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暗黒貴族の過去

お待たせしました。

 結果から言うと、結局俺は己の理性で抑え込んだ。もう必死で。

 いや……マジでビックバンだったよ。でもね?彼女いない歴が年齢なだけじゃなくて、元々女性と会話するのでさえ満足にした事が無い俺が、いきなり美少女になったサリアを襲うとかマジで無理。童貞の悲しき性だなぁ……ヘタレとも言うけど。

 でも、それ以上に俺はサリアを大事にしたいと思った。だから、勢いとかそう言うので動いちゃ駄目だと思う。……ゴリラの頃は何度もそう言うお誘いは受けてたわけですけど、美少女になった途端そう言う事を要求するのは人としてどうなんだろうかとも思うしね。いや、凄まじく魅力的ですけども……。

 取りあえず、サリアが美少女化した事や、いきなり抱きついてきた事による自分の身に起こっている現状の脳内処理を終えた俺は、流石に全裸はマズイという事で、アイテムボックスからワイシャツを一枚だけ取り出し、サリアに渡した。

 何が言いたいのかというと、サリアは現在――――裸ワイシャツである。

 お、俺は変態なんかじゃないぞ!?た、たまたま持っていた服で、サリアに着せられそうなモノがワイシャツしかなかっただけなんだからな!……説得力ねぇ……!

 でも、よくよく考えれば俺が女性モノの服を持っていたとしてもそれはそれでアウトだろ。何で持ってんだって話しになるしな。

 しかし……何とかしてサリアの服をどうにかしたい。下着も無いわけだし……。下着が無い状態でズボンをはかせるのもなぁ……。

 俺が一人頭を悩ませていると、俺の目の前でサリアは着ているワイシャツを可愛らしい鼻に押し当てていた。

「すー……はぁ!誠一の匂いがする!」

「え、臭かったか?」

「ううん!全然!とてもいい匂いだよ!凄くホッとするし、誠一に包まれてるみたいで嬉しい!」

「……」

 …………やべぇ、凄く恥ずかしい。満面の笑みを浮かべて言うサリアも可愛すぎる……。

 それにしても……いい匂いですか……。生まれて初めて言われたぞ。何時の間にか体臭が変わってたりするのかな?

 ためしに自分の体を軽く嗅いでみたが、よく分からなかった。というより、変わった気がしない。

 ……称号の『臭い奏者』で一応体臭は完全カットしておいた。ちょっぴり不安だったんでね。

 そんな馬鹿な事をやった俺は、しみじみとサリアに向かって言った。

「それにしても……本当にサリアは見事なまでに進化したな」

「え?そうかな?」

「いや、見た目とか完全に人間じゃねぇか。種族がまんま変わっちまってるじゃねぇかよ」

 俺が苦笑い気味にそう言うと、サリアはキョトンとした様子で言う。

「え?私別に変わってないよ?」

「は?いや……見た目とか完全に変わってるじゃん。中身は全然変わってないけど……」

「ううん。見た目も変わってないよ?」

 ……あれ?サリアさんは天然キャラにでも進化したんでしょうか?完全に見た目が凄まじい進化を遂げていらっしゃるのに、それに気付かないとか……。

 俺が何とも言えない表情をしていると、サリアは軽く頬を膨らませる。

「むー。本当だもん!」

「いや、だって……」

 俺がそう言いかけた時だった。

「じゃあ見せてあげる!」

 サリアがそう言うと、再び激しい光がサリアの体を包み込む。

 そして、それを目の前で見た俺は――――

「目が……目がああああああああああっ!」

 ム○カ、再び!

 ヤベェ!目が……本当に潰れちまう!失明するよ!?こんな至近距離で何度もあんなに激しい光を見ちゃうと!

 俺が両目を手で押さえ、地面をのた打ち回っていると、徐々に目の痛みが引いてくる。

「うぅ……凄くチカチカする……」

 クラクラする頭と、徐々に回復する視界が落ち着くまで待ち、再びサリアに視線を戻した。

「…………」

「ネ?言ッタデショ?」

 俺、絶句。

 サリア、ゴリラ。

 …………。

 何があった!?

 視線を戻すと、何時の間にか再びサリアはあのゴリラバージョンへと戻っていた。

「えええええ!?ゴリラに戻れんの!?」

「ウン。部分的ニ変エル事モ、出来ルヨ」

 すんげぇ無駄な能力だな!?

 俺はそんなサリアの発言に驚いていたが、それ以上に言葉を失わざる得ない状況にあっている事に気付いた。

 それは――――

「ゴリラの裸ワイシャツって誰の需要があるんだよおおおおおおおおおおおお!」

 美少女バージョンのサリアとは違い、ゴリラバージョンのサリアは、分厚い胸板がワイシャツをはち切れんばかりに押し上げていた。

 美少女だった時は、違う意味ではち切れそうだったんだけども……。

 これは……これは嫌過ぎるッ!

 誰か……誰かゴリラの裸ワイシャツの需要性を俺に教えてくれ……!

 頭を抱え、叫ぶ俺にサリアは頬を染めながら言う。

「ソンナニ喜ンデモラエルナンテ……恥ズカシイケド、嬉シイ」

「何でゴリラの時の方が羞恥心強いんだあああああああああ!」

 美少女の時のサリアはあんなに自分の裸姿を俺に見せていたのに恥ずかしがりもせず、逆に今のゴリラのサリアはワイシャツの裾から地味に見えそうな女性の大事な部分が見えないようにするために必死に下に引っ張っている。

 おかしいでしょ!?

 ゴリラの時は貴女普通に裸でしたよね!?何で今更恥ずかしがってんの!?意味分からないよ!?

 俺が両手両膝を地面につけ、項垂れていると、突然辺りが激しい光に包まれたように地面が白く染まり、やがてそれが収まるのを確認した俺は再び視線をサリアに戻した。

「ほら、言った通りでしょ?」

 そこには、あの美少女姿のサリアが眩しい笑顔を俺に向けていた。

「……」

 美少女になってくれて、良かったと思う自分がいる。これ、気のせいじゃないと思うんだ。

 ただ、裸ワイシャツの時とかに変身はヤメテもらいたいね。色々辛い。……主に精神的に。

 改めてその事を認識した俺は、サリアに訊く。

「てか……変身できるのは良いけど、何の意味があるんだ?」

 首を捻る俺に、サリアは少し困ったように言う。

「私、今の状態だと弱くなっちゃったみたいなの。それで、さっきの姿に戻ることで前と同じ戦闘力を引き出せるの」

 成程。今のサリアはどうやらゴリラバージョンのサリアと比べて弱いらしい。

 つまり、美少女サリア=非戦闘モード、ゴリラサリア=戦闘モード……という事だ。

 うん。ゴリラのサリアでも需要はあるみたいだ。……見た目の需要はよく分からないけど。

 サリアの新しい特性とも体質とも言えるモノを理解した俺は、倒したゼアノスのドロップアイテムを回収する事にした。

「おおう……凄い数のドロップアイテムだな」

 俺の目の前には、数多くのドロップアイテムが転がっていた。

「ゼアノスのドロップアイテムか……」

 ……どんなチートアイテムが飛び出すか分かったもんじゃないな。

 手に入れるのは良いけど、また扱えるかどうか……。

 取りあえず、俺は落ちていたスキルカードであろうモノを手に取った。


『スキルカード≪偽装≫』……スキル『偽装』を習得できる。

『スキルカード≪同化≫』……スキル『同化』を習得できる。

『スキルカード≪千里眼≫』……スキル『千里眼』を習得できる。

『マジックカード:闇属性・極』……闇属性の魔法が使えるようになる。

『流派カード:ゼフォード流守護剣術・開祖』……ゼフォード流守護剣術を使えるようになる。

『奥義カード≪一閃≫』……奥義『一閃』を習得できる。

『奥義カード≪雲霧くもきり≫』……奥義『雲霧』を習得できる。


「お、おおう……」

 俺はスキルカードを手に取り、内容を確認したのだが、どう反応すればいいのか分からなかった。

 大体流派カードって何?奥義カードは俺が奥義を習得したから何となくわかるけども……。しかし、やっぱり闇属性魔法を極めたって言ってただけあって、マジックカードはそのまんまだな。

 そう言えば、俺の事やサリアの事を鑑定してたけど、俺が既に鑑定のスキルを持っているせいか、カードとして出て来なかったな。

 それに、意外と攻撃系統のスキルが少ない事にも疑問を感じざる得ないし……。

 そんな事を思っていると、後ろからサリアが興味深そうに訊いてくる。

「誠一、それ何のカード?」

「うーん……一応スキルを習得できるカードなんだけど……」

 首を捻りながらそう俺が言った瞬間、カードは光の球となって、俺の中に吸い込まれていった。

『スキル≪偽装≫を習得しました。スキル≪同化≫を習得しました。スキル≪千里眼≫を習得しました。闇属性魔法が使えるようになりました。≪ゼフォード流守護剣術・開祖≫を習得しました。奥義≪一閃≫を習得しました。奥義≪雲霧≫を習得しました』

 頭に響く、スキルを習得した事を伝える声に軽く引きつつも手に入れたスキルを確認する。


『偽装』……相手に対し、自分自身のステータスや実力などを騙す事で、油断を誘う事が出来る。常時発動しており、自分の意思で解除できる。

『同化』……周囲に溶け込むように消える事が出来、索敵等の自分の存在を探られるスキルに対しても有効。ただし、攻撃をする時は解除しなければ当たらない。

『千里眼』……相手がスキルを発動したかどうかわかる。常時発動。

『闇属性魔法・極』……闇属性魔法を極めた。闇属性の魔法を全て扱えるようになる。

『ゼフォード流守護剣術・開祖』……ゼフォード流守護剣術の全ての技が扱えるようになる。

『一閃』……必ず相手のどこかを貫く奥義。

『雲霧』……相手の動きを見極め、全ての攻撃を受け流し、そのまま攻撃に転じる奥義。ただし、虚をつかれたりすると、発動する事が出来ない。


「どうしよう、使いこなせる自信がねぇ……!」

 俺はスキルを確認した瞬間そう叫んだ。

 いやいやいやいやいや!おかしいだろ!?スキル辺りは普通かもしれないけども……。

 でも『ゼフォード流守護剣術・開祖』ってヤバくね!?つまり、攻撃系統のスキルが無いと思ったら、この『ゼフォード流守護剣術・開祖』の中に全て組み込まれてるってことか!?

 闇属性魔法も、前のアクロウルフを倒して水属性魔法を全て覚えたように、一気に頭の中に情報が流れ込んで来た。

 それは、『ゼフォード流守護剣術』も同じで、その流派の使うスキルが全て頭の中に流れ込んで来た。

 今手に入れた闇属性魔法の知識では、なんかヤバそうな名前の魔法が多い。効果が分からないのが少し悪いところだけど……。

 でも本当に俺はこれらを使いこなせるんだろうか?

 何だかまたスキルに振り回されそうで怖いんだけど……。

 でも、スキルをただ闇雲に使うんじゃなくて、しっかり頭で考えて使用する事はゼアノスとの戦いで学んだ訳だから、今手に入れたスキルもゆっくりでも確実に使いこなせていけたらいいと思う。

 そんな事を俺が思っていると、サリアが少し興奮気味に言う。

「ねえ、さっきの何!?光が誠一の中に入っていったよ!?」

「ああ、今のでスキルを習得できたんだ」

「へぇ……凄いね!誠一、まだまだカッコ良くなって強くなるんだね!」

「そ、そうか?」

 カッコイイなんて今まで一度も言われた事が無い俺が、サリアの様な美少女に満面の笑みを向けられたまま言われると、照れるというより困惑してしまう。

「まあいいや。次は……」

 そう言いながら次に手に取ったのは、『暗黒貴族ゼアノス物語』と書かれた冊子だった。

「物語!?」

 今まで見た事のない表紙に思わず驚きの声を上げる。

 しかも、小さい字で下の方にこう書かれていた。

『ノンフィクションです』

「なら物語とは言わないだろ!」

 俺は思わずそう叫ぶしかなかった。

 しかし、今までとは違う冊子に好奇心が刺激される。

「一体何が書いてあるんだ?」

 俺がそう言うと、サリアも俺の後ろから覗きこんで来た。

 だが、少し見えにくそうだったので、口に出して読む。

「えっと……」

『暗黒貴族ゼアノスとは、約1500年前に存在した、世界有数の大貴族、ゼフォード公爵家の当主、ゼアノス・ゼフォードが魔物化したものである。魔物化する以前は、ハルマール帝国で皇族に匹敵する権力を持っており、領地内外問わず善政を行ったいい領主として知られていた。他にも、ゼフォード流守護剣術を開くなど、剣術の腕も相当なモノであり、ハルマール帝国が魔王討伐の際に召喚した勇者に剣術を教え込んだこともある。人一倍愛国心が強く、愛する妻であるエリザベスと仲が良かった事も有名だった』

「へぇ~」

 理解できているのかは分からないが、サリアが感心したような声を出す。

 しかし……勇者に剣術を教えてたとか。どんだけ強かったんだよ。しかも公爵。暗黒貴族って言うのも理解できたわ……。

 それに、本当に物語を読んでるみたいだな……。

『しかし、ハルマール帝国の帝王であるエルシュタット3世は、勇者が魔王を討伐した後はその力を己に向けられる事を恐れ、身に覚えのない罪を着せ、根も葉もないな噂を国内に流し国民を味方に殺してしまう。その矛先は勇者を鍛えたゼアノスにも向けられることとなった。元々自身に匹敵する権力を持ったゼアノスが目障りであった事もあり、ゼアノスを殺す絶好の機会であると思われてしまう』

 ……何だか話しの展開が暗くなってきたぞ?

『ゼアノスは必死に自分が帝国を裏切る筈が無い事を主張したが、全く聞き入れてもらえなかった。そんな、愛する国に裏切られたゼアノスだったが、更に愛していた妻であるエリザベスにまで裏切られる』 ……ってマジで!?

 奥さんと仲が良かったんじゃないの!?

 驚く俺だったが、読み進めていく手は止めない。

『ゼアノスの妻であるエリザベスは、元々ゼアノスの所に嫁いだ理由も、金に心配が無さそうだからという理由であったのと、貴族の間でよく行われていた政略結婚だった。それ故に、結婚後は表面上はゼアノスを支えるいい妻として取り繕ってきたが、ゼアノスの立場が悪くなるとゼアノスを捨て、逃げてしまう』

 おい、エリザベス!

 ……まあ自分に身が一番だって考えるのはおかしなことでもないんだけど……。でも、他人の話しをこうして読んでいると、酷いと感じてしまう。

『ゼアノスは、政略結婚であったとは言え、本気でエリザベスの事を愛していた。だが、愛する国、愛する妻に裏切られたゼアノスは、真実の愛というモノが分からなくなり、そして世界に絶望した』

「うぅ……」

 何の声かと思い、後ろを振り向くとサリアが涙目になっていた。

 俺は苦笑いしながらサリアの頭を撫でてやると、後ろから腰に手をまわして抱きついてきた。

 ……む、胸が……。

 再び理性が吹っ飛びそうになるのを懸命に抑えつつ、続きを読む。

『だが、そんなゼアノスを常に支えていたのは、メイドであるマリーだった。マリーは幼い頃孤児として今にも餓死寸前だった所をゼアノスに救われ、そのままメイドになった少女だった。マリーは、自分を救ってくれただけでなく、仕事まで与えてくれたゼアノスに感謝の念を抱くと同時に、ゼアノスと接していくうちに淡い恋心まで生まれていた。だが、ゼアノスは主人でマリーはメイド。この時代は身分がより重要視されていた事と、エリザベスという奥様がいた事もあり、マリーがゼアノスと結ばれる事はまず叶わなかった。別に一夫多妻制が無いわけではないが、愛妻家であるゼアノスが妾や他に妻をとることは考えられていなかった』

「……」

「……」

 俺もサリアも熱心に読む。

 何だか読み進めてると、続きが気になりだした。

『愛する国に裏切られ、愛する妻に裏切られたゼアノスは、絶望すると同時に人を信じる事が出来なくなっていた。そして、国からゼアノスを捕らえるための兵が派遣され、捕まるのも時間の問題と言う時に、マリーは無気力状態であるゼアノスを引っ張り、国の追ってから逃げ出した』

 逃避行キタアアアアアアアアア!

 つ、続きは!?

『追って来る兵から逃げ、指名手配までされたゼアノスを救いたいが一心でマリーは動いた。そんなマリーに対しても、人間不信に陥ったゼアノスは心を一向に開こうとしなかったが、やがてマリーの一途で一生懸命な働きに徐々に心を開き始め、同時にマリーに惹かれていった』

「……」

 無言でページをめくる。

『そして、そんなゼアノスに対し、吉報が届く。それはエルシュタット3世が病死し、4世に代わったという内容だった。エルシュタット4世は、ゼアノスに対し、自身の父親のせいで苦労をかけた事を謝りたい。だから城に来てほしいという紙を国中に張り出した。人間不信がマリーのおかげでだいぶ改善されていた事と、再び愛する国から……それも、帝王自らが謝罪したいという申し出に、ゼアノスは喜び、急いで城へと向かった』

「おお……」

「よ、よかったぁ……」

 俺もサリアも話しの展開に何時の間にか体が緊張していた。

『だが、城へと向かったゼアノスに待ちうけていたのは、残酷な現実だった』

「「へ?」」

 その一文に俺とサリアは間抜けな声を出す。

『国中に張り出された紙は、すべてゼアノスを誘い出し、殺す為の罠だった。ハルマール帝国は、ゼアノスの愛国心を利用したのだった』

「ハルマール帝国のクソ野郎っ!」

「酷い……」

 俺は思わず叫び、サリアは涙を流していた。

『エルシュタット4世は、ゼアノスを捕らえる等と言う事はせず、その場で殺してしまおうと考えていた。当たり前だが、入城と帝王に謁見するために、武器は取り上げられており、抵抗をする術が無い。以前の無気力状態のゼアノスならば、簡単に殺されていたが、今となっては心の支えとなってくれるマリーがおり、そのマリーの元へ生きて帰るためだけに素手で兵士たちと戦った』

「ヤベェ、ゼアノス超かっけぇ……!」

「凄い……」

『だが、素手のゼアノスにも限界があり、体力の限界と同時にその場で殺されそうになる。そんなゼアノスを庇ったのは、ゼアノスに生きる気力を与えてくれたメイドの少女、マリーだった』

「「マリーぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!」」

 俺もサリアも思わず叫んだ。

 だって……だってぇ!

『彼女は、自分の背でゼアノスを槍や剣、弓矢などの攻撃から護った。呆然とするゼアノスに、マリーはゼアノスの事を愛していた事を告げ、笑顔のまま息を引き取った。そんなマリーを前に、ゼアノスは壊れた。完全に心が壊され、豹変し、その場にいた追手の兵を素手で殺してしまう。それは、体力が既に限界にまで達していたゼアノスでは考えられない事だった。』

「うぅ……」

「ぐすん……」

『そして、亡骸となったマリーを大事に抱え、とある森に隠れ住む。森に生えていた反魂草を使った霊薬でも、復活が出来ない程にマリーの体は傷ついていた。ゼアノスには光属性の魔法に対する適性が無く、傷を癒す事も出来なければ、蘇らせることも出来ない。だが、闇魔法には、禁術とも呼べる魔法が存在し、その魔法を使えば、復活させる事が出来るかも知れなかった。そこから、ゼアノスは闇魔法の研究を重ね、やがて闇魔法の境地にまで至っていた』

 成程……だから、ゼアノスは闇魔法を極めていたのか。

『だが、長い年月をかけ過ぎたゼアノスは、心身ともに衰弱し、そして魔法を行使できないまま朽ち果てる筈だった。しかし、ゼアノスの執念とも呼べる想いが、ゼアノスを魔物に堕とす事で生きながらえた』

「……」

「……」

『魔物となったゼアノスは、マリーの亡骸に禁術に値する闇魔法を行使したが、結果は駄目だった。理由としては、マリーが死んでからの時が経ち過ぎ、闇魔法の禁術でも復活不可能な状態にまでなっていた事だった』

 もう、俺もサリアも熱心に読み進める以外無かった。

『それを知ったゼアノスは、瞳無き眼で泣いた。声帯無き声で泣いた。それから、ゼアノスは最高難易度を誇るダンジョンの一つ、【果てなき悲愛の森】の奥地で静かにマリーの亡骸と過ごしたのだった』

 ここまで読んで、『暗黒貴族ゼアノス物語』が終わり、『暗黒貴族ゼアノスの人生』と書かれた表紙に移っていた。

 ……………………。

「世の中って残酷だ……!」

「悲しいよ……誠一……」

 俺達は、もうゼアノスの物語りに号泣していた。

 ゼアノス……アイツにも色々あったんだな。初めの口調や態度からじゃ想像できなかったけど。

 サリアは俺の手に持つ冊子から視線を外し、今は俺の背中に顔を押し付けて泣いていた。

 俺は、そんなサリアの頭を撫でてやると、そのまま『暗黒貴族ゼアノスの人生』を読んで行った。

 結果から言うと、凄まじい量の情報が頭に入り込んで来た。

 それは、1500年前の国の情勢や、今では滅びたかもしれない1500年前に既に絶滅寸前だった魔物の事等と様々だった。

 中でも一番興味深いと思った事は、ゼアノスが魔物になる前に戦った事のある数多くの魔物と、勇者の事だろう。

 魔物の情報は、討伐方法からその討伐するまでに気をつけなければいけない事等と色々で、倒した魔物の種類がゼアノスを含めて3種類しかない俺からすれば、とても大事な情報だった。

 勇者の情報では、まず魔王が復活する度に色々な国で勇者召喚の儀式をやるらしい。つまり、俺の学校の連中以外にも、神が知らないだけで何人か勇者召喚されてるかもしれないという事だ。

 更に、召喚された勇者は、伝説の聖剣と呼ばれる武器を召喚されると同時に自動的に全員与えられるらしい。

 魔王も、とどめを刺す方法がその聖剣でしか出来ないというのも、ゼアノスが勇者の剣術の師匠であっただけで、直接討伐しに行かなかった原因の一つだった。一番の理由は、皮肉にもハルマール帝国の戦力でもあるゼアノスを、国から魔王復活という現実と更に国同士の戦争が激しい緊張状態が続く中で旅立たせるのは得策では無いと判断したハルマール帝国のせいで、行けなかったようだ。。

 全部読み終えると、例に違わず冊子は光り、俺の体の中へと消えていった。

「ふぅ……まあ気を取り直そう!」

 俺は暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように、空元気をだした。

「えっと?次は……」

 そして、次に俺が手にしたのは、ゼアノスのステータスが球体になったモノだった。

 俺は、それを一つ一つ確認して行く。


『魔力:60000』

『攻撃力:50000』

『防御力:20000』

『俊敏力:70000』

『魔攻撃:60000』

『魔防御:60000』

『運:100』

『魅力:50000』


「桁がやべぇ!?」

 おかしくね!?ステータスが運以外2万以上じゃん!?てか運低いな!?

 そりゃあレベルが1500って言う馬鹿げた奴だったけども……。それに、運もあの『暗黒貴族ゼアノス物語』を読んだ後だと納得できるけども……!

 つか、俺の魅力って骸骨以下なのか!?それ以上に、ゼアノスの魅力が五万って言う事に驚きだ!

 うわぁ……へこむ。でも挫けない!

 ステータスの球体は、そのまま俺の体の中へと入っていき、そして頭に流れる声を聞き流しつつ次のドロップアイテムに移った。

 後残ったモノは、宝箱と落ちている漆黒の細剣と地面に突き刺さった純白の細剣。

 俺は、宝箱の方から開けてみる事にした。

「これは……?」

 まず一つ目に入っていたモノは……黒色の首輪?いや、言うならチョーカーか。

 よく観察すると、プラスチックでも金属でも無い……とにかく、俺が地球にいた頃では触った事のない不思議な手触りをした素材で作られていた。真ん中には、綺麗な青色の宝石が埋め込まれている。

 俺は、すぐに鑑定を使い、名前と効果を確認した。


黒王石こくおうせきのチョーカー』……神話ミソロジー級装備品。世界に数多く存在する鉱物の中でも、特に貴重とされる黒王石で作られたチョーカー。外部からの魔力と反発する力があり、魔法攻撃を自動反射する。ただし、反射出来る魔法の威力は、装備者のレベルに依存する。真ん中に埋め込まれた宝石は、蒼癒石そうゆせきと呼ばれ、回復魔法等の効果を増大化させる効果を持つ。装備者に合わせて大きさが変化する。


「いきなりチート過ぎるっ……!」

 しかもまさかの神話級ですか!?まさか俺の水霊玉の短剣を超えちゃうとはね!?

 怖いわぁ……ゼアノス怖い。

 でも、効果は非常にいいモノなので、俺は首に早速装備した。

 すると、何故か俺の首にピッタリはまり、全く苦しさなどは感じなかった。

 これが、装備者に合わせて大きさを変化させる、という効果なのだろう。

「えっと?じゃあ次は……」

 次に宝箱の中に入っていたのは、これまた首に装備するネックレスだった。

 銀色のチェーンと、真ん中にはハート形のピンク色の宝石らしきモノで作られたモノがぶら下がっていた。

「ハートかぁ……これはサリアにあげた方がいいのかな?」

 そんな事を思いながらも一応鑑定する。


『果て無き愛の首飾り』……夢幻ファンタジー級装備品。ゼアノスを特殊な条件の下、倒して手に入る世界に唯一つの首飾り。ハート形のピンク色の宝石は、天然でその形をしている事から別名『愛の宝石』と呼ばれる、伝説上の宝石と言われていたラブハート。チェーン部分の銀は、伝説上にしかないと言われていた想伝銀そうでんぎんと呼ばれる特殊な銀と、コピーシルバーと呼ばれる銀が混ざり合ったモノで作られている。コピーシルバーと想伝銀の効果が合わさり、最初の所有者と相思相愛の人間の数分首飾りが分裂する。この首飾りを持っている人間同士は、遠く離れていても、『念話』と呼ばれるモノが使えるようになり、何時でも連絡をとる事が出来る。ラブハートの効果で、同じネックレスを持つ人間の数だけステータスが倍になる。ただし、この効果は視認出来る位置に同じネックレスを持つ人間がいなければ発揮しない。


「…………OH…………」

 こんな反応しか出来ない俺を許してほしい。

 てか夢幻級!?やっぱり存在してたの!?

 それ以上に効果が訳分からないんですけど!?え、同じネックレス持っている人間の数だけステータスが倍になるの!?つまり、二人なら2倍で三人なら3倍って事!?

 これ、ハーレム野郎専用の装備じゃね!?そうだろ絶対!

 よ、よかったぁ……俺がこれを持っている限り、誰か一人のハーレム野郎がインフレ起こす事は無い訳だ。どっかのハーレム野郎……ざまぁ!

 目の前のネックレスに百面相していると、サリアが何時の間にか俺の手にあるネックレスを肩越しに見ていた。

「うわぁ……可愛い首飾りだね!」

「え?あ、ああ。そうだな」

 うーん……これ、俺が装備するよりサリアが装備した方が良いよなぁ。

 そんな事を思った俺は、手に持った首飾りをサリアにあげようとしたその時だった。

「ん?って……はあ!?」

「わぁ……」

 いきなり手に持っていた首飾りが淡いピンク色の光を放ち始めたのだ。

「ちょっ……何!?何が起こってんの!?」

 いきなりの現象に慌てる俺だったが、やがて淡い光が収まると、手には全く同じ首飾りが二つ握られていた。

「…………はい?」

 え、何で二つになったの?呪われてるんじゃね?いや……マジで何で二つになった?怖いんですけど。

 ……はい。まあ理由は分かってるんですけどね。

 いや……マジで二つに分かれるなんて思わなかったんだもん。

 つまり、最初の所有者と相思相愛の人間の数分首飾りが分裂するって事は……最初の所有者は恐らく俺で、俺と相思相愛の人間……それはサリアがいるから、ネックレスが二つに分裂したんだろう。

 つか……こうして目に見える形として、サリアと本気で好き合っているという事が実感出来て嬉しい。

 ……うん、まあ……結果オーライって事で!深く考えるのが面倒くさくなった訳じゃないからな!違うったら違うんだい!

 そんなくだらない思考回路は一旦切り捨てて、俺はサリアに向き直る。

「サリア。この首飾り……受け取ってくれるか?」

「え?いいの?」

「おう。それに……」

 そう言いながら、俺はもう一個の首飾りを自分で付けると、サリアに見せた。

「ほら。俺も付けるから、サリアが付けてくれたらお揃いだぞ?」

 俺が笑いながらそう言うと、サリアは一瞬驚いたような表情をして、その後に頬を赤く染めながら言った。

「えっと……それじゃあ……ちょうだい?」

「……」

 美少女状態であるサリアの、モジモジとしながら上目遣いをしてくるというこのコンボの破壊力は凄まじかった。

 自分の頬が赤くなるのを感じながら、サリアにネックレスを渡そうとするが、サリアはそれを手で止めて、首を振る。

「駄目。私が自分で付けるんじゃなくて、誠一に付けて欲しいな」

「え?」

「駄目?」

 ここでも殺人クラスの上目遣いコンボを放ってきたサリアに、俺は否定の言葉が続く訳も無く、サリアの首にネックレスをかけてやった。

「こ、これでいいか?」

「うん、ありがとう!」

 満面の笑顔でそう言われてしまうと、もう何も言う気にならない。あ、完全に俺惚気てやがる。彼女がいない歴が長い俺に、サリアクラスの美少女から好意を抱かれるのは色々とハードルが高いッ!……元ゴリラだけど。いや、今もゴリラだけど。

 サリアとそんなやり取りを終えた俺は、もう一度宝箱の中を確認するが、もうお金以外は入っていなかった。

 なので、お金の袋を取り出し、中身を確認すると、白金貨が5枚、金貨が47枚、銀貨が76枚入っていた。

 ……確かにもうこの森から出ようとは思ってるけども、これ以上お金を必要としないんだけど……。

 だが、いくら必要が無いとは言え、あるに越したことが無いので、俺は全部アイテムボックスに放り込んだ。

 これで、大体のドロップアイテムは回収した。そう、大体は――――

「…………問題は、これだよなぁ…………」

 そう呟く俺の前には、漆黒の細剣と、純白の細剣。

 漆黒の細剣は、ゼアノスが使っていたモノだから分かるんだけど、純白の細剣は、ゼアノスが消滅した後に地面に刺さっていた剣なんだもんなぁ……。

 だが、考え込んでも仕方が無いので、まず最初に漆黒の細剣を手に取り、鑑定スキルを発動させた。


憎悪渦巻く細剣ブラック』……夢幻級武器。ゼアノスの憎悪が具現化し、レイピアとなったモノ。斬りつけた相手に、ランダムでバッドステータスを付与する。更に、斬りつける度に相手の魔力と体力を奪い、所有者の魔力と体力を回復する。ただし、傷は回復出来ない。体力と魔力の回復量は所有者のレベルに依存する。


「もうチートはお腹いっぱいです」

 もうね、こんなにチートな武器があっても俺使えないって。それだけの実力が無いんだって。

 そもそも、平和な世界で暮らしてきた俺が、いきなりこんなぶっ飛んだ力手に入れたら変な勘違いしちゃうだろうが。最初から自分の力だっていう勘違い。

 もう、スキルとかを過信するのはよくない事は痛感した訳だ。スキルも使用者が駄目駄目だったら本来の力すら発揮できない訳なんだし。

 うーん……この危険な世界で生きていく上で、強い武器やスキルは必須なんだけど、扱える自信が……。

 これは要努力と言う事で、俺の永遠の課題だろうなぁ。

「つか、この剣鞘無いのかよ……」

 ふとそう呟くと、突然『憎悪渦巻く細剣』……ブラックは、闇色の光に包まれ、光が収まるとそこには鞘に収まったブラックがあった。

「……うわぁ、流石異世界。何でもアリか」

 ただ、今はその何でもアリな状態に助けられているので、文句も言わずにそのまま腰のベルト通しに差し込んだ。

「最後は……この純白の細剣か」

 純白の細剣を手に取り、鑑定スキルを発動させる。


慈愛溢れる細剣ホワイト』……夢幻級武器。ゼアノスを特殊な条件の下、討伐して手に入る武器。所有者が仲間と判断した相手に触れると、所有者の意思で魔力や体力を譲渡する事が出来る。所有者は、超自然回復状態となり、ある程度のダメージや傷は一晩で完全完治する。付与系統の魔法を行使すると、本来の倍以上の効果を発揮する。ただし、これらの効果は所有者のレベルに依存する。


「だからチートはお腹いっぱいなんだって!」

 何なの!?凄いチートの勢ぞろいなんだけど!?

 そして凄くブラックとの相性がいいな!?ほぼ無敵じゃねぇか!

 チートだらけの装備の中で、唯一救いなのが、俺が未だにレベル1だという事。

 これが、ゼアノス級のレベルだったとすれば……俺、装備だけで人間辞められるんじゃないかなぁ。

 まあチート装備を多く持っているというこの状況を不幸に感じる俺もたいがいだけどな。もう感覚がおかしい。

 人間に出会うことなくこうして過ごしてきたけど、異世界の人間も俺と同じレベルの装備とかなら全然安心できるんだけどね。俺が勝手に一人でチートとかじゃなくて。

「それより……この剣も鞘無いのかよ」

 再びそう呟くと、『慈愛溢れる細剣』……ホワイトは、優しい光に包まれ、光が収まるとそこには鞘に収まったホワイトがあった。

 俺、もう驚かない。

 ゼアノスのドロップアイテムは、色々とツッコみどころが満載過ぎて疲れたけど、何とか使いこなせればいいなと俺は思いながら一息ついた。

 だが、俺は一番大事な事を忘れていた。

 こんなところで気を抜いている場合じゃないのだ。

『大量の経験値の取得を確認しました。最終進化前状態である事を確認しました。特殊進化条件達成。1000レベルの差で進化条件を達成した事を確認しました。最終進化への達成にあたり、その相手がダンジョンボスである事を確認しました。これより、最終進化、特殊進化を行います。ボーナス進化発生。以上より、全ステータス50000+20000+20000+10000。これより、最終進化、特殊進化、ボーナス進化を行います』

 無慈悲に流れる何時もより何故か長い声に対して俺は――――

「あ」

 ――――これしか言えなかった。

サリアさんのゴリラはやはり重要だと思い、あの設定に変更しました。

そして誠一……もうさよなら人類ですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴリラに戻れなかったらココで読むのをやめてたまである。
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