閑話
「ここでお待ちください」
俺――――高宮翔太は、全校生徒と共にある場所へと向かっていた。
召喚されて、生徒達が落ち着いた頃を見計らって、この世界の……それも、俺達を召喚した人間が話しかけてきたのだ。
俺達を召喚した奴等は、全員ゲームや漫画の中でしか見た事のないようなローブに身を包んでおり、それぞれの手には杖が握られていた。もろ魔法使いだって見た目してやがる。
初めはそれぞれの代表がお互いに自己紹介などをしたわけだが、その後、何故か先生方は他のローブの人に連れられて、別の場所へ行ってしまった。
そんなわけで、今この場所には俺達生徒しかいない。一体どこに連れて行かれたんだ?
「しっかし……こんな場所に待たせて何するつもりなんだ?」
「恐らくだが、私達を召喚した人間のトップと面会させられるのだろう」
賢治の呟きに答えたのは、何時も通りの冷静な神無月先輩だった。
確かに、神無月先輩の言う通り、俺達が待たされている場所の目の前には、意匠の凝った大きな木の扉が存在している。
中には偉い人がいますよ感が凄い。
目の前の扉に辿り着くまでの道のりも、高そうな壺やら絵やらが飾られてあった。電気が通っていない筈のこの世界で、普通に蝋燭の火では無いシャンデリアらしきものがある事から考えると、光も所謂魔法というやつで解決しているのだろう。
あれこれ考えていると、神無月先輩は冷静な様子で言う。
「今から出会うであろう人間の事はどうでもいい。だが、それ以上に先生方が気になるな……」
どうでもいいって事は無いだろうに……。でも、流石神無月グループの令嬢なだけあり、こう言ったお偉いさんと面会するのも慣れているのだろう。全く緊張しているそぶりを見せない。
互いにこれから何が起こるか予測し合っていると、俺達を案内していた男の人が再び現れた。
「お待たせしました。今から勇者様達には王様に会ってもらいます。くれぐれも、粗相のないように……」
男はそう告げると、目の前の扉を開いた。
周囲から、張り詰めた緊張感が感じられた。
かくいう俺も、緊張している。
この場で緊張してないのは、神無月先輩みたいな大物位だろう。
「では、こちらへ……」
俺達は男に促されるまま、部屋の中へと足を踏み入れた。
中に入ると、物語りの中でしか見た事のないような、華やかな宮殿といった光景が目に飛び込んで来た。
一番奥には、無駄に豪華なイスに座った人間が一人おり、その左右にこれまた物語りの中の貴族の様な服装に身を包んだ連中が、俺達の事を無遠慮に見てきていた。
椅子に座ってるのが王様で、左右の貴族みたいな奴等は重臣ってところか?更に後ろには、ゴッツイ銀色の鎧をフル装備した連中が控えている。
そんな、地球ではまずお目にかかれない様な異様と言っていい光景に、神無月先輩を含む数人の生徒以外は言葉を失っていた。つか、本当に度胸があり過ぎでしょ、神無月先輩。何のんきに周りを観察してるんですか。
かくいう俺も、大半の生徒と同じ様に言葉を失っていたので、神無月先輩にその言葉を言う事が出来なかった。
そのまま、俺達は促されるままにローブの男について行く。
すると、とうとう王様だと思われる人物の眼前にまで到着した。
「では、皆さま。跪き、頭を垂れてください。王の御前です」
唐突にそんな事を告げてくるローブの男に、俺達は首を傾げたり、ちょっとした憤りを感じさせられたりと様々な反応を見せた。ちなみに俺は後者である。
首を捻ってる連中は、唐突に言われたから言葉を理解するのに時間がかかっているのだろう。
つかそんな事より……勝手に召喚された上に、頭下げろとか……おかしくね?
内心毒づきながら、目の前の王と呼ばれた人物に目を向ける。
灰色の髪と青色の瞳。これだけで俺達日本人とは違う事が一目で分かる、中年男性だった。
見た目は異世界に召喚されたという事もあり、たいして気にならないが、どこか見下したかのような雰囲気をまき散らしている事だけはどうにも気に入らなかった。
勝手にそんな印象を抱いていると、王の左右に控えていた貴族らしき人物の一人が声を荒げる。
「王の御前だと言っているだろう!頭を下げよ!」
何言ってんだ、コイツ。俺達は望まぬ召喚を受けた『勇者』だってのに、それ分かってて言ってんのか?
俺以外にも同じ事を感じたであろう生徒は、貴族の男の言葉に眉を顰める。
すると、今まで黙っていた神無月先輩が全生徒の代表と言わんばかりに王の前に立ち、口を開いた。
「――――誠に申し訳ございません。私たちは、こういった場での礼儀というモノを知りませんので、どうか、ご容赦願いたい」
いきなり口を開いた事もそうだが、気に入らない連中に頭を下げる神無月先輩に俺達は眼を見開く。
すると、神無月先輩は突然俺達の方を振り向いた。
「……今は彼等に従うしかないだろう。私達は、この世界では何の財産も力も持たない人間だ。無意味に相手を刺激して生存率を下げる真似はしたくない。黙って頭を下げよう」
小さな声で神無月先輩がそう言うと、それが聞こえた人間は嫌々ながらも神無月先輩の指示に従った。
神無月先輩の声が聞こえなかった人たちも、俺達が頭を下げた事により、つられて頭を下げていく。
……マジで何なんだ?
全員が言う事を聞くとは思わなかったが、不測の事態だった事もあり、皆どんどん頭を下げ、最終的には全員が跪く形となった。
そんな状態でも俺はコッソリと目の前の王様の様子をうかがう。
すると、王様は俺達の行動が当たり前と言わんばかりに鼻を鳴らし、立ちあがった。
「よく私の国を救うべく勇者として召喚されてくれたな。当然といえば当然だが、一応礼を言おう。私の礼を受けたのだ、泣いて喜ぶがいい」
見下しながらそう告げる王様の態度は、明らかに礼を言う奴の態度じゃねぇ。第一、勝手に召喚したのはテメエらだろうが。
そもそも、何で礼を言われた俺達が感謝しなきゃなんねぇんだよ。
「私は無駄な話しが嫌いでな。早速貴様等に命令しよう。貴様等に命令する内容はただ一つ。この世界を脅かしている魔王を討伐して来い。それだけだ。幸い、今の魔王は力が全然ない状態にある。魔王が真に復活するまでには、最低でも4年はかかる筈だ。だが、それでも魔王が復活した事には変わりなく、魔物や魔族共の動きが活発化してくる。そこで、貴様等の出番だ」
淡々と、俺達がそのメチャクチャな命令を受ける事前提に目の前の王はしゃべり続ける。
命令だと?どこまで舐めた口きいてんだ?このオッサン……。
しかも、魔王が真に復活するまでに4年もかかるって……そんだけ時間があるのに、何でこんなにも早く俺達を召喚して魔王を討伐させようなんて考えてるんだよ。ハナから自分たちでどうこうしようって考えてないよな。
ふつふつとわき上がる怒りを何とか抑え込んでいると、目の前で俺達と同じ様に跪いている神無月先輩の姿が目に入った。
神無月先輩は、昔からの付き合いがある幼馴染の俺達でさえ見た事が無い程、冷ややかで心底軽蔑した眼をひっそりと目の前のオッサン……王様にバレないように向けていた。
こ、怖ぇ……俺はドMじゃないから、恐怖しか感じられないぞ。
心の中で神無月先輩に恐怖していると、同じ様に跪いていた筈の生徒が立ちあがる気配を感じた。
「ふざけんじゃねぇ!会ったばかりのオッサンに何でアタシ等が命令されなきゃならないんだよ!」
「正直、意味分かんないよね」
「そぉッスよぉ!娯楽のない世界なんてクソ喰らえッス!ケータイ使えないじゃないっスか!」
「……問題点そこ?」
「いやいや、愛梨の言ってる事って重要っしょ。ウチ超現代っ子だし。つか、娯楽もそうだけどメイクとか出来るワケ?」
「……瑠美ってメイクしてないよね?」
「まあね。必要ないし。でもスキンケアのグッズとかは必要っしょ。ネイルだってあるじゃん」
立ちあがったのは、俺達の学校でも有名なグループの女子達だった。
しかも、有名といってもあまりいい意味では無い。
最初に声を荒げた野島優佳は、日本人とイギリス人のハーフである両親を持っているらしく、ストレートである地毛の金髪を腰まで伸ばし、服装は学校の制服を改造しまくり、その上には特攻服を羽織っている。ちなみに、制服の胸元からは包帯らしきものが見える。恐らくさらしだろう。……どこの漫画だよ。
どんなチーム名だったか覚えてないが、相当有名なレディースの総長だった筈だ。
しかも凄い美人である事と、レディースの総長という立場から、周囲から距離を置かれがちだったはずだ。
次に静かに言葉を発した清水乃亜は、短い黒髪に、毛先だけを青色で染めており、これまた野島と同格の美人。野島のように派手な改造は施していないモノの、かなり着崩しており、ピアスなんかも普通に付けている。
清水は、そんな見た目をしているが、世間では超有名なモデルだったりする。だからこそ、着崩しているにも関わらず、そのスレンダーな体型も相まって難なく着こなして見せている所が凄い。
この清水は、野島とよく一緒にいる女子の一人である。1年の時同じクラスだったが、授業中も普通にケータイ弄ったり、野島達と一緒にサボったりしていたのを覚えている。
そして的外れな事を言い、清水にツッコまれていたのは世渡愛梨。
世渡はなんと言うか、ギャルっぽい雰囲気はあるモノのノーメイクで野島クラスの美人という何とも言えない奴だ。
派手なアクセサリーなんかを付けてたりするが、話してみると面白いヤツで、野島達とよく一緒にいるが、他の女子たちとも仲が良い。
野島も清水も雰囲気的には一匹狼といった感じだが、世渡はそんな二人相手でも難なく溶け込めるどこかズレてはいるモノの凄いヤツだ。
最後のいかにもギャルと言った口調の女子は天川瑠美。世渡とは違い、こっちは完璧なギャルだ。
髪の毛は染めた茶髪でゆるいウェーブがかかっている。清水の言う通り、化粧の類は一切使っていないようだ。それでも美人って……ギャルとしてスペック高くね?
俺自身も深いつながりがある訳でもないが、清水や世渡とは違い、オシャレを意識した制服の着こなしをしていた。
冷静にいきなり立ちあがった人物をプロファイリングしていた訳だけど、実際はそんな事をしている余裕は無いんだよな。
野島達を何とかして黙らせないと、へたすりゃ俺達はこの場で殺される事も考えられる。
勇者召喚とやらが何年かに1度しか出来ないとかっているんなら良いんだけど……。
そう言えば、女子の所謂不良的グループはこうして行動を起こしているのに、普段からチャラチャラした男どもは完全に委縮してて使い物にならねぇな。俺自身もヘタレな訳だけど。女子って強いよな。
つか……やっぱり俺達のように異世界への召喚に反対の人間も少なからずいることが判明してよかつた。
そんな事を考えていると、案の定野島達の態度に重臣らしき禿げたオッサンがキレる。
「身分をわきまえろ!王の御前であるぞ!?」
「うるせぇ!ハゲは引っ込んでろ!」
「は、ハゲ!?……気にしてるのに……」
あ、ハゲのオッサン見るからに落ち込んだぞ。ドンマイ。
一蹴されたハゲのおっさんに、俺は軽く同情した。
ムカつく相手とはいえ、可哀そうだなと思っていると、玉座にふんぞり返っている王様のオッサンが、鼻を鳴らした。
「まあいい。この私に意見があるのだろ?特別に許可してやろう。言ってみるがいい」
「んじゃあ遠慮なく言わせてもらうけどよ……アタシ達を元の世界に帰しやがれ!」
「本当だよね。なんかよく分からない声に異世界行きを強制決定されたと思ったら、今度は魔王を倒して来いだって?……ふざけてるよね」
「なんかよく分かんない事なってるけど、ウチも面倒な事はゴメンだしぃ」
「魔王って言えば、やっぱりド○クエっスよね!」
「……愛梨は黙ってようね」
……うん、シリアスもクソもねぇな。
野島達のおかげでだいぶ余裕のできた俺は周囲に視線を配らせてみると、賢治を含めた殆どの連中が唖然としている。神無月先輩は相変わらずだけど。
何はともあれ緊張がほぐれたのはよかった。世渡が凄まじい馬鹿だってことが露見したけど。
世渡のお馬鹿発言に脱力していると、目の前の国王は見下した態度を改めずに続ける。
「なんと言おうが、貴様等に拒否権は無い。貴様等の左手の甲を見てみるがいい」
そう言われ、俺は自分の左手の甲に視線を落とした。野島達も含めて全員同じ様に自分の左手の甲を見ている。
左手の甲を見てみると……特に何か変わった様子は無い。左手の甲に一体何があるんだ?
「貴様等の左手の甲には、私の国の戦士として強制的に働かせる効果を発揮する『隷属の紋章』が刻まれているだろう!どうだ、これで貴様等が私達に歯向かう事が出来ない事が理解できただろう?残念だったな!」
…………。
俺がおかしいのか?俺の左手の甲には何も刻まれてないぞ?
取りあえず、周りはどうかと確認するために周囲の左手の甲を見ていると、やはり何も描かれていなかった。
そして、それは野島達も同じだったらしく――――
「……紋章?なんも描かれてねぇぞ?」
「……そうだね」
「刺青とかマジ無いわって思ってたけど……なんも無いよね」
「ええ!?ちょっとカッコ良さそうって期待してたのに!嘘吐いたんスか!?」
世渡の発言は置いておいて、やはり皆の左手の甲には何も刻まれたり描かれたりはしていないらしい。
そこまで確認できた俺は、国王に視線を戻した。
「え、マジで?」
すると、今までの見下した感がまるで嘘だったかのように消え去り、目を見開いてそんな言葉を口にしていた。
つか……国王の素が出てね?しかも相当軽いノリだし……。
国王は何度も瞬きをし、俺達の左手の甲に視線を送って来る。
しばらくして本当に俺達の左手の甲に紋章とやらが刻まれていないと理解した国王は、近くに控えていたローブを纏っている爺さんに声をかけた。
「ねえねえ、紋章出てないんだけど?どうすんの?ヤバくね?私だいぶ調子乗っちゃったよ?ねえ、大丈夫?大丈夫なんだよね!?」
国王スゲー焦ってるよ。今までの見下した雰囲気はどうした。
そんな国王に助けを求められたマントをローブを纏った爺さんは、見ているこっちが清々しい程の笑顔で言い放った。
「想定外!」
「うそおおおおおおおん!?」
丸投げしやがった!国王が絶望の表情を浮かべてるよ。凄く哀れだ。
「な、何とかしてよ……爺えもん!」
何でアンタがそのネタ知ってんの。そんでもってダメダメ国王じゃねぇか。救いようが無さ過ぎる。
野島達や他の生徒は突然繰り広げられたコントの様な会話に呆然としている。
神無月先輩に至っては、これでもかという位冷ややかな視線を向けていた。ヤメテあげて!国王のライフポイントはゼロよ!
「しょうがないですなぁ、国王様は。奥の手を出してあげましょう」
爺さんも国王の茶番に付き合うのかよ。
「タラタタッタタ~!人質~!」
サラっとえげつねぇ事言い放ちやがった!?つか口で効果音とか寂し過ぎるっ!しかもまんまド○えもんだしな!本当に何で知ってんの!?
驚き唖然とする俺達をよそに、爺さんは近くにいる兵士に何かを言うと、兵士は一つ頷き、急いで走っていった。
そして、しばらくすると兵士が水晶の様なモノを持ってきた。
「勇者殿達が我々の命令に背くというのであれば……彼らの命は無いですよ?」
ローブ姿の爺さんがそう言いながら水晶らしきモノに手をかざすと、地球の科学技術もビックリな、空中に映像が浮かび上がった。
そこに映されていた映像は、牢屋らしき所で囚われた状態の先生たちの姿だった。
「なっ……」
「……」
俺は思わず声を発し、神無月先輩は表情を険しくさせる。
「彼等は貴方達の仲間ですよね?こんな事をしたいわけではないのですが、命令を聞いていただけないというのであれば、彼らには死んでいただく他無いでしょう」
ローブの爺さんが告げる言葉に、俺達は言葉を返す事が出来ない。
そんな俺達をよそに、ローブの爺さんは続ける。
「まあ、貴方達が彼等を見捨てるというのであれば、それでもいいですが……。しかし、我々は、貴方達を元の世界へと帰す術を持っているのですよ?ここで貴方達が我々の命令に従わないのであれば、無用な殺生をしなければなりません。ちなみに、召喚した我々以外には貴方達を帰還させる事は不可能ですしね」
「!?」
つまり、俺達が元の世界に帰れるかどうかも全てこいつ等の手の中って訳だ。
ここにきて有効な手札を次々と切って来るな……。
帰りたいと思うが、帰る方法はこいつ等の命令に従うほかないという事。
ただ、帰った所で俺達の居場所があるのかと言われれば、恐らく無いだろう。確か、俺達に関する記憶を消してるとか言ってた気がするし……。
この世界に飛ばされる前に、スピーカーから流れてきた神と名乗る声の言う通りだとすれば、の話しだけどな。
でも、とにかく地球に戻らない限りはどれだけ先の事を考えても意味が無い。
チクショウめ……痛い所突いてきやがる。
俺も含め、野島達が苦い表情を浮かべていると、今度は神無月先輩が立ちあがった。
「――――つまり、私達が元の世界に帰るには貴方達に従う他無い、と?」
「そう言う事ですね」
その一言を聞くと、神無月先輩はローブの爺さんを睨みつける。
「外道が……」
「はて?どうして怒っていらっしゃるんでしょうか?異界の勇者殿の考えは分かりませんなぁ」
どこまでも人の神経を逆なでする様な発言に、俺達全員怒りが爆発しそうだった。
野島に至っては、今にも殴りかかりそうな様子であり、隣で清水が宥めていた。
「勇者殿達の身体能力は今は弱いとはいえ、鍛えれば強い力となるでしょう。そんな力を持っているんですから、怖いものなんて無いでしょう?」
ローブの爺さんはそんな事を言うが、平和な日本で変わり映えのしない日常を過ごしてきた俺達が、いきなり魔王を倒してこいと言われても無理なのだ。
虫ならいざ知らず、犬や猫でさえ意図的に殺した事のある奴なんてこの中には一人もいないだろう。
だが、ローブの爺さんの発言は、他の生徒の心を動かすには十分だった。
「た、確かに……」
「俺達って勇者な訳なんだろ?なら強いんだよな?」
「それなら大丈夫なんじゃ……?」
「結局倒さないと帰れないんでしょ?」
次々と魔王討伐に前向きな発言をしていく生徒達。
本当に大丈夫なのか?俺達はまだ、世渡じゃないけど、ド○クエみたいにゲーム感覚でこの世界を捉えてないか?
「お、おい……なんか皆乗り気じゃねぇか?」
近くにいた賢治が、俺にそう言う。
「まあ……この国の連中に帰してもらう以外地球に帰る方法が無いんなら、魔王討伐も仕方が無いって思えるよな。その上、俺達は強力な力まで身につけてるらしいしな」
「そんな単純な話なのかよ?」
「んなワケねぇだろ」
俺達はこの国からすれば、都合のいい駒でしかない。もしかしたら、魔王を無事討伐できても、俺達を帰す事無く殺しにかかって来る可能性だった考えられるわけだ。
でも、今の時点ではこの国に従わないと、未来が無い。
そんな事を考えていた俺は、ふと神無月先輩に目を向ける。
すると、神無月先輩は難しそうな表情を浮かべ、なにやら悩んでいるようだった。
神無月先輩も俺と同じ考えに至ったのかもしれないな……。
生徒達の中で、様々な思いが渦巻いていると、さっきまでの取り乱した様子が嘘のように、国王は再び見下した態度で告げる。
「フン。まあ、これ以上議論するだけ無駄であろう。貴様等の魔王討伐の件は絶対である。貴様等は一応勇者だからな。この城にある部屋で過ごす事を許可しよう。感謝するがよい。そして、明日からは早速魔王討伐に向けて訓練してもらうつもりだ。話しは以上だ、下がれ」
一方的に言いたい事だけ言うと、国王は玉座から立ち上がり、その場から立ち去ろうとした。
「ま、待ってください!話しはまだ終わってません!」
あまりにも一方的過ぎる決定に、神無月先輩が声を上げると、後ろで控えていた兵士達が一斉に槍や剣を構え、俺達に突き付けてきた。
「……っ!」
突き付けられた槍を前に、神無月先輩の動きが止まる。
そして、結局国王は一度もこちらを振り向く事無く、そのまま去っていってしまった。
「まあ、諦めてくだされ、勇者殿。兵士たちに部屋まで案内させるので、今日はゆっくり休んでください。明日からの訓練、楽しみにしてますぞ」
ローブの爺さんもそう告げると、そのまま去っていってしまった。
その後に続き、国の重臣らしき人物たちも去っていく。
残されたのは、俺達全校生徒と、未だに槍を突き付けてくる兵士たち。そして、その一番後ろで眼を瞑り、腕を組んで佇んでいる鎧姿の中年の男だけだった。
腕を組んでいる男は、他の兵士たちとは何だか雰囲気が違うように思えた。
そんな男が、目を閉じたまま兵士達に言う。
「……勇者殿を部屋までお連れしろ。手荒な真似はするな」
低い声だったが、声からは感情を読み取る事が出来なかった。
兵士たちに促され俺達は立ち上がると、そのまま兵士たちの案内の下、俺達が強制的に住まわされる部屋まで案内された。
その道中、神無月先輩は難しい顔をしており、俺も賢治もこれから先の事に不安を感じていた。
他の殆どの生徒は、何時の間にか緊張も解けたらしく、城で住む事が出来ると言った事に興味が惹かれており、最早魔王討伐の事を深く考えている者はいなかった。
そんな周りの様子に、とうとう神無月先輩も一息つき、俺も賢治も一旦深く考える事を止めた。
取りあえず、魔王の完全復活まで4年もあるんだ。それより早く復活するかもしれないとはいえ、それは非常に低い確率だろう。
なら、その間にいい方法でも見つかるだろう。
結局、神無月先輩も含めた全員が、時間による解決に頼り、深く考える事を止めてしまった。
それに、さっきの魔王討伐を楽観視していた奴じゃないが、一応俺達は力はある訳だ。何とかなるだろう。
そう、俺達は無理矢理自分を納得させるのだった。
――――そして、後になって俺達はこの時の考えがどれだけ甘いモノだったのかを思いしる事になるのだった。