異世界へ
俺の名前は柊誠一。特殊な高校に通う2年生だ。
特殊と言っても、漫画の様な能力者や宇宙人がいる様な学校では無い。
所謂、アイドル育成学園……の様な所だ。
有名な女子高生アイドルやジャニーズは当たり前のように、俺の通う学園にいる。
なら、俺もそんなアイドル達並みの顔立ちをしているのか?と聞かれれば、否である。全力で否である。
幸い髪の毛は禿げていないが、不細工であり、酷い体臭の持ち主だ。
体臭に至っては、俺の席の周りを敢えて誰も座らせないという徹底ぶり。しかも生徒からの要望だけでなく、先生からの要望とあってはどうしようもない。
そんな俺は、周りが美男美女だらけのせいか、学園では誰もが知る有名人。……悪い意味で。
おまけに最近は太り始め、入学当初は70kgだった体重は、100kgにまで増えた。自分でも思うけど、救いようが無い程のブサイクである。
太り始めた理由は、両親が事故で他界したせいで、好き放題な暮らしをしていたらこうなった。親不孝な行動をした結果なので、致し方ないと割り切るしかない。自業自得と言う奴だ。お母さん、お父さん、ごめんね?
見た目の件に関して言えば、最早諦めていると言ってもいいのだが、唯一耐えられないのが俺の名前だ。
いや、誠一って響きや字にするとカッコイイんだけど、俺の見た目とはあまりにもあっていなさすぎるせいで、名前負け感が半端無い。全世界に土下座したくなる程に。ごめんなさい。
こんな俺だからか?まあ当たり前のように学校に行けば虐めを受ける。世の摂理と言っても過言でないかもな。
なら何で俺がこの学園にいるのか?と言う疑問に辿り着くだろう。
それは、俺の住んでいる家から近い学園がここだったという事と、このアイドル育成学園は頭がそこまでよくなくても入学出来る学園だったため、と言う理由だ。俺の様な一般人だって普通に学園に通える訳だし。
駄目人間だろ?笑いたけりゃ笑えよ!反省もしてるし、後悔もしてるんだから!
でもホント、便利さや面倒くさいのを嫌って入学した結果、虐められてたら世話ないわな。まあ別の高校に入学しても虐められてただろうけど。
こうして長々と自己説明を一人で延々と繰り広げているのにはとてつもなく深ぁい理由がある。
この一人語りも一種の自己安定のための行動と言ってもいいだろう。
なら何故こんな事をしているのか?
それは少し前の時間にまでさかのぼる――――
◆◇◆
「おい、ブタぁ~!パン買ってこいよぉ~!」
「勿論テメエの金でなぁ~」
ギャハハハハハッ!
そんな笑い声と共に、俺は昼休みに数人の男子生徒に体育館裏に呼び出され、パシリを強要されていた。
見た目が良いと、性格までいいと言う方程式は必ずしも生まれない。まあこの学園の本当に凄い連中……それこそ国民的アイドルとかは、顔も良ければ性格も良かったりする。こんな俺でも普通に接してくれるし。
ただ、俺を一種の引き立て役として使っている感も否めないんだけどね。
結局俺は男子生徒の要望にこたえるために自腹でパンを買いに行き、その後も日ごろのストレス発散としてサンドバックみたいな扱いを受けたりした。
「あらよっとぉ!」
「グッ!」
相手の拳が俺の腹に突き刺さる。
「がはっ!ごほっ!」
「ハハッ!マジで気持ちいいわぁ~!スッキリするよな~!」
「あ、そろそろ次の授業が始まるくね?」
「もうそんな時間か?じゃあ行くか。そんじゃあな~、ブタ!」
男子生徒達は笑いながらその場を去っていった。
「ぐっ……!」
激痛をこらえながら何とか立ち上がろうとすれば、すぐに膝に力が入らず倒れてしまう。
「はぁ……はぁ……」
俺が顔を顰めて、痛みが引くのを待っている時だった。
「ひ、柊君!?」
一人の女生徒が俺に近寄って来た。
「だ、大丈夫!?」
背中まで伸びた地毛の茶髪。頭にはカチューシャが付いている。二重の大きな目には、黒目がちのクリっとした瞳。唇は瑞々しく、桜色を帯びていた。
俺の顔を心配そうにのぞきこんでいる少女は、この学園の中でも指折りの美少女。隣のクラスの日野陽子。
俺の体臭を気にせず、普通に接してくれる極少数の人間だ。
「立てる?」
「あ、ああ……」
こんな俺に何のためらいも無く手を差し伸べてくれるので、俺はこの日野の事をいい奴だと思っている。
ちなみに俺は、少し優しくされたからと言って変な誤解や期待をしたりする馬鹿では無い。自分の見た目の事は、一番よく分かっているのだから。自分で言ってて悲しくなるぜ!
「柊君、何があったの?」
「……日野が気にする様な事じゃないよ。それより教室に行かないと、次の授業に遅れるんじゃないか?」
「あ……うん。そうだけど……」
「なら早く行こう。でも、日野は俺と離れて移動した方が良い」
「どうして?」
「周りに変な誤解を与えるからな。それに、日野を巻き込みたくない」
「え?」
俺はそう言うと、痛む体に鞭打って、日野より先に移動を始めた。
日野は俺の事を本当に心配してくれているようだけど、あんまり心配されるとこっちが困る。まあ、だからこそ日野は人気な訳なんだが、そんないい奴を巻き込むのは俺が嫌なので適当にはぐらかした。
こうしてその後の授業のほか、全ての授業が終了して帰り支度を皆が進めている時だった。
ピンポンパンポーン。
突然放送が鳴った。
『全校生徒の皆さん、全ての行動をやめ、着席してください』
そんな、訳の分からない事が放送された。
皆一瞬手が止まり、首を傾げていると、何故か全員凄い勢いで席に座った。
「なっ!?」
「か、体が!?」
かくいう俺も、帰りの支度をしていた身なので分かるが、いきなり目に見えない何かによって、俺は強制的に着席させられた。
「意味が分からねぇ……」
俺がそう呟き、もう一度席を立とうとするが――――
「う、動かねぇ!?」
「どうなってるの!?」
まるで椅子に縛り付けられたかのように身動ぎ一つ出来なかった。
どれだけ体を揺すろうとしても、ビクともしない。
本当に椅子に縛り付けられているかのようだった。
そんな状況にクラス全員が焦っていると、再び放送が流れる。
『やあ、皆。僕は君たちの世界で言う≪神≫と言う存在だ』
老若男女のどの声にも当てはまらない不思議な声がスピーカーから流れてくる。
『今君たちは突然の状況に困惑してるみたいだね?不可解な事が起こると、人間は冷静でいられなくなる。これだから人間は哀れで滑稽な生き物なんだろうね』
何を言ってるのかさっぱり分からなかった。人間?それに、この声の主は自分の事を神だと名乗った。
もし普段の状態で、これを本気で誰かが言ってるのであれば、トチ狂った野郎位にしか思わなかっただろう。
だが、現に俺達はよく分からない力で強制的に着席させられ、その上身動きすらとれないでいる。体に何か巻き付けられているという訳でもないのに。
だからこそ、この放送の神と言う言葉に妙な信憑性が俺の中では芽生えていた。
『君たちみたいな人間に一々細かく説明するのも面倒だから、簡単に説明するね』
スピーカーから流れてくる声には、どこか楽しげな雰囲気もとれる。
『これから君達には、この地球とは違う世界――――【異世界】に行ってもらうよ』
「「「……」」」
いきなりの言葉に全員が絶句するしかなかった。
そして、誰かが正気に戻ると、何かを言おうと口を開いたが、言葉は出てこなかった。
そんな様子を周りのみんなは訝しげに見ていると、スピーカーから再び声が流れてくる。
『あ、ちなみに一々僕の言葉に反応されても五月蠅いだけだから、一時的に発声能力を奪わせてもらったから』
この発言で、俺は完全にこの放送の主が≪神≫、またはそれに成り替わる者だという事を理解した。
有り得ない。あまりにも有り得無さ過ぎる。
『話しを戻すけど、君達に異世界に行ってもらう理由なんだけど……地球の人口が増え過ぎてるから、だね。君たち人間は適当に生き過ぎなんだよ~。地球が悲鳴上げちゃってるせいで、これ以上人間が増えると大変な事になるんだよね。だから、僕みたいな神が今回他の世界に君たちを送りつけることで、地球を救済しようと考えた訳だ』
うんうんとスピーカー越しに一人で納得している姿が目に浮かぶ。
『これでも僕って善良的なんだよ?本当なら、君達に説明する事もせず、何にも感じないままに存在ごと消滅させてもいいんだから。それを、僕はあえて他の世界に移すことで生きる権利を与えてあげているんだよ?感謝して欲しいよねぇ~』
何勝手に一人で盛り上がってんだか……。
『それで、君達に行ってもらう世界だけど、所謂ファンタジーな世界……君達のゲームでRPGみたいな世界って言えば、もっと分かり易いかな?そこに行ってもらうよ。ファンタジーって言う位だから、魔物もいれば、当たり前のように魔法も使える。ただ、科学技術なんてモノは存在しないから、現代っ子の君達からすれば不便な上に危険の多い世界だろうねぇ~』
マジでか。危険なら何も思わず消された方がよかったなぁ……。
『その世界では危険がいっぱいな訳だから、全然人が増える心配も無いし、僕も完全にノータッチな世界。神からの無用ないたずらは無い代わりに、奇跡なんてモノが存在しない世界でもあるんだよね。でも、レベルやスキル、ステータスなんてものもあるから、適当に楽しめばいいんじゃないかな?君達の住む地球は、僕が今から送るその世界より上位的存在に位置している訳で、ステータスもそこの人より破格だと思うよ?それに、君たちが後悔しないようにもう地球にいる君達の家族からは、君達の記憶を消させてもらったよ』
おお、それなら安心だな。すぐに死ぬなんてことは無いだろう。
でも、親から俺達の記憶を消されるという事が、本当に後悔しないで済む選択なのか?まあ俺は親がもういないのでどうでも良いんだが……。
『まあ僕からの選別は、メニューで自分のステータスを確認できる力と、念じればいくらでもアイテムを収納する事が出来るアイテムボックスの機能、そして異世界で苦労しないように言語理解能力、後ちょっとした鑑定スキルをプレゼントしてあげる。ちなみにステータスを見る力は今から送る世界の人間なら誰でも出来るんだけど。前向きに何でも考える事って大事だよ?今回の君たちを異世界に送るのだって完全に運な訳だし。まあ他にもなんグループかを君達とは違う世界に送りつけるつもりだけど。君達はそのままこの学園ごと転移させてあげるからね。勿論建て物は転移しないけど。ああそうそう。スキルとか称号とかってのもあるけど、メニュー画面から確認出来るから』
何てことだ……俺達は運によって異世界なんてモノに転移させられるのか。しかも、学園にいる人間全員。俺達の学園は全校生徒約800人だ。結構な人数じゃないか?しかも、俺達とは違う世界みたいだが、他にも転移させられる人間がいるらしい。
しかし……プレゼントと言って、くれた能力は異世界には必須なんじゃないだろうか?言語理解能力なんて、なければ話しが通じないままお陀仏も有り得る訳だし。
スキルや称号と言うのはよく分からないが、鑑定と言うスキルがあるのは有り難い。よく分からない物を食べる時とかに使えそうだし。
『それじゃあ、僕はこれで。他にも仕事が残ってるからねぇ。最後に、君達に準備をする時間を一時間程あげよう。グループを作ってくれれば、安全な所に転移させてあげる。一人ぼっちなら……どこに転移するか分からないけどね』
それだけ言うと、突然放送は流れてこなくなった。
そして、体を動かしてみると、もう椅子から動けるようになっていた。
だが、皆はすぐには動かない。
人間は確かに不可解な事が起きたり、理解不能な出来事が起これば誰だって取り乱す。でも、本当に困った時は、逆に冷静になれたりするもんだ。
そのせいか、皆異常なくらいに静かだ。
動けるようになったというのに、誰も身動き一つしない。
そんな時間を過ごしていると、クラスメイトの一人である青山広樹が行動を起こした。
「み、皆!取りあえず、現状を確認しないか?」
青山は、アイドルではないが、この学園のサッカー部キャプテンでありエース。女子にはかなりモテる。
「まず、俺達以外の人間……この学園にいる人間が、あの放送の言ってる事が真実だとすれば、転移させられるらしい。教室のドアは開くか?窓も確認してみてくれ」
そう言われ、窓際の席の奴や、ドアに近い奴が開くかどうかの確認をした。
「駄目だ、開かない。別に鍵が閉まってる訳でもないんだけど……」
確認した奴等が次々とそう言うと、青山は一つ頷いた。
「それならますますあの放送の言葉が真実と言う事になるな……」
そう言い、顎に手を当て考える仕草をする。
「……そうだ。あの放送が本当だとすれば、自分のステータスが確認できる筈なんだが……」
「え?あれって異世界に行ってからとかじゃなくて?」
「仮定の話だ。先生は職員室にいる訳だし、今のうちに確認できる事はしておいた方が良いだろう。取りあえず……ステータス!」
放送は念じれば良いと言っていたのに、何故か青山は口に出してそう言った。
すると、突然青山の目の前に半透明なカードが現れた。
「で、でた!」
青山はすぐにそれを手に取り確認する。
「成程……本当にゲームみたいなステータスだ。皆も確認してみてくれ!」
青山にそう言われ、全員がステータスを表示し、確認を始めた。
こんな状況だ。一人でも取り仕切ってくれる奴がいるという状況は有り難い。
俺も皆がステータス画面を開いているのを確認し、自分もステータスと念じてみる。
≪柊誠一≫
種族:かろうじて人間
性別:キモ男
職業:社会のゴミ(無職)
年齢:17
レベル:1
魔力:17
攻撃力:1
防御力:1
俊敏力:1
魔攻撃:1
魔防御:1
運:0
魅力:測定不能(低過ぎて)
≪装備≫
汚い学生服。汚い学生ズボン。汚い肌着。汚いパンツ。
≪スキル≫
鑑定。
…………。
虐め!?
かろうじて人間てなんだよ!?俺がキモ過ぎて人間かどうかさえ危ういってことか!?
しかも性別キモ男って……男で良いじゃん!何で『キモ』付けたの!?
つかステータス低っ!?魅力に至っては測定不能だぞ!?悪い意味でな!それに運はまさかのゼロだぞ!?
装備は全部何で『汚い』って付くの!?俺の体ってそんなに汚いか!?泣くぞ!?てかステータスってただの悪口の集まりじゃねぇかッ!
職業の社会のゴミって職業ですらねぇよ!第一俺は無職じゃなくて学生だぞ!?舐めてんの!?
救いようがねぇよ!どうしろって言うの!?死ねと?死んでほしいのか!?
……はぁ……はぁ……。
……ツッコミどころが多過ぎる……!
俺があまりのステータスの破綻っぷりに荒れていると、周りからは色んな声が聞こえてくる。
「私職業が剣士だった!」
「俺は賢者ってなってるぞ?」
「ステータスが全部100って凄いの~?」
「あ、俺も100だった」
……え、マジで!?
全員初期ステータス100ですか!?俺の100倍!?手の施しようがねぇ……!
周りと自分の力の差に絶望する。
格差社会って何でこんなにも残酷なのだろう……。でも、もう俺のステータスに至っては割り切るしかない。割り切りたくないけども。
「よし。皆確認できたみたいだな。それじゃあ今度はグループを作ろう。もう時間も残り僅かな訳だし……」
青山がそう言うように、時計は幸い動いていたので確認した所あの放送から既に50分も経っていた。
「グループを作る時の人数は特に制限が無い筈だ。あの放送でもそんな事は言っていなかったしな。それなら全員でグループになった方が危険が少ないだろう。グループの作り方と言うのがよく分からないが……」
青山がそう呟いた時だった。
突然青山の目の前に再び半透明なカードが現れた。
「おお……ここに作りたいグループのメンバーの名前を登録して行けばいいのか……。よし!それじゃあ皆一人ずつ名前を言ってくれ!」
その発言の後、クラスメイト達はどんどん青山の下に集まっていき、自分の名前を登録して行く。
俺も登録して皆と行動しないと、確実に異世界で最初の犠牲になるのは俺だ。
なので、他のクラスメイト達が全員登録できた所を見計らって青山に言う。
「お、俺も登録してくれ!」
だが、返って来たのは冷たい視線だけだった。
「は?お前調子に乗んなよ?」
「え?」
「何でグループにお前なんかを入れなきゃいけねぇんだ?」
「い、いや……だってこのままじゃ一人に……」
「一人で良いじゃねぇか。勝手に死んでろ、ブタが。つか、近寄んな。臭ぇから」
俺は絶句した。
まさか……こんな状況下でも虐めが続くんですか!?
しかも、他のクラスメイト達も俺を汚物を見るかのような視線を浴びせ、中には嘲笑している人間までいる。
四面楚歌。このクラスには、俺と普通に接してくれる奴は一人もいない。
マジ、今日の俺ってツイてなさすぎる……。運がゼロは伊達じゃないなっ!
そんな事を思っていると、クラスメイトの一人が俺をまるで観察するかのような視線をぶつけ、やがて爆笑し始めた。
「ちょっ……!ギャハハハハッ!ヤベェ、腹いてぇ……!」
「おいおい、どうした?」
他のクラスメイトも突然爆笑し始めたそいつを困惑した表情で見る。
「だ、だってよぉ……!コイツ、ステータスがカス過ぎるんだぜ!?」
「!?」
ど、どうしてバレた!?誰にも見られてない筈だろ!?
そんな俺の思考回路を読んだのか、爆笑していた男子生徒……確か、大木はニヤリと笑った。
「いい事教えてやるよ。さっきの放送で言ってた通りステータスが確認できた訳だから、プレゼントとかって言う『鑑定』のスキルを使ってみたんだよ。そしたら……あひゃひゃひゃひゃっ!」
鑑定だと!?マジで!?
大木の言葉を受け、全員俺の方に観察する様な奇妙な視線を向けて来た。
そして――――
「「「アハハハハハハッ!」」」
全員笑い声を上げた。
「ヤベェ……ヤバ過ぎるだろ!?」
「ぜ、全部1……!」
「死んだな……コイツ確実に死んだな……!」
全員憐れむどころか、面白いおもちゃを見つけた子供の様な視線を俺に向ける。
「これで完全にお前は足手まとい!誰がテメエなんかをグループに入れるかっ!ヒヒヒッ!」
「うわ……本当にクズよね、コイツ……」
「社会のゴミ……お似合いの職業だな!」
全員俺の事を馬鹿にし、侮蔑する。
俺もコッソリ青山に向かって『鑑定』のスキルを使ってみたが、俺の視界に現れた文字は更に俺を絶望させた。
『相手と能力の差があるため、完全な鑑定は出来ません』
そんな言葉の後、結局鑑定で分かった事は、青山の名前だけであり、ステータスの欄は全て文字化けして何が書いてあるのか分からなかった。
つまり、同じレベル1の時点で俺はこのクラスの全員と能力的に突き放されてしまったようだ。
この地球でも何の取り柄も無く、他の人間と比べると劣等種であり、更に異世界での俺の能力値も完全に最低クラスだった。
俺は目の前が真っ暗になる。
そんな俺の様子などお構いなしに、クラスの連中は俺を追い詰める。
「消えろ、クズが」
「何で同じ教室にいるのか分からないんですけど?」
「地球じゃあからさまな虐めが犯罪になるけど、異世界に行くんじゃそれも関係無くね?」
「マジで、死んでくれない?」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
死ね死ねウルさっ!?もう俺の中で『死ね』がゲシュタルト崩壊してるぞ!?
何なの!?こいつ等!どんだけ俺に死んでほしいんだよ!嫌だよ、死なないよ!?だって怖いじゃん!
俺は完全に吹っ切れていた。なんか、もうどうでもいい。
グループに入れてもらえなくてもいいや。どうせ入れてもらえても、虐めがキツくなるだけだし。
ポジティブに行こう。うんうん。
「うわ……なんかニヤけてる……」
「気色悪っ……」
だからどんだけ俺を虐めたいの!?暇なのか!?
結局俺はグループに入れてもらう事も出来ず、そのまま1時間が経過した。
そして、再び放送がなる。
ピンポンパンポーン。
『どうやらグループが作れたようだね。……一人だけ仲間はずれみたいなのがいるけど』
え、一人なのって俺だけなんですか!?マジでぼっち!?
『まあ、こんな状況下でくだらない争いを繰り広げているから、人間は何時まで経っても成長しないんだろうね。……っと、話しが逸れたね。それで、僕は君達に一つ謝らなくちゃいけない事があるんだ』
あ、謝る?何を?
『君達がグループを作れば、ある程度安全な所に飛ばしてあげるつもりだったんだけど、どうやら君たちが今から行く世界のとある国で、異世界からの勇者召喚の儀式を行っているみたいなんだ』
ゆ、勇者召喚?
『そのせいで、この学園にある全グループはその国に召喚されるんだ。僕の転移術をわざわざ横から邪魔してきてね。……まあ一人だけその召喚から零れてるんだけど』
おっと~!?皆さん勇者召喚とやらをされる中、俺はボッチでどこに飛ばされるかもわからないんですか!?
『とにかく、君たちが向かう世界で魔王なんて言う存在が現れたせいで、より一層危険になっちゃったんだ。だから、君達はすぐにでも戦いの中に投入されると思う。そこで、君達は異世界の知識をまともに学べる時間が無いと思うから、アイテムボックスの中に簡単な異世界の知識が詰まった本を入れておいたよ。これ以上の干渉は出来なくてね。これが僕の精一杯さ』
マジで!?神様って万能なイメージあるんだけど……。
それに、勇者召喚された結果、即バトルとか嫌過ぎる。一人で良かったかも。……いや、嘘です。一人じゃ寂しいです。
『おっと……どうやら召喚の儀式が始まったようだね……』
スピーカーの声がそう言うと、俺を除く全員のクラスメイトの足もとに光の魔法陣らしきものが浮かび上がっていた。
『いきなり異世界なんかに飛ばしてごめんね?君たちの健闘を祈るよ。新たな世界で頑張ってね』
そんな声の後、クラスの連中は次々と光の粒子となって消えていった。
そんな中、全員俺を一々見ては、嘲笑うかのような視線を向けてくる。本当に暇だなぁ、あいつ等。
そして、とうとう全員がその勇者召喚とやらのせいで消えていった。
「……」
……あれ、俺は!?
勇者召喚とやらには呼び出されなくても、どこかに飛ばされる筈でしょ!?
焦りまくりの俺に気付いたのか、スピーカーから声が流れてくる。
『あはは。安心して。君もちゃんと送るから。でも、一人だけ送る場合はどこにするかってきちんと決めてなくてね。ランダムにしちゃったんだ』
「へ?」
『つまり、君は安全な場所に送られるかもしれないし、とっても危険な場所に送られるかもしれないってことさ』
「マジですか!?」
ヤベェ……運がゼロの俺だぞ?なんかもう既に結果が見えてるような……。
すると、俺を哀れに思ったのか、スピーカーの声はこんな事を言ってきた。
『うーん……一人だけ学園から取り残されたって言うのもある意味凄い事だよね。先生も含めて全員が勇者召喚されているのに。だから、そんな君に僕から一つだけ、スキルをあげるよ』
「え!?」
『何が良いかなぁ~……そうだ、これが良いね。【完全解体】……これを君にプレゼントしてあげる』
「か、完全解体?」
な、なんだ?その仰々しいスキル名は……。
『先走りになっちゃうけど、君たちが使った【鑑定】のスキルのように、今プレゼントしたスキルも何のリスクも無しで使えるよ。まあ、元々スキルって言うのは魔力を消費する魔法と違って、何も消費せずに使えるっている便利なモノなんだし。効果は新しい世界に着いてから確認してね』
「は、はぁ……」
『おっと。どうやら君の転送も始まったみたいだね』
「あ……」
声の言う通り、俺の体は何時の間にか光の粒子で包まれていた。
『ふふ。それじゃあ、君も新しい世界で頑張ってね』
「あ、はい」
『君の健闘を祈るよ』
そんな声の後、俺は地球から完全に消えた。
そして、俺の冒険はここから始まる……!
……ごめんなさい、何でも無いです。
◆◇◆
全員が消え去った学園で、放送から声が聞こえる。
『本当に人間は醜いね……。聖書に出てくる七大罪なんてまさにそうだ。強欲、傲慢、憤怒、暴食、色欲、嫉妬、怠惰……。まるで進歩しちゃいない。だから、地球が悲鳴を上げる寸前まで好き勝手に蔓延るんだ』
その声は、何の感情も含まれていない。
『地球は誰のモノだい?人間のモノ?違うよね。地球の上に勝手に存在しているのが人間だ。醜い争いなんかは、その地球の領土や資源をめぐってのモノばかり。宗教戦争にしたってそうだ。地球もいい迷惑だよね』
そこまで言った声だったが、次の口から発せられる声には、どこか喜色が含まれていた。
『あれだけ否定されて、彼はよく黒く染まらなかったね。感心しちゃうなぁ。復讐心に支配されてもいなかったようだし……。まあよく言えば割り切れていて、悪く言えば無駄だと諦めている、って感じかな?』
そして、声は少し笑った。
『本当に人間が救いようのない存在だとすれば、僕たちは最初から人間を創りあげてなんかいない。ああいう存在が時々いるから、人間は醜くても愛おしいんだろうね』
その声音は、まるで慈母の様な優しさで満ち溢れていた。
『これからも、僕たちは人間を見守り、導こう。その先に幸せがある事を願って――――』
それから、その学園の放送から声が流れる事は二度となかった。
◆◇◆
「うん、ここどこだよ」
俺……柊誠一が飛ばされた場所は、なんか良く分からない森の中だった。
せめて街の近くとかだったらよかった……。
しかし、取りあえず現状確認をするとしよう!
――――と言う流から、冒頭に戻る。
「全然落ち着けない!」
自己安定のために一人語りした所でなんも変わらねぇよ!コンチキショー!
「……取りあえず、動くか」
冷静になった結果、俺は今いる場所から動く事にした。
だって、その場に突っ立ってても仕方が無いしね。
改めて辺りを見渡してみると、鬱蒼と生い茂った森の中で、ハッキリ言って気味が悪い。
「な、なんか出てきたりしない……よな?」
俺はビクビクしながら歩みを進める。
俺の言葉がある種のフラグだと気付かないままに――――。