああ!」
結局アクロウルフは俺を追ってきた。
俺は必死に走りながら、一回目の進化をしてからの5ヶ月間の事を思い返した――――
◆◇◆
俺の一度目の進化を終えてからの5ヶ月間、色々な出来事があった。
まず、クレバーモンキーから得た知識を頼りに川がある場所まで移動し、水分を確保した事。
貴重な鉱物が採取できる場所に行き、鉄鉱石などのメジャーなモノ以外にも多くを手に入れていた事。
自分の体臭が何時の間にか称号として手に入れていた事……。
とにかく、この5ヶ月間は長いようで短い時間だった。
食事は、不味かったし、筋が多くて食べにくかったけど、クレバーモンキーの肉を主食に生活していた。
他にも、クレバーモンキーの知識を頼りに食べられる植物を探して食ったりしていた。
お陰様で、クレバーモンキーとの戦闘にはすっかり慣れてしまい、あの激痛を伴う進化も全部合わせて8回も体感していた。
そんな俺の今現在のステータスは
≪柊誠一≫
種族:新人類
性別:男
職業:森の人
年齢:17
レベル:1
魔力:8024
攻撃力:11088
防御力:10200
俊敏力:11376
魔攻撃:8008
魔防御:9176
運:8000
魅力:
≪装備≫
最終兵器な学生服。最終兵器な学生ズボン。必殺の肌着。必殺のパンツ。賢猿の鎖。賢猿棍。
≪スキル≫
上級鑑定。完全解体。麻痺耐性。睡眠耐性。混乱耐性。魅了耐性。石化耐性。阻害耐性。毒耐性。疲労耐性。斬脚。刹那。超調合。道具製作:超一流。
≪状態≫
進化×2。
≪称号≫
臭い奏者。
≪所持金≫
84240000G
これである。
まず、未だにレベルは上がらない。1のまんまだな。それに、魅力の所ももうずっと空欄なので、もう気にするのも面倒になり諦めた。
種族も性別もあの一度目の進化から変わっていないので、それも気にしていない。
ただ、職業についてはどうだろう?
……なに?森の人って。いつから俺は森の人になったんだ?
もう一々ツッコむのも面倒になってきた……。
後は、≪状態≫の所に書かれていた疲労が消え、≪スキル≫の欄に新たに疲労耐性が加わった事だろうか。
おかげで最近は疲れ知らずだ。もうピンピンしてる。
賢猿の鎖もクレバーモンキーだけ倒し続けたから、今装備しているモノ以外に7つもアイテムボックスに入っている。
新しく加わった≪称号≫の『臭い奏者』なんて効果が酷いんだぜ?
『臭い奏者』……自分の臭いを自由自在に操る事が出来る。臭いの範囲は称号の持ち主から半径10cm。
……この称号を手に入れた日は静かに泣いた。
そりゃまあ服装は最初から変わらず汚いまんまだし……。新しい服を作ろうにも技術もなければ針も糸も無いわけで……。結構早い段階で諦めたね。何事も妥協って大事だと思うんだ。
クレバーモンキーを倒し続けたおかげで、スキルの扱い方もそこそこ身について、武器もクレバーモンキーの骨を使ったモノを使用している。それが、ステータスの≪装備≫の欄にもあった賢猿棍だ。
相手を殴る部分には、特麻痺草を塗ってあるので、相手に傷をつけたらそこから特麻痺草のエキスが滲入して麻痺させるように出来ている。
……使いどころないと思ってたんだけどなぁ。そんな使い道を見つけてからは意外と特麻痺草は重宝している。
昔の俺なら完全にクレバーモンキーの骨を武器にしてるとは言え、絶対に扱えなかった。でも、なんかステータスが上昇してからは体が凄く軽いし、色々な動きが出来るようになった。体も痩せたしね。
それに、最近思うようになったのが、初めは全ステータスに1000追加される進化は凄いのか?とか思ったけど、案外1000とか低いんじゃね?と言う事。
だって、クレバーモンキーもレベル120で軽く100を超えてたわけだけど、今俺が必死になって逃げ続けているあのアクロウルフは311。もう300を超えてる。
神から貰った異世界の知識にも、詳しくレベルの事は書かれてなかったから、レベル1000とかになって、初めて強いって言うのかもしれない。つまり、俺が今まで必死に戦ってきたクレバーモンキー達は、この世界では雑魚と言う事だ。
でも、クレバーモンキーの知識では、クレバーモンキーは高レベルダンジョンに多く生息してるらしいけど、あくまでクレバーモンキーの主観での話しだ。
だって、クレバーモンキーの知識自体をクレバーモンキーから手に入れた訳なのだから、自分の事を少し過大評価しててもおかしくないんじゃないだろうか?と思うようになった訳だ。
でも、クレバーモンキーの薬草を含む、植物の知識や、物作りの技術には、確かに目を見張るモノがある。
そう言った意味では本当に人間を超えてるんだろうな。
後、俺の『中級鑑定』が『上級鑑定』に変化した事。これは非常に嬉しかった。
と言うのも、クレバーモンキーの知識で、食用の植物などは大体頭に入っていたが、クレバーモンキーも知らない様な植物があるかもしれないという事で、たくさん鑑定していたらこうなった。
運が前とは違い、高くなっているのでバッドステータスになるような植物に当たる事が無かったのも少しだけど嬉しかった。
お金もかなり溜まっている。この森では使う事一切無いけど。
神から貰った知識では、硬貨は価値が低い順に、銅貨、銀貨、金貨、白金貨とあるらしく、銅貨なら100枚で銀貨1枚と言った具合に、全て100単位で上の硬貨と同じになる。
一般的な家庭で、色々節約すれば大体銀貨10枚もあれば一年は過ごせるらしい。つまり、100000Gだな。
…………。
何時の間にかとんでもないお金持ちになってた。
この事を知った時は、軽く自分の所持金に引いた。いや、正直に言うとドン引きした。……今のところ使う機会が無いんだけど。
イヤイヤイヤ!俺ヤベェよ!?俺82240000Gって!800年以上は大丈夫そうなんですけど!?
怖いわぁ……異世界パネェわぁ……。
――――と言うのが、この5ヶ月間の俺の記録だな。こんな感じで色々あったのさ。
そんな俺が新たに挑戦し始めたのが、【霊薬】と呼ばれる薬の調合。
クレバーモンキーの知識で得たモノだが、どうやらこの地域で採取できる、ある植物でその【霊薬】が作れるらしい。
そのために必要な鉱石、【ヒートロック】……他の名前を火炎石を採りに来たら……なんかアクロウルフに見つかってしまい、冒頭に戻る。
ちなみに霊薬は、死者を蘇らせる事が出来る、凄まじい効果を発揮する薬らしい。ただ、魔物には意味が無いらしく、蘇らせる以外に傷を癒す効果があるため、それを目的に使用してたんだとか。
ただ、最上級回復薬と回復力は同じなのに、やたら採取困難な植物や鉱物を使用したりするせいか、今では全然使われていないんだとか。
火炎石とも呼ばれる【ヒートロック】は、特殊な火を発する鉱石らしく、今それがとれる採掘場に向かっていたところだった。
……俺、運上がった筈だよね?
◆◇◆
「グオオオオオッ!」
「だからこっち来るなあああああああっ!」
俺はひたすら森を駆けまわる。
しつこすぎるだろ!?この狼!いい加減諦めやがれ!
昔の俺のステータスなら、確実に殺されてたぞ!……でもやっぱり、ここの魔物は弱いのかもな。昔の俺が異常に弱かっただけで。
「俺はお前に用は無いの!いいから帰れ!」
「グウォン!」
「言う事きいてぇぇぇぇええええ!」
駄目だ!全然俺の話しを聞いてくれない!
……そりゃ相手は魔物だもんね。俺みたいな人間の言葉を理解できるはずねぇか。
「だああああっ!鬱陶しい!」
俺は大きく跳躍し、アクロウルフと対峙する。
「これ以上近づいてくるんなら……お、俺も戦うぞ!?」
……絶対近づいてこないでください。怖いんで。
正直、クレバーモンキー以外、俺は倒せる気がしない。見た目も十分ヤバいし。
ただ、最初のアクロウルフの腕で薙ぎ払われた時、大したダメージにならなかったから、俺も防御力が上昇してるんだなって実感できる。……嫌だなぁ。
俺がへっぴり腰になりつつ、武器のクレバーモンキーの骨から作った賢猿棍を構える。……作ったって言っても、先っちょに特麻痺草のエキスを塗っただけだけど。
そして、アクロウルフは俺の想いが通じたのか、襲いかかってこない。
「……お?こ、これは……」
いけるんじゃね?
そう思った時だった。
「ウウウウウウ……」
「へ?」
突然アクロウルフが顔を伏せ、低いうなり声を上げる。
いきなりの行動に戸惑っていると、バッ!と顔をいきなり上げ、口から水を噴射してきた。
「ガウオオオオオオ!」
「マジで!?」
その水は、水鉄砲なんて言う生温いモノでは無く、大砲。
「せ、『刹那』!」
俺はすぐにスキルである『刹那』を発動させ、水の大砲を避ける。
「な、なんだアレ!?」
狼が口から水を噴射した!?意味が分からねぇ……!
俺が何とかして攻撃を避けたことで、水の大砲はそのまま俺がさっきまでいた場所を通過し、後ろの木に衝突した。
ズガアアアアン!
「……うそーん……」
アクロウルフの放った水の大砲は、幾つもの木々をなぎ倒し、へし折った。
「アレもスキルなのか!?」
い、いやでも……スキルと言うよりは、魔法と言う言葉がしっくりくるような……。
「な、何でもいい……とにかく今は、この戦いをどうにかする……!」
俺はより一層警戒心を高める。
今、こうして暴れ回ってはいるが、いつ目の前のアクロウルフの仲間が現れるか分かったモノでは無い。
急いで決着をつける必要があるな……。
「……もう手加減は無しだ」
最初に放った『斬脚』は、怯ませることを前提に放ったモノだった。
だが、戦うと決めたからには、俺も全力でぶつかる!第一手加減をして勝てるなんて言う程俺は強くも無いだろう。
なら最初から生き抜く覚悟を決めて、全力でぶつかる……!
「いくぜ!『斬脚』!」
俺は全力で足を振り抜き、スキルの『斬脚』を繰り出した!
ビュン!ズパッ!……ボト。
「…………」
アクロウルフの首が落ちた。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……へ?
俺は今の状況に頭が追いついていなかった。
すると、首の無くなったアクロウルフは、クレバーモンキーを倒した時のようなエフェクト――――光の粒子となって消え、その場には色々なモノが落ちていた。
…………。
「嘘だろ!?」
俺の声が辺りに響き渡った。
5ヶ月の間に起こった出来事は、閑話として載せるつもりです。
そろそろ森も出たいし、ヒロインも出現させたいと思います。