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身を挺して

 時が経つのって早いね。それに、慣れって怖い。

 カイザーコングである、サリア(この名前で呼ぶ気はさらさら無いが)に連行されてから早1週間が経過してしまった。

 ……なんかもう、ゴリラでもいいんじゃないだろうかと思いつつある自分に驚きとドン引き。流石にゴリラはマズイだろ。だって種族全然違うじゃん。

 でも、あのクソゴリラの家事スキルと言えば、人間の一般女性より高いのではないだろうか?と思う程の凄さ。もうビックリだ。

 そして、最近にクソゴリラの毛を触らっせてもらったけど、これがまた何とも言えない気持ちよさ。尻尾もサラサラフワフワと言う凄まじい手触りなのだよ!

 第一、散々俺が罵り続けている訳だけれども、元々は俺が相手の事をどうこう言える立場では無いんだよね。だってイジメられっ子だもん。今でこそ痩せたけど、地球にいた頃は、デブ・キモい・不細工・汚い・臭い……もう最悪じゃないか。下手すればゴリラよりひどい。いや、絶対酷い。

 そんな事を思いつつも、何気に食事なんかも美味しいモノが何時も食べられるこの状況に満足しつつ、脱出しなきゃなぁ、なんて考えている今日この頃だ。

「誠一、ハイ」

「ん、有り難う」

 俺はクソゴリラから朝食を受け取る。……うわぁ、新婚みたいだ。本格的にヤバいぞ。

 自分の精神状態や状況に軽く引きつつも、朝食を受け取り食べる。

 ……相変わらず美味いんですけど。ゴリラじゃなければ、そりゃあいいお嫁さんだろうにね。

「ソンナ……照レル」

「心読んでんじゃねぇよ」

 コイツが時々怖い。何で心読まれてるんだよ。

 カイザーコングの……というより目の前のクソゴリラの最近発覚しつつある新たな特性にドン引きしていると、クソゴリラは何かを思い出したような仕草をした。

「ソウ言エバ、今日、探索ノ日」

「……探索?」

 思わずそう訊いてしまう。

「ソウ。私、クレバーモンキー達引キ連レテ、『進化ノ実』、探シテル」

「!?」

 進化の実だと!?

 俺は、クソゴリラの口から飛び出した言葉に目を見開くほど驚いた。

「誠一、進化ノ実、知ッテル?」

「…………」

 どうしよう……ここは正直に知ってると言えば良いんだろうか。それより、知らない事にして情報を聞き出せたりしないだろうか……。

 少し考えてた俺だったが、知らない事にする。

「……いや、知らないな」

 そう言うと、カイザーコングが一つ頷いた。

「ソウ。ナラ、教エテアゲル。『進化ノ実』、凄イ。ソノ種族、頂点ニナレル。様々ナ点、優レタ状態デ生マレ変ワレル」

 ……つまり、進化の実を食べて、進化すれば、その種族で優秀な状態になれる、と?

 ……い、意味が分からん。

 え、それじゃあ何?俺の場合は人間で一番強くなれるとか?頭が良くなるとか?見た目が良くなるとか?

 ……強さは比較する人間がいないし、第一レベル1のままだし……。頭は物覚えが良いような気がしないでもないけど、素頭の方は変わった気がしない。相変わらず馬鹿だな!見た目に至ってはステータスの魅力が空欄じゃねぇかッ!……生活魔法の『ウォッシュ』を使ったのにね。もう死んでしまいたい。

 ちなみに、服もクソゴリラが用意してくれた無駄に素材の良い服を着ているから綺麗だし、汚くなってもクソゴリラが洗ってくれる。

 下着も、少し違う素材で作っているらしく、もっと肌触りが心地いいモノで、更に『ビヨンじゅ』と呼ばれる木の蔓が伸縮性抜群で、丈夫な素材と言う事で、所謂ゴムの代わりとして俺のパンツなんかに用いられてたりする。俺の以前来ていた服やパンツなどの下着は、クソゴリラがなにやら必死に求めてきたので生活魔法の『ファイア』で燃やしてやった。

 まあそんな事はどうでもいいわけで、これらの結果から普通に考えると……。

 ……駄目だ、意味分からねぇよ。進化が体感できてないんですけど!?……体の激痛以外。もう嫌だっ!

 そんな風に思っていると、クソゴリラは続ける。

「私、少シ前マデ、話セナカッタ。人間ノ本、読ンダケド理解出来ナカッタ。デモ、アル時見ツケタ進化ノ実。ソレ食ベテ、何時モノヨウニ狩リシテタラ、マタ人間ノ本読ンデタ時ニ言葉ガ覚エラレタ」

 あっれぇ?なんかクソゴリラの方には結構効果が出てないか?言葉が理解できるレベルまでとか結構……いや、かなり凄いぞ?

 それに、俺のようにレベルが上がっていないんだとすれば、進化の実を食べた時は既にレベルが700だったのだろう。なんか≪状態≫進化×1って表示されてたし。強いな……。

「他ニモ、見タ目、変ワッタ。強ク、ナッタ。後……」

「悪い、もっとスラスラとしゃべってくれない?」

 なんか見ててじれったい……。てかイライラするのは何故だ?……そうか、ゴリラだからだな!……違うか。

「ゴメンネ。デモ、私ノ口、話ス機能、元々ナイ。鳴キ声ハ出セテモ、言葉、違ウ。ダカラ、スラスラ、話セナイ。本当ハ、モットお話、シタインダケド……」

「俺は結構です」

 そもそもの話題がねぇよ。何話せって言うんだよ。

「チナミニ、進化ノ実、10個以上ハ、食ベラレナイ。ソレ以上食ベルト、体ガ進化ニ追イツカナイ。ダカラ、死ヌ」

「怖いよっ!?」

 マジで!?10個以上食べたら死ぬの!?あぶねぇ……見つけたら採っておいて、食べようとか思ってたぞ……!という事は、俺はこれ以上進化の実は食べられないという事だな。……残念。

 思わぬ情報を手に入れられた事で、俺は少し安心した。進化の実って凄いんだなぁ……。

「私、既ニ10個食ベタ。ダカラ、マタ集メテ、私ノ夫ニ相応シイ存在ニ、アゲルツモリダッタ。一度、クレバーモンキーガ見ツケタ。ケド、何者カニ、奪ワレタラシイ」

 ……あ、あれ?何だか嫌な予感が……。

「ダカラ、マタ探シテ、誠一ニアゲル。ツイデニ、奪ッタ奴、殺ス」

「スミマセンデシタあああああああっ!」

 俺は全力で土下座した。

「本当にスミマセンデシタっ!盗んだの俺っス!お腹空いてて、食べましたッ!」

 プライドなんざクソ喰らえ!生き残ったヤツこそ正義なんだよ!弱肉強食舐めんなっ!

 俺は土下座の体勢を維持し、恐る恐る顔を上げると、特に表情が変化した様子の無いクソゴリラの顔があった。

「ナンダ、誠一ダッタノ。ナラ、許ス」

「そ、それじゃあ……!」

「デモ、結婚。コレ、絶対ニナッタ」

「いやあああああああああああっ!」

 そうだよね……そうですよね!?だって自分の旦那さんにする存在にあげる筈だった物、俺が食べたんだもの!やっちゃったよ!?もう引き返せねぇよ!

 こ、これは本格的に逃げる必要があるぞ……!

 幸い、クソゴリラは進化の実を探しに行くらしい。

 その隙に、俺はこの地獄から逃げ出す……!

 ……少し、あの食事が食べられなくなるのが寂しいだなんて……お、思ってないからな!?

 俺がそんな事を思い、項垂れていると、クソゴリラは意外な反応を示してきた。

「誠一……私ノ事、嫌イ?」

「え?」

 何時ものように、ウザい反応を返してきたのではなく、とても不安そうな反応を返してきたのだ。急にどうした……。

 俺がそんなクソゴリラの様子に戸惑っていると、クソゴリラは言う。

「私、誠一、好キ」

「……」

 何度目の告白だろうね。

「デモ、誠一、私ノ事、嫌イ?」

 本当に悲しそうにそう訊いてくるクソゴリラ。

 ……これ、なんて答えればいいの?いきなり難易度高くなったよ!?

 ただ、ここまで真剣に、そして悲しそうに聞いてくるのだから、俺も真面目に答えるのが人間として正しい事だろう。

「……嫌いじゃねぇよ。むしろ好きだな」

 そう、これが俺の本心である。

 だが勘違いしないで欲しい。あくまで、俺の『好き』は、ゴリラとして好きという事だ。ゴリラとして好きって言うのもおかしな話だけどさ……。

 掃除、洗濯、料理、裁縫、そして何故か俺に対して一途な事。これだけ聞けば、非の打ちどころのない存在に聞こえる。

 でも……でもゴリラなんだよッ!

 なんでゴリラなの!?ゴリラじゃなければ全然俺イイよ!?元々相手の容姿なんて選べる立場じゃないんだから!

 そんな俺でも、違う種族……それもゴリラだよ!?色々無理があり過ぎる……!人間なら、どれだけブサイクでも我慢できる。……こうして聞くと非常に上から目線に聞こえるが、望みが無くても美少女や美人とは結婚したいんだよ!悪いか!?……悲しき男の性だな。

 勝手に一人で落ち込んでいると、俺の答えを訊いたクソゴリラが、何時もの調子に戻った。

「ソウ。ナラ、今スグ結婚」

「……やっぱり前言撤回していいか?」

 調子が戻ったら戻ったでウザい。何なんだろうね。

「ムゥ……。誠一、照レ屋サン」

「本格的に死んでください」

 ヤベェ、凄くウザい。ぶん殴りてぇ……!でも返り討ちが目に見えるのが本当に悲しいね。

「マアイイ。私、ソレジャア進化ノ実、探シテクル」

「どうぞ、行ってらっしゃい」

 俺は必死に笑みがこぼれそうになるのを我慢した。

 ここで笑ったら、確実に不審がられる……!

 というより、まだ進化の実探しに行くんだ……理由は分からないけど。

「ツイデニ、今日ノ獲物モ狩ッテ来ル」

「え?」

 俺はここである違和感に気付いた。

 獲物を狩って来るという事は、魔物を殺すという事だ。つまり、進化するんじゃないだろうか?

「クソゴリラ。今までの飯とかって全部お前が狩ってきたモノなのか?」

「違ウ。クレバーモンキー、狩ラセタ。ソレ食ベテル」

 クレバーモンキーよ。とことん利用されてんじゃねぇか……!

「進化の実食べてたら、魔物倒した瞬間に進化するんじゃないのか?」

 俺がそう訊くと、クソゴリラは首を横に振った。

「ソウ。デモ違ウ。魔物ヲ狩ッテモ、自分ヨリレベル低イト、意味無イ」

「あー……」

 つまり、今まで俺が簡単に進化していたのは、自分よりレベルが上の存在を狩り続けたからか。

「私ヨリ強イ魔物、最近遭ワナイ。昔、殆ドノ魔物、魔王軍ニ連レテ行カレタ。私、戦争ニ興味無イ。ダカラ、隠レテタ」

 こんなところで魔王の存在登場ですか……。しかも、昔と言っても100年前とかそんな話しじゃないだろうから、意外と最近かもしれない。

「一応イルケド、近ヅカナイ・・・・・カラ大丈夫」

「近づく?」

 クソゴリラの言葉に思わず首を捻る。

 しかし、クソゴリラは俺の言葉が聞こえなかったらしく、詳しい事は話さなかった。

「ソンナ事ヨリ、私、誠一ニ質問、アル」

「へ?」

「誠一、人間。ドウシテコンナトコロニ?」

 そりゃそうだ。こんな場所に、人間がいる事は普通おかしいよね。

「まあ……色々あったんだよ。……あ!」

 そう言って、俺はある事を思い出した。

「霊薬作るの忘れてたっ!」

 そう、アクロウルフに邪魔され、クソゴリラに連行されと、色々あり過ぎてすっかり忘れていたが、元々俺は『霊薬』を作りたかったんじゃないか!

 俺が本来しようと思っていた事を思い出し、どうしようかと思っていると、クソゴリラは首を傾げる。

「霊薬?アンナノ、イルノ?」

「まあ、人間にとっては凄いモノだからな」

 だって、死人が蘇るんだぜ?ヤバいよね。

「でも、霊薬を作るための『ヒートロック』と肝心の『反魂草はんこんそう』を持ってないから……」

「私、持ッテルヨ」

「へぇ、そいつは凄いね。……はい?」

「私、持ッテル」

「マジで!?」

 思わず大きな声でそう言うと、クソゴリラは近くの茂みに移動し、なにやらガサゴソと探っていると、やがて何かを持って戻ってきた。

「コレ。コッチガ、ヒートロック。コッチハ、反魂草ト、ソノ種」

「種?」

 クソゴリラから渡されたのは、真っ赤な色をした石と、白と緑のコントラストの草、そして何の変哲もない種だった。

「種、育テ方分カラナイ。霊薬、作ッテモ、私、効カナイ。ダカラ、アゲル」

「マジ!?」

 再びクソゴリラの言葉に驚き、俺は一応渡された物を鑑定してみる。


『ヒートロック』……特殊な効果を持つ熱を生み出す鉱物。軽く衝撃を与え、放置すれば、最高温度120℃もの熱を発する。使い捨てでなく、一定時間経過すれば、自然と熱は収まり、何度でも使用可能。その効果には、死者を蘇らせるために必要なモノも含まれており、水などに浸けると、その水は体に非常にいいモノへと変化する。

『反魂草』……死者を冥界から呼び戻す効果があるとされる草。ただし、これ単体では効果は無く、ヒートロックを浸けた水に溶かし、混ぜることで効果を発揮する。

『反魂草の種子』……埋めれば、反魂草が生えてくる。ただし、水やりなどをする際には、ヒートロックを浸けた水を使用し、土にもヒートロックを混ぜた事のある物を使用する必要がある。


「……」

 や、ヤベェ……やっぱり死者を蘇らせるだけあって、効果が凄まじい。

 というより、ヒートロックの活用の幅が広すぎる。活躍し過ぎだろ……。

 だが、クソゴリラはこんな凄いモノをくれると言った。……なら、もらうよ。だってくれるって言ったんだもの。

「じ、じゃあ有り難く貰うわ」

「ウン。ソノ代ワリ、私ト結婚」

「やっぱ返すわ」

「……冗談」

 少し間があったよ!?あながち冗談じゃ無かったって事だろ!?ゆ、油断も隙もねぇ……!

 驚く俺をよそに、クソゴリラは森の方に体を向けた。

「ジャ、私、訊キタカッタ事、分カッタ。狩リ、行ッテクル」

「うん!行ってらっしゃい!」

 俺は実に元気よく、笑顔でそう言ってやった。

 これで、俺も自由になれる……!やはり、ゴリラと言うだけあって、俺が逃げ出す事など頭にないのだろう。フフフ……この地獄ともおさらばしてやるぜ!

 思わぬ収穫として、霊薬の素材まで手に入ったしな!

「ウ、ウン。行ッテクルネ」

「今のどこに頬を赤く染める要素があったんだ!?」

 俺が笑顔で送り出そうとすると、何故かクソゴリラは顔を赤くした。気持ち悪いわっ!せめて……せめて人間であってほしかった……!

 俺はクソゴリラが茂みの奥へと進んで行くのを見送る。

 よし……行くぞ……行くぞ……。

 クソゴリラがどんどん見えなくなっていくと同時に、俺はすぐに移動の準備をする。

 行先は取りあえず、クレバーモンキー、アクロウルフの二つの地図情報でも分からなかった、黒塗りになっているところだ。

 そして、とうとうクソゴリラの姿が見えなくなり――――

「エスケープっ!」

 意味も無くそんな事を叫び、俺は早速駆けだした。

 はははは!俺の勝ちだ!1週間……耐え抜いたんだ!

 何度逃げようとしても、クソゴリラがどこに行くのにも付いて来て……軽く諦めかけてた上に、ちょっとクソゴリラとの生活も楽しいかも……なんて思い始めていたが……。

 やっと……やっと解放されるのだっ!

「ははははは!素晴らしい!自由って何て素晴らしんだっ!」

 うん、我ながら壊れてると思う。テンションがカオスだな。

 軽やかな足取りで、ひたすら森を駆けていると、俺は突然背中にゾクリとする何かを感じた。

「!?」

 俺は急いで後ろを振り向くと――――

「待ッテ!誠一!」

「ぎゃあああああああ!追ってきたあああああああ!」

 あのクソゴリラが凄まじいスピードで追いかけてきていた!

 嘘だろ!?探索とやらに行ったんじゃねぇのかよ!?てかゴリラが全力疾走してくるとか軽くホラーなんですけど!?何故かアスリート走りだし!

 てか何で本当に俺を追いかけてきてるんだ!?探索どうした!?

 そんな事を俺が思っていると、クソゴリラが叫ぶ。

「駄目!ソノ方向ハ……!」

「何だかよく分かんねぇけど、俺はやっと自由になれたんだ!この自由をもう逃さんぞおおおおお!」

 もうここまで来たんだ!後には引けねぇ……。第一、戻ったとしたら、逃げ出した事の言い訳とかどうするんだって話だしな。

 俺は少しでもクソゴリラと距離を開くため、スキルの『刹那』を連続で発動させることにした。

「『刹那』!『刹那』!『刹那』!『刹那』!」

「――――!」

 みるみるとクソゴリラとの距離が開いていく。流石、スキルだな!

 こうして、俺はスキルをフル活用することで、クソゴリラとの距離を引き離しまくっていると、やがて目の前に洞窟が現れた。

「なんだ?」

 徐々に近づく洞窟に、俺は首を傾げる。

 こんな場所に、洞窟があったのか……。

 もう既に、俺の頭の中にインプットされている地図では、黒塗りの場所まで来ていた。

「……なんか、妙な威圧感があるような……」

 足を止めることなく、洞窟に近づいていた俺だが、その洞窟から放たれている、妙な雰囲気を俺は何故か敏感に察知していた。

「…………まあ、この洞窟以外隠れられそうな場所も無さそうだし…………」

 洞窟に隠れている方が簡単にバレそうな気もするが、何故だか洞窟の周辺には、木々が一本も生えていない。

 最初から、洞窟以外に隠れる選択肢が無かった。

「……行くか」

 俺は洞窟に行く事に決めた。それ以外選択肢が無いというのもあるが、純粋に俺が洞窟の中が気になったという事もある。

 それに、洞窟に入ったら、意外と入り組んでて、見つかりにくくなるかもしれないし。

 俺はスピードを落とす事なく洞窟に突入した。

 地球にいた頃の俺なら、ここまでのスピードで長時間走るなんて無理だった。だが、この世界に来てから、進化したおかげか、こんな事ではちっとも疲れない。うーん……異世界人は皆体力が多いんだろうか?俺が進化して疲れにくくなった位だし、元からこっちにいる人が体力が多いと言われても納得しそう。

 洞窟に入り、ひたすら走り続けた俺だったが……

「……どうしよう。全然曲がり道とか無いんですけど」

 ひたすら一直線の道が続くだけだった。

 それに、何故か奥に進むにつれて、炎の灯った松明たいまつや、豪華な装飾らしきものがちらほらと壁に埋め込まれている。

 …………。

「え、何?ここって一体何なの!?」

 なんか急に不安になってきたぞ!?だ、誰か住んでんのかなぁ!?

 だが、今引き返せば確実にクソゴリラに捕まるだろう。……何をさせられるか……。

 と、とことん奥まで行くしかないようだ……。

 俺は、再び覚悟を決め、奥へと続く一本道を駆け抜ける。

 そして――――

「これは……」

 俺の目の前には、豪華な装飾が施された黒色の鉄製……だと思われる扉があった。

 あれからひたすら走った訳だが、特に魔物も出る事も無く、この場所まで辿り着いていた。

 真ん中には、深紅の宝玉が埋め込まれ、禍々しい雰囲気がその扉から放たれている。

「い、一体……」

 思わずその扉から放たれる雰囲気に後ずさる。

「……」

 これは……というより、ここまで来たら……入るしか、無いよな?

 俺は意を決し、その禍々しい雰囲気を放つ、漆黒の扉を開いた。

「……」

 中に足を踏み入れると、暗かった部屋の周りに備え付けられた松明に一気に明かりがともる。

「……」

 それでも、薄暗いのは変わらなく、不気味で尚且つべったりと纏わりつくような不快な雰囲気は和らがない。

 視線を周りに忙しなくさまよわせている時だった。

『――――初だな。人間が我の部屋を訪れるのは……』

「!?」

 突然聞こえてきた声に、俺は思いっきり反応し、声の方向へと視線を向けた。

「なっ――――」

 そこにいたのは、漆黒のローブに、同じく喪服を思わせる黒色に、矛盾した豪華さを醸し出す服に身を包んだ骸骨だった。

『我の部屋へ辿り着けたという事は……それなりに強者だと認識してよいな?』

「……いいえ、ケフィアです」

『…………』

 沈黙が痛い……!

 だって仕方ないだろ!?混乱してるんだもの!何なの!?この骸骨!てか何でしゃべれんの!?骸骨って声帯無いだろ!?

 驚きながらも俺は、密かに相手にばれないように、目の前の骸骨を鑑定してみた。


『暗黒貴族ゼアノスLv:1』


「へ?」

 俺は表示されたレベルを見て、思わずそんな気の抜けた声が出た。

 レベル……1?俺と、同じ……?

 恐らく、相当間抜けな顔をしていた筈の俺を見て、目の前の骸骨……ゼアノスはなにやら得心がいったような雰囲気を出す。

『成程……貴様、我の強さを見抜こうとしたな?』

「なっ!?」

 バレてる!?何で!?

 驚く俺をよそに、ゼアノスは言葉を続ける。

『我の実力を知ろうとするなど、愚の骨頂。我の力は、目に見えるモノでは無い。まして、我は貴様を騙して・・・いる』

「だ、騙す……?」

 何とかそう言葉を絞り出した瞬間だった。

「――――」

 突然、ゼアノスから放たれる雰囲気が一変した。

 最初は、色々とよく分からない不気味な存在で、強そうに見えて、強そうに見えないという矛盾した雰囲気を纏っていた。

 だが、今目の前で雰囲気が一変したことで、俺の最初に感じた雰囲気は全て取り払われた。

 ――――強い。凄まじいまでに……強いっ!

 クソゴリラのカイザーコングが霞んでしまう程に……。

 相手の力量を測るなんてことは、だいぶ前の俺なら不可能だったはずなのに、何故か今の俺は、第六感とも呼べそうな、本能的部分が盛大に警報を鳴り響かせていた。

 危険だ……コイツは危険すぎる……!

 俺は、何故だか今のゼアノスと、さっき鑑定した時のゼアノスが別モノに見えて、再び恐る恐る鑑定した。


『暗黒貴族ゼアノスLv:1500』


「……」

 なんか、桁が一つ違うのではないでしょうか?え、1500?まさかの1000超えちゃった?500も?

 …………。

「はいいいいいいいい!?」

 そう声を上げるしかなかった。

 絶叫する俺に対して、ゼアノスはどこまでも冷たく、まるで興が冷めたかのように言い放った。

『……つまらんな。我の部屋に初めて訪れた人間が、どれ程のものかと思ったが――――』

 その瞬間、ゼアノスは空間に溶け込み、消え去った。

「!?」

 ど、どこ行った!?

 俺はスキル『索敵』を発動させるも、何故か全く反応が無い。

 突然目の前で起こった出来事に目を見開く程驚き、焦っていると、再び空間から滲みだすようにしてゼアノスが俺の目の前に現れた。

「え――――」

 突如現れたゼアノスの右手には、どこから出したのか、一目見ただけで危険なモノだと分かるような雰囲気を放つ、漆黒の細剣が握られていた。

『――――とんだ雑魚だった様だ』

 そんな一言と共に、ゼアノスはその右手に握った細剣を俺の左胸へと突き出した。

「――――」

 ――――だが、その細剣は俺の左胸を貫く事は無かった。

「大丈夫?誠一」

 俺の心臓を貫く筈だった刃に貫かれたのは…………サリアだった。

 俺の代わりに左胸の……心臓の部分を貫かれたサリアは、ゼアノスにその太い腕を振るって攻撃をする。

『む……』

 そんな攻撃に、ゼアノスはすぐに細剣をサリアの左胸から引き抜き、そのままかわした。

 引き抜かれたサリアの胸からは、真っ赤な血が飛び出す。

 何で……何で……何で……。

「間ニアッテ……ヨカッタ……」

 呆然と立ち尽くす俺に、サリアは柔らかい声音でそう言う。

 そして、サリアはそのまま地面へと倒れた。

 ――――――――――!!!!

「サリアあああああああああああああああああああああっ!」

体調を崩しており、中々執筆出来ておりません。すいません……。

後、前回1,2話程で森から出ると言いましたが、次とその次位の話になるかもしれません。

さて、サリアさん。女子力の次は、ヒロイン力を爆発させてみました。いや、ヒーロー力かもしれませんが……。

まだ本調子では無いので、執筆はまた少し間が空くかもしれません。

そして最後に一言。私、ハッピーエンドが大好きです。

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