救世主宝箱
無事に魔物の殲滅が完了すると、アベルのもとにフロリオが近づいた。
「助太刀感謝いたします。……ただ、我々はアナタが誰なのか分からない。冒険者の方々ですか? それにその魔物は……」
当然ともいえる疑問に、アベルは苦笑いを浮かべた。
「あー……冒険者ではないんだが……よく考えると説明するのメチャクチャ大変だなぁ!」
大昔とはいえ勇者と言うだけでなく、しかも死んだ状態から生き返ったなどとはとてもではないが説明できなかった。
どうしたものかと頭を悩ませるアベルのもとに、仲間であるガルスたちや宝箱たちもやって来た。
「どうかしたの?」
頭を抱えるアベルに、一美は声をかける。
「えっと……こちらの方々にどう説明したもんかと思いまして……」
「ううむ……見たところ、この国の兵隊さんみたいだな……」
フロリオたちの装いを見てそう判断した誠は、フロリオに言った。
「失礼、私は柊誠と申します。突然ですが誠一という名前をご存知ですか?」
「え? 誠一君ですか?」
誠の言葉にフロリオは目を見開く。
「ええ。私たちは誠一の知り合いです。まあ私と一美は誠一の両親なのですが……それと、こちらの魔物はサリアさんのご両親ですよ」
「ええええっ!? せ、誠一君の親御さんでしたか! ……って、サリアさんの親御さんも!? いやいや、どう見ても魔物じゃ……」
「うん? ご存知なかったですか? サリアさんはここにいる魔物と同じ種類だそうですが……」
「ウム、サリアハ私タチト同ジ【カイザーコング】ダゾ」
「衝撃の新事実ですよっ! しかもしゃべれるんですか!?」
驚くフロリオの反応を見て、アベルは「ああ、驚いてるの俺だけじゃなかった」と安心した。
「サリアさんのご両親はここで初めて会いましたが、我々は違うんですよ。少し前に誠一と会いましてね。住む場所を探していたところこの国がとてもいいと聞きまして、こちらにいるアベル君たちに守ってもらいながらここまで来たのです。ですが到着して早々、何やら大変そうだったためアベル君たちが助けに行ったんですよ」
「ええ。俺たちは誠さんの言う通り護衛兼この国で冒険者をやろうと思ってたんですよ。でも来たら魔物の大群が押し寄せてるしで驚きましたけど……いや、一番驚いたのはサリアさんのご両親だけどさ……」
アベルたちの説明を受け、フロリオは驚いていた。
「はぁ……さすが誠一君のご両親と知り合いと言いますか……とにかく、助かりました、ありがとうございます」
「いえ、こちらも間に合ってよかったです」
頭を下げたフロリオは、すぐに顔をあげるもその表情はすぐれない。
「……いえ、まだ終わりではないんです。こちらとは反対側にも、魔物が押し寄せてまして……」
「ああ、そちらは大丈夫でしょう」
「え?」
苦笑い気味のアベルの言葉に、フロリオは思わずそう返した。
「向こうにも誠一の知り合いが向かっているのですが……」
「過剰戦力だろうなぁ……」
「ええ。ていうか、あの二人をどうこうできる存在が思い浮かばないわ……あ、誠一は別ね」
「そうですね……誠一さんはともかく、あの方々を相手に出来る人は正直思い浮かばないですねぇ……」
「えっと……それはどういう――――」
アベルだけでなく、その仲間であるガルスたちも苦笑いして口々に言った。
そんなアベルたちの反応にフロリオが訊こうとした瞬間、兵士の一人が急ぎ足でやって来た。
「フロリオ様! 報告です! 反対側での戦闘ですが、突如現れた二人の助太刀により終結いたしました!」
「へ!?」
「やっぱりなぁ……」
兵士の報告に目を見開くほど驚くフロリオ。
そんなフロリオの反応を見ながらも、兵士は職務を全うすべく報告をつづけた。
「偵察班の報告によりますと、周囲の魔物は完全に討伐が完了したとのことで、フロリオ様やS級冒険者の方々は至急陛下の元まで帰還せよとのことです」
「分かりました。ではそれをS級冒険者の方々にも伝えてください。それから、魔法師団の何人かには周囲の警戒を、残りの兵士はドロップアイテムの回収をさせなさい」
「ハッ!」
命令を受けた兵士は速やかにその場から移動する。
それを見届けたフロリオは改めてアベルたちに向き直ると申し訳なさそうに告げた。
「すみません……皆さんにも同行をお願いしてもいいですか? もちろん、そちらのサリアさんのご両親も」
「え? 俺たちは構いませんが……いいんですか?」
「ソウダナ。私タチハ魔物ダゾ」
「はい、大丈夫ですよ。サリアさんのご両親も討伐に協力していただいたようですし、出来れば詳しい話を陛下にもしていただきたいので……それに、誠一君の知り合いですから。無碍にもできませんよ」
同行することを了承したアベルたちは、フロリオに連れられ城へと向かうのだった。
◆◇◆
「む? 来たか」
「おーい、こっちこっち~」
フロリオに連れられて城にやって来たアベルたちが案内された部屋に入ると、そこにはすでにゼアノスとルシウスの姿があった。
言葉だけで見れば大変和やかに聞こえるが、部屋の中は悲惨だった。
「う……ぅ……」
「……あ……ぁ……」
「……ヒュー……ヒュー……」
ルシウスはとある三人を笑顔のまま、漆黒の槍で磔にしていたのだ。
その三人とは【魔神教団】の使徒であり、本来なら強大な力を持っているのだがルシウスの前では何の意味もなかったのだ。
部屋に入って早々、血塗れの三人を見てフロリオやS級冒険者たちは驚く。
そんなバイオレンスな光景に、アベルは頬を引きつらせながら尋ねる。
「え、えっと……何をしてるんですか……?」
「んー? ちょっとこの三人が僕の逆鱗に触れちゃってねー。オシオキしてたんだよ。ハハハハハ」
「そ、そうなんですかー……は、はははは……」
笑えねぇ。
アベルは素直にそう思った。
すぐに話題を変えようと室内を見渡すが、誰もが暗い表情を浮かべている。
フロリオもその様子に気付き、難しい表情で立っているランゼに声をかけた。
「陛下、ただ今戻りました」
「ん? おお、フロリオか。ご苦労だった」
「ありがとうございます。えっと……まず、彼らは一体……?」
フロリオの視線の先にはゼアノスとルシウスの姿があり、ランゼはため息を吐きながら教えた。
「俺も詳しいことは分からん。だが、誠一の知り合いらしい。まあルイエスたちの窮地を救ってくれたようだし、悪いヤツらじゃないだろう。それを言うなら、お前が引き連れてきた連中は誰なんだ? なんか魔物もいるが……」
「ああ……彼らも誠一君の知り合いだそうで。そのうち二人は誠一君のご両親らしく、こちらの魔物はサリアさんのご両親だそうで……」
「マジかよ!? 色々と意味分からなさすぎだろ!? 詳しいことは分からんが、誠一の知り合いがここにいてくれたおかげで今回は助かった。てか、アイツだけじゃなくても知り合いもぶっ飛びすぎだろ……」
呆れた様子のランゼに、フロリオはこの暗い空気になっている訳を訊いた。
「それで、陛下。何故このような空気に? そういえば、魔族の方々の姿が見えませんが……」
「ああ……魔王の娘が……ルーティアがやられた」
「なっ!?」
ランゼの言葉にフロリオは絶句した。
だが、すぐに正気に返ると詳しい状況を訊く。
「それじゃあ、魔族軍は……」
「別室で付きっきりで看病してる」
「傷は!? 回復魔法などは……」
「全部試したよ。だが、そこで磔になってるヤツが使った道具がまずかった」
「え?」
「――――『呪具』だよ」
「あ……」
ランゼのその一言でフロリオは全てを察した。
「『呪具』にかけられた呪いが、俺が受けた呪いと同じタイプのモノでよ……回復魔法も回復薬も、何も効かねぇ。しかも質の悪いことに、三日以内に呪いを解かなけりゃ死ぬようだ」
「そんな……」
「魔族軍の連中は今すぐにでもそこで磔になってるヤツらを殺したがったが、耐えてもらった。殺しちまうと、本当に対処できなくなる。今は救うための情報が一つでも欲しい」
「それは……」
言葉を失うフロリオ。
暗い表情を浮かべる全員に、磔にされていた一人のエドマンドが歪んだ笑みを浮かべた。
「く……くくく……ざまぁ……みやがれ……もうあの娘に……命はねぇよ……」
「まだまだ元気みたいだね? どうする? その口、引き裂いちゃおうか?」
「ルシウス殿、やめておけ。相手の思うつぼだぞ」
圧倒的な威圧を放っているルシウスを、ゼアノスは冷静に宥めた。
その様子を見ていたフロリオは唐突に何かを思いついた様子でランゼに言う。
「そうだ! 誠一君を呼びましょう! 陛下のときのように、誠一君なら何とかできますよ!」
フロリオの言葉に、ランゼは横に首を振った。
「無理だ。ここからバーバドル魔法学園までどれだけ早く移動しても最低で一週間はかかる。転移魔法が使えるヤツもいるが、バーバドル魔法学園に一度も行ったことがないから使うことすらできねぇ。」
「そんな……」
誰もが絶望する中、突然どこか場違いな緩い声が上がった。
「ちょっといいかしら?」
「ん? 貴女は……」
声の主は一美であり、一美はランゼのもとに移動する。
「ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったのだけど、誠一が必要なのよね?」
「ああ、そうだ」
「私には詳しいことは何も分からないけど、宝箱さんなら何とかできるんじゃない?」
「へ?」
突然の提案に、ランゼだけでなくその場にいるほとんどが目を点にした。
だが、すぐに正気に返ったランゼが訊ねた。
「た、宝箱さんとは一体……」
「……ん、おれのこと」
「本当に宝箱だと!? いや、そもそもなんで手足が生えてるんだ!?」
「ささいな問題。気にするな」
「やっぱアイツの仲間オカシイだろ!」
思わず宝箱の見た目にツッコむランゼだったが、現在の状況を思い出し真剣に訊いた。
「こちらの婦人が言うには、君なら誠一を連れてこれるというんだが……」
「……おれ、できる。学園に行ったことあるし、転移魔法、使える」
「メチャクチャ優秀だなぁ!?」
驚くランゼたちに、宝箱は親指を突き立てて言い放った。
「……あとは、おれに、まかせとけ」
その姿はとても宝箱とは思えないほど頼もしかった。
全文改稿していたものが一つ終わりました。
改稿とは言いつつも、内容は完全に新作です。
よければ読んでみてもらえると嬉しいです。
『おはようガーディアン(仮)』
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