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集結するS級冒険者と暗躍する者たち

 ウィンブルグ王国の王都テルベールにあるギルド本部。

 いつもは変態たちが騒ぎ、国の兵士たちを困らせているのだが、今のギルド本部は静まり返っていた。

 そして、普段ギルド本部で活動している冒険者たちは遠巻きにとある集団を黙って眺めているのだった。


「――――で? 今回私たちを招集した理由は何ですか?」


 荒くれどもが集まる冒険者ギルドには似つかわしくない、派手さと上品さを兼ね備えた真紅のドレスを身に纏った女性が静かに言う。

 手には扇子が持たれており、口元を隠していた。

 年齢は二十代ほどで、顔だちも華やかな貴族然とした女性だ。


「そうだゼ~? わざわざ転移魔法の使える連中を使ってまで俺たちを集めたんダ。それなりの理由があるんだロ~?」


 続いて言葉を発したのは、超巨大なアフロ頭とグラサン、さらにアロハシャツと短パンとビーチサンダルといった、異世界であることを忘れてしまいそうになるほどアメリカンでアロハな褐色肌の男性だった。

 年齢も三十代前半といった容姿で、見た目と相まって非常にチャラい。


「私の愉しみを邪魔したんだ。つまらん用件ならば斬り刻む……と、言いたいところだが、こんなに麗しい女性と過ごせるんだ、見逃してやろう。ところでお嬢さん方。私と熱い夜を過ごしませんか?」


 物騒なことを口にしたかと思えば最後に残念な発言をしたのは、透き通るような白髪に切れ長の金目を持つ、剣士といった風貌の凛々しい女性だった。

 その腰に提げられた剣は、例え素人であったとしても一目でただの剣ではないと思わせるだけのオーラがある。

 貴族然とした女性と同じく年齢は二十代ほどに見え、凛とした佇まいが女性にウケそうだった。


「俺も来なきゃダメだったのか? アンタは俺の立場が分かってるだろ? この国は差別がほぼないとはいえ、他国から見たらどう思うか……」


 困ったような表情でそういうのは、このギルド本部でもほぼ見ることのない中年の魔族の男性だった。

 オールバックの紫の髪と、赤色の瞳。魔族の象徴ともいえる二本の角を額から生やし、格好は一般的な冒険者の装備と大差はない。


「ふぁ~……眠いよぉ……帰っていい~?」


 まったく緊張感のない様子で欠伸をしているのは、少女といっても差し支えない十代くらいの女の子だった。

 魔法使いのような帽子とローブを身に纏っており、もう既に鼻ちょうちんを作りながら眠っている。


「俺は何だっていいさ。合法的に人が殴れるならな」


 銀色の全身タイツに、赤のマフラーを巻いた男性――――【必倒】の異名を持つ、ガルガンドがニヤリと笑いながらそう言った。


「まあまあ。みんな落ち着こうよ」


 それぞれの意見を口にする皆を宥めているのは、平凡といった言葉がよく似合う青年だった。

 平均的な冒険者の装備に身を包んだ茶髪碧眼の彼は、困ったように笑っている。

 そんなまったく共通点のない彼らの前に立っているのは、ギルド本部のギルドマスターを務めるガッスルだった。


「ハハハハハ! 相変わらず欲望に忠実なようで安心したぞ!」

「笑い事ではないでしょう? この筋肉ダルマ」

「ありがとうッ!」

「褒めてませんわ……」


 ガッスルの隣でため息を吐くのは、ギルド本部の受付嬢であるエリスである。

 いつも通り漫才のようなやり取りをした後、ガッスルは咳ばらいを一つして真面目な表情で話し始めた。


「さて、そろそろ本題に入ろうか。今回君たちを呼んだのは他でもない。依頼がきたからだ」

「依頼?」


 ガッスルの言葉に、集められた全員が首を捻る。


「おいおい……俺たちを集めて依頼ってのは穏やかじゃねぇナ~」

「そうですね……それに、この面々が集められた中、あのお方・・・・がこの場にいないのもおかしいですよね?」

「確かに……俺たちがいて、彼女が来てねぇのはおかしいだろ」


 アフロの男性や、貴族然とした女性、魔族の男性はそれぞれ思ったことを口にした。

 そんな彼らの疑問に、ガッスルは答える。


「ああ、あの方なら後でいらっしゃるとも。なんせ、真っ先にお伝えしたからな。ただ、今は別件で遅れていらっしゃるそうだ」

「まあそれが普通だろうな」

「ならば、私たちを呼んでまでの依頼とやらは何なのだ? 正直話、私を含む何人かはあまり国から離れたくないのだが……」

「そうだな、内容を教えてくれ。俺を呼んだくらいだ……人を殴る依頼だろ?」

「そんな物騒な依頼があるわけないじゃないですか……ないですよね?」


 剣士の女性がガッスルに訊く中、ガルガンドの言葉に平凡な青年が疲れたようにツッコむ。


「うむ。ガルガンド君、残念だが人を殴る依頼ではないぞ」

「そうか。じゃあな」

「帰っちゃうの!? それはダメだよ!」


 ガルガンドが帰ろうとしたのを、平凡な青年は引き留める。


「もうここに俺の用はねぇ。放せ」

「ふぁ~……あ、ガルガンドが帰るの~? じゃあ私も帰る~」

「自由すぎるだろ、この人たち!」


 ガルガンドに続いて魔法使いの少女までもがそう言うので、平凡な青年は全力でツッコんだ。


「ハハハハハ! いやぁ、それでこそといった感じだな!」

「笑ってないでガッスルさんも引き留めてくださいよっ!」

「頑張れ!」

「アナタがそんなんだからダメなんでしょ!?」


 平凡な青年の言葉はもっともであった。


「冗談はこれくらいにして……依頼の内容を伝えるから、ガルガンド君ももう少し待ってくれ」

「……チッ。それなら早く言えよ」

「ありがとう! さて、君らに頼みたい内容なのだが……近々、ここウィンブルグ王国の国王ランゼルフ様と魔族の王……いや、その娘であるルーティア様が国交に関することで会合を行うのだ」

『っ!?』


 ガッスルの言葉に、集まった全員の顔色が変わった。

 特に、魔族の男性は一番の衝撃を受けていた。


「ここまで言えば分かるだろうが……諸君らには、その会合の際の警備を頼みたいのだ」

「……真面目に大きな依頼ですね」


 ため息を吐きながら貴族然とした女性はそう口にする。


「うむ。皆も知っての通り、魔族の人々との関係はかなり危うい。どこの国とは言わないが、歴史的に見て我々人間やエルフといった他種族と魔族は敵対関係にあることがほとんどだった。厄介な話だが、ここウィンブルグ王国では差別がないとはいえ、他の国での魔族との関係は良好とはいえない」

「……そうだな。俺たち魔族がどれだけ歩み寄ろうとしても、大国が俺たちを悪だと言ってしまえば他の弱小国家じゃ飲み込まれちまう。そしてそれがいずれは世界の共通認識になるからな……」


 複雑な表情で魔族の男性はそう言うと、すぐに真っ直ぐな視線でガッスルを見つめた。


「だからこそ、俺たちみたいな魔族でも差別しねぇこの国に迷惑をかけたくなかった。俺たちが出入りしてるってだけでも、その大国を刺激しするだろうからよ。……だが……そうか……そこまでしてくれんのか……」

「気にすることはない! ここは君たちの我が家でもある! 大国が何だ、気にせず帰ってきたまえ! 筋肉の前に、国や種族など関係ないのだからな! ということで、私と共に筋トレをしようじゃないか!」

「あ、それはパスするぜ」

「冷たいっ!」


 断られたにも関わらず、ガッスルは笑顔でマッスルポーズを決めていた。

 断った魔族の男性も、ガッスルの言葉が嬉しくて照れながらも笑顔を浮かべていた。


「それで……どうかな? 諸君。この依頼、受けてはもらえないか?」


 改めてガッスルが真剣な表情でそう告げると、しばらくの沈黙が訪れた。

 そして――――。


「しょうがないですね……いいでしょう、私――――コーネリア・アルノルディはこの依頼を引き受けます」


 貴族然とした女性――――コーネリアは、扇子を閉じるとそう告げた。


「コーネリア君……!」

「あ、この依頼にホモン様は参加されるのですか? 私、彼らのパーティ『薔薇の楽園ビー・エル』のファンなのですが……おっと、思い出しただけで鼻から情熱が……」

「……依頼のためだ、後で招集しておこう」

「そうですか! ムフッ……ぐへへへへ」

「コーネリアくーん? 女性がしちゃダメな顔をしてるぞー?」


 最後の最後で締まらなかった。


「俺も構わねぇゼ? 俺だって魔族のダチくらいいるんダ。そいつらが笑えるようになるってんなら、いくらでも手を貸してやるヨ。ってなわけで、アフロス・ディノワールも参加でヨロ~」

「おお、アフロス君! 助かるぞ!」


 軽い調子でアフロ頭の男性――――アフロスも参加する意を示す。


「私を呼んだだけはある依頼内容だ。それに、正直その大国とやらは気に入らない。いったい、何人の可憐な女性が魔族にいると思っているのか……私、ユリーネ・レズィも参加しよう。うむ、魔族の女性は実にいい! 彼女たちの魅惑的なボディといったらもう……! む? 失礼。私も鼻から情熱が……」

「うむ、ユリーネ君! 参加はありがたいが、依頼中は欲望も控えめにね!」


 剣士の女性――――ユリーネも、コーネリアと同じく鼻血を出しながらも参加を決定した。


「ハッ! 俺は国交だとか種族だとか興味はねぇが……一応正義のヒーローを名乗ってるんだ。俺、ガルガンド・ルティックスも参加してやるさ」

「ガルガンド君! 何を言うんだ、君は立派な正義のヒーローだぞ!」

「あわよくば人を殴れそうだしな」

「前言撤回だ!」


 ガルガンドも動機はともかくとして、参加を表明する。


「ん~……正直眠いからやりたくないけど~……平和になればゆっくり眠れるもんね~……いいよぉ、ネム・ドルミールも参加で~」

「ネム君も参加してくれるのか!」

「Zzz……」

「もう寝てる!?」


 魔法使いの少女――――ネムは、鼻ちょうちんを作りながらも依頼に参加することを告げた。


「あはははは……本当に自由な人たちだ。ガッスルさん、僕――――ユースト・ホラーズも参加させてください。僕も、魔族の方々と仲良くしたいですからね」

「ユースト君……君がいれば、もはや依頼は達成したも同然だな!」

「それは言いすぎですよ」


 苦笑いを浮かべる平凡な青年――――ユーストも、ハッキリと参加すると口にした。

 そして――――。


「さて……残るは君だけだぞ、オーヴァル君!」

「……皆が協力してくれるって言うのに、俺が参加しないわけにはいかねぇだろ? オーヴァル・デミラ、参加するぜ!」


 魔族の男性――――オーヴァルも参加をすることに。

 こうしてこの場に集まった人物たちは、ガッスルの依頼を受けることになったのだ。

 ガッスルは、最後に全員を見渡し、堂々と告げた。


「諸君、協力感謝する! ――――『S級冒険者』たちよ、共に依頼を達成しよう!」

『おお!』


 ギルド本部に集結したS級冒険者たち。

 彼らは魔族と人間の明るい未来のため、全力を尽くすことを誓うのだった。


「で、早くホモン様を呼んでくれませんか?」

「……はい」


 …………………………誓うのだった。


◆◇◆


 ――――水晶の置かれた暗い部屋の中。

 一人の男――――魔王の側近であるクライスが水晶に語り掛けていた。


「んひっんひっんひっ! どうだ? 集まったか?」

『ああ。しかし……あの量を集めるのには苦労したぞ』

「……んふー。これも全て、以前の作戦が……テルベールに魔物を放ったのをすべて倒されてしまったのが悪いのだ……」

『ふぅ……正直、あの時のお前に怒りをぶつけてやりたい気持ちもあるが、ワシも失敗するとは思っておらんかった。まさか【鉄人】や【氷麗の魔人】だけでなく【魔聖】までもがあの場にいるとは……』


 クライスたちが語っている以前の作戦とは、王都テルベールに魔物の大群を転移魔法で送り込んだときのことだ。

 あの場は誠一の存在により大惨事になることなく済んだが、本当ならば『魔聖』であるバーナバスがいたとしても小さくない被害があったはずだった。

 それもこれも、すべて誠一がいたがために失敗したのである。


「計画を練り直さなければいけないかと思ったのだが……今回はある意味運がいい」

『……ウィンブルグ王国と魔王の娘が国交回復のために会合を行うんだったか?』

「んひっ! そうだ」


 水晶の声に、クライスはニヤリと笑った。


『また魔物を集めさせられたがどうするつもりじゃ? もう一度テルベールに魔物を送り込むのか? もしそうだというなら、以前よりもっと厳しいぞ。魔王の娘との会合ということもあって、ウィンブルグ国王がS級の冒険者どもを警備のために集めるという話ではないか。そんな場所に集めた魔物を送り込んでも結果は見えている。それなのにどうしようというのじゃ?』

「ああ……魔物は確かにもう一度テルベールに送り込むつもりだ。だが、今回はさらにもう一人――――エドマンドを送り込む」

『エドマンドを? アイツは――――ああ、そういうことか』


 水晶の声は一瞬怪訝そうな様子だったが、すぐに納得する。


「分かったか? 別に絶望を集める方法は市民を殺すことだけじゃない」

『――――魔王の娘を狙うのじゃな?』

「んひっ! 正解」


 クライスは歪んだ笑みを浮かべた。


「人間との友好を願う会合の場で、その人間の手によって殺される魔王の娘……」

『魔族は怒り狂い、人間と魔族の関係は修復不可能なレベルになるじゃろうなぁ……しかも、そこに魔物の大群が押し寄せれば……』

「怒り狂う魔族の相手も、魔物の相手もせねばならんのだ。たった一人を殺すだけで、多くの血が流れる……んひっんひっんひっ! 最高だ……最高ではないか!」

『そのためのエドマンドじゃな? 奴ならば可能じゃろう。例え【魔聖】がおろうともな。何なら、ワシがもうひと手間加えてもいい』

「んふー。それがいいだろう。以前のような失敗はもう出来んのだ。我々【魔神教団】の存在が徐々に世界に知れ渡りつつあるからな……」

『……そうだな。では、万事抜かりのないよう……』

「ああ――――」


 ――――すべては、魔神様のために――――。

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