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今後の方針

 私――――レイア・ファルザーは、魔王軍議会で決定したウィンブルグ王国との交流の件を部下のベルたちにも伝えるべく、私の城へと戻っていた。

 城に着いてすぐにベルたちがいるであろう部屋に移動する。

 そして、何の躊躇いもなくその部屋の扉を開けた。


「み、右足が……! 赤、赤だよな!?」

「ちょっ……ベルさん! そこに手があったら、緑に俺の手が置けないじゃないですか!」

「うるせぇ! どうにかしやがれ! てか、ボスコ! お前はただでさえ、体で面積とってんだから、少しは遠慮しろよッ! 痩せろ、今すぐ痩せろ!」

「む、無茶言わないでくださいよぉ!」

「は~い、次行きますね~。……はい! 次は左足を青色!」

「左足を青!?」

「ちょっ……届かない……!」

「はい、次~。……ていうか、男だけでこのゲームやるものなんですか? 見てるだけで吐き気を催すんですが……」

「「んなこと俺らが一番分かってるよ!」」


 私はそっと扉を閉めた。

 ……何? アレ。

 よく分からない、カラフルな敷物の上で、ベルとテリーの二人が変な体勢で絡み合うような状態でいるのだ。

 それを、ボスコは冷めた目で見ながらも、手元のこれまたカラフルな……確か、ルーレットというモノを使って、何やらベルたちに指示を出していたし……。

 まさか、私がいない間に、ベルとテリーはそういう関係になったって言うのかしら? 私は彼氏すらできてないのにッ!

 ていうか、アイツら妻子持ちよねぇ!? いいの!?

 ……いえ、決めつけるのはまだ早いわね。もしかしたら、私の勘違いかもしれないし……。

 私は再びそっと扉を開け、中の様子を確認する。


「ふぉぉぉぉぉ!」

「近い近い近い近い!」

「うわぁ……汚ぇ……」


 ブリッジ体勢のテリーの上から、ベルのヤツが覆いかぶさるような体勢でいる場面が目に飛び込んできた。

 私は扉を閉めた。

 ……。

 勘違いじゃなかった……。

 どう見てもデキてるじゃない、アレ……。

 何なの? 私が知らない間に何があったの? 放っておき過ぎて、過ちが起きちゃったわけ? え、私のせい?

 ……いいえ、アイツらが悪いのよ。奥さんもいるのに……。

 よし、奥さんにチクろう。

 そう決意した私は、勢いよく扉を開けた。


「アンタたち、デキてたのね……」

「へ!? ってレイア様あああああああああ!?」

「あ、ベルさん! ちょっ……力抜いたら……!」

「あ」


 ボスコがそんな間抜けな声を漏らした瞬間、ベルが体勢を崩し、テリーの上に崩れ落ちた。

 その際、私はハッキリと見てしまった。

 そう――――。


「うええええええええっ!」

「おろろろろろろろろっ!」

「汚ぇ……!」


 テリーとベルが、キスをしてしまったところを。

 私はもはや無の境地で、ベルたちに語り掛けた。


「アンタたち……そんな関係だったのね……ごめんなさい、気付かなくて……」

「誤解! レイア様、盛大に誤解してますから!」

「いや、あの場面じゃ誤解とは言えないでしょ~」

「ボスコォォォォオオ! テメェも誤解解くの手伝えや!」

「ああ……ベルさんと……すまん……俺の唇、守れなかった……不甲斐ない旦那を許しておくれ……」

「テリーまで!? あああっ! どうしてこうなった!?」


 ――――その後、ベルから話を聞かされた結果、ベルたちに対する誤解は解けた。

 何でも、異世界の遊びをしてたらしい。

 なるほどねぇ。


「――――で、遊んでたのね?」

「あ、地雷踏んだわ」

「「ベルさああああああああん!」」


 私はオシオキとして、拷問のフルコースをベルたちにご馳走した。

 フルコースが終わると、私の目の前にはボロボロになって、死ぬ寸前のゴミが三つ転がっている。


「し、死ぬ……死んじゃう……」

「もうイヤ……鉄の棒は、嫌……」

「ああ……鉄球が……鉄球がぁ……」


 何かうわごとのように呟いているが、私はそれらを無視して本題に入る。


「アンタたち、気を引き締めなさい」

「へ?」

「魔王軍議会で、これから私たちはウィンブルグ王国と交流をすることが決定したわ」

「え!?」


 私の言葉に、案の定ベルたちは驚いている。


「急ですね……どうしてまた?」

「ルーティア様が、決断なされたのよ。そしてその第一歩として、ウィンブルグ王国か選ばれたってワケ。あそこは、以前から魔族にも友好的な数少ない国だったしね。それで、アンタたちも護衛の一つとして会合に参加することになるから、そのことは頭に入れておきなさい」

「了解です……あ」


 ベルが納得した様子で頷いていると、途中で何かを思い出したかのような表情になり、途端に顔を青くする。


「れ、れれレイヤ様?」

「何よ?」

「えーっと……ウィンブルグ王国には以前、転移魔法をばら撒いたような……ばら撒いてないような……」

「……」


 そう言えばそうだった。

 そして、そのことでオシオキを考えていたんだったわね。

 私は無言で鞭を取り出した後、そのまま片づけた拷問器具を取り出す。


「あ、あれ? レイヤ様? さっきオシオキは終わったんじゃ――――」

「……」

「無言!? 無言が一番怖いんですが!?」

「べ、ベルさん!」

「うろたえるんじゃねぇ! まだ俺たちに使うとは――――」

「それじゃあ始めるわね。覚悟しなさい?」

「ウソだあああああああああ!」


 再び、ベルたちの絶叫が響き渡るのだった。


◆◇◆


「――――というわけで、戻ってきました」

「どういうわけ!?」


 無事、冥界から帰還し、サリアたちとも再会を果たした俺……柊誠一は、サリアに連れられてFクラスに移動した。

 すると、アグノスたちは教室の中にいたので、こうして戻ってきた報告をしたのだ。

 てっきり、あんだけのことがあったから実家にでも帰ってるのかと思えば、アグノスたちは自分の意志で残ったらしい。

 それで、俺の説明を受けたアグノスたちは、予想通りすごく驚いていた。


「で、冥界で会って一緒に帰って来たのは俺の両親と、勇者一行、勇者の師匠に初代魔王。そしてお花屋さんだな」

「どうも、誠一の両親だ」

「勇者です」

「その勇者の仲間だ」

「師匠だ」

「魔王で~す」

「お、お花屋さんです?」

「よし、自己紹介もすんだな」

「今ので終わり!?」


 ざっくりとした自己紹介を終わらせたつもりだったが、あまりにも雑過ぎたようだ。うん、俺もそう思う。


「アンタ、メチャクチャすぎじゃない!? 本当に死んでて、さらにその冥界から他の人を連れて戻って来るとか常識はずれにもほどがあるでしょ!? しかも勇者や魔王って……そろそろ私たちの頭がパンクしそうなんだけど!?」

「いやぁ……返す言葉もねぇな!」

「笑い事じゃないでしょっ!?」


 ヘレンの言葉に俺はもう開き直って笑ってしまった。

 ホント、俺って何だろうね!

 俺がヤケクソ気味に笑っていると、ベアトリスさんは信じられないといった表情で俺に訊いた。


「本当に……本当に誠一先生なのですか……?」

「ええ、戻ってきました!」

「本当に……?」

「はい!」

「本当の本当に……?」

「は、はい」

「本当の本当の本当――――」

「信じて!?」


 いや、俺が逆の立場だったら信じられないだろうけどさ!

 ベアトリスさんは俺の言葉を何とか信じてくれたらしく、目に涙を浮かべ、微笑んだ。


「本当に……本当によかったです……!」

「……ご心配をおかけしました」


 事実、サリアたちには心配をかけてしまった。

 そのことは反省しないといけないし、慎重に行動しないとな。……これ、何回か同じこと思ってるけど、そう簡単に出来るもんじゃねぇな。いい加減、成長してもいいと思うんだけどな。体だけが進化しすぎて、中身がついて行けねぇ。

 というわけで、進化のペース、落としません?


「俺は信じてたッスよ! 兄貴ならやってくれるって!」

「まあ俺も、誠一先生の実力に関しては疑いはなかったな。……それ以上に非常識だったが」

「その信頼が今は辛い」


 非常識を信頼されるのはいろいろと辛いものがありますね!

 だが、アグノスとブルードは変わりないようで俺は安心した。一日しか経ってないわけだけど。

 そして、俺はベアードとレオンに顔を向けた。


「調子はどうだ?」

「は、ははははいいぃぃ! 絶好調です!」


 レオンはすごく緊張した様子でそう答える。


「おい、本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫です! ……その、僕も……一回だけとはいえ、みんなのために戦えて……少し、自信が持てました」

「そうか。それじゃあ、これからはアグノスたちと肩を並べて戦えるな」

「えええええ!? むむむむ、無理です! そんな僕如きがアグノス君たちと肩を並べるなんて……! 畏れ多くて死んじゃいますよ! あ、先生に口答えを!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「やっぱり変わってねぇ!」


 ほんの少しは前向きになれただろうが、それでも完全に元に戻るのは当分先だろうな。

 思わず苦笑いをしていると、ベアードが真剣な表情で俺に声をかけた。


「誠一先生」


 前とは違い、熊の被り物も脱いでスケッチブックを使うこともなく、自分の声で発している。

 ベアードは、声を発することもできないほど、顔を大火傷していたのだ。


「ベアード。どうだ? あ、前は咄嗟に治して、きちんと訊いていなかったんだが、治してよかったんだよな?」

「ああ」


 短くそう答えた後、ベアードはその場で深く頭を下げた。


「誠一先生、ありがとう。俺は、あの火傷のせいでみんなから怖がられてきた。だから、少しでも怖がられないようにあのクマの被り物を被っていたんだ。それに、敵だったあの女性……彼女は、俺の故郷を治めていた領主の娘だったんだ。特に関りがあったわけでもないが、それでも彼女が誠一先生のおかげで、少しでも何かを取り戻せたのだとしたら……俺は感謝の言葉を述べることしか出来ない。すまない。だが……本当にありがとう」


 不器用ながらもしっかりとした声音で、ベアードはそう言った。


「いや、気にするな……とは簡単に言えないな。その感謝をしっかりと受け取るよ」

「……ありがとう」


 こうして、一通りの挨拶や諸々をすませると、俺はベアトリスさんに一つ訊いた。


「これからはこの学園はどうなるのですか?」

「現在、学園長が必死に対応していますが、どうなるかまでは未定です。ですが、必ず再開させてみせると仰っていましたよ」

「そうですか……ということは、定期試験もないんですか?」

「ええ。取りあえずですが、保留ですね」

「よっしゃああああああああああ! 俺の大勝利だぜえええええええ!」


 ベアトリスさんの言葉に、アグノスが吼えた。

 どこの学校でも、こうしてテストとかが無くなった瞬間に気持ちを爆発させる生徒はいるのね。俺も生徒だったら大喜びだけどさ。


「おい、バカ。うるさい」

「ハッ! 普段はキレるところだが、今の俺は気分がいい! だから聞き流してやるよ!」


 アグノスが上機嫌でそんなことを言っている中、ベアトリスさんが無情の爆弾を投下した。


「ですが、いつテストがあってもいいように、テスト勉強は続けます」

「――――おいブルードぉぉぉぉぉおおおおお! バカとはなんだああああああああああ!」

「……聞き流すんじゃなかったのか……」


 ブルードが呆れてそう呟いた。

 ……まあ他の生徒が実家に帰っている中、アグノスたちは自分の意思で残ったらしいしな。その間、学校はないわけだから、テスト勉強に充てるのはいいことだろう。テストがなくても、勉強はしとけばためになることもあるだろうしな。

 そんなこんなで、俺たちFクラスはいつテストが行われてもいいように、準備を始めるのだった。

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