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ハーレム100 作者:松宮星

エスエフ界

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大宇宙の勇者の巻  【シャフィール】(※)

舞台は宇宙へ! ある愛の終わり……
 オレは、一人の女性だけを見つめていた。

 綺麗な女性だ。
 すらりと背が高く、ほっそりとしている。
 清かな月を思わせる白銀の髪、うっすらと青みがかった白い肌、体の線がくっきりと表れるミッドナイトブルーのドレス。
 長い睫毛の切れ長の瞳は金色で、線の細いかよわげな顔には淡い笑みが浮かんでいた。

 全てを愛おしむ母のように優しそうで、それでいて露のように儚げ。

 オレが側にいてずっと守ってあげなければ、この女性は消えてしまうのではないか……
 そんな気がした。

『……おまえには感謝の言葉を幾ら伝えても足りぬ……心より感謝しておる』
 女性の声は、風にさやぐ木の葉のようだ。耳に心地よいが、かぼそい声は宙に飲まれ消えてしまいそうだ。
『今日を限りでおまえを解き放つ。故郷に戻るが良い』

《やはり、お考えを改めてはくださらぬのですか……》
 オレの口から、オレのものではない声が漏れる。
《シャフィア様、私はあなた様と共に果てたい。最期までご一緒させてください。死がもたらす苦痛より、お守りたい。あなた様を一人では逝かせたくないのです》

『守護は無用ぞ。私は死ぬのではない。女王としての最後の務めを果たすだけだ。次代の女王の血肉となり記憶となり、私は永久にこの国を守り続けるのだ』
《どうぞお側に》
『ならぬ。永久に生きるのは、女王にのみ許された栄誉。男には許されぬ道だ』
《私は男ではありません》
『しかし、女でもない』
《シャフィア様……後生です、還れなどとおっしゃらないでください。私は永久にあなた様と共にいたい。この国を守りたい。私達の子供達を見守り続けてゆきたいのです》
『おまえとの契約は、私が幸福を取り戻すまでであった。もう充分だ。失った民を、失った国土を、失った未来を、おまえは再び私に与えてくれた』
《いいえ、シャフィア様。まだです。まだ国土の曇りはぬぐえていません。美しきシャフィロスは蘇っていない》

『それも、遠くない未来に蘇ろう』
 金色に輝く瞳は、涙で少し潤んでいた。
 控え目に微笑む顔は、少女のように可憐だ。

『おまえとなした子達は、強靭で理知的だ。おまえの仕事は、次代の女王と子供達が継ぐ。我が国は二度と滅びの道を歩まぬであろう』
《シャフィア様……》
 胸がキュンとする。
 この女性と逢うのは初めてだ。しかし、こんな顔で微笑む女性を、オレはよく知っている。

『契約を解除する』
 その言葉に絶望しながら、オレは片膝をつき女王に対し最大の敬意を表した。
《お言葉のままに……シャフィア様……私の望みは、愛する方の幸福です。あなたの望まぬ未来を、私は強要できない……》

『私の幸福は、おまえが生き続けること』
 女性がほわっと微笑む。
 その笑みに、オレの胸が激しく痛んだ。
『おまえが新たな主人(あるじ)を得て、新たな生を生きること。それが私の望みだ』
《シャフィア様……》

『どうか叶えておくれ。幾千幾万の時の果てに、再びおまえと出逢う事もあるやもしれぬ。個としての私は消えても、私の記憶はシャフィロスで永久に生きている』

 女性の手が、オレの頬に触れる。
 求められるままにオレは顔をあげ、身をかがめた女性と視線を重ねる。
 すぐそばに、美しい女性の顔がある。
 微かな息が、オレの顔にかかる。

 涙で潤んだせつなそうな金の瞳が、オレを見つめている。
 オレも、目の前の美しい女性だけを見つめた。

 時よ止まれ、と、オレは願う。
 このまま愛しい女性と共に居続けたいと。

『目を閉じて……』
 瞼が下り、オレの視界は闇に閉ざされる。

『さようなら……レイ』
 柔らかな唇が、オレのものと重なり……

 何もかもが消え失せた。



『レイちゃん』
 悲しそうな義妹の声が聞こえた。
 きっと涙に潤んだ、せつなそうな瞳をしているのだろう。

 そんな眼をしたまま、ジョゼはほわっと微笑むことがある。
 可憐でおしとやかな外見なのに、ジョゼは一途でけなげだ。
 諦めずに戦い続ける強さもある。
 守りたいと思う者の為に、どこまでも強くなれるのだ。

 ああ、そっくりだと思う。

 髪や目どころか肌の色も違うけど、雰囲気がよく似ている。

 何故、レイがジョゼに惹かれたのか、ジョゼの幸福にばかり執着するのか、わかった。

 幸せそうに笑うジョゼが見たいのだろう。
 レイの目から見ても幸福だとわかる未来を手に入れて欲しいのだろう。

 シャフィアという女性に似たジョゼに。


 ふと、気がつくと、オレは宙に浮かんでいた。
 遥か前方に巨大な光の球が浮かんでいるだけで、周りには何もない。ものすごく広い所に居るような気がしたが、どれぐらい広いのかよくわからなかった。

 オレだけじゃない。
「お兄さま……」
 悲しそうな目をしたジョゼ。
 ぬいぐまアナムとチコを抱っこしたままジョゼに抱きついているニーナ。
 それから裸の女性……肩のあたりでやわらかくカールしている銀髪、端麗な顔、右が紫、左が金のオッドアイ。外見年齢は十五歳ぐらい。綺麗な人なんだが……今はまともに見られない。急いでそっぽを向いた。
 裸の女性のすぐそばには、エスパーのラリサさんも居た。顔色が悪い。
 皆、宙に浮いている。

 オレの内には、水のマーイさんと雷のエクレール。二体の精霊も居る。けっこうな人数が、この場所に飛ばされたようだ。

 裸の女性の方を見ないようにしても、裸の人が側にいると思うとドキドキしてしまう。いっさい隠そうとしないし。
 ちょっと目を向ければ、モロに……いやいやいや、今、それどころじゃないだろ!

「駄目だ……」
 ラリサさんが頭を抱える。
「エスパー部隊の仲間の思念が感じられない……透視しても外が見えない……まったく手ごたえがない……なんなんだ、この空間……」

「ココハ、シャフィールノ個人領域。女王ノ精神世界ダ。招待モ帰還モ、女王ノ意思次第。我々ヲ生カスモ殺スモ女王ノ御心ノママ……きゃっ! 痛っ! なになさるの、おねえさま!」
 ボカッ! と、良い音がした。
「ふざけんなよ、ナターリヤ。説明しろ!」と、ラリサさん。
「しますわよ。我々ハ、シャフィールノ亜空間転移技術デ、テラヨリ何万光年モ離レタ、彼等ノ母星マデ来テイル。私ハ大宇宙ノ意志ニ従ッテ彼等ト……って! なぜ殴るの?」
「テラ語で話せよ」
「話してます!」
「そのカタコト語、聞き取りづらいんだよ。マジやめろ、いらつく」と、ラリサさん。
「『ユーシャ』型宇宙人がいらっしゃるのよ。宇宙人と話す時はカタコト声、召喚する時は『ベントラー』。五百年前からの由緒正しい伝統ですわ。痛っ!」
「普通にしゃべれ!」
「いた、たたたたた!」
 オレの見えないところで、攻防戦が繰り広げられているらしい。

「つーか、おまえ、なんで裸?」
「偉大ナル大宇宙ノ力……いた〜い! 裸ではありませんわ! 蒸着型隠密スーツを着てます! 探査センサーや超能力感知機を誤動作させる優れもの! シャフィールにお借りしたのです!」
「超能力感知機? おまえ、超能力ないじゃん」
「ありますわ。十五年前、シャフィールノ導キデ私ハ目覚メタ。シャフィロスノ科学技術デ能力ヲ隠シ、痛っ!」

「すまん。ドン引きだよな……こいつ、妹。ナターリヤ」
 て……
「超常現象研究家って人ですね」
 宇宙人や幽霊が大好きで、原始的な撮影機械で記録しては動画を無料配信してるって言ってたよな。
 オレらを研究したがってたのに、研究チームから外されたって聞いたが。宇宙の謎を解明する為なら何でもする危ない人だとも。
「研究チーム外されたからって誘拐に走るなよ、馬鹿!」
 ラリサさんが、またボカリと妹を叩いたらしい。

「んもう! 違いますわよ。シャフィールに頼まれて、彼女の代わりに人探しをしただけです。十二代前の女王シャフィアの伴侶『レイ』。彼を探してました」

 え?

「レイを探してた?」
 ナターリヤさんが頷く。
 あ!
 いや、見ない、見ない!
 そっちは向かない!
「何で?」
「さあ? 私は連れて来てとしか頼まれてません」
 オレは義妹と顔を合わせた。ジョゼはとまどいの表情だ。

「歴代シャフィロス女王は父祖との接触を望んでいました。宇宙大戦よりも前から、レイが現れるだろうテラをずっと監視していたのです。下等生命体であるテラ人を刺激しないように、細心の注意を払ってこっそりと」
「何で、テラでレイを待ってたんです?」
 レイに会いたきゃ精霊界に行きゃいいのに。
「数代前の女王が予知しましたの。シャフィロスはテラ以上の高度機械文明を持ちながら、超能力文明も発達しています。数百年前からテラとシャフィロスを結ぶ亜空座標を開いて、レイの出現を待っていたのです」

「シャフィ? なに、それ?」と、ラリサさん。
「シャフィロスが星の名前、シャフィールが現女王、レイの伴侶だった十二代前の女王がシャフィア」と、ナターリヤさん。
「シャばっか。わかりづらい」
 と、不平を漏らした姉に対し、妹も言い返す。
「仕方ありませんわ! そういう宇宙人なのですもの!」
 シャフィールと私の交流は十五年も前からサイトに公開してるのに読んでないのね、と、ナターリアさんが小声で文句を言う。

「シャフィロス星人は、生まれた時から役割が決まっています。繁殖を行う女王が一人、生殖担当の男が五人くらい。後は全部、無個性・無性の労働者階級です」
 む?
「労働者階級も、次代を残せる女王達も、一人じゃ生きていけません。互いに依存し合って生存しています。完全な分業社会。シャフィロス星人は全体で超個体なのです」
 むむ?
「ん〜 女王が頭で国民は手足や体と例えればわかりやすいかしら? 国全体で人間一人と思ってください」
 なんとなく、わかった……ような?
「なので、シャフィロス星人に、個を見分けようって意識はありません。私達テラ人の見分けもつかないのです」
 へー

「シャフィールが苦労なさっていて、お気の毒でしたので」
 ナターリヤさんは微笑む。
「この十五年、私がシャフィールに代わってレイを探していました」
 バビロンの外でUFO召喚をしていたナターリヤさんの前に、シャフィールの乗ったUFOが降り立ち二人の交流は始まった。テラとシャフィロスを繋ぐ亜空間座標を通し、情報や物資をやりとりして。
「雷の力を持ち、不定形の実体を持てる精神体。理知的で愛情深い。必ず主人と行動を共にしている……私がシャフィールから教わったレイ情報はそれぐらいでした。あとは、逢って触れればわかるとしか言ってくれなくて」

 ナターリヤさんが、チラリとオレを見る。
「最初、あなたをレイと勘違いしました。触ってるうちに違うと気づきましたが」
 オレの内のエクレールをレイと間違えたのか。
 ナターリヤさんがジョゼへと微笑みかける。
「あなたがレイですね。わかります。見いだせて本当良かったですわ」
 ナターリヤさんが前方の光の球を指さす。ぷるるんと胸が揺らぐ。見ないようにしても、どうしても目の端に……
「あそこで、シャフィールがお待ちです。レイだけ向かえばいいでしょう。他の人はただの巻き込まれですから」
「巻き込まれ?」
「あなた方も、レイの一部だと思われたのです。シャフィロス星人は個別認識ができないから、レイと一緒に私の存在を感じた人間を全員ここまで運んでしまったのです」
 なるほど。

「で、でも……お兄さま……」
 ジョゼが困ったように言う。
「レイちゃん……とても沈んでいて……さっきから、返事を返してくれないんです。女王様とお話できる状態じゃ……」

 思い出したくない過去だったのか。
 それとも、その再現をジョゼやオレ達に見られたのが嫌だったのか。
……女王様に会うってのは複雑だろうし。
 レイが仕えていた女王様は、死んでいる。次の女王様の血肉と記憶になるって言ってたから、喰われたんじゃないかと思う。そして、そっから数代だ。レイの思い人を喰った女王様も、とうに次の女王様に喰われているわけだ。
 食人行為なんか、オレは絶対やりたくない。だが、する方とされる方が納得ずくの事なら、外の世界の者がとやかく言うべき事じゃない。レイも嫌だったけど、『やめてくれ』って言えなかったんだろうな。

「だから、私……」
 ジョゼは小さく震えている。
「私が……」
 ジョゼは唇を噛み、それから決然と意志を伝えた。
「レイちゃんの代わりに、女王様と会って来ます……」

「私の記憶なら……レイちゃんは、いつでも読めるから……大切な伝言もきちんと伝えられるし……それに……」
 ジョゼの体は小刻みに震えたままだ。
「わ、私と、女王様のお話に、参加したくなったら、後から、加われるから。私が、」
 ジョゼの目には、涙が浮かんでいる。

 オレはジョゼを驚かせないよう、ゆっくりと右手をあげ、ポンポンと肩を叩いてやった。
「大丈夫だ」
 根拠はないけど、絶対そうだと信じてオレはジョゼを慰めた。
「レイはシャなんとかって国の恩人だ。絶対、悪い話じゃない。女王様も、きっといい人だ。怖い事なんか、何も無い」
 義妹が小さく頷く。私もそう思います、と。

 ラリサさんは渋い顔だ。
「どこまでが真実なのかどっからがナターリヤの妄想なのかわかんないが……ここじゃESPがきかない。話にのっかんないことには外に出られないもんな」
 頼むと、ラリサさんがジョゼに頭を下げる。

《おねーちゃん、ついてったげようか?》
 白い幽霊のニーナがジョゼを見上げる。
「ありがとう、ニーナちゃん」
 ジョゼがほわっと微笑む。
「でも、これは……私がやらなきゃいけないことだから……それに、レイちゃんが秘密にしたい話だったら……たくさんの人に聞こえちゃったら、かわいそうだから……」
 ジョゼは、内気でひとみしりだ。子供の頃は、家族以外じゃサラとしかまともに話せなかった。
 大人になった今も、見知らぬ人間と話すのは苦手だ。ひどく緊張してしまうようだ。
「一人で行くのがいいと思うの……ごめんね、ありがとう」
 本当に平気? と、首をかしげ、クマちゃんかリスちゃんを貸そうかとニーナは聞いた。
 ジョゼはもう一度お礼を言って、大丈夫だとニーナの頭を撫でた。

 血の気の引いた顔でジョゼは、『行って来ます』とオレやラリサさん達に微笑みかけた。

 踏みしめる地面すらない不思議な空間。
 不確かな道を踏みしめながら、一歩、一歩、義妹が進んで行く。

 背を丸め、弱々しく進む後ろ姿。不安そうなその様子を見ていたら、たまらなくなってきた。

 奇妙な抵抗のある宙を走り、オレはジョゼの隣へと走り寄ると、義妹の右手をつかんだ。ひんやりとしたなめらかな手を、オレの手で包み込んだ。

「お兄さま?」
 不思議そうにオレを見る義妹。
 ほわっと微笑むところも、潤んだ瞳も、儚げなところも……さっきの女性に、本当によく似ている。

 一人にしたくなかったんだ。

「つきそいのつきそいだ」
「え?」
「ジョゼはレイのつきそい。オレはジョゼのつきそいだ」
「お兄さま……」
「一緒が良ければずっと一緒だし、内緒話にするんなら少し離れる……おまえに任せるよ。オレはつきそいだから」
「……ありがとう、お兄さま……」
 ジョゼが口元をほころばせる。
 可愛いなあと思う。
 いつもの笑みも可愛い。だけど、今の顔のが嬉しそうで、もっと可愛い。
 もっともっと幸せそうな顔にしてやりたい……そんな気がした。

 ジョゼをエスコートするように、手を引いた。水の中にいるみたいに、ふわふわしてる。足場が不確かなんで歩きづらかったが、どうにか進めた。

 どれほど進んだだろう
 まばゆい光の中に人影が見えた。

 ジョゼがオレの左手をきゅっと握る。
 オレも握り返してあげた。

 やがて、女性の姿が見えてくる。
 最初は、又、綺麗な女性だなぐらいにしか思わなかった。
 楚々とした美女だったさっきの女王様に比べると、もっとはきとした女性だ。
 白銀のロングヘアーに、ミッドナイトブルーのドレス。同じような格好をしているのに、体はもっと女性らしい丸みを帯びている。ドレスの胸の中央に大きなカッティングがあり、そこから谷間を覗かせているのも肉感的で魅力的だ。

 顔がはっきりわかるところまで行ったら、もう駄目だった。
 きりりとした力強い眉をしているので、まったくかよわげな印象がない。
 そして、長い睫毛の切れ長の瞳……涼やかで落ち着いたそれは、左は金、右は紫のオッドアイだった……


 オレのハートは、キュンキュンと鳴った……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。

《あと三十〜 おっけぇ?》
 と、内側から神様の声がした。


 あああああ。
 なんで、どうして、また、オッドアイ?
 そして、なぜ必ずときめくんだよ、オレ!

 女王様がオレ達へと微笑みかけてくる。
 キュンキュンと胸がしめつけられる。

「お会いしとうございました、ご父祖さま。シャフィロス現女王シャフィールにございます」
 女性がジョゼへと微笑みかける。その美しさに、くらくらと目まいを感じた。
 オレの様子を気遣うジョゼに大丈夫だと答え、会話を促させる。

「はじめまして……レイちゃ……雷の精霊レイの現在の主人ジョゼです……レイは、今、私の奥にいて……出てこられないみたいです……ごめんなさい」

「そうですか……残念です。レイは私の父祖……お会いしたかった」
 悲しそうにうなだれる姿が……
 色っぽい!
 セクシー!

 カーッと体温が上昇する。
 心臓がバクバク。
 両手が勝手にあがる。たわわんとした女王の胸に、しゃぶりついてしまいそうだ。
 両足もジャンプOKの体勢……
 目の前が真っ赤だ……

 ヤバイ! 止めてくれ!

 救いを内側に求めたんだが……
《GO、GO、GO!》
 オレに宿るエクレールは、興奮状態だ。
《やっちゃえ〜 ご主人様ー》
 なぜ、そこで応援する!
《……向こうから誘っています……お応えするのが男性の礼儀ですよ……?》
 女王様を襲えと?
 マーイさんまでおかしい!
 体がよけいカッカしてくる。二体が煽ってるのか。
《子作りしましょう、ご主人様……あああ、こんな魅力的な方、初めて》
《だよね! ご主人様がやんなきゃ、あたしが! ね、ね、ね、しもべの拘束を解いて〜》
 ダメだ、頭ん中までピンク色だ。

 こうなったら、手は一つ!

「ジョゼ! オレを殴れ!」

「え?」
 きょとんとした義妹。オレは更に強く頼んだ。
「早く! ぶっとばしてくれ!」
「で、でも」
「いいから! もう時間が……」

 頭がカーッとし、意識が朦朧とする。

 オレの両足が勢いよく足元を蹴り……
 目的地のたわわんとした果実へと到達する前に、オレの体は逆方向へとぶっ飛んでいた。

 ありがとう、ジョゼ……

 距離が開くと、少しだけ興奮状態が弱まる。
 けど、心臓は早鐘のようだ。
 苦しい。
 息が止まりそうだ。
 女王様が欲しくてたまらない……

 女王様が眉をひそめ、荒い息を吐くオレを見る。
 その冷たい眼差しも、又……
「その男、理性を失いかけてますね。残念ですが、退散します……十二代前の女王シャフィアからのメッセージをお渡しします。お受け取りください」

 妖しいほどに美しい女王様は光の中へと消え……
 激しくスパークする光球が飛びだし、ジョゼとオレを飲み込んだ。

 不思議な世界が見えた。

 稲妻が走る空は、紫や緑や青に光のカーテンが垂れこめている。
 地平線の彼方まで続く凹凸のない大地は、まるで金属だ。ぴかぴかな光沢を放っている。
 その上を、ぴょんぴょんと何かが飛び跳ねていた。ノミのように活発に動くそれはどんどん集い、大きな丸い塊となり、毬のように飛び跳ねて行った。

 何がなんだかよくわからない映像だが……
 ぴょんぴょん跳ねる光の毬は愛嬌があって、かわいい。
 あっちこっちで元気よく、毬がいっぱい飛び跳ねている。
 楽しそうだ。

 唐突に映像は消えた。
 バチバチしていた光球も消えている。
 オレらは、まばゆい光の中にたたずんでいた。

 今の映像が、メッセージ……?

《吾輩が去った後のシャフィロスだ。未来を案じていた吾輩の為、今の姿を伝えるよう、シャフィア様がご遺言なさったのだろう》
 ジョゼは、寂しそうに微笑んでいる。
《一片の曇りもない、素晴らしき世界である。絶滅しかけた時代の名残は、微塵もなかった》

 今、ジョゼの体を動かしているのはレイだ。
 女王様が去ってから表に出て来るとは……やはり現女王には会いたくないのか。

 レイがフンと鼻を鳴らす。
《感傷的な理由からではない。しもべとしての判断である》

 レイが冷たい顔でオレを睨む。
《貴様、我が主人の騎士(ナイト)を気取っておきながら、女王に欲情したであろう?》

「な!」
《エスコートしておる女性をないがしろにして、女王の胸にしゃぶりつこうとしたな?》
 な! なぜ、それを!
 て、精霊だからか! オレの心を読んだな!

《男性ならば、さようなっていた仕方なし。女王はフェロモンの塊ゆえ》
「へ?」
《国を統率する為、女王は他人を虜にする強烈な魅了の力を持っておる。無性の労働者階級を従わせ、次代に種を残せる者を必ず欲情させる為にな》
 魅了の魔法……
 じゃ、エクレールやマーイさんがおかしかったのも、そのせい?

《我が存在が混じり金眼の魅了は衰えてはいたが……やはり、凄まじい。あの眼で見つめられれば、誰しも望んで女王のしもべとなってしまう。現在、我が主人はジョゼ様。それ以外の者に心を奪われるわけにはいかぬ》

 レイの恋人は両目ともに金だったが、さっきの女王様は、左は金、右は紫のオッドアイだった。
 ユーリアさん達と目の色が同じだ。
 偶然だろうけど、すごいや。
《なにを思っているのだ、貴様は》
 ジョゼは呆れ顔だ。
《……まだわかっておらぬのだな。あの片目が金の者どもは、シャフィロスの……》

 レイがそこまで言いかけた時、激しい震動がオレらのいる場所を揺さぶった。


* * * * *


『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き

●女性プロフィール(№070)

名前     シャフィール
所属世界   エスエフ界
種族     宇宙人
職業     シャフィロス星女王
特徴     シャフィロス星は完全分業の世界。
       繁殖を行う女王のみに自我があって、
       国民を魅了の力で支配している。
戦闘方法   不明
年齢     不明。
容姿     白銀のロングヘアー、
       ミッドナイトブルーのドレス。
       女性らしい丸みのある体、
       右が紫、左が金のオッドアイ。
口癖     不明。
好きなもの  国民?
嫌いなもの  不明。
勇者に一言 『理性を失いかけてますね』
挿絵(By みてみん)
ついに姿を現した宇宙人! 今こそ萌えろ、勇者ジャン!
魔王の目覚めは34日後だぞ!
+注意+
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