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スライム

「ここが……外か」

 俺とサリアは、羊によって、今まで過ごしてきた森の外に転移させられていた。

 俺の目の前に広がる景色は、一面に広がる草原。草は足首辺りまでの長さしかない。

 何となく俺は、後ろに存在する【果て無き悲愛の森】に目を向けた。

 今にして思えば、俺は長い間この森で過ごしたんだよな……。

 俺が精神的にも肉体的にも鍛え上げられた場所。……一周回って人間に戻った場所でもあるけど。

 色々な事があったけど、サリアと出会う事も出来たし、こうして生きてる事の喜びも感じられた場所なんだよな……。

 感慨深い気持ちで森を眺めていると、サリアが隣に来た。

「私、初めて外に出たんだ……」

 視線をサリアに向けると、サリアは瞳を閉じて、何かを感じているようだった。

 サリアも思い出の多い場所なのだろう。故郷とも言える場所な訳なんだから。

 互いに森に様々な想いを馳せる。

 しばらく無言だった俺達だったが、やがて俺がサリアに言った。

「さて……そろそろ行くか」

「うん!」

 サリアの返事を受け、俺とサリアは森に背を向けて歩き出した。

 かなり前に上履きが駄目になった俺は、裸足の状態で草原を歩いている事になる。

 森にいた頃は、地面がゴツゴツしてて、こんなに草が生えている場所は無かった。

 そのせいか、足に当たる草がやけにくすぐったく感じ、思わず顔がニヤけそうになった。

「どうしたの?」

 そんな俺に、サリアが不思議そうに訊いてくる。

「いや、何でも無い」

 俺はそう答えると、これからの事を考える。

 まず、ゼアノスの記憶を頼りに一番近い街まで移動する。これが、最優先事項だろう。

 街に到着した後は、冒険者として登録しようとも考えている。

 ゼアノスの知識だけでなく、神から貰った知識でも、冒険者と言う職業が存在する事は書いてあったからな。

 後は、俺の力だろう。

 羊の話しだと、俺の見た目はスキル『偽装』の効果で表示されている数値程度の容姿として相手に認識されるらしい。羊が嘘吐いてなかったらだけど。

 だからこその今被っているフルフェイスヘルメットなのだと言うが……。

 うん、メチャクチャ邪魔。全力でぶっ壊したい。

 第一、フルフェイスヘルメットって……ファンタジーに持ち込んだらアカンでしょ。

 まあ、そのうち脱げるって言ってたから良いんだけど……。これも羊の言ってる事が本当ならな。

 それ以上に、俺の容姿が偽装の効果で低下しているのなら、俺の力も低下している可能性がある。

 これは、しっかり確認しておかないと、色々と大変な事になるだろう。

 あれこれ考えてはみるが、結局今はどうする事も出来ないので、俺は一旦思考を打ち切り、サリアと一緒に草原を歩いて行った。


◆◇◆


 出発してからだいぶ時間が経過した時だった。

 俺とサリアは、誰もがよく知る生物と遭遇していた。

 それは――――

「こ、コイツは……」

「可愛いねっ!」

「ぷるるん」

 ――――スライムだった。

 いや、おかしくね?目の前のスライム、自分で『ぷるるん』って言ったぞ?

 スライムに似た違う生き物なんだろうか?

 でも、目の前の生物は、半透明のゲル状で、草原の上でふよんふよんと跳ねている。

 ただ、目も口も耳も見当たらない。うん、やっぱり『ぷるるん』って聞こえたのは気のせいだろう。

「ぷるるん」

「気のせいじゃねぇ!」

 どっから声を出してるんだ!?この世界のスライムは、全部『ぷるるん』って言うのか!?

 ……いや、まだスライムって決まった訳じゃない。違う生物かもしれないじゃないか!

 幸い俺にはスキル『上級鑑定』がある。今すぐ使ってみよう。

 そう決めた俺は、目の前でふよんふよんと佇むスライムに、『上級鑑定』のスキルを発動させた。


『スライムLv:88』


「レベル高ぇ!」

 そんでもって本当にただのスライムだったよ!

 つか、スライムってこんなにレベル高いモノなのか!?

 確かにクレバーモンキーやアクロウルフ、ゼアノスなんかとは比べ物にならない程レベルは低いだろう。

 でも……でもスライムで88はおかしいだろ!?

 スライムの異常なレベルに驚いていると、突然スライムは体を一気に縮めこませた。

「な、何だ?」

 いきなりの行動に戸惑っていると、スライムは圧縮させた体を一気に解放し、俺に突っ込んで来た。

「うぇい!?」

 いきなり突撃された俺は奇妙な声を上げるが、固有スキルである『心眼』のおかげか、スライムの動きが凄く遅く見え、余裕を持って避ける事が出来た。

「いきなり攻撃してくるとか……」

 まあスライムも魔物なんだから、攻撃してこないなんて言う保障も無いんだろうけど……。

 どうでもいい事を考えていると、ふと俺はある事を思い出す。

 それが、俺の力が偽装の効果で弱体化しているかどうかというモノだった。

 それを確かめるには、俺の目の前のスライムが丁度よかった。

「よぉし……このスライムで少し確かめるか」

 そう言うと、俺は腰に差していた『憎悪渦巻く細剣ブラック』と『慈愛溢れる細剣ホワイト』を抜き、構える。

 このスライムを利用して、俺の力がどうなっているのか確かめる事にした。

 スキルを使っての攻撃でも良いんだけど、通常攻撃の方が確認しやすいだろう。

 そう思った俺は、再びスライムが俺に攻撃してくる前にこちらから仕掛ける事にした。

「ハッ!」

 一気にスライムめがけて駆けだした俺の感想は――――

「は、速くね?」

 この一言に尽きた。

 駆けだしたつもりが、一足でスライムの目の前まで一気に移動出来てしまった。

 しかも、俺が駆けだした瞬間、さっきまで立っていた地面が思いっきり抉れている。

 困惑する俺だが、スライムの目の前まで辿り着いてしまったので攻撃する事に決めた俺は、右手に持ったブラックを振りかぶり、一気にスライムへと振り下ろした。

 ズパンッ!

「…………」

 凄まじい衝撃音と共に、目の前にはドロップアイテムが散乱した。

 …………。

 ……。

「え?」

 訳が分からず、思わず間抜けな声を出す俺。

 さっきまでスライムが存在していた場所は、その場所から約50m程先まで地面が抉れていた。

 ……。

「……現実見たくねぇ……!」

 ようやく現状を理解し始めた俺だが、理解すればするほど今自分の手でした事を忘れてしまいたくなった。

 つまり、スライムは俺の一撃で消し飛んだのだ。

 確かに俺は一気にスライムへとブラックを振り下ろした。だが、決して本気で振り下ろした訳じゃない。軽くダメージが与えられればいいなぁという気持ちで振り下ろしたのだ。

「その結果がコレだよッ!」

 うん、走り出した瞬間から嫌な予感はしてたんだけどね!?でも予想外だよ!威力がおかしい!

 これって確実に力は偽装できてないよね!?数値だけ偽装されてる事になるんだよな!?

 俺、本気で攻撃したらどうなるの!?軽くでこの威力だぞ?……想像したくねぇ。

 頭を抱え、自分の力に絶望していると、サリアが目を輝かせていた。

「誠一凄い!さっきの生き物は可愛かったけど……」

 うん、ごめんね!俺も殺すつもりは無かったんだ!

 ちょっと力を確認したら、そのまま逃げるつもりだったんだよ!嘘じゃないからね!?

 少し悲しそうな表情を浮かべるサリアに尋常じゃない罪悪感が湧いてくる。ホント、ごめんなさい……。

 色々な意味で疲れた俺だったが、突然スライムのドロップアイテムから光の球がいくつも浮かび上がり、俺の中へといきなり入って行った。

「な、何だ!?」

 思わずそう言ってしまうが、何となく思い当たるモノがある。

 恐らく、スライムのステータスが俺の中へと入っていったのだろう。何で何時ものように球状にならず、一気に体内へと入ったのかは分からないが……。

 案の定、俺の体内に入って光の球はスライムのステータスだったらしく、脳内に聞き慣れた声が響いていた。

「うーん……まあいいか」

 殺してしまったモノは仕方が無いので、ドロップしたアイテムを回収していく。

「まずはスキルカードからだな」

 そう言うと、俺はスキルカードであろうモノを拾い上げた。


『スキルカード≪吸収≫』……スキル『吸収』を習得できる。

『スキルカード≪圧縮≫』……スキル『圧縮』を習得できる。


「う、うーん……?」

 スライムから手に入れたスキルカードを見て、俺は微妙な反応しかする事が出来なかった。

 だって、凄いのか凄くないのかよく分からないんだもん。

 まあ、所詮スライムだし、効果はショボイだろう。

 軽い気持ちで一人頷いていると、スキルカードは光の球となり、俺の体の中へと入って行った。

『スキル≪吸収≫を習得しました。スキル≪圧縮≫を習得しました』

 頭に響くそんな言葉を軽く聞き流しつつ、効果を確認して行く。


『吸収』……あらゆるモノを吸収し、自分の力に変換できる。食べたモノの栄養など、余す事無く自分の力に出来る。ダメージを受ける際に発動させれば、ダメージを受ける事無く自分の力として吸収できる。

『圧縮』……あらゆるモノを圧縮する事が出来る。自身の体や力など、基本何でも圧縮できる。ただし、圧縮したいモノに、触れる必要がある。


「すげぇチートだったッ!」

 これ以上俺を強くしてどうするんだ!?俺は何を目指せばいいの!?

 しかも、スキル『吸収』とか……俺の心眼使えば、最強のコンボじゃね!?色々ぶっ飛んでんな!

「はぁ……この手のチートに慣れつつある自分が怖い……」

 普通チートって手に入れて嬉しいモノだよな?なんでこんなに虚しいの?俺だけ?俺がおかしいの?

 表記上、人間と言う種族に当てはまる俺が、どんどん人間離れして行くのを嫌でも感じるよ……。

 諦めの溜息を吐きながら、俺は次のドロップアイテムの確認に移る。

 そして、新たに手に取ったモノは、よく分からないプルプルした半透明な物体だった。かなり気持ちが良い。

 全く使い道が分からないので、例違わず『上級鑑定』を発動させる。


『スライムゼリー』……感触の良いスライムの欠片。特に使用方法無し。一応食える。


「スライム自体はクソだな!」

 スキルは凄いのにね!何で本体のドロップアイテムがこんなにクソなの!?

 これ……食べる以外使い道ないのか?凄まじく邪魔なんだけど……。

 でも、鑑定した結果そう出てしまったのなら、仕方が無い。

 溜息を吐きつつ、アイテムボックスにスライムゼリーを放り込んだ。

「んで、次は?」

 気を取り直して手に取ったのは、宝箱だった。

「小さいな……ま、大したものは入ってないだろう」

 そう思い、宝箱を開けた。

 中に入っていたモノは、恐らく金が入っていると思われる袋と、靴だった。

「靴か……」

 なんと言うか、狙って出てきたとしか思えない装備品だが、裸足のままというのもアレなのでよしとする。

 取り出してみると、綺麗な蒼色の機能性を重視したモノだった。何の素材でできているのかは分からない。

 所詮スライムから手に入る装備品だ。期待はしていない。

 鑑定して、効果を確認する。


あおの靴』……希少レア級装備品。装備者の俊敏力を少し強化する。3歩まで、空中を歩く事が出来る。装備者に合わせてサイズが変化する。


「結構凄かった!」

 微妙なんだけど、意外と凄いぞ!?俺の俊敏力が少し強化されるんだろ?……どうなるんだろうね。

 それに、何故3歩なのかは分からないけど、空中を多少は移動できるっぽい。これ、かなり凄くね?

 しかし……靴を手に入れたのは良いんだけど、足洗って、靴下を穿いたうえで履きたい。

 まあ、どうでもいいか。それより、サリアに履かせてみよう。

「サリア、これ履いてみないか?」

「え?いいの?」

「おう。別に俺は靴が無くてもいいしな」

 それ以上に、女の子を裸足で歩かせているという事に罪悪感を覚える。

「そっか……なら貰うね!」

 元気にそう答えるサリアの足もとに、靴を揃えておく。

 サリアは初めて履く靴に緊張しているのか、慎重に靴を履いていた。

「どう……かな?」

 靴を履き終えると、サリアは少し恥ずかしそうにしながらワンピースの裾を上げ、靴を見せてくる。

 白く、綺麗な肌によく映えた蒼い靴は、サリアの容姿と驚くほどにマッチしていた。

「スゲェ似合ってるぞ」

 嘘は全く吐いていない。深紅の髪に、白のワンピース。そして足もとは蒼色の靴だ。シンプルなのに、凄くオシャレに見える。

「えへへへ……ありがとう!」

 花が咲いたような満面の笑みを浮かべるサリアに、自然と頬が熱くなる。

 ……うわぁ、俺絶対顔真っ赤だよ……。

 不本意だが、フルフェイスヘルメットにこの時だけ感謝した。

 本当にゴリアの時とのギャップが凄いな。……サリアはともかく、ゴリアも可愛いと思いつつあった俺はおかしいのだろうか?流石、ゴリラの嫁を持つ男だな!

「オッホン……さて、最後に金を確認するか」

 俺はそう言うと、金が入っていると思われる袋を取り出し、中身を確認した。

 すると、中には銀貨50枚が入っていた。

「うーん……金銭感覚がおかしくなりつつあるかも……」

 銀貨50枚は多い筈だ。スライムのくせに。

 でも、クレバーモンキー達を倒して手に入れた金は、もっと多かったせいか、凄さが実感できない。

 これは、本格的にヤバいかも……。

 しかし、今はどうする事も出来ない。街に着いてから金銭感覚を取り戻すしかないだろうなぁ……。

 何時になく多い溜息を吐いていると、不意に俺の頭にファンファーレが鳴り響いた。

「今度は何なんだ!?」

 サリアにはやはりというか聞こえておらず、そう叫んだ俺に不思議そうに首を傾げていた。

 鳴り響いたファンファーレの意味を理解しかねていると、聞き慣れた声が頭に響く。

『レベルアップしました』

 ………………。

 …………。

 ……。

「え?」

遅くなりました!スミマセン。

この度、大賞に応募してみる事にしました。

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