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情報収集

書籍化の話とは関係なく、家の事情で投稿が遅れました。申し訳ございません。

今回は、少し短めです。

「はぁ……」


 俺こと柊誠一は、『安らぎの木』で朝食を食べながら悩んでいた。

 その悩みの種は――。


「あっ……ッ!」


 ――アルトリアさんである。

 たった今も、部屋から出てきたアルトリアさんが、俺とサリアの姿を見つけると、顔を逸らして足早に宿屋から出ていった。


「……完全に避けられてるな、俺……」


 まあ、いきなりプロポーズみたいなことをしたんだ。仕方ないと言えば、仕方ないだろう。戸惑う上に、客観的に見れば、凄く大胆なことをしたわけですし。

 昨日の時点で誤解を解こうにも、会ってさえくれなかったのだ。

 でも、やはりというか、避けられるのはいろいろ辛い。というか、悲しい。


「どうすればいいんだよ……」


 思わずそう口に出すと、目の前で黙々と食事を続けていたサリアが、口を開いた。


「大丈夫だよ。別に、誠一のことを嫌いになったわけじゃないから」


 笑顔でサリアがそう言ってくれるので、俺の心も少しは安らぐ。


「ありがとう。でも、どうしてそんなことが言えるんだ?」

「うーん……野生の勘?」

「野生!?」


 女じゃなくて!? いや、ゴリラだから正しいのかもしれないけど……!

 あまりの新しさに驚いていると、何やら興味津々といった様子で、この宿屋の看板娘であるメアリがやって来た。


「ねぇねぇ、アルトリアさんと何かあったの?」

「へ?」

「だって、アルトリアさんは誠一さんを避けてるし……何かあったと思う方が自然でしょ?」

「それは……」


 メアリの鋭い指摘に、思わず口ごもる。

 すると、メアリは面白そうに問い詰めてきた。


「で? 何があったの? あ、やっぱり男と女の関係での悩み? 誠一さんって意外とモテるのね。こんなに綺麗な彼女もいるのに……。フードで素顔も分からないのに、不思議よね。で、なんで?」

「いや、俺に言われても……」


 これは……あれだな。女子が恋バナに興味を示すのと似たようなものだな。

 自分がその対象になるとは思ってもいなかったが……。


「いや、そんな大層なことじゃないんだけど……」

「えー? 全然そんなふうに見えないよ? で、何? 何があったの? ん? ほら、言っちゃいなよ?」

「君は一体何なんだ!?」


 何度も訊いてくるメアリに、ツッコミをいれてしまった。

 結局、メアリからの質問をはぐらかし続けていると、この宿屋のオーナーで、メアリのお母さんであるフィーナさんに仕事しろと怒られ、渋々帰って行った。


「ふぅ……あ、そういえば、サリア。今日はどうする?」

「え?」

「ほら、討伐系の試験は中止して、ギルドメンバーになっただろ?」


 俺とサリアは、昨日のうちに、ガッスルから正式なギルドカードをもらい、ギルドの説明を受けていた。

 説明の内容を簡単にまとめると、冒険者や依頼にはランクがあって、低い順にF、E、D、C、B、A、Sとなっているらしい。

 俺もサリアも、最低ランクのFランクからスタートだ。

 依頼を受けることができるのは、自分と同じランクか、それより一つ上。そして、一度に3つまでなら依頼を同時に受けることができる。

 ランクを上げるための方法は、自分と同じランクなら10回。一つ上のランクなら5回依頼を成功させることで、ランクアップできるらしい。

 ギルドに登録したからと言って絶対に依頼は受けなければいけないというわけでもないみたいだ。それを聞いたとき、俺は少し安心した。

 何故なら、俺の目的は、あくまで情報を集めたりすることだからだ。依頼にばっかり集中していられない。

 それで、俺は今回は依頼を受けず、情報を少し集めてみようと思っていた。

 そんな考えがある俺に対して、サリアは少し考える素振りを見せる。


「うーん……私、今日は孤児院に行こうかなぁ」

「お、早速依頼を受けるってことか?」

「うん。クレアさん、いつでも来ていいよって言ってたし。依頼に出てなくても、行ってみる」

「そうか。それじゃあ、今日は別行動だな。気を付けていくんだぞ?」

「うん!」


 サリアの返事に満足した俺は、朝食をすぐに食べ、早速情報収集のために移動を開始した。


◆◇◆


「やっぱり、この街は活気づいてるなぁ……」


 サリアと別れ、宿屋から出た俺は、そう感想をもらす。

 露店で元気よく商売をする人や、おばさんたちが世間話をしている姿がたくさん目に映ったからだ。

 みんな笑顔で、仕事や勉強に追われていた地球では考えられない光景かもしれない。

 でも、こんないい国にも、スラム街って存在するんだろうか?

 あんまり考えたくはないが、光があれば、影もあるわけで、現時点でスラム街がないとは、この国の実情を詳しく知らない俺は言い切ることができなかった。


「まあ、そこも今日できれば調べてみるか……」


 そんなことを思っていると、ふと街が騒がしいことに気づく。


「ん? 何だ?」


 この街の住人による、いつもの活気とは少し違う騒がしさだった。

 よく耳をすませば、女性の叫び声まで聞こえる。


「おいおい、いい街だって思ったそばから物騒だな」


 そう思いながら、騒ぎのする方向に視線を向けたときだった。


「止まれええええええええ!」

「逃がすな! 追え! 追えええええええッ!」

「ハハハハ! 私は捕まらんよ! 自由サイコー!」

「自由はいいから、服を着ろおおおおおおおお!」


 全裸の少し小太り気味のオッサンが、クロードと同じ種類の鎧に身を包んだ男たちに追われている姿が目に飛び込んできた。

 全裸のオッサンは、どう見てもギルドでロリコンのオッサンと危ない話をしている人物である。

 軽快な走りで、この人通りの多い道を駆け抜ける全裸のオッサンは、清々しいまでに笑顔だった。

 ふと、周囲に視線を向ければ、女性は真っ赤になった顔を背け、男たちは苦笑いしている。


「今日という今日は許さんぞ!」

「絶対牢屋にぶち込んでやるッ!」

「物騒なことを言いますな。だが、私は逃げきって見せよう! この解き放たれた心と体なら、どこへでも行ける……!」

「どこに行くのも勝手だが、服だけは着てくれッ!」

「断るッ!」

「なんで!?」

「私の誇りと魂が、全裸になれと叫んでる……!」

「無駄に壮大!」


 そんなやり取りをしながら、全裸のオッサンと鎧を着た兵士たちは俺の前を走り抜けていった。

 …………。


「ふぅ……今日も平和だなぁ……」


 そう呟き、俺はギルドへと向かった。ツッコみ? するだけ無駄でしょ。

 道中、特に何かイベントがあるわけでもなく、普通にギルドにたどり着くと、俺はそのままギルドに足を踏み入れた。

 意外なことに、今日は目立った変態の姿はなく、エリスさんも受付に普通に立っていた。

 ただ、ガッスルだけは、受付の横でいろいろなポーズをとっては首を捻っている。仕事してんのかな、アイツ。

 ガッスルがギルドマスターである理由に疑問を感じつつ、俺は当の本人であるガッスルに話しかけた。


「おはよう、ガッスル」

「む? おお、誠一君か! 昨日いろいろあって、疲れたのではないか?」

「まあ、そこは大丈夫だ」


 化け物級のステータスだし。


「そうか。そういえば、サリア君の姿が見えないが……」

「サリアは、試験のときによくしてくれた孤児院に向かった」

「なるほど。では、誠一君はどうしたのかな?」


 ガッスルが、ちょうど質問してきたので、俺は何らかの情報を得られないか訊くことにした。


「実は、ちょっと情報が欲しいんだ。それで、ギルドマスターのガッスルなら、いろいろ知ってるだろうと思ってな」

「ふむ、情報か……」


 俺の言葉に、ガッスルは考え込む仕草をした。

 やっぱり、簡単に教えてもらえる情報と、聞きだすことが難しい情報があるのだろう。

 そんなことを思っていると、ガッスルは顔を上げ、俺に言う。


「筋肉を効率よくつける方法、入門編から上級編まであるが、どれがいい?」

「そう言う情報じゃねぇよ!?」


 珍しく真剣に考えてるから、まじめな話かと思ったよ! つか、入門編とかあんの!?

 驚く俺を見て、なぜかガッスルは不思議そうな顔をする。


「む? 逆に、これの他にどのような情報があるというんだ?」

「あるよ!? アンタの方がおかしいんだよ!? 何で俺がおかしいみたいになってるのさっ!」


 俺が全力でツッコんでいると、受付の仕事はいいのか、エリスさんがやって来た。


「そうですわ。そんなくだらない情報、誰も求めてませんわよ? そんなことも分かりませんの? これだから筋肉ダルマは……」

「く、くだらないだと!?」


 エリスさんの言葉に、ガッスルは目に見えて落ち込んだ。つか、筋肉ダルマはスルーかい……。

 しかし、エリスさんのような常識人がいてよかった。鞭振るってるときは変態以外の何者でもないけど、普通に話せば話が通じる、ギルドでは数少ない常識人だ。

 エリスさんの登場に、俺は軽く感謝しつつ、気を取り直してエリスさんに尋ねた。


「えっと、エリスさん。ガッスルにも言ったんですが、ちょっと情報が欲しくて……」

「なるほど、分かりましたわ」

「おお!」

「SM講座、入門編から上級編までありますけど……どれにします?」

「アナタもかッ!」


 少しでも期待した俺が馬鹿だった!

 ツッコミを受けたエリスさんは、なぜか戦慄する。


「そ、そんな……圧倒的人気を誇る、わたくしのSM講座が……」

「俺がおかしいんですか? ねえ、俺がおかしいんですか?」


 思わず二度同じことを口にしてしまう俺。それくらい、エリスさんの驚愕のしかたが異常だった。

 もうまともな人間はいないのか……。

 頭を抱える俺に、ガッスルは笑顔で言う。


「まあ、冗談はここまでにしようかな」

「初めからそうしろよ!」


 全力でぶん殴りたくなったが、自重しておいた。


「情報が欲しいのだろう? ただ、最近はこれといって、変わった情報があるわけでもないのだが……」

「なら、ここ半年の間であった、大きな出来事か何かを教えてくれ」

「半年? まあ、それくらいならいいが……」


 俺が半年と設定した理由は、俺が【果てなき悲愛の森】にいた期間が、約半年だったからだ。

 もし、この期間の間に、勇者の動きとかあったのなら、知っておきたい。

 それに、直接勇者のことを訊けば、不思議に思われるかもしれないからな。何でそんなことが気になるのかとか、勇者が一般的に知られていなかったら、それこそ何でそんなことを知ってるのかとか。

 俺の心の内など知る由もないガッスルは、まじめにここ半年の間で起こった大きな出来事を振り返ると、教えてくれた。


「……うむ。やはり、一番大きな出来事といえば、カイゼル帝国が勇者召喚を行ったことだろうな」

「そうですわね」

「!」


 いきなりビンゴだ。

 こうも簡単に知りたかった情報が出てきたことに驚きだが、今は大歓迎である。


「勇者召喚……」


 いかにも、そんなこと知りませんよ? といった態度を装い、俺はそう呟く。


「ん? 勇者召喚を知らないのかい?」

「まあ……」

「そうか。結構大きな出来事だったと思うのだがな……。まあ、知らないのであれば、教えよう。勇者召喚とは――――」

「カイゼル帝国が、異世界の人間を召喚し、復活したとされる魔王を討伐させよう……といった内容ですわ」

「……私のセリフ……」


 ガッスルが、エリスさんにセリフをとられたことで落ち込んでいる様子を無視し、魔王のことについて聞いてみる。


「魔王って何なんだ?」

「あら? それも知りませんの?」

「えっと……田舎から来たもので……」


 ギルドカードを発行するときも、出身地は書いていないわけだから、いくらでも嘘が吐ける。良心が痛むが……。


「そうですの。まあ、いいですわ。魔王とは、簡単に言えば、魔族を率いる王……ですわね」

「魔族を率いる……」

「どういう存在かは、わたくしたちから聞くより、図書館で調べた方が詳しいことが分かりますわよ?」

「なるほど」


 図書館か……。地球のころの俺は、読書とは無縁な生活だったのだが、多少なりとも異世界の図書館というものには興味が出る。

 しかし、魔族ですか。この街の付近にある、森で出会ったベルだったっけ? アイツら、確か魔族軍がどうたら言ってた気がする。

 そんなことを思った俺だが、ふとあることに気づいた。


「えっと、そのカイゼル帝国は勇者召喚をして、魔王に備えているわけですよね?」

「そうですわね」

「なら、この国とか、他の国々は何か対策を立てているんですか?」


 もし、魔王が凶悪な存在だったとすれば、こんなにのほほんと平和な気分で暮らしてていいのだろうか?

 まあ、黒龍神の過去を知る俺からすれば、凶悪といった印象はあまり受けないんだけど。

 そんな俺の質問に、いつのまにか復活したガッスルが答えた。


「他の国でも、勇者召喚のことが話題になかったわけではないが、この国ではそういったことは一切していないな」

「え、大丈夫なのかよ?」

「心配する必要はないだろう。この国には、二人の最強クラスの騎士がいる。一人は、王のそばを離れないのだが、もう一人が守護の天才でな。万が一、魔王軍がこの国……この街を襲ったとしても、まず負けることはないだろう」


 ナニソレ、スゲー。

 そんな強い騎士がこの国にいたのか……。

 どんな騎士なのか、一目見てみたいななどと思っていると、ガッスルは続ける。


「それに、Sランク冒険者の中には、魔族だっている」

「そうなのか!?」


 魔族でSランク……なんか、カッコイイな。

 てっきり、魔族は全面的に悪って認識かと思ってたけど、意外とそうでもないのか?

 そんな俺の内心を察したのか、ガッスルは柔らかい笑みを浮かべた。


「魔王がどういう存在なのか分からないが、魔族というだけでその個人を否定するのはおかしいだろう?」


 俺は、黒龍神の記憶で、魔族より人間の方が悪いだろう、というイメージがある。

 だが、ガッスルは、魔族がどうとか、初めから気にしていないようだ。

 アルトリアさんのときに思ったが、個性の強すぎる連中が集まるこのギルドでは、魔族も関係ないのだろう。

 そんなギルドを束ねるガッスルは、仕事をしているようには見えないが、ギルドマスターとしての器はあるのかもしれない。


「それに、この国の王は、多種族との交流に積極的だ。それは、魔族も含まれるらしい。まあ、魔族との交流は、魔王の復活やらが起こっている今、積極的に行えていないから、友好関係も結べていないのだが……。国民は、直接魔族の被害にあったわけではないから、国王の考えにも好意的だぞ」

「……」


 普通、人間って自分とは違う存在を本能的に嫌うものだと思ってたけど、ここの連中を見てると、むしろいろいろな個性がありすぎて、まったく気にならないんだろうな。

 変態だらけといえども、いい奴らなのは俺やサリア、何よりアルトリアさんが一番分かっている。

 俺たちを捜してくれていたことを思い出し、また少しだけ感動していると、ガッスルは他の情報も教えてくれた。


「後はそうだな……勇者関連で言えば、この半年の間で、様々な技術が劇的に向上したぞ」

「え、なんで?」

「勇者たちの住んでいた『地球』とやらの技術がいくつか、カイゼル帝国で広まったのだ。主に服や食事、娯楽に武器と様々な分野で技術の進歩が起こったぞ」

「……」


 おい勇者! 少しは自重しろ! ……俺が言えたことではないけどね!


「でも、そのカイゼル帝国はよく技術を独占しなかったな」


 俺は、思ったことを素直に口にする。

 だって、勇者召喚とかしちゃう辺り、ずいぶん身勝手な国の気がしたけど……。

 そんな風に思っていると、ガッスルは苦笑いしながら言った。


「ハハ。もちろん、カイゼル帝国は独占しようとしたさ。それこそ、他国を遥かに凌ぐ技術だからな。それを一つの国が保有するということの意味の大きさは、誰もが分かることだろう」

「なら、なんで?」

「商人魂だけは、帝国でも抑えられなかったのさ」


 し、商人魂? え、ってことは……。


「商人が、勝手に広めたってことか?」

「まあ、結果的にはそう言うことだ」

「商人の方々は、売って利益を得ることが仕事ですもの。それを、新技術が多く出回るカイゼル帝国で無駄な競争をするより、他国まで移動して、その技術を利用した商品を売る方が絶対に利益がでると思いません?」

「た、確かに……」


 そりゃあ、新技術同士で競争するより、新技術が浸透していない土地で独り勝ちした方が、絶対ぼろ儲けするよな。


「ですから、勇者が持ち込んだ技術は、多くの国々でも広まっているんですの。まあ、カイゼル帝国の商人の方々は、その技術を広めるのにも命がけだったようですが……」


 うーん……なかなかカイゼル帝国とやらがえげつない国に思えてきたな。

 まあ、国民を守るという観点から考えれば、他国に技術が流用されるのは避けたいと思うのが普通だけどな。詳しい国内事情は知らんけども。

 内心ひそかに納得していると、ガッスルが不意に何かを思い出した。


「おお、そうだった。誠一君」

「ん?」

「君、まだ馬を持っていないだろう?」

「馬?」


 馬って……動物のだよな?

 それ以外、馬と名の付くモノが思い浮かばなかったが、一応異世界ということもあり、思わず考えてしまった。

 すると、そんな俺の様子を見て、馬を持っていないと察したガッスルは、なぜそんなことを突然口にしたのか説明を始めた。


「Fランク冒険者とはいえ、馬は持っておいた方がいいぞ。これから先、馬で移動することが多くなるだろう」

「は? 俺、別に馬とかいらないんだが……」


 だって、そこまで真剣にギルドで働くわけじゃないしな。

 それに、俺は自分から進んで、戦闘系の依頼を受けようとも思っていないので、遠出をするつもりはなかった。

 第一、馬で走るより、俺が走った方が早いし。……あれ? おかしい。


「うむ、そうは言うがな。君は、ずいぶん実力があるようじゃないか。実力があれば、指名で護衛の依頼が来るかもしれないのだぞ?」

「!?」


 ガッスルの言葉に、俺は思わず緊張した。

 な、なんで俺が実力あるだなんて言うんだ? ステータスは完璧に偽装できているはずだし……。

 そんな俺の考えが見透かされたのかは分からないが、ガッスルは理由を説明した。


「まあ、アルトリア君が言っていたことなんだがな」

「えぇっ? な、なんて言ったんですか?」

「ん? いや……『なぜか知らねぇが、おそらく誠一は実力を隠してる。オレでも勝てなかった化け物を、誠一は倒してるだろう。じゃねぇと、オレや誠一たちが、こうして無事に帰れるわけねぇんだよ』……と言ったからな」

「……」

「まあ、君のことは今はいいだろう。とにかく、そんな実力者を、貴族は放っておかない。お抱えにしようと接触して来たり、護衛の依頼が舞い込んだりとな。今は知られていないかもしれないが、君が本当に実力者なのであれば、いずれバレると思うぞ」

「……そんなことはないけどな」


 今さらという気がしないでもないが、一応ごまかしておいた。

 しかし、本当にガッスルは俺が強かろうが、そうじゃなかろうがどうでもいいらしく、話を続ける。


「とにかく、護衛の依頼を受けることになれば、必然的に長い道のりを移動することになる。盗賊などに襲われたりすれば、必然的に走ることにもなるだろう。だから、冒険者の間で、馬は貴重な道具のひとつなのだよ」

「へぇ。でも、今馬買ったって、置いておく場所がな……」

「ふむ、君はアルトリア君と同じで、『安らぎの木』で宿泊しているのだろう?」

「そうだな」

「あそこは、確か裏に、馬小屋があったはずだ。お金が少しかかるが、払えば、馬の世話もしてもらえるぞ」


 なんだ、そうなのか。

 今のところ必要さは感じていないが、ガッスルの言う通り、いつ馬を使う場面が出てくるかは分からない。

 周囲が馬を使っている中、俺だけ走って、それでも疲れてなかったら、それこそ化け物扱いだし。


「なら、馬を買おうかな」

「まあ、それはお金がある時でいいのではないか? 私なりのアドバイスのつもりだし、今すぐというわけにはいかないだろう?」

「いや、一応金はあるから大丈夫だ」

「そうか。なら、少し待ってなさい」


 ガッスルはそう言うと、受付の奥に引っ込み、少しして、一枚の紙を持って戻ってきた。


「これが、馬を売っている店までの地図だ。他にも、初心者だけでなく、冒険者がよく行く道具屋や鍛冶屋など、大切な場所の地図も書いておいたぞ。もちろん、図書館もな」

「おお、ありがとう」


 仕事しろとか思ってゴメン。


「もう訊きたいこととかないか?」

「ああ、とりあえずは大丈夫だ。もし、何か知りたいことがあったら、また頼らせてもらうよ」


 そう俺が言うと、ガッスルもエリスさんも満足げにうなずいた。


「そうか! なら、今度はぜひとも筋肉を効率よくつける方法、入門編を訊いてくれたまえ!」

「わたくしのSM講座も、いつでもウェルカムですわ」

「それは結構です」


 最後にそんなやり取りをした後、俺はギルドを後にするのだった。

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