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会合の誘い

「うんうん」

「あらあら」


 父さんたちの目の前で、堂々とサリアと抱き付いている俺は、顔が赤くなるのを感じた。

 やっちまったよ! 完全に父さんたちを蚊帳の外にしちゃってたし!

 そ、そりゃあ短い間とはいえ、サリアたちと離れてたのは俺も寂しかったわけでさ?

 誰に言い訳をしてるのか分からないが、内心焦りながら父さんたちの方に視線を向けると、二人とも分かってますよと言わんばかりに生暖かい目を俺に向けていた。

 いやあああああああっ! 恥ずかしい! ヤベェ、これ超恥ずかしいんですけど!?

 世のリア充はよくこんな恥ずかしさに耐えられますねぇ!? 俺には早すぎたんだっ!

 そんなくだらないことを考えていると、サリアが父さんたちの存在に気付く。


「あれ? あの人たちは?」

「へ!? あ、ああ。……この人たちは、俺と縁がある人たち……らしいよ?」

「何で疑問形なの?」


 いや、だって縁の基準が俺にはよく分からねぇし……。

 すると、ゼアノスが優し気な顔をしてサリアに声をかけた。


「久しぶりだな、ゴリラ殿……いや、サリア殿」

「え? ……あっ! ゼアノスさん!?」


 何でゼアノスは人間状態のサリアを見て、あのゴリラだって気付いたの!?

 サリアが人間になったのは、確かゼアノスを倒した後だったはずなんだが……。

 しかも、サリアもすぐにゼアノスだって見抜いてるし……見抜けなかった俺がおかしいのかな?


「え、でもゼアノスさんって……」

「うむ。私は誠一殿との勝負に敗れ、完全にこの世から消滅した……だが、何の因果か、私は冥界で誠一殿と出会い、私の大切な……マリーとも出会えたんだ」

「それじゃあ、アナタがマリーさん?」


 サリアがゼアノスの隣に控えていたマリーに声をかけると、マリーさんは恭しく礼をした。


「はい……私がゼアノス様にお仕えするメイドのマリーでございます」


 マリーさんの自己紹介を受け、サリアは満面の笑みを浮かべて、マリーさんに抱き付いた。


「よかったー! ゼアノスさんと一緒になれたんだね!」

「え!? あ、あの……はい」


 マリーさんも、最初はサリアの行動に目を丸くしていたが、ゼアノスの方を恥ずかし気に見た後、頬を赤らめて頷いた。

 ……俺とサリアは、ゼアノスの人生を読んで、マリーさんとゼアノスの辿った結末を見たからな。

 その二人が、こうして幸せそうにしていることが、サリアは嬉しいのだろう。

 マリーさんに抱き付いた状態のサリアに、今度はルシウスさんが声をかけた。


「やぁ。僕のことは知ってるかい? いや、知るわけ――――」

「初代魔王様?」

「何で分かるの!?」


 聞いた張本人のルシウスさんがサリアの言葉に驚いていた。いや、俺もビックリだけどさ。本当に何で分かるの?


「じゃあ、俺たちのことは分かるか?」

「ちょっと、さすがにそれは分からないでしょ?」


 アベルがニヤニヤした顔でサリアにそう訊き、そのことに対して仲間のアンナがジト目を向ける。

 だが、サリアは笑顔で言い切った。


「勇者アベルさんと戦士のガルスさん、そして狩人のアンナさんに賢者のリリアナさん!」

「ウソだろ!?」

「本当に言い当てやがった……」


 アベルが驚く後ろで、ガルスが小さく呟く。


「あ、あの……どうして私たちのことが……?」


 リリアナが思わずといった様子でそう訊くと、サリアは少し考える仕草をした後、口を開いた。


「野生の勘!」


 もう野生の勘って何なんだろうね。

 ちょくちょくサリアはこの野生の勘を働かせるが、一度も外したことがない。もはや予知とかそのレベルじゃね? 野生ってヤベェ。

 サリアの答えを聞いて、案の定アベルたちは微妙な表情を浮かべていた。

 ……まあ、サリアが言葉を学ぶ為に読んだのが、アベルの日記だったわけだし、名前は知ってるんだから当てることは……いや、名前知ってても当てられねぇだろ。

 スキル『鑑定』を使えば話は別だけどな。

 そう言えば、今さらだが、俺もサリアもアベルの日記を読んだわけで……本来、日記って交換日記とかでもない限りは、人に見せたくないモノだろう。

 それを、俺たちは見てしまってるわけで……うん、黙っとこう。いや、変なことは書いてなかったけど、心情的にはやっぱり嫌だろうしな。


「……俺、覚えてる?」

「宝箱さんだ! 覚えてるよー!」


 一人、アベルの日記のことをそっと心のうちに仕舞っていると、サリアは宝箱と会話をしていた。

 ……いや、うん。宝箱との出会い……と別れは、俺の精神がやられる。何度も言うけど、倒すつもりはなかったんだからな! 予想以上に俺の体がヤバかっただけだから!

 サリアは結局、だいたいの人のことを一発で言い当てていたが、ナチュリアーナさんを見て、首を傾げていた。


「えっと……私はナチュリアーナと申します。あの……貴女は私のことをご存知ですか?」

「うーん……ナチュリアーナさんのことは分からないなぁ……」

「そうですか……」


 ナチュリアーナさんは微妙な表情を浮かべる。

 それもそうだろう。

 なんせ、俺が影響して呼ばれているはずなのに、その縁がまるで分からないからだ。

 本当に、どこで縁が出来たんだろうか……。

 ナチュリアーナさんとの縁について考えていると、父さんたちがサリアに話しかける。


「もしもし、サリアさん……でいいかしら?」

「え?」

「どうやら誠一が貴女のお世話になっているようだ」

「本当に、ありがとうね。一目見ただけで、貴女が誠一を大切に……そして、誠一も貴女を大切にしていることがよく分かったわ」


 父さんと母さんの言う通りなのだが、こう人から言われると余計に恥ずかしいな!

 サリアは父さんたちを見て、一瞬呆けた表情を浮かべた後、瞳を輝かせた。


「もしかして……誠一のお父さんとお母さんですか!?」

「そうだね」


 父さんと母さんが優しい笑みを浮かべてそう答えると、サリアは慌てて父さんたちに向き直った。


「えっと……私はサリアです! 誠一の……お嫁さんですっ!」


 顔を真っ赤にしてそういうサリアに、ゼアノスたちは何やら頷き、アベルたちはニヤニヤと俺たちを見てきた。

 そして、父さんたちは――――。


「誠さん、聞きました!?」

「ああ、しっかりとな」

「こんな可愛い子が誠一の彼女どころかお嫁さんだなんて……今日は赤飯ね!」

「本当に父さんたちがいない間に、立派になったなぁ」

「もうヤメテ!」


 いや、サリアがお嫁さんって言うのは否定しませんよ! 俺も大好きだからね!

 でもさ、自分の両親にそれを伝えられるのがまさか抱き付かれた場面を見られるより恥ずかしいとは思わなかったです!

 父さんたち以上に周りの視線が鬱陶しいけどな!

 俺が羞恥に悶えていると、この闘技場に駆け付ける人の気配を感じた。

 その方向に視線を向けると――――。


「おい、サリア! いきなり走り出して――――って誠一!?」

「あ、主様!」

「誠一お兄ちゃん!?」


 アルたちが、俺を見て驚いていた。

 羞恥で頭が回ってなかったけど、サリアだけがこの場にいるのは確かに変だ。

 てか、なんで俺たちがこの場所に帰って来るって分かったんだろうか?

 驚きながらもそんなことを考えていると、アルたちも俺に駆け寄って来て、抱きしめてきた。


「誠一……! 無事でよかった……!」

「主様、私は信じておりました! 必ず冥界を屈服させて帰って来ると!」

「……誠一お兄ちゃん、お帰りなさい」


 立て続けに起こる出来事にあたふたする俺だったが、アルたちもしっかりと抱きしめた。


「ああ、ただいま」


 ここまで心配してくれてたなんて……本当に俺なんかにはもったいない。

 ただ、ルルネの俺に対する認識は何なんだ。結果的に似たような状況になったわけだから、言い返せねぇけどさ!

 サリアも、俺とアルたちが抱きしめあっている姿を見て、優しい表情を浮かべている。

 だが――――。


「ま、誠さん。本当に私たちが知らない間に、誠一は成長したようですね……」

「あ、ああ……予想外だな……」


 父さんたちは、俺とアルたちの姿を見て、顔を引きつらせていた。

 ……また父さんたちのことを忘れてた。


◆◇◆


 ――――ウィンブルグ王国の王都テルベール。


「うーむ……」


 その王城の一室で、ウィンブルグ王国の国王ランゼはとある書状を前に唸っていた。


「さて、どうしたもんかね……」

「ランゼ殿! 用事があると聞き、このガッスル、うさぎ跳びでやってまいりましたぞ!」

「その情報いるか?」


 そんなランゼの部屋に、ノックもせず現れたのは、いつも通りの上半身裸でブーメランパンツのガッスルだった。

 本来、王族の部屋にノック無しで飛び込むのは不敬極まりのだが、ランゼはため息一つに留めた。


「急に呼び出して悪かったな」

「構いませんぞ! 私がいなくとも、ギルドは通常運転ですからな!」

「じゃあお前ギルドにいらねぇじゃん」

「辛辣ぅ!」


 結構酷いことを言われたというのに、ガッスルの表情は特に悲しそうでもなく、頭を叩いて朗らかに笑っていた。


「まあいいでしょう。それで、何のご用ですかな?」

「ああ……国からギルドに、一つ依頼がある」

「……ほう?」


 国からの依頼という言葉に、ガッスルも真面目な雰囲気に変わった。


「それは『筋肉を効率よくつける方法』の講義をしてほしいと?」

「んなわけねぇだろ!? 脳みそまで筋肉かよ!」

「いやぁ、それほどでも」

「褒めてねぇ!」


 真面目な雰囲気というのは気のせいだった。


「講義ではなかったら、一体何をギルドに依頼するのですか?」

「いや、色々あるだろ!? 今回の件とは別にしても、魔物の討伐とかさぁ!」

「あー。そんなこともしてましたね」

「誰かコイツとギルドマスター変われ!」


 ランゼのツッコミはもっともだった。


「では、一体何を? 戦争に参加しろ等という内容でしたら、断固拒否いたしますが……」

「んなこと言わねぇよ……S級冒険者を全員招集してほしい」

「なんと!?」


 ガッスルは驚くと、真面目な表情で訊く。


「それは、実力だけがS級の冒険者ですかな? それとも、実力と称号ともにS級の冒険者ですかな?」

「実力と称号がS級のヤツに決まってるだろ!? 何でお前の所の実力だけS級の変態共を雇わなきゃいけねぇんだよっ!」

「なるほど……ですが、本当のS級冒険者たちはそれぞれの欲望のもとに行動しておりますからなぁ」

「やべぇ。ギルドに依頼するのが不安になって来た」

「まあ安心してくださいな! 実力は本物ですとも! ただ……何故S級冒険者を招集してほしいのですか?」


 ガッスルが当然の疑問を口にすると、ランゼはさっきまで見ていた書状をガッスルにも見せながら言った。


「魔王から、会合の誘いが来たのさ」

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