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魔王軍議会

 魔王領と称される、暗黒の森や荒廃した大地が広がる【ヘルサ】。

 そのヘルサの中心に存在する、巨大都市『グランベージュ』。

 そこでは、多くの魔族が住んでおり、魔王城が存在する中心都市でもあった。

 巨大な城壁で囲まれ、見る者を威圧する魔王城。

 その城の姿は、まさしく人間が恐怖する魔王の住む城に、ふさわしかった。

 そんな魔王城の会議室で、第58回魔王軍議が開かれようとしていた。


◆◇◆


 私――――レイヤ・ファルザーは、黒龍神様の復活を手助けしたのち、魔王城へと向かっていた。

 理由は、魔王軍議会が開かれるからだ。ただし、議会の内容は分かっていない。

 黒龍神様の力が戻るよう手助けしていたこともあり、若干遅れ気味の私は、少し足早に会議室に向かった。

 レッドカーペットの敷かれた長い大理石の床を歩いていると、目的の会議室まで辿り着く。

 会議室の扉は、重厚な木製で作られており、何度訪れても否応なしに気を引き締めさせられる。

 一旦息を整えると、扉をノックし、名前を告げた。


「魔族軍第三部隊隊長レイヤ・ファルザー、ただ今到着しました」


 私の名前を告げた後、自動的に扉が開かれる。

 中には、やはりというか、私以外の幹部の連中が全員揃っていた。

 その全員が、一つの大きなテーブルを囲う形で座っている。

 テーブルの奥には、威圧的な紅の扉がある。

 扉の前で立ち止まっていてもあれなので、すぐに空いている席に腰を下ろす。

 どうでもいいが、この椅子に座るたびに、自室に一つ欲しくなるほどの座り心地だと思う。

 そんな風に一息ついていると、一人の魔族が突っかかってきた。


「おい、レイヤっ! 大事な議会の時間に遅れるとはどういうことだっ!」

「うるさいわねぇ……私にだって、用事があるの」

「議会より大事な用事などあるか! 時間を守れ!」

「ホント、めんどくさい男ね。ちゃんと来たんだから、少し遅れたっていいじゃない」

「なんだとっ!?」


 いちいち私に突っかかって来る魔族は、魔族軍第五部隊隊長、ウルス・バミュー。

 魔族軍の黒色の軍服をカッチリと着こなし、青色のマントを羽織っている。

 軍服の上からでも分かるほど、筋肉が盛り上がっており、正直私は暑苦しい上に鬱陶しいと常々感じていた。

 浅黒い肌に、こめかみから生えた巨大な角が、ウルスを魔族だと証明している。

 ウルスの種族は、魔族の中でも多く存在する、鬼族おにぞく

 だが、ただの鬼族ではなく、すべての鬼族を束ねていた、王鬼族おうきぞくの長だ。

 ウルスの言葉をすべて無視していると、隣に座っている、女性魔族が口を開いた。


「ダメよ? レイヤ。ちゃんと時間通りに来なきゃ。それに、ウルスも熱くなりすぎよ?」

「ぬ、ぬぅ……リアレッタがそう言うのであれば……」

「分かったわよ……」


 私とウルスを窘めたのは、魔族軍第四部隊隊長、リアレッタ・バルヘイム。

 緩いウェーブのかかったクリーム色の髪の毛と、茶色い瞳の優しげな目。

 ちょっとしたタレ目なのと、右目下にある泣きぼくろが、なんだか妙に色っぽく、自分で言うのもなんだが、私に負けず劣らずの美貌を誇る女性だ。

 それもそのはずで、彼女の種族はサキュバスであり、その中でももっとも美しいとされている女王なのだ。

 そんな彼女と私は、幹部の中でも二人しかいない女性魔族ということで、お互いに仲が良く、私は彼女のことをリアと呼んでいた。

 ウルスのように肌の色が浅黒かったりしないため、見た目はほぼ人間と変わらない。

 だが、リアの背中から生えている蝙蝠のような羽が、彼女を魔族だと認識させていた。


「次からは気をつけなさいよ?」


 困ったように笑うリアを見て、私もウルスもなんだか居心地が悪かった。

 おかしいわね。リアと私は同い年なはずなんだけど……。

 リアと接していると、どうしてもリアがお姉さんのように見えてしまうのだ。

 しかし、リアはサキュバスであるにも関わらず、昔私がちょっと過激な恋愛小説を貸してあげると、次の日顔を真っ赤にしながら返しに来るなど、ものすごい初心である。

 そのくせ、胸がすごく大きい。今でも、女性用の黒色の軍服の胸元が弾け飛びそうだ。

 私も、自分の胸が小さいとは思わないけど、リアには負ける。

 くっ……! あの胸があれば、私も今ごろ彼氏の一人と熱い夜を過ごせるのに……!


「ちょっと、レイヤ? どうして私の胸を、親の仇を見るような目で見てるのよ?」

「そんなの、自分の胸に手を当てて聞いてみなさいよ」

「ええっ?」


 リアは、まじめに自分胸に手を当てて、首を傾げている。

 その際、手にまったく胸が収まり切っていなかった。……何? この敗北感。

 そんなバカなことを考えていると、少し離れた位置に座っている、気怠そうな雰囲気の男が口を開いた。


「なぁ、まだ始まらねぇの? 何もねぇんだったら、帰って寝てぇんだけど」


 そういうと、男は大きな欠伸を一つした。

 ――――魔族軍第二部隊隊長、ゾルア・ワルトーレ。

 それが、男の名前でもあり、黒龍神様や白龍神様とは違う、本当の意味で、魔族軍の最強の一角だ。

 ウルスと同じ軍服を着ているが、マントは着けておらず、全体的に着崩している。

 長めの銀髪を後ろで結んでおり、赤色の瞳には覇気がない。

 見た目はウルスやリアと違い、見た目からでは人間との違いを見つけ出すことはほぼできない。

 ただし、よく見てみれば、ゾルアの口から覗く犬歯が、人間より長いことが分かる。

 ゾルアの種族は、吸血鬼。しかも、自身の『祖』である真祖を超え、吸血鬼としての弱点をすべて克服した、完成された吸血鬼なのだ。

 そんな存在だからこそ、私が議会の時間に遅れたことを注意したウルスも、ゾルアには注意をできない。体がデカいだけの小心者め。

 ウルスに冷たい視線を送っていると、それに気づいたウルスは気まずそうに視線を逸らした。

 まあ、リアでさえ、注意するのを躊躇うほど、ゾルアは強い。

 それこそ、『黒紅こっこうの王』と呼ばれるくらいなのだ。

 ――――まあ、あと二人……似たような化物がいるんだけど。


「――文句を言うな、ゾルア」

「あ?」


 静かに……だが、聞く者すべてが思わず萎縮してしまうほど、威圧感のある声。

 その声が、たしかにゾルアに向けて、発せられた。


「黙って待て」


 口数が少ないながらも口を開いたのは、この場でゾルアを窘めることができる、数少ない存在。

 魔族軍第一部隊隊長、ゼロス・アルバーナ。

 魔族軍の中でも最強と呼ばれる第一部隊を率いており、世間では『消滅者デリーター』と呼ばれる、絶対強者だ。

 荒々しい青色の髪に、ドラゴンのような金色の鋭い目。無表情だが、精悍な顔立ち。

 しっかりと着こなした黒色の軍服。ただし、ウルスのように、筋肉で服が盛り上がることもなく、スマートな印象を受ける。

 そんなゼロスに、さっきとは違い、すさまじい覇気の籠った目で睨むゾルア。


「うるせぇな……俺に指図すんじゃねぇよ」

「お前一人の我儘で、今回我々を招集された、ルーティア様の手を煩わすのか?」

「関係ねぇな。俺は、面倒なことは嫌いなんだよ」


 心底面倒くさそうに告げるゾルアに、ゼロスは鋭い眼光を向ける。


「そうか――――なら、ここで消えるか? コウモリ」


 ゼロスは、体から禍々しい魔力を放出させながら、静かに言い放つ。

 その様子を見て、ウルスが小さな声で私に告げた。


「ま、不味くないか? 流石にゼロスが暴れ出したら、吾輩では止められんぞ」

「アンタ、ゾルアが暴れ出しても止められないでしょ」

「そ、そんなことないぞっ!?」


 まったくもって、説得力がなかった。

 そんなことよりも、本当にゼロスが暴れ出すようなことがあれば、この魔王城そのものが……いや、グランベージュそのものが消し飛んでしまうだろう。


「ぜ、ゼロス! 落ち着きなさい!」


 リアレッタが必死に宥めようとするが、ゼロスは聞く耳を持たない。

 そんな時、ゼロスと対峙しているゾルアの体からも、漆黒の闇が滲み出てきていた。

 吸血鬼にとって、禁句である『コウモリ』という侮蔑的言葉を言われたのだ。キレない方がおかしい。

 ゾルアは、闇を体に纏いながら、ゼロスに言葉を返した。


「――――潰すぞ、トカゲ」


 何でまた相手を怒らせるような発言をするのかしら。

 思わずそう思ってしまった。

 私も、相手をバカにしたり、いたぶったりするのは好きなので、あまり人のことは言えないんだけど。

 ちなみに、ゼロスの種族は、分かっていない。

 ゾルアの言ったように、目はドラゴンのようなのだが、決して龍族ではない。

 なぜなら、ゼロスの両親は、普通に鬼族だからである。

 そして、そんな両親から生まれたゼロスは、鬼族である証の角を持たず、王鬼族であるウルスをも凌駕する、圧倒的力を持って生まれた、いわゆる突然変異体なのだ。

 『黒紅の王』と『消滅者』……この二人がぶつかれば、近くにいる私たちは完全に消えるわね。

 のんきにそんなことを思っていると、リアが私に叫ぶように言う。


「ちょっとレイヤ! アナタも手伝ってよ!」

「無理よ。だって、二人とも次元が違うくらい強いんだもの」

「だから手伝ってって言ってるんじゃないっ!」


 ちなみにだが、リアに言われるまでもなく、私は自分の固有魔法である『空気魔法』を使い、二人を止めるようにしていた。

 でも、ゾルアは私の魔法を闇で塗りつぶしちゃうし、ゼロスは私の魔法そのものを消し飛ばしちゃうんだもの。もう抵抗すること自体が無駄に思えてならないわよね。

 だから、私は諦めて、テーブルの上に置いてある茶菓子を食べ始めた。


「ああもうっ! ウルス! アナタも少しは手伝って!」

「えっ!? わ、吾輩は、その……そ、そう! お腹! ちょっとお腹の調子が悪いので、手伝うのは無理だっ! いやぁ、残念!」

「ちょっとっ! ウソでしょ!?」


 ウルスって、見た目だけはホント威圧的なのに、中身が小さすぎて話にならないわよね。

 それはともかく、まさにゾルアとゼロスとの間で、一触即発の雰囲気が漂っている時だった。

 ゾルアとゼロス……この二人に並ぶ、最後の最強の一角がついに動いた。


「ゾルアちゃん、ゼロスちゃん、おイタはダメよぉ?」


 そんな、オネェ口調の男が、ゾルアとゼロスの頭をひっぱたいた。

 ズドォォォォォオオオオオオン!

 ただ、頭を叩いただけで、ゾルアとゼロスは会議室の机に叩き付けられた。ていうか、頭叩いた時の音じゃないわよね?

 そんな衝撃的な止め方だったにもかかわらず、ゾルアとゼロスは、無傷ながらもばつが悪そうな表情を浮かべていた。


「……すまん、熱くなりすぎた」

「……ッチ、悪かったよ」


 ――――魔族軍懲罰部隊隊長、ジェイド・レーヴェン。

 種族はインキュバスであり、彼も例に違わず相当なイケメンなのだが……うん、私たち女性にはまったく興味がなく、いつも男を追っかけている。私以上に、男に対しての執着が酷いかもしれないわね。

 でも、本当にもったいないと思う。

 綺麗な金髪に、紫の瞳。優男といった表現がピッタリの色男で、実際男好きじゃなかったら、今ごろ女性にモテモテだっただろう。

 まあ、そうじゃなくても、私やリアと、よくガールズ? トークをする仲で、今では普通の女性と同じように接している。

 ゾルアが後頭部をさすり、ゼロスがなんとも言えない表情を浮かべていると、ジェイドは二人に流し目を送った。


「いい子ねぇ。後でキスのご褒美あげちゃうっ」

「「いらんっ!」」


 おお、ジェイドすごいわね。

 犬猿の仲と言っていい、ゾルアとゼロスが、見事にハモって拒絶したわよ。

 まあいろいろと問題が起こりそうになる魔族軍だが、なんだかんだでうまく回ってると私は感じていた。

 そんな一幕のあと、少しの間落ち着いて過ごしていると、会議室の奥にある、紅の扉が開いた。


「!」


 私たちは、紅の扉が開いた瞬間、その場に立ち上がる。

 すると、紅の扉から、二人の人物が現れた。

 深い藍色の髪に、闇色の瞳。

 人形のような顔立ちで、無表情。本当に人形のように綺麗なお方だ。

 黒色のドレスを着て、その上から同じ黒色のファー付きロングコートを羽織っている。

 凄絶な雰囲気を漂わせながら歩く姿は、まさに王者。

 そう、彼女こそ――――魔王の娘、ルーティア・ビュート様だ。

 ルーティア様は、静かに会議室に入室してくると、テーブルの前で立ち止まる。

 そして、私たちを見渡し、口を開いた。


「――――みんな、今回の招集に応じてくれて、ありがとう」


 ただ、その一言。

 私たちは、その一言を聞いた瞬間、自身の誇りと魂と言っていい、自分の武器を取り出し、地面に突き立て、跪いて首を垂れた。

 これが、私たち魔族の最上級の敬礼。

 自身の誇りと魂をこのヘルサの地に突き立てることで、自分の全てをこの地のために捧げる……といったことを示す行動だった。

 ゾルア辺りが、この敬礼をしないかと思っていたが、どうやらそれは杞憂だったらしく、ゾルアもしっかりと忠誠心を示していた。

 私たちがこうして忠誠心を表していると、もう一人入室してきたヤツが口を開いた。


「んふー。うむうむ。ご苦労であったな」


 今度は逆に、私たちはそいつの一言で、一瞬のうちに殺気立った。

 クライス……それが、ルーティア様と一緒に入室してきた男の名前でもあり、私が一番嫌いなヤツだった。

 脂でギトギトの顔と、太った体。鼻息も荒く、背も小さい。額には、申しわけ程度の小さな角が付いていることから、コイツが鬼族だということが分かる。

 別に見た目がどうこうと言って、嫌っているわけじゃない。

 私が嫌いなのは、コイツの私たち全員を見下した表情であり、ルーティア様のお父上でもあられる、魔王様の側近と言うことで、いつも威張り散らしているのだ。

 たった今も、私たちはルーティア様に呼ばれたから来たわけであって、決してクライスのクソ野郎のために、やって来たわけじゃない。

 ただ、コイツは私たちのように、魔族軍を率いる幹部としてこの場にいるのではなく……占いの力で、魔王様の側近としてそばにいるのだ。

 悔しいが、コイツの占いはよく当たり、過去に何度も人間が攻めてくるたびにそのことを予言し、当てていた。

 だからこそ、常に魔王様の危険を予知できるということで、魔王様のそばに置いてもらっていたのだ。

 でも、私からすれば、コイツは胡散臭くてならない。

 普段の態度も、魔王様に対して忠誠心があるのかどうかさえ、怪しく感じる時があるのだ。

 たぶん、私だけじゃなく、他の幹部たちも似たようなことを思っていると思う。

 そんな風に思われてるとも知らず、クライスは一人でしゃべり続ける。


「んふー。まあ、我のために集まるのは当然……といったところなのだがな! んひっんひっんひっ!」


 なんて笑い方してんのよ。初めて聞いたわよ。

 どうでもいいが、思わず内心でそうツッコんでいると、ルーティア様が口を開いた。


「……クライス。アナタは黙ってて」

「……んふー。申し訳ございません」


 本当にそう思ってるんだか……。

 ルーティア様はクライスを窘めた後、私たちに顔を上げるようにいい、椅子に座るように促した。

 私たちが椅子に座ると、またクライスが口を開く。


「んふー。それで? ルーティア様。今回はどういったご用件で招集されたのでしょうか?」


 クライスは、ルーティア様と同じ扉から出てきたから、今回の議会の内容を知っていると思ったが、どうやらそうではなかったようだ。


「……うん。今回、みんなに集まってもらったのは……ウィンブルグ王国との同盟について話しておきたかったから」

「なっ!?」

『!!!!』


 ルーティア様の言葉に、私たちは目を見開いた。

 なぜなら、もしルーティア様の言うように、ウィンブルグ王国と同盟を結ぶというのであれば、それはつまり……人間と同盟を結ぶということを意味しているのだ。

 魔王様を封印したのも人間であり、そして長年私たち魔族を虐げてきたのも人間。

 その人間と同盟を結ぶだなんて……。

 しかも、よりによって何でウィンブルグ王国なのよ!? あのまったく使えない私の部下のベルたちが、勝手にその首都テルベールまで向かって、転移魔法陣をばら撒いてきたような場所なのよ!?

 ……もし、本当に同盟を結ぶんだとすれば、どうしよう。

 だ、大丈夫よね? たった100個だし、人間の代わりに魔物が転移されるかもしれないじゃない。

 そ、そうよ! 何事も前向きに考えるのが大事よねっ!


「? レイヤ、なんだか顔色が悪いようだけど……」

「え!? そ、そそそそそんなことあるわけないじゃない! もう、リアったらおかしなこと言うわね!」

「……本当に大丈夫なの?」


 リアが心配そうな表情を浮かべるが、ここで素直に本当のことを言えるわけがない。

 ……アイツら、帰ったらオシオキ確定ね。

 内心黒い笑みを浮かべていると、慌てた様子のクライスが叫ぶ。


「な、何をおっしゃっているのですか! 人間どもと同盟を結ぶ!? 何バカげたことを……!」

「……ううん、私は本気」

「なっ!?」


 本当に真剣に人間と同盟を結ぶことを考えているルーティア様に、クライスは絶句している。


「……たしかに、私たちにとって、人間は憎い存在。それは、昔から人間が私たちを家畜同然に扱ってきたから。私のお父さん……魔王も、封印された」

「な、なら……!」

「……でも、だからこそ……私たちは歩み寄っていく必要がある」

「ワケが分かりませんぞ! 気でも狂われましたか!」

「……私は真剣。いつまでも、辛い過去を引きずってたら、明日も絶対に笑えない。私たちは、本当の笑顔を取り戻すために……過去を乗り越えるために、人間と共存していかなきゃダメだと思う」


 そう言い切ったルーティア様の瞳には、強い意志が宿っていた。

 それは、見る者を引き込み、圧倒する……まるで魔王様のようだった。


「……それに、私の友だちで、冒険者をやっている子がいる。その子の話だと、ウィンブルグ王国の国王は、積極的に魔族と友好関係を築こうとしていると聞いた」

「そ、そんな話、ウソに決まって――――」


 クライスがそう言いかけた瞬間、ルーティア様から凄絶な殺気が放たれた。


「……私の友だちを、悪く言うのは……ユルサナイ」

「んふっ、んふー……」


 殺気を当てられたクライスは、いつも以上に鼻息を荒くし、顔面蒼白になっていた。ざまあないわね。

 だが、クライスは、往生際悪く、喚きはじめる。


「んふっ……そ、そうだ! ルーティア様! 占い……占いが! 前に占ったとき、人間どもと関わると、我々魔族に大きな災いをもたらすと出ていました! ですから、人間と同盟を結ぶなど、止めるべきだ!」

「……もし、アナタの占いが本当なら……そのときは私の首を差し出す」

「そ、そんなもので、民衆が納得するはずが――――」


 ドンッ!

 突然、クライスの言葉を遮るように、テーブルを強く叩く音が聞こえた。

 その方向に視線を向けると、ゾルアが苛立ちを隠そうともせず、クライスを睨みつけていた。


「おい、ブタ。さっきからいちいちうるせぇんだよ。黙ってルーティア様に従え。じゃねぇと――――潰すぞ?」


 ……ゾルアって、いわゆる『ツンデレ』ってヤツなのかしら?

 なんだかんだ言って、ルーティア様や魔王様に忠誠を示してるし。

 そんなくだらないことを思っていると、今度は犬猿の仲である、ゼロスも口を開いた。


「ゾルアと同意見なのは気に入らんが……クライス。何なら今すぐ消し飛ばしてもいいんだぞ?」


 最強格の二人に、殺気をぶつけられているクライスは、さっきと同じように顔を真っ青にしていた。

 そして、さらに追い打ちをかけるように、ジェイドも口を開く。


「ん~、確かにちょっと我儘がすぎないかしら? あんまりそう言った態度をとるようなら……夜、私が熱くお仕置きしちゃうわよぉ?」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃいいいい!」


 何というか、ジェイドの場合は違う意味で顔を真っ青にしそうな発言ではあるが、結局クライスは魔族軍の最強戦力3人に睨まれたことにより、もう青色を通り越して、顔を真っ白にしていた。

 まあ当たり前だが、クライスはとうとう耐え切れなくなったのか、急いで紅の扉まで駆け寄ると……。


「お、覚えていろ! 今に人間と同盟を結ぶなど、不可能だということを実感することになるからなっ!」


 そんなザコ感丸出しのセリフを投げ捨て、去って行った。

 ……何がしたかったのかしら? アイツ。

 クライスがいなくなったことで会議室の雰囲気が落ち着くと、ルーティア様は改めて口を開いた。


「……みんな、ありがとう。確かに、カイゼル帝国のように、まだ私たちを倒そうとしている国もある。そんな中で、人間と同盟を結ぶということが、どれだけ危険なのかも……分かってる。でも、それでも……私たちは前に進まないといけないから。だから……みんなの力を貸して……」


 最後に、ルーティア様は弱弱しくそう告げた。

 もう、私たちの答えは決まっている。

 私たち幹部は一斉に立ち上がると、最上級の敬礼で答えた。


『私たちの心は、魔王様と共に――――』


◆◇◆


 暗い闇の中、一人の男が憎々しげに言う。


「クソックソックソッ……! これでは私の計画が……!」


 そこまで言った男は、一度深呼吸をし、気持ちを落ち着かせると、一人つぶやく。


「まあ、計画は狂ったが……まだ修正できる段階にある。私の計画を止めることなど、誰にもできんのだ。んひっんひっんひっ!」


 闇の中、男の不気味な笑い声が響き続けていた……。

もう少しで年が明けますね。

では、来年もよろしくお願いします。

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